1話 高3
「ねえ、結希聞いてる。」
「あ、ごめん。なんだっけ。」
友人の佐藤詩織が不服そうな顔をしてこちらを見ていた。
「ほんとに、まあいいけど。結希時々そうやってぼおっとしてるときがあるよね。」
「そう。自分では気づかないけど。」
「誰かと話してるみたいな感じで。何かに取り付かれてるんじゃない。」
「何によ。て、次体育だっけ。着替えに行かないと。」
「そう、だから声かけたんだよ。」
「そっか。ありがとね。」といって席を立つ。
「あ、今年もそのネックレス注意されるね。」
「ああ、そうだね。まあ、仕方ないけど。」
学年が変わり体育の教師が変わるたびに説明が必要なのだ。
「それほんとに外れないからね。今年は誰の形見にするの。」
「高校はおじいちゃんで固定かな。それ以降は宗教上でってことにしようかな。」
「もうはずすのあきらめてるんだ。」
「違うよ。はずさないことを決めてるんだよ。一生ね。」
「何それ。重いよ。」
それには答えず笑ってかえした。
今年は例年より説明に時間がかかりげんなりして、机に突っ伏していた。
すると自分机の前に青白い靄のようなものが現れ人の形に形成され、同年代の男の子の形になった。
ただ、他の人には見えていない。
いつもの光景で、これがこのネックレスをはずさない理由でもあった。
その青白い光の靄でできた男の子が声は出さずに心に直接話かけてくる。
「「いいの。いつまで秘密にしておくの。」」
「「あんたが心配することじゃないわよ。あと、死ぬまでよ。」」
「「僕が言うのもなんだけど、そんなに長く持ってるようなものじゃないよ。」」
「「そうかもね。」」
「「言うだけ無駄みたいだね」」
「「わかってるじゃない。」」
「「まあ、もう長いこと君を見てるんだからね。」」
「「そんなことより、このネックレスをつけて問題ない理由を考えといてよ。」」
「「学校に行くときははずせばいいんじゃない。」」
「「来年からは大学だからそんな心配ないか。」」
「「あ、人に振っといて、意見も聞かずに自己解決するんだ。」」
「「あんたが真面目に考えないからでしょ。て、あんた人じゃないでしょう。」」
「「そうだね、人ではないよね。君にしか見えないし、話しても聞こえないしね。」」
「「私じゃなくて、このネックレスを付けてる人でしょ。私もこのネックレスはずせばあんたを見ることも話すこともできないし。」」
「「だとしても、ネックレスをはずさない理由にはならないんじゃない。どちらにしても僕は何も触れることすらできないんだから。できるのはこうして話すことぐらいだしね。」」
「「知ってるわよ。あなたが役立たずてことくらいは。」」
「「自分で振ったようなもんだけど今のはひどくない。」」
「「事実だからしょうがないでしょ。」」
「「……」」
「「……ごめん。言い過ぎた。」」
「「いいよ。事実だから」」
「「ううん。役にはたってくれてるから。」」
「「なにに。」」
「「それはいつか話す。」」
「「いいけど。まあ、なんにせよこんな僕でも役にたってるのはありがたいけど、問題があるときはネックレスはずしなよ。」」
「「それは却下。」」
「「なんで。」」
「「秘密。」」
それを聞いて少年はやれやれと首を振り、霧のように消えていった。
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