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事務官「閣下! マリーたんはおこですぷんぷんなのです小官あの小さなおててでメッてされたらキュン死してしまいそうで小官」ラズピエール「落ち着き給え」

どうやら乗組員が一人増えたらしいフォルコン号。

ちょっと面倒くさいけどいい子だよ!(ただし元海賊)

 それから五度の夜が過ぎた朝。フォルコン号はパルキアに到着した。



 海軍に用がある。このままにしてはおけない話だ。

 私はロイ爺をお供に海軍司令部へ向かう。ヒューゴ艦長の報告書もついでに提出しないといけないが、もっと大事な話がある。

 今日の装いも真面目の商会長服だ。八月の町は暑いけど上着は根性で着る。


「船長、少し落ち着くんじゃ」

「落ち着く? 私はいつも冷静ですよロイ君」

「歩くのが速過ぎるようじゃが、年寄りにはキツいわい」

「これは失敬」


 いつもの事務棟にズカズカと入って行く私……慣れて来たのもあるけど、やっぱりちょっと気が急いているのかな。落ち着け私。

 ああ、前にも居た事務方の役人さんだ。私に気付いていない。


「失礼します。フォルコン号船長、マリー・パスファインダーです。海軍の報告書をお持ちしました。それと、ラズピエール閣下がいらっしゃれば、面会を御願いしたいのですが」


 どうせ名前も顔も覚えてないだろう役人さんに、私は用件ごとまとめて伝える。

 事務方さんは一瞬だけこちらをチラりと見たが。


「こちらでお待ち下さい」


 いつも通り素気なく封筒を受け取り、どこかへ行ってしまう。


「どんな話をしに来たんじゃ?」

「フォルコン号! 海軍に間違えられるのはもう御免ですよ! 早くリトルマリー号を返して欲しいわ」

「いい船なんじゃがのう」


 ロイ爺はそんな事言ってるけど。私は知っている。ロイ爺は誰よりもあの船に愛着があるはずなのだ。


「ロイ爺はリトルマリー号になる前から、あの船に乗ってたんでしょ?」

「ホホ、何故知っとるんじゃ。元の名前はハーミットクラブ号、30年前に新造した時から乗ってたよ」

「父が、船を買ったら水夫がついてた、って」

「フォルコンは船を買った時に元の水夫も全部引き継いだんじゃ。わしの他に三人居ての。そこにニックとウラドが……いかん、喋り過ぎたわ、ホホ」


 惜しい。もうちょっとで全部喋りそうだったのに。


「ハーミットクラブ号から居た三人は?」

「順番に引退したよ……船長。わしももういつクビになってもおかしくない年じゃ。その時は……いや、まあやめておこうかの」


 ロイ爺からしても、いつまでも船に乗っているのは辛いのかな……

 ああ、事務方さん、戻って来た。


「本棟一階の105号室へ行って下さい」


 事務方さんはそれだけ言って元の仕事に戻ってしまった。いつもこうだな、この人。



「ベルヘリアル艦長の報告書は読んだ。よく私の所に立ち寄って下さったな。このような大胆な働きには必ず褒賞を、」


 ラズピエール閣下は相変わらず窓を背にして大変なオーラを放っていたが、今日は私も簡単に引き下がる訳には行かない。


「そのような話ではありません! 閣下、リトルマリー号はいつ返していただけるのでしょうか!」

「あの船は先日ドライドックに入れたばかりだ。勿論陛下もまだ御乗船されていない……フォルコン号に何か問題でも?」

「フォルコン号は……」


 危ない。海軍艦と間違えられた話の方をしそうになった。


「……海軍艦として運用していればどんな海賊も恐れますが、商船として運用すれば海賊の格好の獲物になります……そしてもし海賊に奪われ海賊船として運用された場合、あの船がどんな被害を生むか、想像したくもありません」


 中将は立ち上がり、窓辺へ移動した。後光が差しているようで眩しい。


「海の上は皆そうだ、マリー船長。ヒューゴ艦長は書いている。君の働きがなければロットワイラー号が奪われていたかもしれないと。そうなれば20門の長距離砲を備え外洋も航海出来る高速海賊船の誕生だ……それが嫌ならばどうする。ナルゲス港にただ浮かべておくか? そんなのは有り得ない」


 話が難しくなって来た……とりあえず御願いだけはしてみるか。


「普通の商船と……他のバルシャ型の船と交換していただく訳には行かないのでしょうか」

「うむ。フォルコン号には君が乗っていて欲しい。老兵の勘がそう告げているし、既に書いてあるんだよ、ヒューゴ艦長の報告書にね……最上策であったと。軍人を乗せたフォルコン号を送られても、何も起こらなかったろうとね。君とフォルコン号の組み合わせだったからこそ、最高の戦果が得られたのだと」


 あっ……もう意味が解らなくなってしまった。

 とにかく……だめなのか。まだあの船に乗らないといけないのか。


「……承知致しました」

「もう一つ聞かせてくれ給え。海軍とは関係無いのだが」


 中将閣下が振り向いた。


「フレデリク・ヨアキム・グランクヴィストがまた現れたのだ、ミレヨンにね。君は、何か知らないか?」


 ええ?? し、知らない……あっ。偽物とかじゃないですか?


「本物の……ですか?」


 いや私も偽物だよな。本物は女の子向けの恋愛小説の脇役ですし。


「ほう……ミレヨンに現れたフレデリク卿は本物か? と仰るか。マリー船長には、本物のフレデリク卿の居場所に心当たりがあるようだ。ふふ、ふ……」


 うっ……嫌な所を突いて来る。年寄りは怖い。


「いや、ミレヨンに現れたのは手紙だけだそうだ。裁判所でね、裁判に必要な手紙とすりかえられて、彼の手紙が入っていたとか。その手紙一つで、裁判には決着がついてしまったそうだ」


 まさかトライダーに出したイタズラの手紙の事だろうか。まあ誰かに聞かれたら知らぬ存ぜぬで通そうとは思っていた。でも何で中将閣下まで知っているの。


「彼の事は私も本当に良く知らないのです。申し訳ありません」



 たまには茶でも飲みに来てくれとまで言われてしまったが、あまりボロが出ないうちに帰らないと。カラベル船とダウ船の件までバレたらもっと酷い面倒に巻き込まれるかもしれない。

 私は挨拶もそこそこに中将閣下の下を去った。


 その後、海軍文書輸送の代金の小切手の発行が遅い……と思いつつ待っていたら、出て来た小切手のゼロが二つ多い。

 ヒューゴ艦長が拿捕褒賞金の一部を私に回したと? これじゃ私の方が収賄側じゃん!

 次に会ったら賄賂にして渡そう……あの人の金銭感覚が本当によく解らない。もしかしたらアイリとはお似合いかもしれないなあ。年も一緒くらいかも?



 私はロイ爺とブランチに高めのお店で高めのビーフステーキをいただいてから、船に帰る。高めのお店なので胡椒が添えられていたが、二人でほんの小さじ半杯分だった。

 ターミガン朝とは完全に仲直りした訳でもないんだな……彼らを怒らせると北大陸に胡椒があまり来なくなる。私達北大陸の人間は、もう胡椒なしではビーフステーキが食べられないくらい好きなのに。

 まあ……私はビーフステーキ自体、四年振りくらいでしたけど……最後に食べたのは父が気まぐれに買って来たやつだった。

 今度、ぼさぼさにも食わせてやろうか。若い男を掴むのは胃袋だよ! と、アイリさんが言ってたっけ。



 船に戻ると、アレクがもう戻っていた……おかしくてたまらないという顔をして。


「早かったわね? 空豆とか綿花とか売れた?」

「あんなの売れないわけないでしょ、白々しいなあもう」


 私はアレクにぐっと近寄り、声を落とす。


「売れましたか? 乳香。フフフ」

「それがですね、オーガンさんの情報通り。最近流行の化粧品の原材料としてひっぱりだこなんだそうです旦那様、ククク」

「なんか悪そうな人達が居るぞ」


 不精ひげが振り向いてつぶやく。

 私は辺りを見回し、海軍から貰った小切手をちら見せしながら、再度アレクに耳打ちする。


「金貨一万枚の借金なんですけど、あれ暫くの間まだある事にして貰っていいですか? アイリには色々やって頂きたい事があるんですけど、借金がまだ沢山あると思って頂いた方が都合が宜しいのでね、フフフ」

「旦那様もワルですねぇ、アレクは何も聞きませんでした、ククク」

「貴方達、そういう話はもう少し離れた所でやってくれないかしら」


 近くで繕い物をしていたアイリが、肩を落として苦笑する。



 パルキアに少し滞在する事になった。

 いい商売をした後で余裕があったというのもあるが……問題はこの船だ。

 他の船と取り替えてくれないというのなら、今後は絶対軍艦だなんて思われないような外見にしたい。


「帆に模様をつけてもらいましょう! 天秤でいいわよね? うちは商人だよ! 喧嘩はしないよ! ってわかるやつ!」


 私は不精ひげに取り外してもらった帆布を抱え上げ、ボートの方に運ぶ。


「天秤か……遠くから見えるかな?」

「ちゃんと解り易いようにデフォルメするわよ。そんな訳で……でもちょっと、休み多過ぎかしら?」

「そんな事は無い! 休暇ならはロングストーン以来だから四週間ぶりだぞ!」

「レッドポーチで宴会してたじゃん」

「あれは職場の宴会なので、あくまで業務の一部でだな、」


 はいはい……まあ、帆が出来上がるまで、休暇にしますか。

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マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
良い点 フフフ 一言 小芝居すこw
[良い点] やっぱり航海、貿易ときたら香辛料(コショウ)が見せる国交のパワーバランスは欠かせませんね! 金貨一万枚、返済の目途がもう立ってるんだな・・・・。 [一言] 借りてる軍艦の改造計画が進んでる…
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