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マリー・パスファインダー船長の七変化  作者: 堂道形人
歴史ある海

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28/97

カメリア「お姉ちゃん、うさぎにもどらないの?」

フェザント海軍の軍艦に止められて臨検を受ける。普通。

臨検に来たその艦長が勝手に水夫として居座る。非常識。

 ジェラルド艦長がこの旅に同行したがる理由は想像出来た。

 この人はフラヴィアさん一家の事をよく知っていて、フラヴィアさん達に何か困難が待ち受けている事も知っている。

 そしてフラヴィアさん達の力になりたいと思うのだが、アキュラ号艦長のままでは身動きがとれない。


 しかしそれで海軍艦長の立場をポイッと捨てるか普通。

 アキュラ号の乗組員達はどう思うのだろう? 自分達の倍の大きさで見るのも嫌な程の重武装の海賊船に喧嘩を売ろうとした挙句、怪しい船を臨検しに行ってそのまま居なくなった艦長の事を。


 一体、フラヴィアさん達にはどんな運命が待ち受けているというんだろう。



 イリアンソスまでは東へあと800km……あと400kmも行けば北大陸沿岸も見えて来るはずだ。

 その辺りはかつては北大陸でも最も古い歴史を持つ都市国家群だったが、現在はターミガン朝の支配下にある。


「船長。口の大きそうな乗組員が増えたから、食材が少し足りなくなるかも……どこかに寄航出来ない?」


 艦尾で手摺りにもたれる私にアイリが尋ねる。食材……だけど今の私は食べ物の事を考えられない……


「あの……私、今ご飯要らないから……」


 そしてまるで船長のような顔をして艦尾楼に立っている、ジェラルド氏が言う。


「こんな事は言いたくねェ。言いたくねェが……お前もしかして船長に向いてなくないか? こんな船酔いの酷い船長初めて見たんだが……俺が知らないだけか?」


「失礼ね、マリーちゃんは凄い船長なのよ! この船だってアイビス海軍を脅して巻き上げたんだから」

「マ……マジかよ見掛けに寄らねェ! 見掛けに寄らねえなあ……難しいぜ人の世。俺ぁまだまだ修行中だ……」


 私もわかんねえ……



 暇そうなカイヴァーンに見張りを頼み、まだ何を考えてるかはっきり解らないジェラルドは昼直にして、ロイ爺は少しシフトを動かしたようだ。最近人が増えたな。


「ホースよーし!」「ポンプ始め!」


 カルメロ君はやっぱりアレクと水夫ごっこをしている。いや、ごっこは失礼か、ちゃんと昨日の雨水を船内から吸い出す作業をしているじゃないか。


「船長! さぎょうおわりました!」

「ありがとうカルメロ君、次はレモネードを作ってみんなに配って下さい」


 私はカルメロ君が来た時だけ、気合で背筋を伸ばして言う。いいなあ、あの船酔い知らずのベスト……少しの間でいいから貸してくれないかなあ……駄目だ。人として駄目だ。



 フォルコン号の水夫の食事は主食多め、惣菜少なめになった。勿論乗客は別である、そちらにはきちんとした物を召し上がっていただく。


「私は固パンだけでいいです……どうせ戻すから……」

「少しは食べた方がいいわよ」

「レモネード三杯飲んだから大丈夫……」


 何故波が高い……でも風が弱まるのは困る……風はこのままでいい……波だけ何とかならないか。

 でも。ちょっと前までの私だったら、この波で一時間も揺られてたら死んでたかもしれない。そう考えると私もちょっと進化してるんだな。


 夜はどうしよう。特別扱いするのもどうかと思うけど……いやいや、ジェラルド氏には空いてる方の士官室を使ってもらおう、自分がフェザントの海軍士官だって事を本気で忘れられても困る。



 夜半近くになって。野菜スティックすら喉を通らず会食室でぐったりしている私の前に、フラヴィアさんがやって来た。辺りを見回し、用心しながら。


「あの……船長さん、ああ、そのままで結構です……お話ししたい事がありまして」


 立ち上がってちゃんと応対しようとした私を制し、フラヴィアさんは私の隣の席に座る。


「ジェラルドさんの事なのです。良くないですもの……そうでしょう? あの方はここでこんな事をしていていい訳がありませんわ。だけどジェラルドさん、言って聞いてくれるような方ではないのです……あの、大変良い方ではありますのよ?」


 私は黙って頷く。いい人がどうかは知らないけど言って聞いてくれるタイプではないような気はする。


「ですから……何とかしてあの方だけ、イリアンソスで……その……言葉は悪いのですが……いえ、私の責任で言わせていただきますわ。船長さん。イリアンソスで、ジェラルドさんを置き去りにしてはいただけませんか。どうか御願い致します」


 そう言えばフラヴィアさん、旅をしている、何て言い方をしてたな。思い出した……あの時の光景を。私、船酔いで朦朧としててちゃんと見て無かったけど。

 私がこの船の行き先がイリアンソスだと告げた時、フラヴィアさんが手で顔を覆っていたような。それ言っちゃだめ、って言ってるみたいに。


 御客様の御希望には出来るだけ沿いたい。それは客船フォルコン号船長、マリー・パスファインダーの矜持である。だけど、仮にとはいえ乗組員として乗せた人間を追放しろという要求には、どう応じたものか。



   ◇◇◇



 翌朝。私はキャプテンマリーの制服に着替える。サーベルも腰のベルトに提げた。

 艦長室を出た私は、艦尾楼の上に立つ。昨日ジェラルド氏がまるで船長のような顔をして立っていた場所である……冗談じゃない。これは私の船だ。


 そのジェラルド氏が、昇降口から甲板に出て来た。


「おはようジェラルド君! 昨日は失礼致しました! 私が本当の船長です!」

「ええ??」


 私は無駄に艦尾楼からヒラリ、索具へと飛び移り、甲板にフワリ、音も無く降りてみせる。ジェラルド君は目の前だ。


「マ……マジ雰囲気変わってねえか? あんたマジ別人?」

「君の船内での立場をはっきりさせましょう! 君は旅客です。よく考えたら、君に仕事をあげると水夫が失業するのでね。乗船賃はオルランドさんに請求させていただきます」

「い、いやちょっと待ってくれ! 俺が勝手に乗ったのにお嬢さん達に迷惑掛ける訳に行かねえ! だから俺が働いて払うからって……」

「この船の船長は私ですよ! 誰にも、勝手に水夫の仕事を奪う事は許しません! 君がオルランドさんと相談するのは自由です。そこは私には関わりの無い事で」


 私は無駄に舷側の手摺りにヒョイと飛び乗り、すたすたと歩き去る。

 この人とのやりとりは喰うか喰われるかだな。今朝は喰われる前に喰ってやった私の勝ちだ。



 そしてまた夜。私はジェラルドやフラヴィアさん達の位置を把握し、用心しつつ……アレクやアイリに聞いて回る。


「世間話や子供の話はしてくれるけど……本題には近づけそうに無いわ」

「カルメロ君も口が固いや。何か知っているけど、ちゃんと隠してる」

「カメリアは恐らく何も知らされていない。無理も無いとは思う。それから……彼女が居ない所でまで青鬼ちゃんと呼ぶのはやめてくれないか……」


 青鬼ちゃんも少し疲れたような顔だ。


「ジェラルドも喋りそうで喋らんのう」

「うわばみだぞ、あいつ」

「相当頑固」


 ロイ爺、不精ひげ、カイヴァーンは歓迎会と称して水夫の配給一週間分くらいのエールやらワインやらを飲ませたらしい……不精ひげも相当飲んだようだが。


 ちなみに今回の輸送の契約書には四回くらい「理由は聞くな」「事情を探るな」と書いてある。ハマームについたら到着日を証書にしてもらって、そのまま戻って来るようにと。


 そんな事言われても自分が運んでいる人達の事情が気になる私は、水夫達と謀って探りを入れているのだが。成果は上がらない。

 フラヴィアさん達が喋らないのは仕方ないけど、何故ジェラルドも喋らないんですかねぇ。

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この作品は完結作品となっておりますが、シリーズ作品は現在も連載が続いております。
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マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
[良い点] 「失礼ね! マリーちゃんは凄い船長なのよ! この船だってアイビス海軍を脅して巻き上げたんだから!」 改めて聞くと凄すぎる。あと、言い方ww
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