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プロローグ 借金は辛いよ

(´・ω・`)貸した金返せよ



ある工事現場の前でスーツ姿の男が腕時計を見て誰かを待ってるようだった。


(くそっ……いつまで待たせんだあの野郎)


男は手に握っていたストロングゼロをクビリと飲むと背中にあった矢印板に腰かけた。


男は借金を抱えていた。その借金は失踪した叔父の連帯保証を引き受けたからだった。


(1憶円のローンの借り入れに保証人が必要だって言ってたが、騙された……いや、俺だって普通の奴なら騙されない。でもよ。大学の奨学金の保証人になってくれた叔父がまさか借金残して雲隠れするとは思えないだろ。そんなん断れるわけないじゃん)


男はすでに別の件で1年前に借金の自己破産をしていた。


自己破産は7年経たないと免責を受けられない。


つまり、1憶円のローンを6年間は返し続けなければならない。


(いや、そんなことはどうだっていいんだ。6年間我慢してりゃいい。でもそのローンの借り入れ先が筋物だったのが問題だ。

そいつら、借金の方に”死なない程度に臓器や血を売る”そうだ。つまり腎臓を半分取るとか、毎日売血するとか、右目の網膜をはぎ取るとかな)


ストロングゼロがグシャリと潰され、男は缶を通りの花壇の上に投げ捨てた。


「誰がやるかそんなもん。」


だが、捨てる神あれば拾う神あり。


救い主が現れた。そいつは突然ツイッターのDMをよこしてきたんだが、なんでも借金に苦しむ人を救うNGOらしく、自己破産の特別適用で1憶円の借金がチャラになる方法があるんだそうだ。もちろん怪しかったし、叔父の件もあったので、最初はそのDMをいたずらだと思って、無視していたのだが、なんと今月分の利息がそいつ名義で支払われていたのだ。


送られてきた領収書の名義は”異世界互助団体”。


で、DMで急いでそいつに返事したら、ここに呼び出されたってわけだ。


「あなたが”金田満”さんですかぁ?」


突然、後ろから声がした。


声が聞こえた方に振り向くと、三角帽子に短いスカートを履いて上半身は事務員の恰好をした女が名刺を差し出していた。








「よろしくお願いしますぅ。異世界互助団体のマジステル茉莉といいます~」


名前は外人だが、風貌は東洋系だ。切れ長の目に小ぶりな胸で背丈は160cmくらいか。なんだか終始ニコニコしていてエクボが似合う女性だった。


「NGOというから、もう少し真面目な団体だと思ったが……なんというか、その帽子」


「これですか?ああ、すいません。”こっち”の世界だと制服じゃないんですけど、”あっち”だとこれが制服なんですよ。奇妙ですか?ごめんなさ~い。気を悪くしないでね?」


彼女は俺の手をぎゅっと握るとその小ぶりな胸を手に押しあてた。


(ああ、いかんいかん。借金を棒引きにしてくれる人になんつー失礼なことを、初対面の人に容貌の話はしちゃだめだろう)


「すいません」


「いえ、いいんですよぅ。別にどうでも。慣れてますからぁ。こっちの世界だとあなたで10人目ですし~」


「こっちの世界というと、日本でということですか?」


「ん~日本以外だと今のところないですねぇ。特に日本人の方って不満持ってる人多いですからね。だから、あっちの世界に連れていきやす……ああいけないいけない。で、要件ですけど、ちょっとこの書類にサインいただけますか?」


マジステルはさらに胸を手におしつけてきた。


俺は顔を赤く染めると彼女の顔から目をそらす。


マジステルは胸を押し付けながら、ポケットの中から4つ折りにされた書類とペンを俺に差し出す。


「お願いします~サイン~」


「この書類なんですか?」


「ん~簡単に言うとですねぇ。借金の棒引きをする代わりにこっちの世界でお手伝いをやってくださいという頼み事です。ただの頼み事ですので、もちろんこっちの世界に来てもやらなくてもいいですよ?千客万来!他の方も大体こっちの世界に来ると喜んでます!


はい。じゃあ、早くここにサインお願いします」


「え、いや、叔父のこともあったし、こういう書類に簡単にサインするのはまずいと思うので、ちゃんと中身読みますよ」


(何々、第一条 乙が甲に能力を付与した際は、甲が能力により受けるべき利益の額に相当する分の魂を乙に対して譲渡されるものとする。第二条 甲が討伐した魂は政令で定められた範囲において乙に対して、当然に譲渡されるものとする……んー?)


難解な法律用語の解読に時間を取られ、中々文章を理解できなかった。


マジステルはそれを見て、一瞬険しそうな表情を見せると、すごい速さで俺にペンを握らせ、胸全体を押し付けるようにして耳のそばで声を出した。


「お願いですから早くサイン~。ね?私も他に仕事があるんで早くしてほしいんですよ~」


「むむむ、でもちゃんと読まないと」


「い・け・ず・じゃあしょうがないにゃあ。


サインしたらキスしてあげてもいいんですよ?これっきりですからね」


「ほ、ほんとぉ?」


「ほんとぉ」


童貞生活20余年の俺にはこの言葉が致命傷になった。


気づいたらなんか下の方の空白に俺の名前が書かれていた。


「はい。ありがとうございます。ではでは~」


マジステルはくるっと背中を向いて走りだし、俺がいる位置から逃げるように距離を取った。


「え?ちょっとどこ行くんですか?キスは???」




彼女は振り向いた。


しかし、振り向いた彼女は今までのそれではなかった。切れ長の瞳を三白眼にして口端を上げて、下卑たようなそしてゲスのような笑いを浮かべて、彼女はこう言い放った。


「はい。異世界転生一人前イッチョ上がり」




突然俺の頭の上から鉄骨が降ってきて、頭の頂点から顎をつき抜けて内蔵を貫き、そのまま左腿から鉄骨の先が貫通した。


脳障害により痙攣する俺の目の前までマジステルはやってくると、クスクス笑いながら俺にキスをして

ぺっとつばを地面に吐き捨てた。


「気持ち悪!契約ノルマのためとはいえ、あ~これだから女神はやってらんないわ~」


俺の意識はそこで途切れた。


そして、目を覚ましたとき、事務机越しに作業するあの女がもう一度姿を現していた。



(´・ω・`)はした金なんだろう?

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