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終章

日本国東京都世田谷区、陸上自衛隊三宿駐屯地、自衛隊中央病院



 朝鮮半島の混乱は収まっていない。日本は新たにいくつかの部隊を韓国に投入し、邦人の救出を行っていたが、北朝鮮国内でノドンハントを行っていた部隊はすべて撤収した。

 この戦争での現在までの自衛隊の被害は国内外を含め、戦死者九名。負傷者四十三名。ほとんどが韓国国内での任務中の損害だったが、自衛隊は創隊以来、初の戦死者を出し、初の実戦を経験した。

 しかし韓国国内にいた日本の民間人で、残ることを決めた者以外は負傷者こそ出たものの全員の避難を完了した。そして北朝鮮から発射された弾道ミサイルの数は事前の捜索とそれによる索源地攻撃の結果、予想をはるかに下回り、発射された弾道ミサイルも迎撃され、日本本土への被害は皆無だった。日米共同作戦によるノドンハントが功を奏した結果であった。都内で行われた北朝鮮工作員によるテロ破壊活動も鎮圧され、警察や自衛隊は第二、第三のテロを阻止するために今も厳重な警戒態勢を敷いている。

 中国の南侵は米国主導の連合軍が韓国入りを果たし、ロシアが中国を牽制したことによって阻止された。しかしながら一部の北朝鮮軍は中国からの後ろ盾を受けてクーデターを起こしており、反体制派が継戦派の独裁政権を倒して主導権を握りつつあった。中国の影響が戦後の北朝鮮に残る懸念は強いが、最悪の混乱は回避された。

 日本への直接的な脅威が完全に取り除かれたことが防衛省によって発表されると、テレビメディアなどの関心は現在も続く韓国国内での戦闘や新宿で警察・自衛隊が繰り広げた壮絶な戦闘から政権・自衛隊批判へと移り変わっていった。

 すでに国会は大荒れで、野党は自衛隊の死傷者、そして国外への派遣を批難し、政府与党の責任を追及していた。韓国からの避難中に負傷した民間人だけでなく、戦死した自衛官達の名前も一部新聞に掲載され、政権批判の格好な餌食となっている。自衛隊の負傷者の収容された自衛隊病院には今もマスコミが詰めかけていて、そうしたマスコミたちの矛先は救出された邦人達にも向けられていた。

 国会前や各地の自衛隊駐屯地・基地前では連日、抗議デモが起きている。自衛隊は今も高度な作戦状態にあるため、警察の警備体制は平時よりも強化されていたが、抗議活動は激しさを増していた。

 マスコミ等がそうした俗物的な論争を繰り広げる世間とは隔絶されたテレビの無い病室のベッドで那智は体を起こし、目の前に病院への出入で目立たないよう背広姿で立った剣崎と向き合っていた。

 目立たないようにと言っても洗練された戦闘員としての独特な雰囲気を隠して入ることが出来たのだろうかと那智には疑問だった。剣崎は顔に細かい傷や軽い火傷の跡がまだ残っているが、他に大きな怪我も無かった。

 偵察分遣隊は任務を終え、一人の欠員を出すこともなく日本に帰還した。撃たれた八木原や近藤、那智、大城、西谷達は佐世保の自衛隊病院に入院し、その後この三宿の中央病院に転院していたが、全員回復に向かっていた。

 北朝鮮国内での任務は秘匿されることになっている。


「だが、俺達は存在する。これを機に偵察分遣隊は、水陸機動団内に緊急初動対応部隊として正式に発足されることになった」


 剣崎の言葉に那智は感動を覚えていた。あの仲間達とまた共に戦える。


「初代メンバーに名を連ねる気はないか?」


「是非……!」


 那智は即答だった。


「今は養生に専念していろ。だが、戻れば早速訓練だ。我々を必要とする現場はまだ無数に存在する。覚悟はいいな」


 朝鮮半島の混乱はまだ終わっていない。北朝鮮と韓国では相次いでクーデターが勃発。反体制派と現政権側とで争いながら、未だに現政権側同士は二国間の戦争を続けているカオスな状況だ。

 韓国で反体制派が実権を握り、北朝鮮の反体制派と手を組むようなことになれば日本への潜在的脅威は以前より高まる可能性もある。

 那智はその言葉に緊張を覚えながらも剣崎を見つめた。剣崎の鋭い切れ長の目は相変わらず厳しい眼差しだったが、那智には少し微笑んでいるように見えた。


「元より覚悟はできています」


「言ったな?お前の配属は決まりだ」


 剣崎はそう宣言し、病室を去っていった。





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