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勇者初心者の町編 -勇者は冒険者ギルドのリアルを知る-

中心街から徒歩20分。まばらな人通りを抜けて少し閑散とした店の前まで来た。

観音開きの扉を両手で開くと威勢の良いおいちゃんの声が耳をつんざく。

「いらっしゃい!冒険者ギルドへようこそ!」

俺は入った瞬間、あまりに非日常的な店の空気に呑まれた。

予想はしてたが……

カウンターでたむろしてるのは、どう考えても切った張ったが大好きな冒険者の方々。

顔中刀傷だらけの男や、フルフェイスの兜をかぶった全身鎧の性別不明の戦士。はたまた昼間っから酒をかっくらって何やら喧嘩をしている全身入れ墨のご一団。

女もいるにはいるが、コスプレAVみたいに露出度が高い魔女が蛇を腕に巻きつけながら微笑し、眼が虚ろな女神官がブツブツ何やら怪しい呪文(たぶん本物の魔法なんだろう)を誰もいない天井に向かって吐き続けてる。

俺は目が点になって、できるだけ顔をそっちに向けないように店主らしき筋肉隆々のおっさんの前の席に座った。

「おっさん。なんか良い仕事ないかい?できれば戦わない奴」

俺が冒険者ギルドにやってきた目的は種銭の確保である。

特殊能力2”特殊能力付加”はエネルギーの元となる魂がいる。その魂はモンスターを倒すことでも手に入るが、特殊能力1”金銭変換”で金銭から得ることもできる。

LV1の初心者の俺がモンスターを倒すなんてできる気もしないし、やる気もしない。というかこのサイケな冒険者集団と一緒にゴブリンだのオークだの倒す冒険に出る俺の姿がまるで想像できない。

じゃあなんで冒険者ギルドにきたかというと、いわゆる使い走りミッションのためだ。街の外壁の修理とか、荷物の配達とか、水道の掃除とかそういうの。

「戦わない?ここにきてそれかよ。ヘヘヘ、情けない新人さんもいたもんだぜ」

「うるさいな。最初にいきなりゴブリンの巣に行って剣を振るおうと思ったら洞窟の壁にぶつけて剣が折れてゴブリンの集団にボコボコにされて殺されるとか嫌なんだ」

おっさんはへへと下卑た笑いをした。

「よく知ってるじゃねぇか。それ、イキった新人の典型的な死亡パターン」

隣に座ってた刀傷だらけの男が話に割り込んでくる。

「おっさん!ちげぇよ!スライムだと舐めてかかったら溶解液を顔にぶっかけられてドロドロに顔を溶かされて倒れたところをケツの穴から溶解液流されて死ぬやつだよ!」

「それそれ女の子がよくそれで死んでるな。はぁでもスライムに殺された女の子ってマジ勃起すんだよな」

「趣味合うじゃねぇか! もったいねぇから死姦したことあるけどマジ抜けるよ」

「マジかよ。死体で抜いたことあるけど、死姦はねーわ。無理だわ」

ギャハハハハハ


早くこの空間から抜け出したいです。


「あのー?盛り上がってるとこ悪いんですが、お仕事……」

カウンターの店主は肩をすくめると俺の肩を両手で掴んで言った。

「あのよ。そういうガキの使いみたいな仕事は奴隷がやるもんなの」

奴隷だと?

しまった。そうか。この世界は見る限り、まだ中世か近世そこそこ。貨幣経済の発達が十分ではない。

日本でも戦国時代から江戸時代の初期までは下人又は譜代下人のような奴隷が主な労働力だった。江戸時代中期でも丁稚奉公人や年季奉公人等の半無休労働者が労働力の大部分を担っていた。賃金労働が一般的になったのは江戸時代後期以降で、今のように期間労働者は多くないのだ。

「ないわけじゃねぇが、そういうのはお上から仕事回ってこないとな」

多くの場合公共事業的な支出が主で民間経済はまだあまり発達していないのかもしれない。

これは誤算だった。

「それによ。見たところ登録保証料払う金あるのか?30金貨。冒険者の月収6か月分だぞ」

「は!?なんでそんなに高いんだ?」

「呆れかえってものもいえねぇな。こういう危険な仕事だから、前金だけもらって途中でバックレるやつ多いんだよ。つうかそんなん常識だろ?」

隣で話を聞いていた刀傷の男が刀の刃を見せて怒鳴りつける。

「こっちは命張ってんだ。あんまりバカにすると叩き切るぞ!」

どうも二人はバカが冷やかしに来たと思っているようだった。

これ以上、ここに長居するとヤバイ。本当に斬られかねない。

「すいませんでした。お忙しいところ申し訳ありません」

俺が社畜時代と同じように平謝りすると、親父は腕を組んでうなづく。

「まあなんだな。田舎から出てきても仕事がねぇなんて当たり前だ。給料なんてのは、どっかの職人の丁稚になって5年くらい働いたらもらえるもんだぞ」

「俺も登録保証料工面するためにそこらの店行って刀ちらつかせてたもんだ。そんときに斬られたのがこの腹の傷な。これ6件目でやられた」

刀傷の男が洋服をたくし上げて腹に×印がついた傷跡を見せつけた。心なしかジワリと体液がしみだしているように見える。

そういえば、江戸時代の武士も商人の家回って刀ちらつかせて金の工面してたんだっけ……

「は~さっきのガキといい。ここをガキの遊び場かなんかだと思ってるのかね」

「あ~荷物持ちを探してるって言ってたガキか。依頼料の相場教えたら驚いてたの」

ガキ?

俺のことじゃないよな?

先客がいたのか?

「あの……」

「おい、だから早く出ていけって言ってんだよ!」

「すいませんでした~」

俺は追いたてられるように冒険者ギルドから蹴りだされた。

「はぁ……どないしよ」

俺は店の前に置いてあった白い丸石の上に腰かけると天を仰ぐ。

「ちょっと文化が違いすぎるな~お金どうしよ」

「……ぉもい」

なんか声がしたような?

まあどうでもいいか。

「モンスター倒して皮はいだり、肉売ったりする?いわゆるマタギみたいなの」

「ぅぉもい」

なんか地中から声がしたような?

まあいいか。

「いや、ていうかそういう野蛮なことは修行してもしたくないし、できないし。そもそもなんかモンスターかわいそうっしょ。俺はできないってば(´・ω・`)」

「だから重いんだってば……」

突然座っていた丸石が噴火した。その場にこける俺。

ていうか、丸石じゃなかった。

丸石だと思ってたのは団子のような丸くて白い帽子。

その帽子を被っていたのは全身にレースがついた白いドレスの銀色の髪の毛で背丈の小さい女の子だった。

女の子はずれた帽子を手で整えると、石畳の上に置いてあった銀の錫杖を手に持った。

ぶすっとしている。

謝らなければならないらしい。

「ごめん。石だと思ってた」

「……まあいいけど」

「いやあ本当ごめん」

女の子は俺の体を上から下まで前から後ろまでジロジロ見回す。

怪訝そうな目のまま俺に問いかけた。

「今日の夕食と明日の朝食分くらいだけどいい?」

「へ?」

「あなたのお給料」

女の子はビシッと俺を指さした。

「返事は?」

「あっはい……」

「元気がなくてよろしい」

女の子はついてこいというように錫杖を持っていない手を振ると、颯爽と前を歩きだした。

お仕事くれるということなのだろうか。

「子供のいたずらじゃないといいんだけど」

俺は半信半疑のまま自分の半分の背丈しかない女の子の後ろをついていった。


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