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マリー・パスファインダー船長の七変化  作者: 堂道形人
歴史ある海

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48/97

ファウスト「また出た! うわこっち見てる! 手を振ってる!」

竹光だった、とかやっぱり撃てなかった、とか

色々酷いヒーロー。

黒幕っぽい奴にも逃げられたけど、どうしよう。

 私は結局、トリスタンを追い詰めながら、最後の引き金を引けなかった。


 コウモリはあの屋敷の中に飛び込んだ。私は考えもなく馬ごと屋敷に飛び込んでいた。コウモリが飛び込んだ部屋にはローブが一着落ちていて、コウモリはその中に飛び込んで行き……最後に突然ローブが立ち上がると、中身がトリスタンになっていた。

 私は魔術師の足に向け、至近距離から引き金を引いた。弾はローブを撃ち抜いたが、その時には魔術師に当たったかどうか解らなかった。それでも私は、投降するように言ってみた。

 だけどそこに、周り中から屋敷の守衛のような人達が現れた……私はその人達に威嚇射撃をさせてもらった。


 その間にトリスタンは恐ろしい笑みを浮かべながら、私に近づいて来た。足を引きずりながら。

 足を撃っていなければ、私が逃げるのは間に合わなかったかもしれない。

 だけど撃ったのが足でなければ、最後にあんな事は起きなかったかもしれない。


 私が逃げ出すのと、トリスタンの体が赤く輝きだしたのが同時だった。視界の隅に見えたトリスタンの表情は、邪悪な笑みから憤怒に変わっていた。

 何故そうすべきと思ったかは解らないが、私は馬の頭にマントを被せ、拍車をかけていた。あんな操縦法が私のどこに眠っていたのだろう。



 ジェラルドは屋敷のどこかから、初老の小柄な男を引きずり出して来た。

 ハマームの衛兵隊が来る頃には、ランベロウもレイヴンの駐在武官達も姿を消していた。


「こいつがトリスタンを匿っていたのは間違いねェな」

「違う……私はランベロウに脅されて、ただあの不気味な男をここに置く事に同意していただけで」

「話は然るべき場所で聞く。連れて行け! フレデリク様、レイヴンの外交官の件は如何するべきでしょう、今の男は出入り商人に過ぎないと思います」


 衛兵隊の隊長が何か言っている。

 私は色々な事を後悔していた。


 謎の貴公子ごっこなどというものは、トライダーみたいな直情バカと二人でやるくらいがちょうど良かった。こんな街ぐるみで乗っかって来られたら重過ぎる。

 ハマームの、ひいてはターミガン朝とレイヴン王国の国際関係に関わるような判断を、アイビスの田舎のお針子マリーちゃんに預けないでいただきたい。


 そしてこれだけお膳立てをして、また負傷者を増やしておいて、もしかしたら失われた命もあってなお……私はトリスタンをきちんと撃てなかった。


 トリスタンの身体と思える物は、屋敷の中に残っていなかった。

 自らの身体を爆発させてもなお、生きている人間が居るのか? だけど私は奴が霧に化けて攻撃をかわし、コウモリに化けて飛んで逃げる所を既に見ているのだ。これで本当に倒せたのか?


 奴があれでもまだ人間だと言うのなら、私が頭か心臓を撃っていれば倒せたのかもしれない。トリスタンは最後の魔法を使えず、死体となってここに横たわっていて、私は奴による災難が終わった事を確信出来たのかもしれない。


 そんな事を考えていると涙が出る。アイマスクをしていて良かった。


 爆発のあった部屋の状況は、思ったよりだいぶ酷い。直前に私が働いた狼藉のせいで召使いなどは避難済みだったようだが、爆発が起きた時に誰か居たら、命を落としていたと思う。

 私の覚悟が足りないせいで、また誰かが死んだかもしれないのだ。



「なあ。どうするんだフレデリク、レイヴンの領事館に乗り込むか? 正直に言うと俺は暴れ足りねえ」

「よせジェラルド……さすがに領事館の事は宮殿に判断していただくしかない」


 私はそう言って、ジェラルドの肩を叩く。フェザント海軍艦長にして貧乏剣士のジェラルド。君は私が貧乏剣士を相棒に冒険していたと笑うけど。実は君こそとんでもない嘘つきを相棒にして、大変な冒険をしてるんだよ……


「僕らは港へ急ごう……宮殿への知らせは君達衛兵隊に任せるよ」

「何でェ。煮えきらねえの。お前みたいな奴でも国だの法律だのには勝てねえのか」


 当たり前じゃないか。私は法令順守のマリーちゃんですよ。

 だけどどうするつもりなんだろう? フレデリク君はランベロウは今夜にもハマームを離れるだろうと言っている。


 奴は多分ファルク王子は余裕で暗殺出来ると思っていた。しかも王宮の敷地内で殺す事にこだわる念の入れ様だ、余程自分の知恵に自信があったのか。


 そしてその直後に都合よくフラヴィアさん達が現れる事の意味は? 当たり前だけど「ちょうどいい所に来てくれた」なんて話になる訳がない。

 そんなタイミングで、マフムード陛下に呼ばれた訳でもないのにハマームに居る。人々の邪推を誘うには十分だ。

 それから、ファルク王子を殺しカルメロを王子にしようとしていたと告発された一派が、フラヴィアさん達諸共粛清される……そうまでなってしまえばヤナルダウ王家は終わりだ。疑心暗鬼から内部崩壊するだろう。


 そんなシナリオかなあ。細かい事は解らない。

 マフムード陛下が、お気に入りのはずのカルメロが来る事を嫌がっているのは、まだ幼いカルメロを争いに巻き込みたくないからだろうな。フェザントで立派に成人して、縁があれば戻って来い、そのくらいの想いなんだ。

 過度の期待もしていない。嫌がっている訳でもない。そういう関係だ。

 私は、ジェラルドと二人、港へと馬を駆けさせながら、そんな事を考えていた。



 月の無い夜。ハマームの空は晴れ渡り、無数の星が空を覆い輝いている……どうしても出航しようと思えば出来なくない、そんな夜だ。


「何か急ぎ足で出ようとしてるのが居るな」


 そして港が見える高台まで来た時に、ジェラルドが呟いた。それは私にも見えた……三本マストの大きなガレオン船。夜中に明かりを煌々と焚いて急いで出港準備をしているので嫌が上にも目立つ……50m超、二層甲板の砲列を持つ立派な船だ。


「フレデリクよう。俺は思案の無い男だが、あれがレイヴンの船だって事は賭けてもいい。あのランベロウって奴がこうまでして急いで逃げるって事はよ……」


 解るよ。あいつがトリスタンを使ってファルク殿下の暗殺を企んでいた事はもう間違いないと思う。このまま逃がしていいのか。良くはない。だけどハマームの軍隊を動かす時間はもうない。

 残念だが、もう追いつけない。


「お前、まさか諦めるとか言わないよな? ハーミットクラブ号があるじゃねーか。あいつで追い掛けて海の上で捕まえればいいんだ。それならハマームにも迷惑はかからねえし、オルランドのお嬢さんやカメリア達にも影響はねえぞ」


 ジェラルドが私のすぐ横に駒を寄せて来て、私の二の腕を掴んでそう言った。ぎゃっ!? そういうとこ急に掴むのやめて、私は思わず、腕を振り払う。


「こっちは十人も居ないだろうが、あのガレオンは二百人は乗ってるぞ、何が出来るって言うんだ!」

「お前らしくねェな、戦は数じゃないぜ」

「そんな台詞、竹光を提げた奴に言われてどうしろと言うんだ」

「お前ほんと腕細いな……それで何でそんな強いんだ。なあ。俺が二百人分働いてやっからよ、あの船を襲撃しないか?」


 は?

 真顔だよこの竹光男……バカじゃないのか。いやもうバカなのは解ってる。

 だけど心震わせるバカだ。


 私だって気持ちは一緒なのだ。大変な破壊と混乱を招こうとした張本人、そいつを黙って見逃すのは口惜しい。

 だけど向こうは失敗した場合の準備も抜かりなく整えていたのだ。あの商人の屋敷の周りに五十人もの駐在武官の部隊を伏せておくような奴だ。

 そしてこんな夜中に早くも脱出するという……この準備が出来ている奴を相手に少人数での強襲は意味が無い気がする。


 では諦めるのか。


 では諦めるのかというと……私の目は釘づけになっていた。たまたまその近くに居た人物に。これは偶然、これは運命……


 ハマーム港を見下ろす、少し高い丘の上の、商店から出て来た人物……まだ私には気づいていないようだ。あれは眼鏡店か? つまり彼は、レンズを買い替える為にここを訪れたのだろうか。眼鏡店なんて大きな街にしか無いもの。見送りに出て来た店の主らしき人物と、ニコニコ笑いながら何か話している……


 判断する時間が無い。


「ジェラルド! ハーミットクラブ号に行って、あの船を追って出港させてくれ! だけど絶対短気は起こすな、ついて行くだけだ、出来るか!?」


 ジェラルドが私を見た。今の私ちょっと失礼だったかな。ジェラルドは私の部下ってわけじゃないし、こんな風に命令される筋合いはないのだ。


「お前が信じてくれるならな。なあに、何て事のねェ商船のフリをしてついて行くさ。出来れば奴より先に出港してえな、急ぐとしよう」


 特に気を悪くした風でもなく、ジェラルドはそう言ってくれた。思えば彼は何が気に入って私について来てくれるんだろう。



 私はジェラルドから離れ、眼鏡店から出て来た人物を追う。つづら折りの坂道が続く場所なので少し距離がある。


 あ、こっち見た。


「ファウスト!」


 私が手を振ると、ファウストは少し驚いたような顔をして……慌てて騎乗し、馬を急がせる……ちょっと! 何で逃げるんですか!


「待って、ファウスト!」


 馬を急がせ、夜の街道をハマーム郊外へと、時々振り向きながら逃げて行くファウスト。貴方金貨25,000枚の賞金首でしょう、お針子マリーごときに追われて逃げるなんて大賞金首の名折れもいい所ですよ!


「待ってー、話を聞いてーっ!」


「来るなっ……来るなー!!」


 ファウストは馬術も達者なようだけど、騎手の体重が違い過ぎるみたいで。その背中が、だんだんと近づいて来る。

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ご来場誠にありがとうございます。
この作品は完結作品となっておりますが、シリーズ作品は現在も連載が続いております。
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マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
フレデリクの頭の回転が速すぎて、読者の私まで置いていかれそうです。マルチタスクどころの話ではありません。 頭の中(地の文)ではトリスタンの能力と政治の大局について考え、 口頭では衛兵に屋敷の後処理の…
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