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勇者行商人編 -信用情報-

 勇者と名乗る狐娘のノエルに俺は面食らった。

確かにあの女神からたくさんの転生者がこの世界に来ていることは知っている。

しかし、どう見てもこれは異種族のモンスターだ。

栗毛色の尻尾と毛玉のような耳。容姿は子供ぐらいだが、話し方は大人びているし、まるで妖狐そのものである。

これが勇者だって?

「信じられないかえ?」

「……」

何より、何でこんなところで露天商やってるんだ。

俺達勇者は女神たちに魂を削り取られる”利子”を付与されているはず。

定期的にモンスターを倒さないと、その利子によって魂が尽きて死んでしまうはずだ。

商売なんてやっている時間はないのだ。

俺は別として。

「モンスターはどれくらい倒したんだ?」

「なんじゃいきなり」

「ここでのんびり店をやっているということは十分モンスターの魂を貯めてるはずだ。そうしないと、すぐに死んでしまう」

ノエルは手を叩いて大げさに笑った。

「ははは、みんながみんな高い”利子”つけてるわけじゃないぞよ。

わっちは年利”0.1%”じゃ。

モンスターなんぞ倒す必要はない」

その金利に俺は驚いた。

女神の説明だと、大体闇金レベルの利子がついていたのに、何か俺のように不正でもやったんだろうか。

「なんじゃ怪訝な顔して、種は簡単じゃよ。わっちのパラメータは元の世界とほとんど同じじゃからな。容姿を少し弄ったくらいで特殊能力も大したことがない。だから高い利子はつかないってだけの話じゃ」

「んな。アホな。こんなモンスターがうろつく世界でそれで今までどうやって生き抜いたんだ」

「町の中やこういう冒険者がたくさんいる場所にいれば、基本的に危険はありゃせん。わっちからすればわざわざ命を捨てるようにモンスターを倒しに行く他の勇者の気がしれん」

「それじゃ魔王は倒しに行かないのか?」

ノエルは大げさに肩をすくませた。

「おぬしもクソ真面目じゃの。よく考えてみ。勇者が魔王を倒す必然性なんてどこにある?」

「いや、だって魔王に苦しめられている人々を救う必要があって……」

「そりゃお互いさまじゃろ。魔王側は魔王側で襲ってくる人間から魔族を守らなきゃならないんじゃないかえ?」

「人間は積極的に魔族を襲うわけじゃないだろ」

「ほほほ……魔物狩りツアーが開催されてるダンジョンの前でよく言うわい」

「む……そんなもん腕に覚えのある冒険者だけの話だろうが。一般人は別だ別。お前が言ってるのはな。トラに襲われている人間を放っておいてトラを助けるようなもの。動物愛護団体じゃあるまいし、人間は人間を助けるものだ」

ノエルは俺の胸に指を当てて忠告をするように言った。

「わっちからすれば人間も魔族も敵じゃ。当然お前さんもな」

その瞳は周りを常に警戒するように見開いて猜疑深く敵を見るような眼だった。

ノエルは前の世界で何かあったのだろうか。

俺のように借金取りに追われたようなことで、人間に嫌気が刺した。そんなタイプに見える。

それにもしかしてこの世界でも何か嫌なことがあったのか。

巫女服はところどころ切れていてノエルの地肌が見えるのだが、首や手首に何かあざのようなものが見えた。

その位置にあざができるとしたら、たぶん首輪と手錠だろうが……

もしかして転生後に奴隷か何かになったんじゃないか。

……いや、今はこいつは俺の敵なんだ。敵に同情しちゃいけない。

「俺は魔王を倒す。お前みたいに人間に絶望してるわけじゃないからな」

「それは結構じゃ。わっちはこの世界で愚かな人間相手にお金を稼いで悠々自適に過ごすわい。さっ商売の邪魔じゃから、そこのダンジョンにでも入ってモンスターを倒しておくれ」

「断る。俺はここで商売しなくちゃならんからな」

「そうけ? どういう事情か知らんが、まあ売れんと思うけど、地べたに座って商売してりゃええ」

俺の特殊能力は金銭を能力に変える力だ。

このままダンジョンに入っても何もできないだろう。

つまりここで商売しなきゃならない。

しかし、こいつを排除しないと価格と商品の質で負けるウチが売れないのは自明の理だ。

どうにかしてノエルの店を移転させるか、それともなければぶっ潰さないと。

何か手があるはずだ。何か。


そこでふと妙なことに気づいた。


店頭にあるのは、回復ポーションのような雑貨かと思ったら、武具や防具、そして高級そうなスクロールやいかにも高そうな青く光る髪飾り等の装飾品もあった。

そして人々が買っているものは回復ポーションではなく、使い捨ての投げナイフや魔法具のような商品だった。

「ここって雑貨屋じゃないのか?」

「お前んとこのチンケな店と一緒にするんじゃないぞい。わっちの店はなんでも売る総合商店じゃ」

ノエルは腕を組んで威張った。

「まさかこれ全部に借用書を?」

「そうじゃそうじゃ。わっちのように金持ちになるためにはこういう珍しい商品も必要なのじゃ。なんといっても高級品は雑貨と違って売れたときの利益が段違いなのじゃ」

「誰にでも?」

「そりゃそうじゃ、今、売れなきゃいつ売れるかわからんのじゃからな。さっき売れたスクロールなんて1か月くらい木箱の奥で蜘蛛の巣が張っててようやっとな。そんでスクロールを買ったときに借りた金主からの借金返済をようやくできそうで……ああ、なんでもないのじゃ」

ノエルは慌てて言葉を否定した。

どうやらノエルは借金してこの商売をしてるらしい。

まあ小売業なんてのは、大体財務の7割を借金で補っていて自己資金は3割程度なものだ。それも優良な店舗がそれで、多くは自己資金1割程度なものだ。

それゆえに少し甘い経営をするとあっさりつぶれてしまう。

俺は試しにノエルがこれを知っているか聞いてみた。

「お前、信用情報って知ってるか?」

「は? なんじゃそれ?」

ノエルは大きな眼をぱちくりさせて、何を言ってるのかわからないという顔だった。

俺は呆れた。

そんなことも知らないで商売やってるのか。

でもこれはチャンスだぞ。

「そうか。それじゃ俺は諦めて一回町に帰るわ」

「なんじゃ急に態度変えて、やっぱりわっちにはかなわないと解ったのかの?」

「そういうわけじゃないけどな」

「ほほほ、負け惜しみばっかり言って」

「夕方になったらまた来るよ。”どんだけ繁盛してるか楽しみにしてるわ”」

俺は踵を返してマオの方に帰っていった。

結局のところ、ノエルは俺のことをバカにしたかっただけらしい。

ノエルは勝ち誇ったように尻尾を振りながら陽気に俺に手を振っていた。

野次馬達を押しのけるとマオがいた。

マオは心配そうに錫杖を手でもじもじ弄っていた。

「どうでしたか?」

「どうもこうも、あの店はつぶれるよ」

(´・ω・`)続きはすぐに書きます(たぶん)

たぶんとは2週間ぐらいのことである(;´Д`)

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