All my life, All my lie
換気扇の下には灰皿がわりの空き缶が二つ置いてあるんだ。そして赤い箱のタバコと緑のライター。手を広げて届くこの空間で僕の世界は完結してるのさ。
ゆらりゆらり煙が伸びていく。
愉快だなあ、ほんと愉快。
外は明るくなったし、遠くから蝉の鳴き声が聞こえる。あと三時間後には大学の一限も始まるし、十時間後にはバイトが待ってる。
親指で喫いかけのタバコを弾いた。
灰が缶の底に落ちていく。
ああ愉快愉快。
なんてったって満たされてるもの。
親が汗水流して稼いだ金で学校に行って、生活費は仕送りで賄う。バイト代はタバコに消えるし、愛してくれる人もいる。
これ以上ない幸せを享受して、これ以上を望むべくもない生活してるんだから不満なんて抱くことが失礼なくらいさ。誰に失礼なんだろうね。
新しいタバコに火をつけた。
肺にすとんと煙が落ちる。
多分病気なんだよ。心か体か、もしくは頭かの。原因がわからないんだ。お医者さんに診てもらったらわかるかな。ねえ先生ちゃちゃっと診断してくださいな。
ゆらゆらと白が揺れて換気扇に吸い込まれていく。
なんてね、嘘だよ本当は全部わかってるんだ。
そうとも、僕は誰かに救ってほしいんだ。
この醜く腐った性根と堕ち切った自分を、どこかの誰かが救ってくれるのを待ってるんだ。こうして感傷に浸ってる僕を、そんな自分が好きな僕を、夢見る少女のように、誰かが迎えにきてくれるのを指をくわえて待っているんだ。
まあくわえてるのは指じゃなくてタバコなんだけどね。
外はもう完全に明るくなった。
さあ今日がまた始まったぞ。
シャワーを浴びて、穢れた心と汗を流し切ろう。そして布をまとって日常へと融け込もうじゃないか。
楽しい楽しい一日の始まりだ。
いつも笑ってる自分に変身しよう。
さすれば世界は何も問題はないさ。
人間になれたよ。うん素晴らしい。
嘘をまとって明日を待とう。