表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/97

ウラド「うおおお! 鬼だぞ! 私は鬼だ!(赤面)」

海賊も退治した! ヒューゴ艦長にも褒められた!

カイヴァーンも連れて行かれなかった! めでたしめでたし……

 北北西に進路を戻し、フォルコン号は通常の航海を再開した。


「また海軍文書も貰ったし、レッドポーチよりパルキアに直行しちゃおうかしら?」

「乳香を売るなら、少しでも大きな町の方がいいかもね」


 風は南風、風力は十分……帰りはもうどうという事は無いはず。



「船長、行く手に船影が二つ……」


 午前10時くらいの事だ。見張り台のアイリが言った。お姉さんは最近よく見張り台についてくれる。お姉さん用の船酔い知らずの服には、さすがに短いズボンを合わせたようだが。


「変ね、船が二隻くっついてるわ」


 くっついてる? 何かトラブルでしょうか。

 私も見張り台に登ってみる。



 二隻の船……どちらも小型だけど……片方はマストが二本、カラベル船だっけ。もう一方はダウ船か……どちらも帆は降りている。


 ……えっ?


「カラベル船が……救難旗を振ってる!」


 望遠鏡の視界の中、カラベル船の船尾で誰かが救難旗を振っていたが……すぐに消えた。誰かに気付かれて、殴り倒されたかのように……


「海賊に襲われてるのよ!!」



 水夫が全員集まる。ぼさぼさも甲板に出て来た。


「あのカラベル、海賊に襲われてて、フォルコン号を見て海軍が来たと思って、救難旗を振ったのよ! それで海賊に気付かれて殴り倒されて……」


 私は酷く動揺していた。

 カラベル船の乗組員は、スループ艦が真っ直ぐ向かって来るのを見て、海軍が助けに来たんだと思ったのだ。もしかしたら今頃、海軍が来るまでの間と、必死で抵抗しているかもしれない。

 この船の姿が、彼らの状況判断を狂わせてしまったかもしれないのだ。


「船長、でももしかしたらそれも海賊の芝居で、両方海賊船って可能性も……」


 アレクがそう言うと、ぼさぼさが遠慮がちに手を挙げた。


「この辺りの海賊、カラベルなんか持ってないと思う」


「どうするの、今回はどう考えてもロットワイラー号は来ないわ」


 アイリが言った。不精ひげはマストに登って行った。

 ウラドは舵を手に、ロイ爺は手庇てびさしをして行く手の船を見つめている。


「……このままの風なら20分程であの二隻の所まで着くだろう」

「あのダウ船は海賊なら4、50人は乗っとるな……カラベルはあの大きさで商船なら多くても20人じゃ」

「ニック! 降りておいでよ!!」


 アレクがマストの上に呼び掛ける。不精ひげはフォルコン号の備品の方の望遠鏡で、二隻の船を見ていた。


 私は必死で考えていた……素通りするのは簡単だ。それで何も起きない。だけど……私はそれに耐えられるのだろうか?

 では何が出来ると? フォルコン号は狼の皮を被った羊で、戦闘員なんか乗せていないし大砲も無い。礼砲用の手筒すらない。

 戦おうにも戦えないし、はっきり言って海賊の獲物が増えるだけだ。そしてフォルコン号が海賊船になってしまったら、今後、犠牲者はもっと増えるだろう。


「……王国軍旗を揚げて」

「船長!? 何考えてるのよ!!」

「不精ひげ! 早く降りて来なさいよ!」



 正気か私……いや正気だ。これ以外何が出来るんだ。


「舵はアイリが持って! 船をまっすぐあのダウ船に向けて! 私と男共は全員艦首に集合! 棒でも何でもいいから振り回して!!」


 王国軍旗はフォルコン号の備品にあった。大丈夫か。こんなもん勝手に揚げる事は何かの法に触れはしないか。

 私もサーベルを抜いて頭上で振りかざす……重い。疲れる。


「どうするんじゃ、これ」


 ロイ爺は半笑いで長い熊手を振り回していた。遠くから荷物を引っ掛けるのに便利なやつだ。

 不精ひげはカトラス、アレクは工作用の斧を振り回している。

 ウラドは……上半身裸になって、丸太を振りかざしている……筋肉は凄い、筋肉は凄いが……とても恥ずかしそうな顔をしている……気の毒に……


 ぼさぼさも長い棒を持って参加してくれた。


「こんなので引っ掛かるかな……」

「引っ掛かってもらわないと困るの! 海軍だぞー! 海軍が来たぞー! 失せろ海賊共ー!」


 艦首を向けているのは勿論、他に乗員が居ないのを見られない為だ。一応向こうから見たら、艦首は戦士で一杯に見えるはず……

 どうするのか? 海賊が逃げなかったらどうするのか? その場合は……本当にごめんなさい……横を素通りしてそのまま逃げさせていただきます……


「船長はそこより、索具の上に立ってくれないか。その方が得体が知れなくていいかもしれないぞ」


 不精ひげが言う。なるほど、私はマストに向けて張られているネットの上に駆け上る。こんな所を手放しで走り回れる水夫は海賊にも居るまい……ズルだけど。


 海賊ども。御願いだからどっかへ行って。


 ……


 だんだん近づいて来るなあ……


「……お金を出して許してもらうのはどうかしら」

「身包み剥がない理由は無いじゃろうのう……」


 ……だめだ。


 肉眼でも見えて来た。やっぱりこの海賊も、フォルコン号の内情を知っていた一味なのだろうか。

 じやあカラベルの方も海賊? それなら話は早い、逃げればいいだけだ。カラベルも海賊なんでしょ? そうなんでしょ?


 ……


 涙が出て来る……


 だんだん見えて来た。カラベルの船上は酷い有様だった。何人も人が倒れている。砲撃もあったのだろう、甲板の一部が破損している……生存者は居るんだろうか……居る、居るよ、海賊に囲まれながら、必死で手を振ってる人が居る……!


 勘弁してよ……私達、ヒーローじゃないよ。

 こんなの……どうすればいいの……


「やれるよ」


 え……今誰が?


「このくらいなら何とかなるんじゃないか? 海賊も結構やられてるみたいだぞ。俺とウラドが飛び移る。船長も行くか? 索具の上でなら一人前以上なんだろ? そこのぼさぼさも当てにしていいか? 結構な金額の賞金首だそうじゃないか」


 不精ひげ……?


「太っちょとロイ爺は操船を頼む。アイリさんは隠れててくれよ」

「ちょっと、本気なの!?」

「うーん、出来れば船長も引っ込めておきたいけど、言ったって大人しく引っ込まないだろ、この船長。ウロチョロされるくらいなら見える所に居て欲しいし」


「ま、待って……」


 そう言ったのはぼさぼさだった。


「俺、無理だよ……戦えねえ」


 私はそれを聞いて、何故だか少し安心した。

 そうか。やっぱり普通の子供なんだ。


「じゃあ貴方は船に居てね」

「そ……それも嫌だ! 何でお前、船長が行くのに俺が、」

「じゃあ好きにしなさい」

「そ、そうじゃなく! そうだ、俺を鞭で打て!」


 まったく意味が解らない事を言い出した!

 やっぱり普通じゃないのか……


「俺に命令しろ! そしたら俺、嫌々なら何でも出来るから!」

「ごめん、本当ごめん、今貴方の事情に関わってる時間無いわ、今日は自分で考えて! やりたい事を自分で決めなさい!」



 海賊船が近づいて来る。

 準備の時間は向こうにもかなりあったはず。鉄砲玉も飛んで来るかな……当たったら痛いよな……嫌だなあ。


 私は何が出来るのか? 人は切れないよな……自分が振ったサーベルが人の肌に当たって血が出る所を想像するだけで寒気がする。ブルマリンの私刑団の人達は鎧を着ててくれてたし、あの時は水路に突き落とすだけで良かったけど。

 かと言って切られるのも嫌だ。あの時の私、よく立っていられたな、自分に剣を向けている人の前で。

 なりきってたんだ。トライダーのせいで。あの時の私は変装ではなく、ストーク王国の少年貴族フレデリク君になりきっていた。今はどうか? 無理だ。フレデリク君を呼び出すには、トライダーのようなノリのいい相方が必要だ。


「船長。そのサーベルを貸しなさい」


 え?


「貴女にやらせるくらいなら私がやるわよ! 私も船酔い知らず着てるし貴女よりは力持ちよ! ニック! いいでしょう? 私も行くわよ!」


 アイリさん? あっ……ちょっと!

 サーベルを奪われた……


「返して! アイリは戦争嫌いなんでしょ!」

「船長は銃でも撃てばいいじゃない!!」


 そう言いながらアイリは素早く、私の短銃まで取り上げてしまった!?


「戦争も、こんな下品な魔法も大ッ嫌いよ! でもマリーちゃんは……ああいう人を助けずに逃げたら、頭おかしくなっちゃうんでしょ。知ってるわよ……」


 しかしアイリはすぐに短銃を返してくれた。どういう事?


「人を撃つんじゃないわよ?」


 私に顔を近づけ、アイリはそう言った。は……はい? お姉さん、ちょっと目が怖い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ご来場誠にありがとうございます。
この作品は完結作品となっておりますが、シリーズ作品は現在も連載が続いております。
宜しければ是非、続きも御覧下さい。


シリーズ全体の目次ページはこちら
マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
「俺に命令しろ!」に対して、事情を汲めないことをフォローしつつ「やりたいことを自分で決めなさい!」は惚れ惚れする返しです。 命令してほしいという相手の希望に沿った形で、あくまで相手の意思を尊重すること…
ひょおおおお
[良い点] うおおおおお(シーンに呑まれる読み手
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ