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マリー・パスファインダー船長の七変化  作者: 堂道形人
歴史ある海

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34/97

ジェラルド「ほら、偽造の出港許可証」フレデリク「僕らの超えるべき一線だな」

一人歩きする噂話はレベルアップ! 新しい仲間が加わった!

 夜が来て、朝が来る頃には、サイクロプス号は影も形も見えなくなっていた。



 ハーミットクラブ号の甲板は元々あまり居心地のいい場所ではなかったが、この一件以来、それはますます酷くなっていた。


「おはようございます、フレデリク船長!」

「当直は二人でいいと言ってるじゃないか」


 船長室から出た私に、扉の外で勝手に歩哨をしていた海賊のおじさんが敬礼する。


「朝食の準備が出来ております!」


 会食室の方でも海賊おじさんが敬礼している……


 食事が、海賊さん達が海賊さん達なりに頑張って工夫した料理になった。

 少なくとも、ちゃんと竈に火を入れたようだ。

 塩漬け肉に衣をつけて揚げてあるんだけれど、肉が固いのでしんどい。

 にんじんは千切りになっている。上手ではないけど手間はかかっている。

 キャベツのスープはまあまあだ……鮮度の落ちたキャベツでもどうにか食べれる。

 固パンに無理やりチーズが塗りつけてある。構わないから別々に出して欲しい。


 今までほとんど聞けなかったファウストの話は、海賊達の口から聞いてもいないのにぽんぽん飛び出して来た。


「元々はフェザントで学者やってたらしいんスよ」

「自分達は丸い球の形をした世界に居て、世界は太陽の周りをくるくる回ってるっていう主張をする学者で……だけどよう、俺達船乗りはそんな事ずっと昔から知ってたよなあ」


 ジェラルドもようやく口を開く。


「あんまり言いたくなかったけどよ。奴の師匠の学者は地動説派の大物で、観測と計算により科学的に地動説を実証する準備をほとんど整えていた。小さな砦程もある実験設備を使い、国王や教皇の前でそれを実証しようとしていたんだ」


 申し訳ないが、ジェラルドの話は私には難し過ぎて半分も理解出来なかった。


「まあ、よくある話だ……襲撃者は数百人の覆面を被った宗教的過激派で、実験設備は徹底的に破壊され、奴の師匠だった学者も殺された……研究一途で身の回りの事は何も出来ない師匠についていた、妻と娘諸共な……その娘というのがファウストの婚約者だった訳だが……後は言わなくても解るな?」

「ファウストは何故枢機卿や司祭を殺害したんだ? その覆面の襲撃者達と関わりがあったのか?」


 この質問にジェラルドは腕組みをして黙ってしまったが、セレンギルや海賊達が答えてくれた。


「又聞きの又聞きですから、間違ってるかもしれませんが……そこがよく解らねえらしいんです、その枢機卿はむしろ開明派の人だったらしいんスよ。それでファウストって奴は頭おかしいから気をつけろと、私ら海賊の間でも有名になってて」

「それに、ファウストの悪名の本番はその後ですよ、追手を撒く為ならどこでも火の海にするし、何かにつけちゃ爆弾を投げてぶっ壊す、やっと追いついた追手は片っ端から血祭り、しまいにゃそこらじゅうの商船は襲うわ軍艦は襲うわ」

「グースの近海のある島なんか、一年くらい奴に占領されてたそうですよ。その間島民は奴隷のように働かされてたとか……ありゃあね、本物のワルですぜ」


「それとな、フレデリク」


 ジェラルドが再び口を開く。


「お前は俺をもう一度フェザント海軍に戻してくれるかもしれねぇ……サイクロプス号の大砲を見たか? 以前の会敵じゃそこまで見えなかったが、今回、お前のおかげでじっくり時間を取って見る事が出来た。スケッチも描けたぐらいだ」


 ジェラルドはそう言ってノートを見せてくれた。ちょっ……笑えるくらい絵が上手いよこの人! 意外!


「解るか? こいつは見た事も無え新型砲だ……サイクロプス号が大胆不敵にもフェザント近海に現れた理由、ファウストが単身フェザントに上陸していた理由……そいつが多分、これだ。奴とサイクロプスはこいつを手に入れる為にフェザント本土に近づき、マリー船長に目撃されたんだ。この発見をなるべく早くパパに知らせたい。少しもいい知らせではないけどな」

「ふーん。これで君の父上に君の奇行の理由を説明出来るという訳だ」

「ああ。そしてこの大砲の出所と性能を一刻も早く調べ上げねえと」


 あのぶち猫も船上で気ままに過ごしている。


 良かったのかな、私について来て。サイクロプス号の水夫達も猫は好きそうだったけど……あっちの方がいい餌貰えたんじゃないかなあ。


 いや、そもそも何故船に乗るのか? それは私も同じか……私は何で今、船に乗ってるんですかね? 考えてみたら、この船を手に入れた時点で私だけイリアンソスに戻らせてもらっても良かったじゃないですか……

 まあ自分の性格上出来ないような事を考えても仕方ない。


 あ、こっち来た、ぶち猫。

 名前をつけるチャンスを逃したな……今さらつけるのも何だかな……ぶち猫ちゃんでいいかな、もう。うーん。

 近くには来る。船長室にも入って来て、近くで寝てる事もある。だけどあまり撫でさせてくれないし抱っこは嫌がる。

 君は何故ついて来るのかね? うん? ああ……やっぱり撫でようとするとどこかへ行ってしまう。



 サイクロプス号との邂逅かいこうから三つの夜が過ぎた。その間異常気象は続き、吹きまくる北西風に乗せられて、ハーミットクラブ号は南東へと突進を続けた。

 そしてちょうど夜明けの暁光が差し込む頃。おおよそ四週間ぶりの南大陸が見えた。


「イリアンソスから四泊五日でハマームか……バルシャ船でこの速さは新記録じゃねえか」


 ジェラルドが口笛の後にそう言った。私はその横に並びかけ、小声でささやく。


「君、船籍偽装とか得意な方?」

「ああ。密輸業者の手口で俺が知らないやつは無え」



 大陸に沿ってさらに東へ。午前八時頃には()()()()()()()()、ハーミットクラブ号はハマーム港に入港して行く。


 行けフレデリク。

 引き返すなら今だマリー。

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