子供「ママーあのお姉ちゃん青鬼連れてる」母親「指差しちゃいけません」
このタイトルは「マリー・パスファインダーの冒険と航海」シリーズの二作目となります。
マリー・パスファインダーの冒険と航海シリーズ
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第一作は「少女マリーと父の形見の帆船」
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こちらとなります。
ページ下部のリンクから移動出来ます。「少女マリーと父の形見の帆船」を未読の方は、是非一作目から御覧下さい。
そして一作目からお越しの皆様! 御来場誠にありがとうございます!
是非ブックマークをつけてお読み下さい(震え声)
私が父より受け継いだ旧式のバルシャ船リトルマリー号を取り上げられた代わりに、アイビス王国海軍より押し付けられたのは、海軍の新鋭スループ艦だった。
その名もフォルコン号。まあ、隼という意味の言葉でもあるが、それは明らかに私の父、フォルコン・パスファインダー……通称パンツ一丁のフォルコン……にちなんだ名前だ。
東へ100km。パルキアとレッドポーチはそれだけしか離れていない。風は5時方向からいい感じに吹いていて……それでも、リトルマリー号なら12時間はかかったかもしれない。
「こりゃあ、8時間を切るのう」
船の長老、老水夫のロイ爺が言った。この船、上層甲板の操舵輪の近くに、雨避け付きの掛け時計までついていた。
「順風ならこんなもんだろ……でもこの船の真骨頂は逆風の時だろうな」
不精ひげの水夫が言う。ロイ爺はさすがに年なので、航海の事で一番仕事が出来るのは多分こいつだとは思うんだけど、同時に船一番の怠け者でもあるこの男はどこまで信用していいのか良く解らない。
「何かに襲われたら風上に逃げるべきだろうね。ガレー船でもなければ誰もついて来れないかも」
そう言ったのは小太りのアレク。身長も私とそんなに変わりない。船では太っちょで通っている。本名で呼ばれるよりそう呼ばれる方が好きな、我がパスファインダー商会きっての商売通だ。
「我々がこの船に慣れれば、もっと速くなるのだろうな。マストがリトルマリー号よりかなり前にあるし、色々と勝手が違うようだ」
青黒い肌と下顎から伸びた大きな牙を持つ、オーク族のウラドは船一番の紳士であり良心だ。今までは操舵手を務めている時間が多かったが、今は腕組みをして船の針路を見つめている。
「私も一端の海の女になれたかしら? うふふふ、舵を握るっていいわね……皆の命運を握っているみたいで……」
それで今物騒な事を言いながら操舵輪を握っているのが、28歳の惚れっぽいお姉さんのアイリさん……水夫の男共は今は亡き父から受け継いだものだが、アイリさんは色々あって私が捕まえ、巻き込んだ仲間だ。船に乗る前は白金魔法商会で魔法のかかったバニースーツを作る仕事をしていたという……魔法使いである。
私、マリー・パスファインダーは15歳。アイビス王国生まれの人間だが、我らが国王陛下は16歳未満の人間の就労を禁止しており、さらに16歳未満の孤児は全て孤児院に収容するよう命じておられる。
私は陸に居るとその該当者になるので、風紀兵団などの追っ手に捕まったら、ただの孤児として養育院に収容されてしまうらしい。
しかし海の上にはその王国令も及ばない。そして船の上での私は……既に幾つもの航海で成功を収めた立派な船長なのだ!
私は……魔法のかかってない、普通の服に着替えて艦尾に居た。
「うえっ☆△×●○! □▲ぐえええ○◎××★△●×~」
「またやってるのか船長」
「この船なら大丈夫かもと思ったんだって」
不精ひげと太っちょのひそひそ声が聞こえる。そう。だけど私は、船酔いをする船長……
これでも初めて船に乗った頃と比べたら相当マシになったんですよ。
今、アイリさんの「船酔い知らず」の魔法が掛かっている服は二着。一着は白金魔法商会で販売していた、カジノ船のコンパニオンさん用のバニーガールの服。デザインは酷いけど、私と父の船とその仲間を窮地から救ってくれた、大事な服だ……とは言え着ないで済むならもう着たくない。
もう一着は私自らデザインした超かっこいい貴公子っぽい船長専用服だ。私の中ではキャプテンマリーの制服と呼んでいる。ちなみに初披露した時は水夫達に大爆笑された。この服は以前の冒険の最中、アイリさんが嫌々魔法を掛けて「船酔い知らず」の服にしてくれた。
ではその服を着ればいいじゃないか? そうなんだけど、それだといつまでも船酔いが治らないまま、キャプテンマリーとバニーガールの間を往復する事になる。それはそれで嫌だ。
他の服も「船酔い知らず」にして貰えばいい?正解だ、それが正解に決まっているのだ。
「ア゛イリさん゛。何とも思わない゛んですか。貴女の船長がこんなに苦しんでるのに」
「だから言ってるじゃない、私が一から船長に似合う服を作って、それに魔法を掛けてあげるからって……」
アイリはフリフリヒラヒラのお花畑が似合うお人形さんみたいなドレスのスケッチを見せて来る。それははっきりと私の趣味とは違うし、そんなの着て船長やってたら変な人みたいじゃないか……
仕方が無いので私は海が穏やかな時はよく、普通の服を着て船酔いに慣れる訓練をしている。
檣楼に居た不精ひげが、彼方を指差して叫ぶ。
「見えたぞ、レッドポーチだ!」
「前回この港が見えた時は、随分憂鬱な気持ちになったもんじゃ。ああ、着いてしまった、とのう」
ロイ爺が私に言った。それはきっと、父の訃報の事だろう。
航海日誌には父が行方不明になった日がはっきりと書いてある。そしてアイビス王国の今の法令によると、六か月以上行方不明の人間は死亡したものとして扱われるし、死亡した者は船長資格を失うし、船長を失った船は出港出来なくなる。
つまり前回、この港にやって来たリトルマリー号は、ここに寄港してしまえば問題が解決しない限り出港も出来なくなる事を知っていたのだ。
「ロイ爺……あの時、アイビスに戻らないで南大陸で商売を続けてたら良かったんじゃないの?」
私は小さな声で聞いたが、元々少し遠いロイ爺の耳には聞こえなかったようだ。答えは解ってるし。このお人好し共は父への義理立てを何よりも優先していて、娘である私に遺産を渡す為、まっすぐここに向かって来たのだ。
私もあの日、それが解ったから、大嫌いな海に、苦手な船に乗ろうと思ったのだ。例えバニーガールになってでも……それはもういいか……
◇◇◇
レッドポーチ港! なんだか長い長い冒険をして来たような気もするんだけど、航海日誌によれば、私がこの港を離れたのは31日前の事らしい。
港を見下ろす低い丘の上には、あの水運組合の建物が。その上の山の手には富裕層の邸宅地、オーガンの屋敷はあそこだ。
港の暇人共に追い掛け回された波止場。ああ……私が不精ひげに暴言を吐いた広場もここから見えるわ……
これが懐かしいという気持ちなのかな。いいなあ私。一端の海の男みたいじゃないか。我らが母港レッドポーチ! 私は帰って来た!
「船長、バウスプリットに立たれると邪魔なんだが」
「わかってるわよ! 少しくらい調子に乗らせてよ」
水先案内人がフォルコン号を先導して行く。ぶっ……リトルマリー号は湾奥のボロい桟橋の近くに停泊させられたのに。新鋭艦フォルコン号は出入りもし易い綺麗な桟橋に案内された。
「今日はこのまま一休み、明日オレンジでも仕入れて南大陸へ、かな?」
「そうねー……ねえ太っちょ、まだあの商売残ってるかしらね?」
「なかなか真似出来ないと思うよ、奇跡の北風が吹き続けてすぐ着くとか、海軍の新鋭小型艦で逆風でもスイスイ行けるとか、そんなズルしない限りオレンジの直送を商売にするのは無理じゃないかな」
「投錨~」
不精ひげは何故、錨を降ろす時、必ず間の抜けた声で言うのだろう。
時刻は夕方。今日は船で過ごそうか。皆この船に移って初めての夜だ。船員室も広くなったというし、狭いけど調理室もあって……いや、食材が無いな……最後、パルキアまでは一週間洋上に居たし、パルキアではどうなるか解らないから何も買ってなかったし……
アイリさんが肩をすくめる。
「食材、本当に何も無いわよ、船長」
「決めた。今日は全員上陸!」
それでも私がそう言うと、皆、少し驚いた。ロイ爺とウラドが顔を見合わせる。
「いや、見張りの一人くらい居ないのは不用心じゃ……」
「そうだ、私はいつも通り留守番の方が気が楽なのだが」
「レッドポーチで海軍のスループ艦かっぱらう度胸のある盗賊も居ないでしょ! 桟橋もど真ん中で他の船のクルーの目もあるし。たまには陸でパーッといっちゃおう! あとこの街には私の事知ってる風紀兵団が居る可能性があるので……皆困るでしょ? 私が孤児として収容されて連れて行かれたら……」
皆ごめん。私は単に、この街で、これをやってみたかったのだ。
黒のズボンに白のシャツに黒のリボン、緑の少し大き目の上着。この季節には少し暑いが根性で着る。私の中では真面目の商会長服と呼んでいる。上着だけは父の服をリフォームした物で、残りは自分で縫った。
「私は風紀兵団が怖いので、皆ちゃんと一団になって、後ろからついて来てね」
以前は浮浪者のようだった水夫達の服も、私とアイリでうるさく言い続けて今ではかなりまともになった。
私は商会長なので先頭を歩く。皆にはなるべく固まってついて来てもらう。特にアイリさんはよく余所見をして遅れるので、時々止まって注意する。
太っちょと不精ひげが囁き合う。
「何だろうねこれ」
「提灯行列だろうな」
ばれていたか。ふふふふ。私は心の中で密かに叫ぶ。
ご覧下さい街の皆さん! 私が一か月前、この辺りでおどおどしていた、貧しいお針子のマリーです! 今はご覧の通り、パスファインダー商会の商会長で、新鋭スループ艦フォルコン号の船長をしております! マリー・パスファインダーは今! 手下共を引き連れ、レッドポーチに帰って参りました!