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マリー・パスファインダー船長の七変化  作者: 堂道形人
歴史ある海

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39/97

衛兵「そうしたらあのお方、陛下に食ってかかって……」衛兵「優しそうな顔をして、心臓に悪い人だよな……」

本性を現したトリスタン。それを食い止めたマリー。

イカの唐揚げの不法侵入が一転、堂々と国王陛下に謁見する事に……

 今回の一件は、適当な事を言ってたまたま当たってたという話とは違う。私はトリスタンを見た瞬間、この男をそのまま行かせてはいけないと思ったのだ。

 私はあの男が以前何をしたか知ってたし、あの時のトリスタンの表情から何かを感じ取ったから行動したのだ。


 ファルク王子の事も放置出来ない。言いたい事もたくさんある。


 だから、超怖いと噂のマフムード王にも会ってみたいと思った。そうでなければ会いたくなかった。いややっぱり会うのが怖い。すみません今からやめてはいけませんか。御願いします今すぐ帰らせて下さい。


 だいたい私は偉い人が苦手なんですよ……昔から偉い人とまともに話が出来た事がない。針仕事の元締めにだって、手間賃を二割引きにしろと言われても一言も反抗出来なかったんですよ……僅か三か月前の出来事ですよ。

 あの頃は祖母を亡くし仕送りが絶えて五か月目。泣きたかったな。ていうか泣いたな。そして元締めの家の娘さんが綺麗なドレスを自慢して来て、また泣きたくなって……


 人生の走馬灯が回っていますねェ。

 私は二人の衛兵さんに、宮殿の奥へと連行されて行く……いや案内されて行く。



 宮殿の奥で。私はシンプルで大きなソファとテーブルがある部屋で待たされる事になった。衛兵さん達は立ったままだが、どのくらい待つか解らないので座らせていただく事にする。

 そんなに広くない部屋なのに天井が15mくらいある。採光の為にこうなっているらしい。壁の反射まで計算されているんだな。


 別の用事を頼んでいた衛兵さん達が戻って来た。


「申し訳ありません、宮殿周辺で呼び掛けたのですが……ジェラルド・アキュラさんという方は現れませんでした」


 念の為苗字は伏せて船の名前にしたけど、そうか、ジェラルドはもう宮殿の周りには居なかったのか。

 別の事を思いついて移動したか、そもそも張り込みをするなんて嘘だったか。前者だと厄介だけど後者も嫌だなあ。まーだ何か隠してるんだよな、あの男。


「ありがとう。手間を掛けてすまない」


 ふと見ると、奥の廊下の向こうから普通の白いガラベーヤと白いクーフィーヤを身に着けた、大柄でがっしりした男が、一人でやって来る……ファルク氏を三段いかつくしたような顔だな……堂々とした歩調。


 私はソファから立ち上がって膝を折る。

 その人物は私を見て一度足を止めたが、またすぐに歩幅を広めて早足にやって来た。衛兵さん達も慌てて膝を折る。


「フレデリク・ヨアキム・グランクヴィストと申します。アイビスで事件を起こし指名手配されている魔術師、トリスタンが、先程ファルク王子の居室の近くでデミレル師や王子を護衛する近衛兵を襲いました。近衛兵一人が亡くなり、もう一人とデレミル師も重傷を負っています」


 私は自己紹介から報告まで、アイビス語で一気に言った。

 その……五十絡みの男性は、一旦私の言葉を吟味するように間を取り……口を開いた。


「どこかで……会っていたかな?」

「陛下とは初めてでございます」

「私はまだ……名乗っていない」

「恐れ入ります。貴方様こそマフムード陛下その方とお見受け致しました」

「そう簡単に見抜かれては……困ったものだ。王が一人で共も連れず、ふらりと現れる訳がない……そう思ってはくれなかったのか? ふ、ふ……まあそこに掛けて欲しい」


 私は言われた通り、元のソファに座る。するとマフムード陛下も隣に座った……ひえええ……王様とこんな差し向かいになっていいんですかね。

 そしてこの空間。どうやらこれは正式な謁見室らしい。ここに来る前にはいかにもそれっぽい、玉座のある大広間もあったのだが。


「デミレル師は……大丈夫なのか」

「トリスタンは大変危険な魔術師で、魔法の銃で武装していました。トリスタンは宮殿への侵入の為にデミレル師の名前を使いました。師もかつては知人だったそうですが今では警戒していたそうで、その事を知り急いで駆け付けたと。師の警告が無ければ、トリスタンの奇襲は防げませんでした」


 マフムード陛下は悲痛な面持ちを見せる。


「私も……小さい頃はデミレル師に習ったのだ、物事の道理を……そうか……師は老いてなお、我が王家の守護者だったのだな……それで……魔術師は撃退したと」

「これを申し上げるのが大変心苦しいのですが。トリスタンは銃弾に撃ち抜かれると、無数のコウモリに姿を変えて逃走しました」

「……からかっているのか?」


 陛下がギロリと、私を睨む……怖ぇええええええ!!

 衛兵さんの一人が、ここで口を挟んでくれた。


「本当なのです、デミレル師も私も、他にも多くの兵が目撃しています、ファルク様も見ております、奴は多くの者の目の前で無数のコウモリに化けました……後には着ていた服だけが残っていたのです」

「そんな事が……本当にあるのか……その魔術師とやら、何者なのだ?」


 衛兵さんの言葉はターミガン語でよく解らなかったが、陛下はそれを聞いてからアイビス語で言ってくれた。どうやら信じていただけたらしい。私が伝えて、衛兵さんが保証する。この順番で正解だったようだ。


「魔術師トリスタン。かつてはアイビスの宮廷に居た事もありますが、企てた陰謀に失敗し追放され、最近その復讐を企んで再び露見し、指名手配犯となりました」

「そのような者が……何故ハマーム……我が宮殿に?」


 ぜんっぜん知りません……私が知りたい……私マリーはそう思っているんだけど、いつものようにフレデリク君は勝手に語りだす。


「この男は自分の野望の為に、利用出来る物は何でも利用する男です。そして他の悪意を持つ人物と連携して行動する傾向がある。恐れながら、トリスタンがここに現れた理由は三つ、ここに欲しい物があり、連携可能な味方が居り、つけこむ隙もあった」


 マフムード陛下は、テーブルを蹴るようにして立ち上がった! ぎゃあああ! 怖い怖い怖い、絶対睨んでる、私の事絶対睨んでる、助けて助けて助けて!

 衛兵さん達は……恐れおののいている……誰も助けてくれそうにない……


「トリスタンは最初、デミレル師の名を使い普通にファルク王子に接触しようとしていました。それをデミレル師に見破られ、暗殺の強行に切り替えたのです」


 私は帽子の鍔で陛下の視線を遮ったままそう言った。怖い怖い怖い怖い!!

 衛兵さんが……ターミガン語で何か言いだした。


「誠に申し上げにくいのですが、フレデリク殿の計略により、私共は一度は宮殿に侵入したトリスタンの身柄を拘束したのです。しかし偽造されたデミレル師の紹介状を見せつけられて、釈放してしまいました」


 帽子の鍔からちらりと見ると、陛下が睨んでいる対象が、今喋った衛兵さんに移ったように見える。別の衛兵さんが私を見ている。

 その顔には、もういいです、ありがとうございます、後は我々の責任でやりますと書いてある。これ以上は客人である貴方にリスクを負わせられないと。

 だけど私、陛下が針仕事の元締めのあの男、衛兵さん達が昔の私に見えて来ましてね。


 私は立ち上がっていた。


「ファルク殿下は陛下の唯一の王子であるにも関わらず、宮殿の入り口の離れでろくに警備もされずに冷遇されている。つけ込む隙があるから、悪は企む! その為にトリスタンのような怪物が現れ、忠実な兵士が一人死んだ、陛下にもお解かりのはずです!」


 衛兵さん達が、真っ青な顔で私を見ていた。

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ご来場誠にありがとうございます。
この作品は完結作品となっておりますが、シリーズ作品は現在も連載が続いております。
宜しければ是非、続きも御覧下さい。


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マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
トリスタンを早撃ち、マフムードさんを即看破、どストレートな啖呵、どれも一般人の域ではありません。 船酔い知らずの副作用ですかね。使用者が早死にしてしまうので接客業用にしか作りたくない、というアイリさん…
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