第五章 その3「新宿駅の戦い」
第32普通科連隊第4中隊は、軽装甲機動車と高機動車で自動車化された歩兵部隊だ。民間人の避難が完了していない市街地では迫撃砲や対戦車弾などの重火器は使用できず、そのため機関銃などの火力を集中運用する必要があり、迫撃砲小隊の隊員らは中隊本部に編入していた。制約が多く、隊員達への負担は大きい作戦となる。そのことはこの任務に基づく待機が始まる前から理解していたが、第4中隊長の名執3佐は改めてその難易度を実感していた。
現在、練馬と朝霞の第1普通科連隊の軽装甲機動車化中隊と第1偵察戦闘大隊の16式機動戦闘車や96式装輪装甲車などを装備した偵察中隊が新宿に急行しているが、16式機動戦闘車が装備する105mm砲や機甲中隊の重火器も使用は司令部の指示を仰がねばならず、都心のど真ん中で運用できるとは思えなかった。
一方で敵ゲリラ・コマンドは自動小銃や対戦車火器で武装していて市街地で躊躇なく使用している。本来圧倒的出来る敵への対処に制約が課せられては、こちらの危険は跳ね上がる。そして新宿駅は世界最大の利用客数の駅であり、多数の民間人が入り乱れ、駅だけでなく地下街や地下通路等、市街戦の中でも非常に複雑な戦場となる。誤射は絶対に出来ないため、部下達は射撃を躊躇う恐れもあり、敵に先制を許す可能性が高かった。部下の命を預かる立場として名執は戦闘前から思い悩んでいた。
新宿駅を包囲した第8機動隊の後方で下車し、銃器に実弾を装填して警察に合流した第4中隊は矢面へと展開した。
未だにペデストリアンデッキ上には複数のゲリラがおり、包囲した警察と激しい銃撃戦を繰り広げており、新宿駅周辺には連続した破裂音が反響していた。
大勢の警察官や自衛隊車輛が並ぶ地域は安全と勘違いしているのか、野次馬も集まりつつあり、多くの者がスマートフォンを構えている。早く逃げないか!そう怒鳴りつけてやりたかった。防弾チョッキやヘルメットを身に付けた今の自分でさえ内心では流れ弾が怖いのだ。
「第32普通科連隊第4中隊長、名執3佐です。指揮官は?」
「私だ。第8機動隊、室井警部」
酷く険悪な表情をした警察官が振り返った。制服の上から防弾衣を身に付けているが、ソフトアーマーのそれでは小銃弾は防げない。
「状況は?」
「敵は十名ほど。あの歩道橋に三名以上がいて残りは駅構内に入って警らと銃撃戦を行っている」
「敵の武器は?」
「グレネードランチャーに機関銃、自動小銃だ」
機動隊が催涙弾をペデストリアンデッキに撃ち込み、銃器対策部隊がその間に階段を登って制圧を試みた。激しい連射音が鳴り響く。
『くそ、盾を貫通するぞ!』
『1小隊、三名負傷!宮尾巡査長、死亡!』
『一名を射殺!2小隊、展開しろ!』
無線には殺気めいた怒声が飛び交っている。銃器対策部隊は被害を出しつつも、ペデストリアンデッキ上のゲリラを制圧しつつあった。しかし数名のゲリラ相手にも警察の火力は足りていない。
「我々も駅に入ります」
名執が言うと室井は頷いた。
「願ってもない。新宿駅は広すぎて目標は分散していて我々の手も足りない状況だ。今、駅の事務室に係員を向かわせてライブで防犯カメラを当たって目標の位置を特定させている。連中は地下に降りた者もいれば上に登った者もいる。案内はいるか?新宿駅は迷宮だぞ」
「お願いします」
名執は室井に頼むと無線で現状を朝霞の戦闘指揮所に報告した。戦闘指揮所からは空挺団の要擊部隊が向かっており、空挺部隊が駅屋上からロープ降下して上から制圧し、第4中隊が地下を制圧する方針が伝えられた。
屋内掃討戦では階段での戦闘も当然生起するが、その場合有利なのは圧倒的に階上側となる。そのため世界の特殊部隊も屋上からヘリで部隊を送り込み、上から制圧するのだ。
名執は素早く中隊の方針とこれからの作戦を頭のなかで組み立てるが、やはり難解な新宿駅の地図は何度もひっくり返し、部下と議論しなくてはならなかった。
名執がそうこうしている間に室井は地の利に富んだ新宿駅交番の地域課の警察官を呼んだが、近くにいた地域課員は女性警察官しかいなかった。その女性警察官が防護面付きヘルメットと防弾チョッキを着て自衛隊を案内することになった。
「成瀬巡査です。案内します」
そう言って隊員達の前に立った警察官は高校を卒業したばかりなのかと疑うほど若かった。名執にとっては警察官も文民であり保護対象だ。こんな若者を戦場のど真ん中へ連れて行かなければならないことに後ろめたさはあったが、名執も新宿駅の複雑さからやむを得ないと判断した。
「32連隊4中隊長の名執です。よろしく頼みます。何かあれば我々の後ろに下がってください」
警察の防弾チョッキは銃器対策部隊でもなければ拳銃弾程度しか防げないソフトアーマーのものがほとんどだ。自衛隊の防弾チョッキは7.62mm弾を防ぐ重さ二キロほどのセラミックの抗弾プレートを入れている。何かあれば隊員達が文字通り肉の盾になる。
「おい、畠山。成瀬巡査の傍を離れるな。しっかり警護しろ」
「了解」
成瀬は犬のようにはしっこそうで、見ていて危うかったので名執は中隊本部でも優秀な陸曹である畠山2等陸曹を成瀬に張り付けた。
「00(連隊本部)、こちら40。これより新宿駅構内へと前進する。送れ」
『40、00、了解。民間人の被害は認められない。武器使用の統制は現場の判断に任せるが、厳密に行え。送れ』
「00、40、了解。終わり」
名執は内心げんなりした。訓練中もここへの移動間も耳タコになるほど聞いていた。国民の生命と財産を守ることが第一だとしても、部下の命も守らねばならないジレンマがあった。
成瀬巡査の案内で八十名の隊員達は整然と駅前を進み、バスターミナルの階段を降りて地下のバスロータリーへと展開した。周囲に89式小銃の銃口を振って警戒しながら進むが、地下のバスロータリーにもすでに機動隊員達が展開し、制服警官が市民達を避難誘導していた。隊員達は二列縦隊を整然と保ったまま駆け足で青梅地下通路から駅へと入る。
「こっちです」
成瀬は銃撃戦が起きている位置を把握していて迷うことなく複雑な新宿駅構内を進んでいく。成瀬の進む先に濃紺の活動服の上に鎧のような装備を纏った機動隊員達が盾を構えて並び、MP5F短機関銃を構えて進んでいた。
「さすが、詳しいな」
「新宿駅では皆、迷子になります。待ち合わせ場所が分からないとか、荷物を預けたロッカーを探しているとか、地域課は市民に最も近い職種です」
成瀬の言わんとしていることをなんとなく名執は察した。ここは今、戦場だが、成瀬にとっては多くの人々の営みの中にある公共施設だった。
奥からは破裂音が鳴り響いている。
「この先です」
成瀬はそう言うや腰の装弾数五発のリボルバーを抜いた。今にも飛び込んでいきそうだったので名執たちは成瀬の前に並んだ。
「了解。あなたは下がって」名執は第1小隊長の初芝3尉を振り返った。
「1小隊、前へ」
「了解。1班、2班先頭。3班は後詰めだ。前へ」
初芝3尉が指示を出すと第1小隊は周囲に展開し、89式小銃や5.56mm機関銃を構えて前進を開始した。
「複雑な駅だ。伏撃に注意、全周警戒だ」
自衛隊員達は壁際を慎重に進む機動隊員達を超越して前へ出ると遮蔽物を目指して走っては止まり、遮蔽物から続く者たちの前進を援護する交互躍進で駅構内へと進んでいく。銃声が近づいていた。
「敵を包囲する。2小隊は迂回しろ。3小隊は1小隊に続け」
第2小隊の隊員達約三十名が中隊主力から離れる。
「前へ」
隊員達の半長靴が床を蹴る音が通路内に響き渡っていた。その時、突然、通路の先に男が現れた。こちらに気付いて腰だめで保持していた突撃銃を向ける。
「撃て!」
初芝3尉はその男の後方に誰も居ないことを素早く認め、射撃を命じた。しかし隊員達が発砲するよりも先にその男は突撃銃を連射して弾をばら撒いてきた。先頭を進む隊員達が銃弾を浴びて崩れ落ち、後続の隊員達が隠れる遮蔽物の柱に銃撃が当たって砕けたコンクリート片が飛び散る。
突撃銃の一連射が終わる前に隊員達は一斉に89式小銃を発砲した。リベットを打つような銃声が駅構内に響き渡り、こだまする。成瀬巡査は耳を塞いで蹲り、名執も指揮のために耳栓をしていなかったため、銃声で耳鳴りがして顔を歪めながら前を睨んだ。
射撃を浴びせたが、工作員はすでに走り抜けていて姿が無い。
「うわぁあ!!」
撃たれた隊員は三人で二人は倒れて蹲り、一人は悲鳴を上げていた。後ろからついてきた隊員もそれを見て絶句する。
「負傷者三名!担架員!」
訓練を受けていなければ敵が現れた時に全員がその方向を向いてしまい、四周への警戒が疎かになるが、市街地での戦闘訓練などを積んでいる隊員達は目の前に敵が現れても自分の警戒方向を守ることを思い出していた。
「何を見ているんだ、手を貸せ!止血しろ!担架員前へ!」
陸曹が怒声を浴びせ、立ち竦む隊員を動かす。
「2班前へ!警戒方向を守れ!敵との接触を維持しろ!1班長、状況は!?」
初芝は混乱する小隊を纏めながら1班を確認する。
訓練を積んでいない部隊は敵が現れた時や状況が発生した時に全員がその方向を向いてしまい、四周への警戒が疎かになるが、市街地での戦闘訓練などを積んでいる隊員達は小隊長の指示で自分の警戒方向を守ることを思い出し、本来の役目を果たす。
若い陸士が「班長!しっかりしてください、班長!」と倒れた陸曹に声をかけながら防弾チョッキを脱がしていた。
「小隊長!1班長堂本2曹負傷!先任は自分です」
「1班は担架班と負傷者を後送しろ!3班、前へ!」
先頭を進んでいた第1小銃班は三名が撃たれており、初芝3尉は指示を出し、自らも2班に続く。
隊員達は駅構内で横隊を組んで前へ進み、小隊本部の補助担架員が1班の支援に加わった。
補助担架員とは、衛生科以外の職種の隊員で一般隊員が学ぶ応急処置よりも高度な衛生救護技術教育を受けた隊員のことで、米軍ではコンバットライフセーバーと呼ばれている。補助担架員が第一線救護を行って後送し、後方で救急救命士や准看護士の資格を持った衛生科の衛生救護員がより専門的な治療を行う。
小走りで進んでいた隊員達が、ゲリラの横切った通路に89式小銃を向けながら展開しようとすると、銃撃が飛び交い、通路の角を銃弾が叩いた。
通路に出かかっていた隊員が銃弾を受けて崩れ落ちる。防弾チョッキ3型のドラッグハンドルを掴んで同僚隊員がそれを引きずって銃撃から逃れる。
「島が撃たれた」
「応射だ!撃て!」
普通科隊員達が通路に銃弾を撃ち込みながら展開する。火花が散り、十数挺の小銃が吐き出した薬莢が床に散らばる。
「行け行け!」
隊員達が通路に展開を始めた時、何かが飛んできた。
「て、手榴弾!」
転がって来たそれを見た隊員が叫ぶ。転がって来た手榴弾の目の前にいた金井陸士長はアメリカのアクション映画のワンシーンを思い浮かべていた。それは特殊部隊の指揮官が躊躇わずに手榴弾の上に覆いかぶさって仲間を守るシーンだった。
実際、金井はそんな場面に遭遇するなんて露ほども思っていなかった。むしろ東京のど真ん中でこんな格好をして実弾入りの弾倉を持って警戒に当たることすら現実離れしていると感じていたほどだ。
金井の隣にいる先輩の3曹はパチンコ好きの金遣いの荒いどうしようもない男で、誘われて行った酒の席でも奢ってもらったことはない。自分の前にいる同僚の陸士長は同じ営内班だが、足が臭くていつも文句を言っていた。彼らのために命を張るなんてことは普段、想像もしていなかった。
それでも躊躇うよりも先に体が動いていた。金井は咄嗟に手榴弾の上に覆いかぶさる。隊員達は転がって来た手榴弾に対する防御態勢を取ろうとしていた。金井が手榴弾の上に覆いかぶさった瞬間、手榴弾が弾け、金井の体は跳ね上げられた。
「金井!」
そばでしゃがんでいた早田陸士長が悲鳴に近い声を上げる。
「金井士長、しっかりしろ!」
「後送しろ、早く!」
畑岡3曹と早田士長が力なく手足を垂れた金井士長を引きずって後送する。
「救護員!」
「くそ、撃て!」
隊員達は通路の奥に向けて猛然と射撃し、銃弾をばら撒き工作員を牽制した。
「前へ!」
「前へ!」
隊員達は撃ち返してくる北朝鮮のゲリラに向かって果敢に突撃する。駅構内は銃声で満たされていた。通路を駆け抜ける隊員達を援護するために5.56mm機関銃が発砲する。新宿駅の壁に弾痕が刻まれていく。
「熱くなるな、冷静に行動しろ!」
同僚達が撃たれたこと、そして自らの恐怖や緊張から隊員達はトンネルビジョンになりがちだ。狭い視野では敵の伏撃を受けやすくなり、自らの担当する警戒方向が敵に向きがちになってしまう。初芝3尉は自分に言い聞かせるように隊員達に声を張り上げた。
隊員達がゲリラを追う目の前に数名の男女が走って来た。
「撃ち方待て!」
「伏せろ、伏せろ!」
逃げて来た男女達を床に伏せさせるが、その間にゲリラは姿を消している。
「敵は後退!階段を降りた!」
突入した2曹が声を張り上げる。その言葉を聞いて次々に隊員達は通路を走り抜ける。
「くそ、追え!逃がすな」
「どの階段だ」
「あの階段です!」
「迂回している2小隊に通報しろ。――畜生、あの階段はどこに通じているんだ!?」
「追うぞ!」
隊員達は怒りに燃えて冷静さを失いつつあるようだった。初芝3尉は一度小隊を止める。
「小隊止まれ!敵は広く分散して伏撃を仕掛けてくるかもしれない。トラップにも注意しろ。確実に安全化を実施していくんだ。民間人にも注意しろ。警察に通報して連携を」
「小隊長、負傷者の救急隊への引き継ぎを終え、1班も合流します」
三名が損耗した1班の隊員達は応急処置を行ったため何名か血塗れで動揺している者もいるが、指揮を引き継いだ陸曹は敵を打つとでもいわんばかりの顔をしている。
「状況は?」
そこへ名執3佐らも追いついた。武装した自衛隊員が駅構内に溢れ、半長靴の重い足音がどかどかと響き渡る。保護された民間人は自衛隊に続く警察に保護された。
「敵ゲリラ一名が階段を降りて下のフロアへ移動しました。警察と連携しつつ追撃します」
「分かった。無理な前進は禁物だ」
自衛隊に続く銃器対策部隊や機動隊員達も追いついた。
「我々が追撃します。後背にいる部隊に包囲させてください」
「了解、連絡します」
「小隊、前へ!」
「第3小隊はこの通路を東口に向かって前進しろ」
「了解。3小隊、前へ!」
第3小銃小隊の湊川2尉が号令をかけ、小隊が前進する。
「小隊長!」
湊川に続く通信手の陸曹が叫ぶ。
「どうした?」
「無線が通じません。伝令を出してください」
新宿駅構内の奥へ進むほど外との通信が困難になりつつあった。湊川からの具申で、名執はすぐさま中隊本部に加えていた迫撃砲小隊の隊員らを伝令として運用し、指揮系統を整える。新宿駅前には第32普通科連隊本部管理中隊の指揮通信車の代用である96式装輪装甲車が到着し、防衛省に設置された指揮所と連接していた。
「畜生、新宿駅で伝令リレーかよ」
「迷子になるなよ」
迫撃砲小隊の隊員達はぼやきながらも伝令に走る。
「百貨店側でもゲリラが警察と銃撃戦を繰り広げているようです」
「そっちには間もなく空挺が到着する」
新宿駅に隣接する百貨店の屋上に二機のUH-60JA多用途ヘリコプターが接近していた。濃緑色を基調に褐色と黒の迷彩が施された武骨な軍用機はすでに側面のスライドドアを開け放ち、完全武装した空挺隊員が縁に座って足を機外に出している。側面の窓からはフライトヘルメットを着用したUH-60JAの機上整備員が身を乗り出すようにして顔を出し、7.62mm機関銃M240を構えていた。
「ロープ投げ!卸下!」
UH-60JAのキャビンに詰め込まれた十名の小銃分隊を率いる班長の2曹が声を張り上げ、上げた腕を振り下ろした。途端に機内の隊員達は天井の機外に伸びるアームに連結されていたとぐろを巻く太いロープを機外に落とし、ロープに掴まって垂らしていた足を絡め、機外に出ていき、次々にファストロープ降下を始めた。左右のドアから垂れたロープを伝って十名の隊員達が至短時間で百貨店の屋上に降り立つや否やはすぐさま折曲銃床の20式小銃を構えて周囲に散り、警戒態勢を取った。二機のUH-60JAから二十名の隊員達が降下し、隊員達は屋上の確保を報せるとすぐさま階下へ下る階段へ向かい、流れ込んでいった。
先遣小隊として屋上に降下したのは第一空挺団第2大隊のレンジャー小隊だった。彼らは一般的な88式鉄帽と呼ばれるヘルメットではなく、〈3M〉社製のULTRA LIGHT WEIGHT戦闘用防弾ヘルメットを被っており、防弾チョッキではなく、より軽量で身動きがとりやすい〈イーグル〉社製のAEROプレートキャリアを身に付けていた。
対テロ要擊のために市街地戦にも精通した緊急即応部隊として選抜され、臨時編成されたレンジャー小隊の隊員らは隙無く警戒しながら百貨店の中へと進み、展開していく。さらに百貨店の屋上にはCH-47JA輸送ヘリが接近していた。CH-47JAからはロープが投下され、ファストロープ降下によってACH戦闘用ヘルメットを被り、防弾チョッキ3型を身に付けた空挺隊員達は屋上へ降下する。
援護していたUH-60JAの機上整備員は接近する二機目のCH-47JAを援護するべくM240機関銃を据銃していた。その眼に、百貨店の窓が 割れ、何者かが身を乗り出すのが映る。
「あれは……!」
機上整備員は窓から身を乗り出した男が肩に何かを担いでいるのを見た。グレーの軍用色に塗られた筒上の装置。それはどう見ても──
「RPG!」
機上整備員は叫んだが、一瞬発砲を躊躇してしまった。防衛出動下令の下、自衛隊は国内の治安維持に当たっているが、武器使用は厳しく制限されている。そのことが念頭から離れなかったのだ。
『撃て!』
機長はCH-47JAを援護するために回避せず、機上整備員を怒鳴りつけた。しかしその隙をついて男は肩に担いだRPG-22対戦車ロケット弾を発射。放たれたロケット弾は秒速一一三メートル──時速四七九キロもの速度で屋上に向かって高度を下げつつあったCH-47JAの機体側面を直撃した。
「ああ!」
機上整備員は思わず叫んだ。RPG-22はCH-47JAの胴体部を串刺しにするように貫通して空中で炸裂した。被弾したCH-47JAは大きく回避機動を取って隊員を降下させることなく離脱する。
『キャリア32、こちらヒリュウ27、損害を報せ』
『こちらキャリア32、被弾した。隊員五名が負傷。飛行に支障はないが、念のため新宿中央公園に予防着陸を実施する』
三番機と四番機は新宿駅東口側に隊員を降下させるべく機体を旋回させた。
百貨店の屋上に降下できたのは第2大隊の小銃小隊の隊員ら三十名だけとなった。彼らも先遣レンジャー小隊を追って百貨店の中へと突入していく。
駅周辺では災害派遣医療チーム等が到着し、負傷者の識別救急や救護処置が進められていた。警察だけでなく消防、救急の車輛が周囲を埋め尽くし、なおも集まる警察車両や自衛隊車輛を誘導するために殺気立った警察官達が並ぶ。
戦後日本では経験したことのない大規模なテロ攻撃だったため、マスコミ各社の取材班も現場には集まりつつあった。彼らもスクープを逃さないと必死で、興奮し、文字通り熱狂していた。
「道を開けて!」
「車両が通ります!」
詰め掛けた報道陣を切り裂くように柵をねじ込み、新たに到着した練馬第1普通科連隊の車輛が入る道を警察官達が確保する。経路確保を兼ねた先導の第1偵察戦闘大隊の偵察用オートバイと赤色灯を点灯し、サイレンを鳴らして緊急走行した小型トラックを先頭に第1普通科連隊第1中隊の軽装甲機動車が新宿駅前に到着した。
車輛の動きが停滞するのを見た中隊長の磯井1尉は下車を命じた。軽装甲機動車から完全武装した隊員達が一斉に降り、新宿駅に向かって駆け足で駆けていく。隊員達は市街地戦闘用に難燃素材のバラクラバを身に付けていた。これはマスコミ対策でもあった。
「32連隊4中隊は新宿駅地下で敵ゲリラを追尾中。空挺中隊は二個小隊を百貨店屋上に降下。百貨店内の敵ゲリラを捜索しています。我々はこの新宿駅周辺の封鎖を実施」
「封鎖?」
連隊本部運用訓練幹部の3佐の言葉に磯井1尉は思わず噛みついた。磯井は市民や多くの警察官を殺傷したテロ・ゲリラに対し、怒りに燃えていた。首都防衛を担うと自負する第1普通科連隊の担任警備地区での攻撃だ。自分達の手で何としても解決したかったのだ。
「そうだ、新宿駅は複雑でテロリストがどこから離脱を試みるか分からない。絶対に奴らを逃がさぬよう、この付近を封鎖。テロリストが線路沿いに離脱を図ったならばそちらに転進する」
3佐の言葉に磯井は絶句した。




