6話 雨と最悪の思い出
なんだかんだで6月。梅雨に入り、連日のように雨が降っていた。
「今年はよく雨降るよね。」
「そうだね。走れないから困るんだけどな。」
「俺も練習できなくて困るんだよんな。」
「しれっと混ざらないでくれる。」
「いいじゃんかよ。」
勉強を教えてもらった手前これ以上強くは言いにくい。
あのあとあいつがわからなかったところをちょくちょく教えてもらっているのだ。
「ところでさ、こんな雨の日に結希のネックレスから青白い靄みたいのが見えるて話があったよね。」
「ああ。結希が本気で怒ったときだよな。あれはまじで怖かったわ。。」
「あの時くらいだよね。結希のマジギレ見たの。」
「そうだよな。佐藤や他の友達が困ってると助けたり、怒ったりするけど、それでもあの時は異常だったよな。まず、自分のことで怒ることはなかったからな。」
「そうなのよ。結希なんであの時あんなに怒ったのか聞きたかったんだよね。」
「そんなこともう忘れたわよ。怒ったことはなんとなく覚えてるけど理由までは覚えてないよ。あのころ機嫌悪かったからじゃないかな。」
と、何事もないように答えた。
「そう。あの剣幕は異常だったよ。まあ、結希も思い出したくないだろうからこれ以上は聞かないけど、今度あんなことがあったらちゃんと相談してよね。私じゃ頼りにならないかもしれないけど。」
「そうだぞ。俺にも言えよ。」
「ありがと詩織。」と詩織に抱きつく。
「俺は無視かい。」
「体育の時助けてくれずに、面白がってた奴の言葉なんて信用できないわよ。」
「う、痛いとこつくな。」
「結希意外と根に持つからね。」
と詩織が笑いながらいった。
「「忘れたなんて嘘だよね。」」
「「あんたまでなによ。忘れたわよ、あんな嫌なことは忘れるに限るから。」」
私はそう答えながら下を向き呟く
「本当に最低だったよ。」
そう忘れたくても忘れられない嫌な日々だった。
それは、中学2年の頃初めてあいつと喧嘩した。
なんで喧嘩したかは本当に覚えていない。
本当に些細なことだったと思う。
それまで意見の食い違いは多かったが、喧嘩になることはなく、その前にどちらかが折れていたのだが、その時はどちらも折れず喧嘩になっていた。
その時、私はなぜか自分を否定されたような感じがして、とても追い詰められていた。
そんな時には悪いことは重なるようで、私が最低と言わしめる出来事が起こった。
それは、クラスメートが私を青白い霧のようなものがまとわりついているのを見たということから始まった。
「足立さん。ちょっといい。」
放課後一人で帰ろうとしていた私をもう誰もいない廊下で、同じクラスだけどほとんど話したことのない子から呼び止められた。
その子は神社の神主さんの娘だった。
「そのネックレスには悪霊が憑りついてる。今週家にきてお祓いしてあげるから。」
「ありがとう。でもやめとくわ。これについてるのは悪霊じゃないしね。」
あいつのことを何も知らないくせに悪霊と決めつけることに内心少し苛立ちはしたが親切に言ってくらてるので、一応お礼をいって断った。
だが、それが気に入らなかったらしい。
「いいえ、それについてるのは悪霊よ。最近足立さんはなにかにイラついてるでしょ。
それはネックレスからでている青白い靄のようなものが原因よ。あなたには見えないでしょうけど、私にはみえるの。」
どうやらあいつの姿を朧気ながらにも、見えてるらしかった。
そして、確かに最近イラついているのはネックレスのあいつが原因ではあった。
だが、あいつは悪霊だとは微塵も思わない。
それほどの力もないし、そんな奴ではないのはもう何年も一緒にいるので、疑うつもりもない。
「あなたになにが見えてるかわからないけど、私は今のままでいいのよ。」
「じゃあ、そのネックレス貸して。家で鑑定するから。家には悪霊を鑑定する道具はそろっているし、そのくらいなら私にもできるから。」
「嫌よ。」
「あなたが悪霊に憑りつかれるのはあなたの自由だから文句は言わないけど、それにより他の人に迷惑がかかるかもしれない。それは見過ごせないわ。だからそれを鑑定してどれくらいの力があるかは確認させてほしいの。」
こういう他人のことを全く知ろうとしないで、正論だけを振りかざす人は昔から嫌いだった。
人にはそれぞれの正義があり、どうしようもないこともあるはずなのだから。
「だから、嫌だっていってるでしょ。」
そう言ってその場から立ち去ろうとして歩きだした私に彼女は私の前に回り込みたち塞がった。
「なに。邪魔なんだけど。」
「どうしても貸してくれないの。」
「そうよ。」
答えるを聞くか聞かないかという間に彼女はネックレスをつかみ引きはずそうとした。
普通ならそれではずれただろうが、このネックレスは私以外にははずすことができない。
私はいきなり前に引っ張られ、顔面から倒れた。
彼女もまさかはずれないとは思っておらず、私に押されるかたちで後ろ向きに倒れる。
「なんではずれないの」
彼女は怯えるように言った。
ただ、怯えた理由はネックレスがはずれなかったことではない。
私をこかせて、顔面を強打し鼻血を出していたことによる罪悪感からだった。
そして彼女は立ち上がり、「あなたが素直に渡さなかったのが悪いんだからね。」
といって走り去っていった。
家に帰ってお母さんが「どうしたの。」と心配そうに聞いてきたが、「転んだ。」と言っておいた。
勿論はお母さんは嘘だとわかっていただろうがそれ以上は何も聞かずにいてくれた。
「「いいのそれで。」」
喧嘩した相手からも心配されるような状況らしい。
しかしそれに対して私は
「「あんたには関係ないでしょ。」」
「「そんなことはないよ。」」
「「いいから黙ってて。」
こういう時は誰がなにを言っても無駄なのである。それは自分自身どうしていいかわからないのに出口を探し必死で色々考えて他の人の意見を聞く余裕がなく、自分しか見えていないから。
あいつはそのことをわかっていたのかそれ以上なにも言わなかった。
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