ガストーネ「アイビス海軍に助けられたのです!」ヒューゴ「どういう事だ?」
実は強かったカイヴァーン。白兵戦で圧倒され海賊は降伏した。
フォルコン号、そしてパスファインダー商会の、小さな二度目の海戦は勝利に終わった。
決して、めでたしめでたし、という話ではなかった。
カラベル船の乗組員には少なくない犠牲者が出ていた。それでもガストーネというカラベル船の船長さんの感激ぶりは大変な物だった。
「こんな所でアイビス海軍に助けて貰えるなんて思ってもみませんでした……ありがとう……ありがとう……」
船長もかなりの手傷を負っていたし、命のあった乗組員の多くも負傷していた。
私達に向けて救難旗を振ってくれた人は……海賊達から酷い制裁を受けたらしいが、何とか一命を取り留めてくれた。
海賊共は縛り上げてダウ船の船倉に押し込んだ。追ってお上の沙汰があるだろう。
ダウ船にもカラベル船の水夫が乗り込んだ。ナルゲスまでは自力航走出来そうだ。
私達もナルゲスまで戻ろうか迷ったが……なんだかあまり気が進まないので、このままパルキアへ向かう事にする。
「ありがとうございました! アイビス海軍の皆さん!」
面倒なので私達は海軍のふりをしたまま、ガストーネさん達と別れた。
ダウ船と捕虜から得られる賞金は、彼等の損害と犠牲者への補償に当てて貰おう。
アレクとロイ爺はフォルコン号の左舷船首側の修理をしていた。ダウ船が古いのが幸いしてこちらはあまり傷ついてなかったが、さすがに無傷という訳には行かなかった。
それから……サーベルは返して貰えたけど、あの短銃はアイリに取り上げられた。
「どうして、私のですよお姉さん!」
「こんな物持ってたらまた謎の美少年ごっこに使うでしょ! 絶対だめ! パルキアについたら、同じモデルの魔法かかってないやつ買ってあげるから!」
「ああああー! 海に捨てないでー! ブルマリンの思い出の品でもあるんですよ!」
「解った! 解ったけどとにかく、これは預かります! こんな下品な魔法の使い方、無いわよ、全く……本来はバニーガールが持つトレイに掛ける為の魔法なんだから。つまずいて飲み物を落としちゃっても、トレイを振るとあら不思議、飲み物が元通り! ってわけ」
この魔法もバニーガール用ですと……このお姉さん、魔法の使い方を間違っているような気がする。
「残念だったなー、俺の活躍を見せられなくて」
不精ひげなどは舷側に座り込んでエールを飲みながらそんな事を言っているが。
「ウラドはホッとしてるのね?」
「いや……うむ……そうだな……ガストーネ船長達には悪いが私は本当に暴力が苦手なのだ」
上半身裸で丸太を振り回して見せた事は、ウラドの中ではかなりの黒歴史となったらしい。価値観って人それぞれだなあ。
そしてカイヴァーンはさぞや私に懐いただろうと思いきや……航海を再開すると、前にも増して萎れた感じで、黙々と甲板掃除を始めた。
「落ち着かない。何かもっときつい仕事くれ」
そういうのが好きなのか?もしそうだと困る。私そういう趣味ないしなあ。
前にも増して心を閉ざしているような。
「いつになったらこの船の家族になってくれるの……私の弟でも船の息子でもいいけど。あんた家族を何だと思ってるのよ」
「そんな事言って……本当は気持ち悪いんだろ? 病気持ってそうとか思うんだろ? 凶暴で手に負えなくなったらどうしようって思うんだろ?」
ぼさぼさはそう言って今まで以上に悲しげな目で私を見る。
どうすりゃいいんだこの子は……
犬だな。人間に虐待されてた犬。だけど何でか家族が欲しくてたまらない犬。
拾ったばかりの頃の方が図々しかったのは、あの時はまだ私達に何も期待してなかったからかもしれない。
逆に言えば、今は期待し始めてるからこそ、こんな反応になるんだろうか。
とにかく、ぼさぼさの寝床は船員室に決まった。アレクは特によく面倒を見てくれているようだ。一人部屋に入れておくより、みんなと同じ船員室の方がいいと言ったのもアレクだ。
時間を掛けて慣れてもらう事にしよう。
大丈夫。もう君の家族は君を蹴ったり置き去りにしたりしない。