姉がパンダになった件
時は西暦2180年。
AIに人権が与えられ、FDWと名付けられた者達が闊歩する時代。
まあ、そんな事は置いといて……
この時代、当たり前のように人々に利用されている物がある。
それはナノマシン。
医療用は勿論の事、娯楽や様々な通信機器にも対応し、もはやナノマシンを体内に所持する事は、リア充を見て舌打ちするくらいに当たり前の事なのである!
さて、そんな時代……とんでもない大事件が起きた。
どこぞの国で研究中だったナノマシンが流出し、勝手に増殖しまくって世界中にばら撒かれてしまったのだ。
勿論、このような場合に対応するシステムは存在する。ナノマシンといっても万能ではない。暴走する可能性は常にある。その為、強制的に機能を停止させるプログラムが組まれている筈なのだが……流出したナノマシンにはそのプログラム自体がインストールされていなかった!
その理由として、研究者の代表は以下のようなコメントを残している。
『スマン、忘れてた』
記者会見でフルボッコにされた事は言うまでもないが、起きてしまった事は仕方ない。
地球連邦政府はすぐさま、問題のナノマシンを殲滅するべく迅速な行動に出た。しかし不幸にもナノマシンの影響を受けてしまった人々が。
俺の姉もその一人。ナノマシンの影響で、俺の姉は……
パンダになってしまった。
※
「香君、朝ご飯だよん」
とある朝、俺の頬をつつくモフモフな感触。
うっすらと目を開けると、そこには一匹のパンダが。
「あぁ……おはよう、姉さん……そしてあと五時間、寝かせておくれ……」
細やかな願いを訴える俺に対して、姉は容赦なく俺の腹の上へと乗ってくる!
ぐぁあぁぁ! 重い! 姉ちゃん重い!
「失礼な弟め。姉さんの体重はたった九十キロなり!」
十分重いわ! パンダ姉!
「ぅ……香君酷い……こんなパンダちゃんになってしまったお姉ちゃんに向かって……そんな事を言うのね」
しまった、不謹慎かつ、心を抉る発言をしてしまったようだ。
確かに姉は好きでパンダになったわけではない。流出したナノマシンの影響で無理やりに変身させられてしまったのだ。
そう、ナノマシンの影響で世界中の人々の一部は人間以外に変身してしまったのだ。
そのほとんどは動物……。中には恐竜に変身してしまった人も居るそうだ。
「姉ちゃん……ごめんて。とりあえず俺の腹の上からゲッタウェイしておくれ」
「むふぅ、よかろう」
九十キロ台の体重にも関わらず、姉の動きは中々にいい。
それもその筈、姉は元々体操の選手で、なんならパンダに変身した後でもバク転をやってみせた。
そんな姉は現在大学二年生。ちなみに俺は高校二年。
本日は休日。別に朝六時に起きる必要も無いのだが、姉の『寝坊は人生の半分損する』という名言の元、俺達姉弟はこれまでやってきた。ちなみに二人暮らしだ。両親は実家のド田舎でのんびりしている。
「本日の朝ご飯は……香君の大好きなTKGだよ」
「わぁぃ」
無表情で喜びを表現しつつ、ダイニングで席に着く俺。
姉は俺へと味噌汁を注いでくれて、ついでに冷蔵庫から野菜ジュースも取ってくれる。
「はい、たんとお食べ」
「いただきます」
TKGを数秒でかき込み、味噌汁をがぶ飲み。
そのまま野菜ジュースを一瞬で飲み干し、三分以内で朝食を終える。
「香君……もっとゆっくり食べなさい。お姉ちゃんのように」
「はいはい」
「はい、は一回」
「肺」
「それは内臓だよ。というかベタな会話は置いといて……今日はちょっと買い物に付き合ってくれる? 香君」
別にいいけども。
何を買うん?
「香君の大好きな……おでんの材料なのだよ」
すぐに行くぞ。姉よ、用意せよ。
「おちつけぃ。まだスーパーも開いてないし、洗濯と掃除してからね」
ふむぅ。ならば掃除は俺が受け持とう。
家中ピッカピカにしてやるわ!
「頼もしいねぇ。お姉ちゃんの毛とか落ちてるだろうから……念入りにね」
パンダの毛か……。
しかし問題はない。親父に頼み込んで、吸引力の変わらない十万円単位の掃除機を買ってもらったのだ。パンダの毛だろうが何だろうが吸い取ってくれる!
※
そんなわけで家中の掃除を開始!
ちなみに俺は掃除が好きだったりする。もう姑が悶絶する程綺麗にしてくれる。姑なんぞいないが。
「香君ー、たすけてぇー」
俺が張り切って掃除を始めようとした時、姉からのSOSが。
なんだなんだ、一体どうした……
「捕まっちゃったよ……」
「……あ?」
姉の腰に抱き着く子供が一人。
白いワンピースに腰までありそうな長い髪の女の子。
小学生低学年くらいだろうか。
「姉ちゃん……その子誰」
「私が聞きたいよ。この辺りの子では無いねぇ」
姉は女の子の頭をモフモフパンダ手で撫でつつ、その子へと事情聴取を開始する。
「君は何処からきたのかな」
「……ももるふ……」
ふむ、いきなり謎のキーワードが出てきたぞ。
なんだ、モモルフて。
「むむ、聞いたことがあるよ。確か同作家の色々な小説に度々出てくる乳牛の名前だね」
変な宣伝やめい。
「でもそれだけじゃあ分かんないねぇ。お嬢ちゃん、お母さんは?」
「お母さん……」
ぎゅっと我が姉を母の代わりだと言わんばかりに抱きしめる女の子。
随分気に入られたな、姉よ。まあパンダは万国共通で可愛い動物だしな。
野生のパンダはビックリするほど狂暴だが。
「うーん、どうしようか……とりあえず香君。掃除はいいから、この子の面倒ちょっと見ててくれる? 私、ちょっと洗濯物だけ干してくるよ」
「えっ、面倒見るって……何をすればいいのか」
「テキトーに遊んであげればいいよ。ゲームでもしたら?」
ふむぅ。
そのまま姉は女の子を置いて外へと洗濯物を干しに。
女の子はモフモフパンダが居なくなり寂しそうだ。しかしゲームか……よし、ならば……
「そこの君、名はなんと申す?」
「……ぱんだ」
嘘つけぃ。真実はいつも一つ。
「紗弥……」
「ふむ、紗弥ちゃんだな。何か知ってるゲームはあるか?」
「……バイオ〇ザード7……」
ぎゃー! なんかいきなりホラーでガチなゲーム出てきた!
っていうか、この小説の時代設定、西暦2180年だから!
「じゃあ……ファイナル〇ァンタジーシリーズ」
おおぅ、流石だぜ……まさか2180年になっても健在とは。
しかしテレビゲームはウチには無い。もっとこう……トランプ的なゲームは如何か。
「……キャット&〇ョコレート……」
そうきたか。
【注意:キャット&〇ョコレートとは、カードゲームの一種です。ひらめきとアドリブで言い訳を考える? 的なゲームです。興味がある方は調べてみてね! 結構盛り上がります】
しかし当然ながらそんなカードゲームは家には無い。
仕方ない、アッチ向いてホイでもするか。
「ないわー」
「うるさいうるさい。さあ、かかってこい、こむすめ」
最初はグー!
じゃんけん……グー!
「ちょき」
よし、俺の勝ちだ! アッチむいて……ホイ!
「ふんぅ!」
妙な掛け声と共に、俺が指示した方を見る小娘。
くふふ、所詮は子供。我の相手ではないな。
「……うぅぅぅぅぅ」
あぁ! やばい! なんか泣きそうな顔してる!
泣くでない! 姉ちゃんになんて言われるか……
「香君? 何泣かしてるの?」
「うほぅ! 姉ちゃん……」
パンダ姉が洗濯物を干して戻ってくると、紗弥ちゃんは一目散に姉の腹へと抱き着いた!
いいなぁ……俺も密かに、あのモフモフを全身で味わってみたいのだが。
しかしこの歳で姉に抱き着いた日には……ザ・シスコンと言われざるを得ない。
「よちよち、酷いお兄ちゃんですねー。というわけで香君、とりあえず警察に行こう」
え、なんで警察?
まさか、少女を泣かせた罪で自首しろということか!
「違う違う、この子を保護してもらわないと。このまま報告義務を怠ると……下手したら私達、誘拐犯よ」
な、なんだって……
それは困る、非常に困る。逮捕されたら……おでんが食えない!
「香君は目先の事しか考えてないねぇ。じゃあ近くの交番に相談しにいこう。それからスーパーに寄って……」
「うむぅ、了解だ。パンダ姉ちゃん」
※
そんなこんなで交番に到着。
しかし警察官らしき姿が無いな。留守かしら。
「むむ、何の用だね。君達ぃ」
交番の入り口付近で様子を伺っていると、後方から声が!
振り返るとそこには一匹のマルチーズ!
なんて可愛い。警察官の制服を身に着けている。
まさかこのマルチーズが……ここのおまわりさん?
「いかにも。それで……どうしたんだね?」
姉ちゃんはマルチーズお巡りさんの前にしゃがみ込み、事情を説明。
紗弥ちゃんが迷子なので、とりあえず捜索願などが出されていないかなどを確認して欲しいと要請する。
「ふむ、しばし待たれよ。………無いな。その子の捜索願はまだ出されていないぞよ」
おい、何故分かる。
「フフゥ、私はFDWだからな。そんな事を調べるなんぞ造作もない」
このマルチーズ……AIだったのか。
てっきり姉ちゃんと同じくナノマシンで変身させられたのかと……。
「じゃぁ……どうしようかねぇ。お巡りさん、この子とりあえず私の家で預かるって事でいいですか?」
姉ちゃんの提案に即頷く犬のお巡りさん。
そんな簡単に決めちゃっていいのか?
「署には連絡しておくので。とりあえず君んとこの住所と電話番号……それと身分証明を頼む」
姉ちゃんは犬のお巡りさんに手を翳し、ナノマシンで情報を開示。
むむ、そういえば……姉ちゃんの身分証明の顔写真って人間の頃のだよな。
「ふむふむ。中々の美人なり」
やっぱり!
マルチーズの尻尾が激しく揺れている!
「じゃあよろしくお願いします。というわけで香君に紗弥ちゃん、スーパーへGOだ」
そのまま犬のお巡りさんと別れ、俺達はスーパーへと向かう。
どうでもいいけど……マルチーズ……撫でたかった……。
※
近所のスーパーまで徒歩で十分程。
紗弥ちゃんは相も変わらず姉ちゃんと手を繋いでおり、俺はなんとなく寂しい気分に……。
あぁ……俺の姉ちゃんが取られた……。
いやいや、子供に何をヤキモチ焼いてるんだ、俺は。
「ぱんださん……ぱんださん……」
すると紗弥ちゃんはスーパーが見えてくると、クイクイっと姉ちゃんの手を引っ張る。
むむ、どうしたんだ。トイレか?
「怖いのが居る……」
「ん? 怖いの?」
俺と姉ちゃんは同時にスーパーの入り口を凝視。
するとそこには……十三日の金曜日あたりに出てくる怪人のマスクを被った男が、セールの看板を持って立っていた!
「むむ、ハロウィンのイベントかしら。微妙に時期早いような……」
ふむ。確かにハロウィンって大体十月の半ば頃からイベント始まるよな。
「お、香君、仮装してる人は二割引きらしいよ。お得だねぇ」
「そうだな……しかし仮装なんて……」
ジ……っと姉を見つめる俺。
いや待て、パンダじゃハロウィンの仮装とは言えんし、そもそも姉ちゃんがこの姿をしているのは不幸な事故が原因なのだ。それを利用するなんて不謹慎にも程が……
「香君、どっかに血糊とか無い?! 口から垂らしてるように見せれば……」
「怖すぎるわ! っていうか姉ちゃん! そこまで二割引きしてほしいか」
「当たり前じゃない、仮装するだけで二割引きなんて……お得にも程がある!」
姉ちゃんはやる気満々だ!
しかし口から血を垂らす演出なんてしたら……紗弥ちゃん泣くぞ。
ここはもっと穏便に……
「ぁ、姉ちゃん、あれなんてどう?」
俺が指さすのは、スーパーの向かいにある子供服専門店。
「むむ、紗弥ちゃんに仮装してもらうって事?」
「うむ。俺にいい考えがある」
※
そんなこんなで子供服専門店『シマウマ』に入店する俺達。
紗弥ちゃんは何処かウキウキしている……ようにも見える。
ふふふ、どれ、ここは俺の奢りだ!
「というわけで紗弥ちゃん。あれを着るのだ」
俺が指さすのはマネキンが着ている服。
魔法使いが着てそうなマント風の服だ!
「……ダサい」
「にゃんだと」
うぐぐ、このお子様め。
俺のセンスが気に食わんと言うのか。
「まあまあ香君。ちょっとした物でも仮装判定されるから。三角帽子被るとかでもいいんじゃない?」
「……ヤダ……」
あぁ、姉ちゃんがちょっと落ち込んでる。
パンダの顔色など最初は見分けが付かなかったが、今の俺には分かる。
姉ちゃんが悲しんでいる事が!
これではアカン。
もっと紗弥ちゃんが気に入りつつ、ハロウィンっぽい服を……
「ぁ、これとかどうだ。紗弥ちゃん」
俺が次に提示したのは、紅いワンピース。
今紗弥ちゃんが着ている白いワンピースの、ちょうど紅バージョンだ!
「……んぅー……」
渋々頷く紗弥ちゃん。
むぅ、これでも若干お気に召してないようだが……
「なら香君。そのワンピースの胸元にこれを付けよう」
姉はカボチャの形をしたバッジを提示!
むむ、一気にハロウィンっぽくなった気がする! たぶん!
「……! かぼちゃ……可愛い……」
なんと。
カボチャが紗弥ちゃんの心に響いたようだ!
よし、ならばさっそく試着するのだ!
そのまま姉と紗弥ちゃんは試着室に。
といっても姉はデカすぎて入れない為、カーテン開けっぱにしつつ姉自体が壁となり着替えを手伝っている。
(姉ちゃん……もとに戻れるのかな……)
現在、変身してしまった人間達を元に戻す為、日本の大企業も動いていた。
特に『アナニエル』という企業は、ナノマシンの分野では世界で三本指に入る。
しかし変身してしまった人間は、恐らく完全に元には戻れないだろう、というのが専門家の意見。
どうしても人間の姿に戻りたいのであれば、脳を換装して義体に入るという手もあるが……そんなの、金持ちにしか出来ない。
(いや、でも……完全にナノマシンを流出させた研究者達の責任なんだし……なにかしら保障とか……)
「できたよー、香君ー」
俺が考えに耽っていると、いつのまにかハロウィンの仮装に身を包んだ紗弥ちゃんが目の前に!
むむ、紅いワンピースの胸元にはカボチャのバッジ。そしてコウモリの形をした髪飾りも付けている。
おお、中々に可愛いぞ。
ちょっと写メとらせておくれ。
「これならバッチリでしょう。じゃあお会計を……」
「おおぅ、またれよ姉上。ここは俺が出す」
俺だってバイトしてるんだ。
少しくらいカッコいい所を見せてやるぜ!
※
「ビビった……マジでビビった……」
「香君……大丈夫?」
スーパーの入り口で無事に仮装判定を通った紗弥ちゃん。
これで全商品二割引きなのだが……正直、子供服舐めてた……。
まさか……紅いワンピースが一万五千円もするなんて……!
「やっぱり私が払うよ、香君」
「そんなわけにはイカン! しかし今日のおでんは少し豪勢に頼みます!」
男が一度出した金を……再び財布に収めるわけにはいかんのだ!
だが一万五千か……全商品二割引きの為にそんな出費して……むしろマイナスでは……
「エヘヘ、可愛い? 可愛い?」
しかしここにきて、紗弥ちゃんは楽しそうに満面の笑み。
時折クルクル回りながら、俺と姉ちゃんにその姿を見せつけてくる。
「うんむ、可愛いよ、紗弥ちゃん」
姉ちゃんの言葉に紗弥ちゃんのテンションはMAXに。
そのまま再びパンダ姉ちゃんへと抱き着き、モフモフと甘えだした。
むむぅ、まるで新しい妹が出来たようだ。
「じゃあ香君、おでんの具、好きなのを買ってくるといい。私は野菜とか見てくるから」
「おおぅ、姉ちゃん太っ腹だぜ」
俺はそのまま籠を一つ持ち、おでんの具コーナーに。
むふふ、がんもどきに……はんぺんに……こんにゃくに……ちくわに……
「あのぅ……」
すると何処からか声が。
むむ、誰じゃ。何処じゃ!
「ここです、下です、下」
ああん? と下を見ると……そこには……
「すみません、ちょっと抱っこして貰えませんか」
こ……子パンダ!
俺の膝くらいまでの小さなパンダが!
な、なんだこの可愛さは!
「おでんの具、私も選びたいんです」
「あ、あぁ、がってん承知の助……」
一度籠を置き、子パンダを抱っこする俺。
おおぅ、モフモフ……ヌイグルミのようだ……っていうかあったけえ……
「すみませんね、お兄さん」
「いえいえ……」
子パンダはおでんの具を数点取り、籠へと入れていく。
っていうか籠も子供用のを使っている。あぁ、なんか癒されるなぁ……。
「ありがとうございます、もういいですよー」
「…………もういいのか? このまま抱っこしてなくていいのか?」
「お兄さん、抱っこしていたい気持ちは分りますが、私は五十三のオバちゃんゆえ……」
五十三……!
それがどうした! 俺は人妻好きだ!
というか俺の姉ちゃんが成体パンダで、なんで五十三の貴方が子パンダに……
「ふむ、あなたのお姉さんも変身してしまったのですね。しかもパンダとは……」
「あぁ、しかもウチも今日の晩御飯はおでんにしようとしている。これは偶然にしては出来過ぎだ」
そう、これはもはや運命としか言いようがない。
というわけでこのまま拉致らせて頂く。
「ちょ! いくら可愛いからって! 私の家にはお腹を空かせた娘が……」
「お母さん……?」
むむ、いつのまにか紗弥ちゃんと姉ちゃんが。
って、今なんつった。
「……紗弥! なんでこんなところに……っていうかその恰好は……っていうかお家に居ないとダメでしょ!」
ん? ん?!
まさか……この子パンダ(五十三歳)が母親だったのか!
どうりでパンダの姉に懐いている筈だ。
「だ、だって……お母さん、いつも朝早く出て行って……夕方にしか帰ってこないから……」
「そ、それは……お母さんの足じゃあスーパーまで数時間かかるし……」
まあ、子パンダだしな……。
つまりこういう事か。
①子パンダ(五十三歳)スーパーに朝早く出かける
②紗弥ちゃん、寂しくて家を出て迷子に
③んで洗濯物を干す、ウチのパンダ姉ちゃんを見つけて抱き着く
④なんやかんやあって……現在
と、いうことか!
「なんで箇条書きで説明したの? 香君」
しらん。作者に言ってくれ。
それから姉ちゃんは子パンダへと事情を説明。
紗弥ちゃんが迷子になっている所を保護し、警察にも一応報告した事も説明する。
「それはそれは……申し訳ありません……お手数おかけしました……」
「いえいえ。紗弥ちゃん、とってもいい子でしたよ。というわけでお母さん、今夜は家でおでんパーティーしませんか」
むむ、姉ちゃんナイスだ。
おでんは大勢で食べた方が美味しいなり!
「そんな! これ以上ご迷惑をかけるわけにも……」
そうか……なら仕方ない。
「ところで香君。いつまで紗弥ちゃんのお母さん抱っこしてるの」
「このまま家に連れ帰るつもりだ。別にいいだろ、姉ちゃん」
ニヤリ……と俺と姉ちゃんは同時に不気味な笑みを交わし、そのまま子パンダを拉致る事で合意する。
「ちょ、そんな! なんか怖いんですけど!」
※
スーパーで買い物を終え、我が家へと帰還する俺達。
渋々、子パンダ母さんも今夜は家に泊まる事で合意し、おでん作りも手伝ってくれるとの事。
台所に立つ子パンダ母さんと、パンダ姉ちゃんの後姿を眺める、俺と紗弥ちゃん。
どっからどうみても姉ちゃんが母親っぽいが……実際には子パンダ母さんの方が姉ちゃんの二倍長く生きている。
「さて……ではおでんが出来上がるまで、俺達は邪魔にならぬよう遊んでいよう、紗弥ちゃん」
「うんー」
そしてその日の夜、俺達は四人でおでんを囲み、ひさしぶりに賑やかな食事を楽しむ。
まるでパンダの親子と人間の兄妹が一緒に食事をしているようだ。まあ、こういうのもいいかもしれない。
あぁ、っていうか……おでん美味え……
それから数か月後。
世界に再び大ニュースが駆け巡る。
なんと変身した人間を元に戻すナノマシン手術が確立されたのだ。
しかし、その手術を行うには月に行かなければならないらしい。
なんでも、その月には超優秀なAIが隔離されているとかなんとか。
つまり、そのAIの助力なくして手術は行えない、という事らしい。
しかし月まで行かなければならんとは。
「姉ちゃん……どうする? 金は国と企業が全額負担してくれるらしいけど……」
「うーん……私はまだいいかな……順番待ち多いし……この子もいるしね」
家の縁側で、俺と姉ちゃんは月を眺めつつ団子を食っている。
月へは順次、変身してしまった人間が送られているらしい。
今も……月へと向かうシャトルの光が見て取れた。あのシャトルに……紗弥ちゃんのお母さんが乗っている。
「大体一か月で戻ってくるって。もしかしたら、私達と紗弥ちゃん親子が出会ったのは、このためだったかもねぇ」
そんな姉の膝の上には、紗弥ちゃんがスヤスヤと眠っている。
姉の腹をモフりながら。
「まあ、一か月だもんな……親戚の家もイヤイヤって駄々こねたらしいのに……姉ちゃんにはベッタリだし」
「パンダですから」
俺達は月を眺めつつ、紗弥ちゃんのお母さんが無事に帰ってくる事を祈る。
ほのかに甘い、月見団子を頬張りながら。
【この作品は遥彼方様主催の「紅の秋」企画参加作品です】