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勇者金融屋編 -金で戦闘力を買う-

イスカの長剣とアーベルの三叉槍がかち合う。

ギンッと耳をつんざく金属音が鳴り響いた。

しかしすぐに目にもとまらぬ速さでアーベルの三叉槍の右側の刃がイスカの脇腹を切り裂いた。

イスカは斬られた右の脇腹を抑えながら、後ろ飛びでアーベルとの距離を取る。

「兄貴が斬られただって?」

「兄貴が負傷したことなんて一度もみたことねぇぞ」

3人の子分達に動揺の色が見られた。

その内、子分の1人が包帯を持ってイスカに駆け寄るが、イスカは

「うるせぇ!」

と怒鳴り声を上げて子分の包帯を振り払った。

イスカは信じられないというように目を見開いてアーベルの方を見た。

「見えなかった……」

アーベルは不適な笑みを見せる。

イスカは舌打ちをすると、剣を木の床に突き刺して乱雑に積まれた魔法書を手に取る。もちろん、これはノエルの店で買った品だ。

「大地の精霊よ。この物に楔を打ち付けよ!」

バキッッという音とともにアーベルの足元の床板がはじけ飛び、アーベルのくるぶしから先が床の下にめり込んだ。

「重力魔法だ。意味は解るな?」

「さすが兄貴、抜け目ねぇ!」

重力魔法とは対象に重力を浴びせて、速度の低下を行う魔法である。

イスカが放った魔法は対象に対して速度にして50%のデバフをかけるものであった。例えるなら、時速20kmで走っていた原動機付自転車が、時速10kmの人間の足の速さになるようなものである。

その速度差は歴然だった。

イスカはもう一度アーベルに駆け寄ると先ほどより明らかに精彩をかけた動きのアーベルに次々に斬撃を加える。

アーベルはその動きを間一髪ではじいている……ように一見すると見えた。

イスカは目を細めると、アーベルの装備に着目する。アーベルは両腕の袖部分がない胸当てを身に付けていた。腹は丸出しであるし、両手は剥き出しである。それに銀の兜と奇妙な文様の入った膝当てを付け、靴は奇妙な木製の代物だった。

イスカは随分と軽装だなと思った。

大方の冒険者は大抵全身鎧を身にまとっている。当然その方が生存率が高いからだ。恰好がつかないからと、防御力を軽視して死んでいく冒険者は多かった。

イスカは一撃さえ決まればこちらの勝利だと思った。

ただ、イスカにも懸念があった。

イスカは突然襲撃を受けたわけであり、当然全身鎧など着ておらず、鎖帷子を着用していた程度であった。それもアーベルの三叉槍の攻撃力には負けるのか、あっさり鎖帷子を切り裂かれて、脇腹に負傷を負った。

そうなると、イスカがアーベルに致命傷を負わせたとして、アーベルがその一瞬を狙ってイスカにも致命傷を負わせることができるわけである。

つまり相打ちが可能なのだ。

イスカはさすが銀等級であり、慎重に事を運んだ。

「おめぇら! 突っ立ってねぇでこいつを囲め!」

そう、状況を4vs1にしたのである。

これなら、4人の内誰かが、アーベルに致命傷を負わせて即時にその一人が離脱して他の3人がリンチすれば終わりである。

イスカは油断など決してしない男であった。

アーベルは4人に取り囲まれると、動きを止めて、すっと地面に座り込んだ。

「なんだ降参ってことか?」

「どこからでもかかってきていいぞ」

「なんだぁ!? 舐めやがって!」

ふとイスカは罠の可能性が過ぎったが、静止の声を叫ぶ間もなく、3人の子分達は得物を片手に一斉にとびかかった。

アーベルはふぅと大きく息を吹くと、立ちあがり、仁王立ちになった。

当然、アーベルの腕、足、腹に子分達の斬撃を受ける。

だが、その刃はアーベルの肉片を飛び散らせることはかなわなかった。

それどころか、子分達の得物が次々に折れたのである。

驚く間もなく、子分達の腹に三叉槍が順々と突き刺さった。

アーベルが三叉槍を大回転させる。

バーベキューの肉のように串刺しにされた子分達はずるりという音を立てて3つの三叉槍の刃から抜け落ち、地面にドカドカと落ちていった。

「なっ……その胸当てまさかマジックバリア付きか!?」

「ご名答。”水霊神の胸当て”といってな。全身に受けたダメージを30回まで無効にできる」

イスカは”水霊神の胸当て”と聞いて驚いた。50万シーゲルの代物である。守銭奴で有名な教会の神父が持っていたはずだが、買う奴がいるとは思わなかった。

この品、一見有効そうに見えるが、つまりダメージ30回で無効になる使い捨ての武具なわけで、それに50万シーゲルも出す馬鹿がいるとは誰も思わなかった。

というか、今までの戦闘ですでに半分くらい使ってる。

「ちっ……驚かされたが、タネが知れたらなんてことねぇ。ここから威力の小さい魔法を連発すればマジックバリアすぐ使い切るぜ!」

イスカは魔法書をすぐに手に取った。

アーベルはチッチッチッと指を振る。

「攻撃魔法は止めた方がいい」

「なん……だと……? まさか!」

「そう。この兜には対攻撃魔法のリフレクションがかかってる。お前の攻撃魔法は全て跳ね返されるぞ」

「あっ! その兜は”海王の兜” 3代続く地方役人のリリューシュが奥さんとの離婚慰謝料の捻出のために32万5252シーゲルで家の前で売りに出してた家宝か!」

「そうだ。さらに言うと、この靴には見覚えがないか?」

イスカはその時急に思いだした。

「あっ! その靴は”疾風のシューズ” 一度に3回連続攻撃ができる木靴! でも耐久性に問題があるからすぐ壊れると有名な靴職人カーメルおばちゃんの欠陥アイデア商品! お値段21万1323シーゲル!」

「次はこの膝あてだ」

「あっ! その膝あては”百達のニーパッド” 攻撃の命中率を90%にできるアクセサリー! しかし常時防御力に対して80%のデバフがかかると知られたら売れ行きが一気に悪くなった発明家リーのゴミ発明! お値段15万3338シーゲル!」

「まだあるぜ、次はこのペンダントだ」

「あっ! そのペンダントは……」


そんなこんなを続けること全20品目。お値段合計206万5432シーゲル。

アーベルの攻撃力、防御力、素早さ、回避率、命中率、魔法防御力、魔法回避率、運の良さ、攻撃回数は金等級のさらに上のプラチナ級にまでなっていた。

「これでもやるかい?」

「くっ、くっそぉおおおおお!」

イスカは勝ち目等ないと悟りながらも銀等級の矜持として剣を大振りに振り被ってアーベルへと走りだした。

そしてアーベルは三叉槍を上段から下段に振るい、なんだかよくわかんないビームが出た。イスカの体が吹っ飛ばされ、部屋の壁に打ちつけられた。

「か、勝てねぇ……参りました……がくっ」

イスカは負けを認めた。

そして金庫から今まで盗賊稼業で稼いだ金銭を取りだし、金田達に支払った。

回復ポーションをがぶ飲みさせられて回復した子分達もイスカの命令で代金を払わせられた。

こうして銀等級のイスカ一味からの取り立ては完了したのである。


「なんなんじゃこの勝ち方はアリなのけ……?」

他の債務者からの取り立ての道中、ノエルは虚脱したように耳をぐったりと下に向けてため息をついた。

「アリに決まってるだろ。”レアアイテム”を装備させまくって勝つ。むしろチートとか使ってないし、正攻法だ」

「でもこれだとアーベル雇う意味ないんじゃないけ?」

「いや、俺は痛いの嫌だから」

「うわぁ、外道……」

「戦闘力は金で買うものだよ」

銀等級のイスカが金田達に代金を支払ったという噂は夜明けを待たずに小さな町に知れ渡った。

銀等級に勝ったという事実は重く、冒険者をビビらせた。

取り立てに必要なのは結局のところ、債権者に対する畏怖、要は恐怖なのである。取り立てを断ったらどうなるかわからないという事実は重く、その日の内に金田達は全代金の回収に成功した。

その日の売り上げは一日で2095万1908シーゲルにも上ったのであった。


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