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勇者辺獄編 -勇者は女神にスルガスキームをする-

特殊能力その1:金銭変換

異世界の通貨を魂に変換する。

変換された魂は勇者に3日間ストックされ、女神に渡すまでの間は他の異世界人とトレードすることができる。


特殊能力その2:特殊能力付加

魂を代償に無限に特殊能力を付加することができる。


俺がタブレットで特殊能力を設定すると、マジステルは記載項目を目を輝かせて凝視していた。

「すごい!こんなこと思いついた人いないわよ!」

「魂の元となる通貨は後で特殊能力で稼げばいいんだ。例えば売った道具の値段を2倍にするとかな。一日に道具を何度も売り買いすればすぐに億万長者だ」

「もー御託はいいから、早く実行ボタン押して!」

俺は早速タブレットの真ん中の方で点滅する青いボタンをタッチした。

タブレットに表示された矢印マークは砂時計に変わり、サーバからの応答を待つ。

今か今かと待ち続け、数秒ほど経った後、画面が真っ赤に変化して『エラーです』の文字が出た。

その怪しく光る画面にすっと冷や汗が出た。

マジステルはあちゃーと言うように額に手を当てるとふるふると力なげに首を振った。

「与信枠超えちゃったわね……」

「与信枠ってなんだよ」

「あんたの魂で借りられる能力の最大値」

「どんな能力でもできるんじゃないのかよ」

「あーうーごめんね。あんまりにも利子が高すぎるとすぐに死んでしまうから、うちでは与信枠以上の能力は貸せないようになってるの」

「そんな制限あるなんて聞いてないぞ」

俺が恨みがましそうな目で見つめると、目を逸らしながらマジステルは困った顔をした。

「まあ設定できる可能性がないわけではないんだけど……」

マジステルが言うには、タブレットはあくまで簡易的な与信審査をしているだけで、実際には審査部が特殊能力を付加できるかどうか判断するらしい。

審査部が審査するのは魂のエネルギー量。

魂のエネルギー量とはその人間の能力値を合算したものである。能力値とは現時点での体力、知力、精神力及び行動力に加え、コミュニケーション能力及び道徳心等の雑多なパラメータの合計値である。

日本人の平均的な魂のエネルギー量はおおよそ20万~30万E。ただし、オリンピック選手やノーベル賞学者なんか等は1000万Eらしいから、結構分散が大きいのであまり平均を取る意味はない。

ちなみに俺のエネルギー量は25万Eである。

普通すぎる……

では今回必要な与信枠はいくらかというと

100憶Eである。

マジステル曰く。見たこともない数字だそうだ。

マジステルは憐みの目になって、俺の肩を叩いた。

「ごめんねー。無理っぽいから、特殊能力その1だけにして」

「いや、金銭変換だけとかどうすんだよ」

「じゃあ他にテキトーに考えてよ」

「テキトーって、そんなに思いつかないって」

「ふぅん……あっそう。早くしてね」

マジステルは見下したような目をすると、机に戻って肩肘をついて書類整理を始めた。

それから数十分。

俺が良い特殊能力が思いつかないでウンウンうなっていると、いつまでたっても入力しようとしない俺に痺れをきらしたのか、マジステルは深くため息をつくと、タブレットの印刷ボタンを押した。みんなの魂で購入された新品のプリンタから必要な与信枠の数値と俺のエネルギー量が書かれた紙を引きだすと、さっさと判子を押していた。

「思いつかないみたいだから。これで審査出しとくわね。勇者ひとりひとりに長い時間かけてらんないんで」

「え……でも、通らなかったらどうなる?」

「そりゃ何も能力なしに決まってるじゃない。あんたのせいだから。あたしは知らないわよ」

いや、このまま異世界に放りだされたら確実に死ぬだろう。いくら鍛えたってドラゴンとかオークとか普通の人間に倒せるはずがない。

どうにかしなきゃどうにか……

いや、待てよ。与信審査はあくまで女神が書類でやるんだよな?

つーことは、その女神がウンっていやいいわけだよな?

つまりよ?こうすればいいんじゃないのか。

俺はマジステルの背中にまわりこんで奴のもっていた紙を後ろから奪い取る。

「ちょっと、何すんのよ!」

俺は紙を取り返そうとするマジステルの顔を手で抑えつけながら、スキャナで画像を取り込んで、タブレットのフォトショップを起動した。

印刷されたエネルギー量に0を二つ足して与信枠の数値に白いレイヤーを被せた後、その上から1憶Eの文字を打ち込んだ。

それだけではない。エネルギー量の数値がちょうど合うように体力、知力、精神力の値を変更、ばれないように文字の位置を調整。

ハンコには白いレイヤーをかけた。

印刷ボタンを押した後、プリンタから排出された紙をマジステルに渡す。

この手法は俺が勤務先の日本で学んだ魔法。

その名もスルガスキームである。

「これでお願いします!」

「これって……偽造じゃないの!」

「でもこれなら通るだろ」

「そうだけどさー。バレたらクビになっちゃうわよ。私」

「お前は異世界で俺に死ねっていうのかよ!」

「いや、でも……」

マジステルは迷ってるようだった。

女神がクビになったらどうなるか知らんが、人間に落とされるか、地獄に落とされるか、とにかくろくでもない目に遭うはず。

普通即座に断るはず。

即座に断らなかった理由を俺は見抜いていた。

このスルガスキームがうまくいけば、簡単に魔王を倒せて臨時ボーナスが入るのだ。カップラーメン生活と言っていたここの女神達は明らかに困窮している。臨時ボーナスといえど、喉から手が出るほど欲しいはずだ。

いや、それだけじゃない。俺以外の勇者に同じことをすれば多数の異世界で魔王を倒し続けてボーナスがドンドン入るはずだ。

そう、金づるを目の前に垂らせば、簡単に人は折れる。俺は何度も勤務先でそれを体験してた。

「これが通れば臨時ボーナス入るよな?」

臨時ボーナスという言葉に、この金に意地汚そうな女神はぴくっと目を細めて反応した。

「うわぁ、マジステルさんってダイアモンドの指輪とか似合いそうだなぁ」

「そ、そうかしら?」

「そうそう。後ね。もう年末だし、異世界旅行とかいいんじゃないですか?ドラゴンに乗って遊覧旅行とか楽しそうだなぁ」

「……旅行なんて行ったことない」

「臨時ボーナスがあればできるんじゃない?」

マジステルはこくんとうなづいた。

「後はホラ、この書類を審査部に出せば」

「いや、でもぉ」

「自分への御褒美みたいなもんだと思えばさ。ホラ、毎日カップラーメンとかもういやでしょ?ねぇ?」

マジステルは手をワナワナと震わせながら、口端を上げた。

そのまま形容しがたいアヘ顔へ移行。

マジステルは机の上でその紙にハンコを押すと俺に背中を向けた。

「ぜ、絶対に人に話さないって約束してね!」

そう言うと、マジステルは忽然と消えた。

そして俺が30分程待たされた後、体中が光り輝いて、目の前が真っ白になった。

気がつくと目の前には中世風の街の広場が広がっていた。

俺はぐっと拳を握りしめると、新たな異世界の生活で無双する決意をしたのだった。


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