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マリー「バルシャ船の船長がバニーガールに釣られるのはないと思う」

現れたロットワイラー号。しかし三隻の海賊船はロットワイラー号を強襲する構えか。

何か思いついたマリー。秘策か!?

「本当にやるの……?」

「釣れなかったらめちゃくちゃ恥ずかしくないか」


 これから男達が命を掛けて戦うのだ。私がちょっと恥をかくぐらい何だ。まあ、上手く行けば儲け物くらいの話だ。


 ガレー船、バルシャ船、ダウ船は、新たに現れたロットワイラー号の方へ向かおうとしていた。

 ロットワイラー号はフリゲート艦だ。全長30mちょっとで大砲は20門くらい積んでいると思う。大きさではガレー船の方が上だしダウ船も20mくらいある。

 それでもヒューゴ艦長とロットワイラー号が勝つとは思うんだけど……さすがのロットワイラー号も海賊船三隻同時に襲われるのは厳しいのではないか。

 せめて一番近いバルシャ船だけでもこっちについて来て貰えたら、ロットワイラー号の被害を減らせるのではないだろうか。


 艦長室は戦闘準備の為解体されていて今は無い。私はアイリの士官室を借りて着替えた。アイリの私物の羽扇も借りた。


「俺は止めたからな」



 私は……

 久々のバニーガール姿で甲板に出た。



 バルシャ船はもうすぐ近くに居た。このままなら50mくらいの距離ですれ違うだろう。鉄砲で狙われたらどうしようかとも思うけど、この距離なら余程運が悪くなければ当たるまい。



 恥ずかしい。想像していた以上に恥ずかしい。


 私はランタンを集めて並べたフォルコン号の船首楼の上に立ち、ヒラヒラ踊る。


 伝わっているだろうか。この、すごくバカにしている感は伝わっているだろうか。

 そう思うと途中から少し楽しくなって来た。


 フォルコン号もわざと帆を風向きと平行にして減速している。

 バルシャ船の海賊共が見える……大砲は無いよね? 無い? よし。

 よくあんな船にそんなに乗れるわね……40人くらい?

 この羽扇いいな。私も今度作ろう。うんと派手なやつ。

 海賊共が舷側を叩いてるな……どういう意味かしら。


 ……


 回頭してるよ! バルシャ船が回頭し出した!



 私は急いでアイリの士官室に駆け込む。


「回ったぞ! こっちに向かって来る! 奇跡だろこれ! 在り得ない!」


 甲板で不精ひげが叫ぶ。何故か少し腹が立つ。

 とにかく着替えよう、元のキャプテンマリーに戻ろう。

 後は逃げるだけ! ヒューゴ艦長、やっちゃって下さい!



 ガレー船はまっしぐらにロットワイラー号の方に向かおうとしていた。しかし漕ぎ手がもう疲れ果てていて、本来のガレー船の戦術に必要な、風を無視した突進力が発揮出来なくなっていた。


 ロットワイラー号の砲門が火を吹く。まただ……一撃目でガレー船は一本しか無いマストを折られてしまった。

 やつらはガレー船なのでまだ動く事は出来るが、疲れきった漕ぎ手が風力無しで出し続けられる速度はせいぜい2、3ノットだそうだ。

 ロットワイラー号はガレー船を後回しにしてダウ船に向かう。なんだかな。私が恥かかなくても楽勝だったんじゃないだろうか。



 ダウ船は逃走しようとしたが追いつかれ、砲撃を受けてやはりマストを折られた挙句、白旗を揚げた。

 ロットワイラー号は今度はダウ船を放置しガレー船の仕置きに戻り、遠距離から撃ち始め最後は近距離で砲撃を加え、やはり降伏させた。

 バルシャ船はフォルコン号を追い掛けて来てたが、さすがに途中でまずいと気付いたらしく、遁走を図った。実際かなり遠くまで逃げたようだが、ロットワイラー号は水平線近くまで追い掛け、砲撃して降伏させた。



 フォルコン号はロットワイラー号がバルシャ船を曳いて戻って来るまで、帆を降ろして待っていた。ガレー船は今さら逃げようとしてオールを出しているが、もう漕ぎ手がやる気を失っているらしく、殆ど進んでいない。

 ダウ船の方はいやに大人しい。こっちはマストが折れているが、修理しようともしていない。開き直ってロットワイラー号の救護を待っているのかな。


 三隻の海賊船は、かすり傷一つ無いロットワイラー号によって集められた。



   ◇◇◇



「すっかり世話になってしまった! こんな筈ではなかった。誠に申し訳ない」


 明け方になってボートでやって来たヒューゴ艦長は、開口一番そう言った。


「三隻出て来るとは思わなかった。あの時敵の先鋒に接舷されていたら、連鎖的に接舷されかなり厄介な事になっていた。礼を言わねばならん」

「私は何もしていませんよ」


 例の握手。三度目ともなるとこちらにも気持ちの余裕が出来るな。


「謙遜が過ぎるぞ……私は貴公は海賊を迂回して北へ抜けると思っていた。貴公が残ってくれなかったら、こんな大戦果にはならなかっただろう」

「逃げて良かったのなら、次からはそうおっしゃって下さい」

「……ははは、は」


 また冗談と受け取る……あのう、冗談で言ってるんじゃないんですけど……


「それにしても、どうやってあのバルシャ船の回頭を誘ったのだ? まるで魔法のようだった。私も兵達も目を疑ったぞ」

「それは……まあ、良いではないですか」


 そう言って目を逸らした私は……見た。ぼさぼさがいつの間にか甲板に立っていたのだ。そういえば士官室に居させてたんだけど……


「貴方はベルヘリアル艦長ですか。俺はナームヴァルのカイヴァーン、ダーリウシュの息子で海賊団の跡取りのカイヴァーンです。自首しますので一緒に連れて行って下さい」


 ぼさぼさは、そう言った。


「それは……本当かね?」

「本当です。俺はこの船の牢に居ましたが、海戦の間は避難させてもらっていました。ベルヘリアル艦長。一つお願いがあります。俺の懸賞金、半分でいいんでマリー船長に分けてあげてくれませんか」

「……私が懸賞金を受け取る謂れは無い。そういう事なら当然全額マリー船長に支払う。君が本物の懸賞付き手配犯ならばな」

「ちょっと……待ってよ! どういう事、ぼさぼさ!」


 ぼさぼさは……目を伏せた。


「俺はそんな名前じゃねえ。ダーリウシュの息子カイヴァーン、海賊団の跡取りだ、もうそんな海賊団無えけど。俺の家族は散り散りになった。今ベルヘリアル艦長に捕まった連中の中にもたくさん居ると思う……だから、俺も連れてって貰う」

「なんで海賊団が無いのに海賊なのよ! だいたい貴方私より背が低いし、子供じゃん! 子供!」

「身長なんか関係無いだろ、指名手配は指名手配だよ」

「ヒューゴ艦長! この子、北へ300kmくらいの洋上で、放棄されたガレー船に置き去りにされていたのよ! 多分何週間も!」

「もうやめてくれよ!」


 ぼさぼさ……カイヴァーンが叫んだ……涙声で。


「俺は家族と一緒に行きたいんだよ! ほっといてくれ!」


 私は辺りを見回す。

 アレクは……アレク! 危険を察知して逃げたな!

 アイリなら居る、アイリなら居るけど……足りない、足りないよ、だけど。

 ぼさぼさは勝手にロットワイラー号のボートの方へ歩いて行こうとしている!


「アイリ! 来て!」


 私はマストの影からこちらを見ていたアイリを呼ぶ。さすがにお姉さんもこの状況で自分をヒューゴ艦長に紹介してもらえるとは思っていないだろう。何事? という表情をしている。


「ぼさぼさに渡すはずだった袋、出して」

「これ? 今渡すの……?でも……」


 たったこれだけか……でも今はこれしかない。


「ヒューゴ艦長」

「……うむ」

「カイヴァーンの懸賞金はおいくらなのでしょう?」

「金貨2000枚と記憶している」


 よく解らないけど……大変な大物なのではないでしょうか……


「それでは……これではとても足りないかもしれませんが……今のその子の発言、聞かなかった事にしてはいただけませんか……?」


 先に声を上げたのはアイリだった。


「船長! それは……!」


「これは……?」

「魚心の水心でございます……」


 ヒューゴ艦長は、袋の中身を見た。



「ふふ……私は何も聞かなかったぞ」


 いいの!? 渡しておいてなんだけど、いいの!?

 その子金貨2000枚ですけど!? 私がオレンジで大儲けしてるのも御存知ですよね!? 袋の中身見ましたよね!? 金貨たった20枚ですよ!?


「でもベルヘリアル艦長、俺はダーリウシュの息子カイヴァーン、賞金首で!」

「証拠も無くそのような事を言われても困るのだよ。さて、私にはやる事が山ほどある……マリー船長。アイビスに戻るなら、また報告書を頼まれて貰えないか?ユリウス、船長に報告書を。では……これで失礼する」


 この人、お金が好きなんじゃないんだ。賄賂が好きなんだ……



 実際ロットワイラー号はこの後が大変なのだろう。自分達より数の多い海賊をナルゲスへ連行しなくてはならないのだ。


 アイリはボートで去って行くヒューゴ艦長をうっとりと見つめていた。


「船長! いいえ……マリーちゃん! やっぱり貴女もヒューゴ艦長が好きなんじゃないの!? 賄賂が好きなんて嘘じゃない!」

「何を見ていたんですかお姉さん……聞こえなかったんですか? お金を受け取ってから、何も聞かなかったと……」

「金貨2000枚の懸賞金を捨てて金貨20枚の賄賂を受け取る? 有り得ないわよ! ヒューゴ様は高潔なお方なのだわ! ヒューゴ艦長! 私もロットワイラー号に乗せて下さい! どうか私を連れてって~♪」

「戦争、嫌いじゃなかったんですかね……軍艦ですよあれ」


 恋は盲目? でも確かに。お金で動いてる訳じゃないのね、あの人……



 ダウ船はガレー船に牽引されて行くようだ。気の毒と言えば気の毒な話である。ダウ船は楽だがガレー船の漕ぎ手はまた大変だ。

 バルシャ船には海兵が乗り組み、仮のマストを取り付けている。乗っていた海賊の方はロットワイラー号に収容されたようだ。あいつら、余計な事言わないだろうか。

 あの時は一番近くても50mくらいは離れてたよな……私の顔を覚えてたりしないだろうか。どんな恨みを抱いたか知らないけど、お願いだから早く忘れて下さい。



 ぼさぼさのカイヴァーン君は舷側に座り込んでいた。


「何でだよ」

「貴方も片言じゃなく、普通にアイビスの言葉喋れるじゃん」

「恩に着ろっての? それとも……何か聞きたいのか」


 別に。あの金貨20枚は元々ぼさぼさにあげようと思ってたやつだし。


「恩に着るのも着ないのも、喋るのも喋らないのも貴方の自由よ。ぼさぼさ! とりあえず部屋に戻ってもう一度寝なさい! あんまり寝てないって顔してるわよ」


 ぼさぼさは黙って士官室に向かう。捻くれてるようで妙に素直な、おかしな奴だ。

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マリー・パスファインダーの冒険と航海
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[良い点] なんだこの名映画を観た後のような爽快感は・・・・・ [一言] 各々のキャラがピンピンに立っていて、皆の個性が絡み合って大団円になっていく流れがマジ海賊……ではなくマジ最高でした。
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