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勇者金融屋編 -これが異世界での取り立て方-

 二つの月が重なる夜。

 銀等級の冒険者であるイスカはノエルから”借りた”きらびやかな刀剣を部屋の真ん中に起き、昼間狩った暴れ牛鳥のもも肉を肴に一杯やっていた。

その周りには、3人の赤等級の冒険者がおり、もちろん彼らもノエルから”借りた”弓やら魔法書やらを部屋の隅に置いていた。

彼らは昼間、ノエルの頭に剣を打ちおろした者たちであった。

「兄貴ィイイイイイ! マジ今日は運が良かったっすね!」

「かったりぃダンジョン探索もしないでバカな狐娘から、マジで高そうな武具を手に入れたからな」

「毎日毎日あんなしょっぱい宝箱しかないダンジョン探索なんてやってらんねぇっすよ」

「おめーら普段ダンジョンなんて行かないで盗賊ばっかやってるじゃねぇかよ」

「ばれましたか。ヘヘヘ。モンスター狩りなんて実入りの少ないもん倒してらんねーっす」

そう、この世界の冒険者は盗賊も兼ねているのである。

ダンジョン探索で宝箱が見つかる確率等たかが知れている。そうなると、モンスターによる素材集めが主になってしまうが、それでは普通に狩人でもやった方がなんぼか実入りがましである。

彼らが冒険者をやってるのは、盗賊稼業のため……正確には、クランを組んで別の街にいる盗賊討伐クエストを受けた冒険者から自分達を守るためである。

クランを組んでいれば、別の街から冒険者が討伐しにきても、多勢に無勢で追い返せる。その代わり自分達の街で盗賊が発生したら彼らが出動して追い返すわけである。ダンジョン探索等はあくまで盗賊稼業をやっていないときのついでの仕事であって主たる仕事ではないのだ。

これは別にこのクランだけではない。どこの町の冒険者も多かれ少なかれ盗賊稼業をなりわいにしている。

すなわち、世界中に散らばった数十、数百の冒険者ギルドに所属する冒険者達が互いに強盗したり、討伐されたり、果ては冒険者ギルドごとつぶされたりといったことが常時発生していた。この百年ほどこの異世界で戦争がなかった理由は、結局のところ冒険者ギルドが小規模な小競り合いを繰り返して、君主たちは傭兵より強力な軍事力を持つ冒険者ギルドに立ち向かうことができず、大規模な軍事行動ができなかったということに尽きる。

平和といえば平和。しかし、治安は悪化の一途を辿り、村人達は自分達を守ると称して略奪、暴行を続ける冒険者達の横暴に地面に目を伏して見過ごすしかなかったのである。

「おぅ! とりあえずこの酒飲み終わったら、あの魔法店の店主の娘さん誘拐しにいくか」

「おっいいっすねぇ、俺も狙ってたんすよ!」

「グヘヘ……ついでに中の魔法書全部かっさらって火ぃつけて爺さんごと燃やしちゃいましょうぜ」

「そうだな。証拠を残すのはまずいしな」

このクランは銀等級の冒険者を有するこの街で一番の実力者であり、彼らに反抗できるものなどいなかった。

 そして大柄な、やけにデブった銀等級のイスカは座の真ん中に置いてあった刀を手に取ると重い腰を上げた。

「それじゃいっちょ仕事に行くとするか」


「待てぃ!」


そのとき、石畳を敷き詰められた大きな館に一人の男の声が響き渡った。


「な、何者だ」

バタンという音とともに屋敷の扉が開かれる。

そこには3人の姿がろうそくの明かりで写しだされた。


スーツ姿の男

まんまる帽子を被った僧侶風の少女

巫女服姿の狐娘


3人が男達の前に立ちふさがったのである。


「てめぇら何者だ!」

イスカは大声を張り上げる。


そこでツルッパゲの冒険者が狐娘の姿を見て、何かに気づいたように銀等級のイスカの耳に口を当てた。

「ふむ? ほぅほぅ……なるほど、なるほど、よく見りゃ昼間のあの狐娘か。するてぇとなんだ。武具を取り返しに来たか。それとも金か?」

「おいおい夕方言っただろう、もう俺達はお前に金を返す気ねぇってな」

「そうだ。帰れ帰れ!」

狐娘のノエルがずいっと一人前に出る。

「そんなことを言っていいのかのぉ」

「ナニィ?」

「ここにおわす金田さんは超一級の取り立て人じゃ、どうなっても知らんのじゃぞ」

フッフッフッと口元に手を当て、不気味な笑いを浮かべるノエル。

ノエルは大見得を切って相手を威圧したと思って軽くガッツポーズした。


だが、男達はビビらない。


所詮は優男と二人の少女なのだ。常に切った張ったで生きる冒険者稼業の連中にとっては、子供のお遊戯にしか見えなかった。

男達はオモムロに各々の武器を取った。そして血走った目を向ける。

「ウォオオオオオ、こっちはいい気分で酔っ払ってたのに邪魔しやがってよぉおおおおお! てめぇら! 御客人をぶっ殺す準備はいいか!」

「「「オゥ!」」」

野太い声を上げて臨戦態勢を取る冒険者たち。

ノエルはその姿を見て、めっちゃびびったのか長い耳を手で伏せてブルブル震えていた。

対して、マオと金田は飄々とした様子。

マオは興味なさそうに魔導書を読んでいるし、金田は自信満々に腕を組んで立っていた。

その姿を見てノエルは金田に羨望のまなざしを向けた。

「はわぁ、ご主人様、やはり策があるのじゃな!」

「もちろんだ」

ノエルはワクワクしながら、金田の一挙手一投足をまじまじと凝視する。

ノエルの心には、物凄い力で、冒険者たちをやっつける金田の姿のが映っていた。

おそらく女神にスゴイ特殊能力を授かったのだろうと。それをここで使うのだとノエルは思った。

そして金田はゆっくりと体を半身の姿勢に移して、扉に向かって片手を大きく広げた。

「先生! やっちゃってください!」

「え?」

きょとんとしたノエルの声に重なるように、三叉槍を肩に掲げた細身の男が名乗りを上げる。

「白等級冒険者アーベル参上!」

事態をうまくのみこめないノエルは慌てて金田に質問をした。

「ちょっと待つのじゃ。これは一体どういう……お主がなんとかしてあいつらからお金を取り立てるんじゃないのかえ?」

「え、やだよ。あんな奴ら俺が倒せるわけないもの。はい。頑張ってください先生!」

「おうよ!」

ノエルは金田の肩をポンポンと叩いて静止を促した。

「いやいやいや待つのじゃ。お主には女神から授かった特殊能力があろう?」

「ある」

「じゃあそれを使ってあいつらをコテンパンにやっつけるんじゃないかえ?」

「いや、俺の能力は特殊な奴で使うと利子が増えるんだよ。だからできる限り使いたくないわけ」

「で?」

「だから、用心棒の先生を雇って冒険者ギルドの頭つぶせば、みんな怖がってお金返してくれるかと」

ノエルは目がグルグル回って壁にごつんと頭を当てた。

そしてすぐに復帰する。

「ハァ!? あいつは白等級じゃぞ! 最下位じゃ最下位! そして敵は上から2番目の銀等級! しかも他の敵3人は上から4番目の赤等級! どう考えても勝ち目ないじゃろ! あーもうバカ! バカバカバカ!」

「人間をランクで見るのよくないと思う」

「そうそう、嬢ちゃん。俺はギルドに入ったばかりだから白等級なだけさ。地元じゃ結構やれてたんだぜ?」

アーベルはノエルにウィンクする。

だが、ノエルはアーベルの実力について非常に疑問を持っているのか、じとーっと半目で半信半疑な顔つきをしていた。

「つまりこういうことなのじゃ? ご主人様は銀等級なんて軽くひねりつぶせるほどの隠れた実力者のアーベル君を見つけたから、彼に冒険者をやっつけてお金を取り立ててもらおうと? いや、まあご主人様の人を見る目を疑うわけではないのじゃが……大丈夫じゃろか」

その言葉を聞いて金田は軽く首を傾げた。

「いや、アーベルさんはちょうど帰りが同じ道だったからついでに頼んだだけだよ? 彼の実力なんて何も知らないぞ?」

ノエルは金田の襟首をつかんで揺らしまくった。

「わっちらの命がかかってるのに、何でそんなに適当な人選してるんじゃあああああああああああああああ」


ウォオオオオオオオオオオ


イスカの雄たけびが部屋の中にこだまする。

冒険者4人が一斉にアーベルへととびかかっていった。

アーベルは不適な笑みを浮かべると、すっと槍を下段に構え、まっすぐ前へと歩みを進めた。

「推して参る」

そうして1匹の狼と4匹の虎が互いに牙を交えたのだった。

ノエルは”もうだめじゃ”と思い、両手で目を覆った。

その目を金田は手で払いのける。

「バッカヤロ、アーベルさんの一世一代の大舞台だぜ、見てみな。それによ。人選は時間がなくて適当にやっちまったが、”他は”ちゃんと選りすぐりのもんを見つけたんだよ」

「他……?」

「冒険者のステータスの差が、戦力の決定的差ではないということを教えてやる」

それってガン○ムとかなんとかノエルが思う間に信じられない戦闘がノエルの目の前で繰り広げられたのだった。

(´・ω・`)中世は傭兵に頼ってたので、王様より町の方が強い軍隊もってたとかザラだったらしいです。常備軍はもう少し後の時代。

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