第五章 その1「擾乱」
日本国東京都新宿区
新宿駅手前、都道四号線青梅街道の新宿大ガード西交差点の西側では特別警戒のために検問が行われていた。新宿区には防衛省や都庁等の政府行政機関の他、利用客数世界一の新宿駅などの重要施設が点在しており、朝鮮半島有事に伴い引き上げられた警戒態勢のために多数の警察官が警戒に当たっている。
新宿駅前の大型モニターでは今も朝鮮半島の情勢を伝える緊迫したニュースが流れ、多くの通行人が足を止めて見入っていた。朝鮮半島で戦争が再開しても、日本国民の生活はほぼ滞りなく進行する。公立の小中高学校の多くは休校となっているが、民間企業は営業を続けていた。
青梅街道の交通量も減るどころか増えているのではないかと思うほどで、各所で行われている交通規制や検問があっても多数の車が行き交っていた。
検問で止められた運送用の中型トラックのドライバーの免許証を照会している間、宮下巡査は感じた違和感を同じ交通課の加持巡査部長に相談した。
「なんだか、乗ってる人達変じゃないですか?」
「変?」
高校を卒業後、警察官となった宮下とは雲泥の差のある加持は勤続十二年のベテランだった。この周りで最も頼れるのは加持だと宮下は思っていたが、加持は宮下が感じた違和感に気付かなかったようだ。そうなると自分の勘が間違っているのだろうか。
「荷台を見てみようか?」
だが、加持は宮下の感じた違和感を一蹴にはせず、聞いてきた。そこが加持の頼れるところだと宮下は改めて思う。
「免許証の照会が終わった後、確認してみてもいいですか」
「おいおい、新人の勘のために一台一台チェックしてたんじゃ、この渋滞はさばききれないぞ」
そう声をかけたのはニンジンと呼ぶ誘導棒を振る交通課の巡査部長だった。中年太りが制服の上からでも分かる。宮下はむっとしたが、加持の手前感情を表情には出さなかった。
「待て」
加持が突然声を上げた。照会していた免許証の情報を確認したらしい。
「これは偽造された免許証だ。車から降りて下さい」
加持の言葉に宮下は緊張する。トラックの運転席と助手席の男は顔を見合わせると仕方がないと言わんばかりに降りて来た。しかしやけに平静だ。
トラックの後ろに並んだタクシーの中年のドライバーが悪態をついたが、宮下には聞こえていなかった。運転席と助手席の男が降りると加持はドライバーの手荷物検査を行い、荷台を開けるよう指示した。宮下は加持の指示で運転席を検索する。他の警察官達も集まって来た。
この中型トラック、ナンバープレートも偽装されているらしい。レンタカーらしく、車内にレンタル元の注意書きがあった。
「加持部長、この車は──」
突然、宮下の言葉を遮るようにトラックの背後で腸を揺さぶるリベットを打つような破裂音が鳴り響いてガード下で反響した。それが銃声だと理解するのには一秒かかった。周囲で悲鳴が上がり、停車中の車のドライバーたちが逃げ出し、辺りは一瞬にして騒然となった。トラックの荷台がガタガタと揺れる。何人もの男達がトラックを降りて来たのだ。
加持巡査が運転席にいた男に殴られ、倒れたところを拳銃で撃たれるのを見た。銃声が周囲に響き渡り、トラックの周囲にいた警察官が撃ち抜かれる。宮下は咄嗟に今調べていたトラックの運転席に逃げ込むように乗り込むとホルスターから拳銃を抜いた。
ホルスターから抜いた小ぶりなリボルバー式拳銃のM360J SAKURAには.38スペシャル弾が五発装填されている。ミラーを見ると男達は少なくとも五、六人はいるらしい。こんな拳銃では自分の身を守ることも対処も出来ない。だが、検問にいた警察官は次々に撃たれていた。迷っている暇はなかった。
宮下はささっていたイグニッションキーを捻ってエンジンを始動した。サイドブレーキを解除してギアをバックに入れるとアクセルを踏み込む。
トラックは勢いよく後退してトラックのすぐ背後で自動小銃を射撃していた二人の男を巻き込んで七メートルほど離れた位置に停まっていたタクシーに激突した。真後ろに居なかった武装した男達は十人以上いた。自動小銃の射撃がトラックの運転席に浴びせられ、フロントガラスに無数の穴が開く。男達は踵を返すと自動小銃を撃ちながら新宿駅方向に向かって走り出した。
付近にいた警察官達にそれを制止することは出来なかった。
「至急、至急、新宿11より本部!」
宮下は無線に叫びながらトラックを降りた。腕に痛みがあったが、撃たれた加持に駆け寄った。加持は胸に二発弾を受けていた。紺色の制服はみるみる血で染まっていく。
「加持部長!」
宮下は叫びながら必死に血を止めようとした。
『新宿11、どうぞ』
本部の警察官の声はこの場の現場にはそぐわない落ち着きようだった。
「新宿ガード検問、銃撃事件発生。警邏を含む被害者多数。マル被は自動小銃で武装し、市民に対し無差別の銃撃を行っている模様!大至急マル援及び救急車の派遣願いたい。どうぞ!」
その場で銃撃を何とか生き延びた警察官はわずかに三人だった。倒れている警察官達の救護活動をなんとか始める。
『本部了解。防弾チョッキ着装の上、市民の避難誘導に当たれ。銃器対策部隊を向かわせる。どうぞ』
『警視庁より各局。警視庁より各局。ただいま新宿署管内において銃撃事件発生。本件につき緊急配備を発令。全警戒員は速やかに立ち上がり、G配備に定められた所定の警戒を実施されたい。以上警視庁』
『本部より各局。G事案発生に付き、各警戒員は防弾チョッキを着装、受傷事故防止、特段の留意の上、市民の安全確保に当たれ。以上本部』
ようやく緊迫してきた無線を聞きながら加持の出血を抑えていると、加持の手が宮下の腕を掴んだ。
「何をしている。マル被を追わんか」
加持が必死の形相で宮下のことを睨んでいた。
「しかし……!」
「市民を守れ」
加持の言葉に宮下ははっとした。普段から加持は犯罪者を逮捕するよりも無辜の市民を守ることを一貫して宮下に指導してきた。
「……分かりました」
「行け」
宮下は立ち上がると男達の向かった新宿駅の方向を見た。周囲は騒然となり、駅方向では銃声が聞こえた。通行人やドライバーなども集まってきて撃たれた警官や市民の救護に当たり始めていた。
「お巡りさん!」
中年の男が宮下を呼んだ。振り返ると宮下がバックさせたトラックに撥ね飛ばされた男の傍に若いサラリーマンがいて何やら手にしている。
「それを地面に置くんだ!」
宮下は思わず怒鳴った。若いサラリーマンが手にしていたのは黒い自動小銃だった。
サラリーマンが宮下の怒声を受けて恐る恐る地面に銃を置く。宮下が駆け寄るとトラックに撥ね飛ばされた男は、隣のパトカーの車体に頭を打ち付け死んでいた。目と口を虚ろに開いていて、頭部から血が広がりつつあった。
宮下は自分がその男の命を奪ったことを思い出し、言い知れぬ恐怖を覚えつつ、自動小銃を手に取った。
それはAK-102と呼ばれるロシア製の自動小銃だった。腰にぶら下げた拳銃では太刀打ちできない。すでに被疑者を確保するという普段の信条よりもいかに早く事件を解決して市民の被害を局限するかを宮下は無意識のうちに考えていた。
宮下は男の肩かけのカバンに予備の弾倉が詰まっているのを見るとそれを取る。
「本部、こちら新宿33!」
無線に叫んでいる警察官に宮下は駆け寄った。
「着いてこい!奴らを止めるぞ!」
宮下は銃声と悲鳴の聞こえる新宿駅に向かって走り出した。
十一人の北朝鮮の工作員が新宿駅に向かって前進していた。銃撃戦から逃れようと市民が逃げまどい、車が玉突き事故を起こし、クラクションを鳴り響かせている。工作員達は堂々と車道を進み、逃げる市民の間を抜けて現場に駆けつけようとしていた警察官に向けてAK-102突撃銃で弾を浴びせかけた。
「日本の番犬たちの武器は想像以上に貧弱だ」
目の前で起きた銃撃戦を目撃した通行人たちが逃げ出すのを眺めていた工作員の一人が呟いた。二人の警察官は回転式拳銃を持っていたが、一発も発砲する隙を与えなかった。警察官を狙った銃撃は背後にいた数名の市民も巻き込んでいた。何名かはぴくりとも動かず、若い男女が悲鳴を上げて泣き叫び、助けを求めていて、血の跡を残しながら這ってこの場から離れようとしている者もいた。
「日帝の本営を潰すことが出来ないのは残念だが、ここで可能な限り混乱を起こし、望成目標を達成するぞ」
ドライバーだった作業服姿の工作員が言った。
「適当に市民を撃て。混乱に乗じて戦う。偉大なる祖国と指導者同志に栄光あれ」
工作員達は特に思うこともなく、指示通りに銃撃を行った。逃げ惑う市民が次々に撃たれて倒れ伏す。パニックはたちまち伝染し、人々は死に物狂いで逃げ惑った。
「撃たないで!」
歩道で膝をつき、悲鳴を上げる二人組の女性会社員にAK-102自動小銃を短連射して弾丸を浴びせた工作員の男には興奮も感動もなかった。ただ役目をこなすだけだ。その女たちの顔に祖国の妻の面影を思い出しそうになっても今はただ任務に邁進するだけだ。銃弾を浴びて絶命したトラックの運転手の足がアクセルを踏み込み、車が渋滞の車列に突っ込む。
サイレンと共に到着したパトカーも5.56mmの小銃弾を浴び、ガラスが穴だらけになる。
「畜生、ふざけんな」
パトカーの助手席に乗り込んでいた広江巡査長は思わず怒りの声を上げながらパトカーのドアを開けて車外に飛び出した。運転席に乗り込んでいた後輩の尾ヶ崎巡査も悲鳴のような声を漏らしながら広江の後を追うようにパトカーから這い出してきた。
「早く撃ち返せ」
広江は拳銃を抜きながら尾ヶ崎に怒鳴った。
「け、警告は?」
尾ヶ崎は完全に心を挫かれていた。
「馬鹿ヤロー」
どちらともなく広江は怒鳴りながらM37エアウェイトを構え、引き金を引き絞る。乾いた破裂音が鳴り響くが、相手からは自動小銃のフルオート射撃の破壊的な銃声が響き、それを打ち消した。
低い姿勢で自動小銃を構えた男達は広江の射撃にもひるむことなくパトカーに向けて弾丸を浴びせ、パトカーのタイヤに穴が開き、車体が沈み込んだ。
二人は懸命に伏せて身を守ろうとした。
「俺と位置を替われ」
広江は尾ヶ崎をボンネットの背後に移動させて、自分はトランク側から再び発砲した。しかし銃撃は続き、ブレーキランプやウィンカーまで砕かれ、破片が飛び散る。
自動小銃の射撃はその銃弾だけではなく、発射音だけでも心理的に大きな恐怖を与える。拳銃では太刀打ちできないと広江と尾ヶ崎は悟り、戦う意思を打ち砕かれかけていた。AKから放たれる|スチール・コア《鋼製弾芯)弾はパトカーの車体を容易く貫通し、トランク側に移動した広江の体を射抜いた。
「広江先輩!」
尾ヶ崎は悲鳴を上げる。別の方向からもパトカーがやってきて銃撃を浴びせられ、フロントガラスを粉々に粉砕される。警察官達が周囲から集まりつつあったが、自動小銃の射撃は正確無慈悲に続いていた。
「エンジンの裏から離れるな」
広江は苦虫を噛み潰したような声を絞り出しながら、アスファルトの地面に手をついて何とか這ってボンネット裏に移動する。装甲車でもない乗用車の車体で小銃弾の射撃を食い止められるのはエンジンルームくらいだ。
その間にも銃撃は駅前広場を逃げまどう人々にも浴びせられている。
「伏せて!動かないで下さい!」
新たに到着した警察官の懸命な声は工作員達の耳にも届いた。一人の工作員が合図すると擲弾発射機を構え、40mm擲弾をその警察官達が遮蔽物にしているパトカーに撃ち込む。榴弾がボンネットで炸裂し、パトカーが破壊され、その背後にいた警察官二人は爆圧と破片を受けて地面に倒れる。
「下がって!この場から離れて!」
「伏せろ、伏せろ!伏せるんだ!」
警察官達の怒号が飛び交う。新宿駅西口交番より飛び出した地域課の警察官達は拳銃を抜いて駅に向かってくる武装集団を阻止しようと発砲していた。市民たちは悲鳴を上げて逃げまどっている。
さらにパトカーと水色の警察の輸送車がサイレンを鳴らして駅前広場に入ってくる。水色の輸送車からは濃紺の装備に身を固めた機動隊員達が流れ出す。
「拳銃抜け!市民を防護しろ!」
機動隊員達は拳銃を抜いて上方に向けて構え、展開する。
「一歩も引くな!」
機動隊員達に向かって工作員達が射撃すると機動隊員達による応射が始まった。
輸送車を盾にした警察だったが、5.56mmのフルメタルジャケット弾は拳銃弾に耐える輸送車の装甲板を貫通した。たちまち数名の機動隊員が昏倒し、同僚によって後ろに引きずられた。
さらにパトカーを盾にしていた警察官達も貫通弾を受けて負傷する。銃撃戦に慣れていない警察官達は盾にならない遮蔽物で身を隠そうとしていた。
「相手は自動小銃だ!」
「くそ、撃て!」
機動隊員達は懸命に警備車や輸送車を盾に応射し、展開する。自動小銃の射撃が一人の機動隊員の防護面を直撃し、分厚い防弾防護面が砕け散った。警察官達が携帯する拳銃はせいぜい.38口径の五発装填のリボルバー式拳銃だけで、普段予備弾は携行していない。今回は警備体制の強化により予備弾を持つ警察官もいたが、それでも予備弾を合わせて十発しか携行していない。自動拳銃の配当を受ける警察官が〈S&W〉M3913自動拳銃や〈H&K〉P2000自動拳銃を携行していたが、それでも装弾数は八発や十三発で、年に数回射撃訓練を行う程度の警察官達では殺傷能力も装弾数も桁違いな自動小銃で精密な射撃を浴びせてくる北朝鮮のゲリラ・コマンドの相手にはならなかった。
牽制射撃の弾幕に怯むことなく工作員は警察に向かって銃撃を浴びせて来た。
「輸送車を盾にして進め!」
小銃弾が貫通する輸送車を前面に出し、機動隊員達が列を成して毅然と進み始めた。しかしそこに向かってRPG-22対戦車擲弾が発射される。携行性に優れるが、現代の主力戦車相手には威力が不足しているRPG-22でも日本警察の防弾輸送車相手には十分だった。発射された対戦車擲弾の直撃を受けた輸送車の車体に成形炸薬弾による穴が穿たれ、メタルジェット噴流によって車内は焼き尽くされ、輸送車を盾にしていた警察官達は爆発でなぎ倒された。
「やつら、ロケット弾まで持ってるのか」
炎上する輸送車や銃撃を浴びて打ち砕かれる警察車両のガラス、無数に倒れる警察官を含む大勢の人々の姿に、警察官達は完全に士気をくじかれていた。誰も前に進むことは出来ず、一方的に銃撃に晒され続けようとしている。
そこへさらにサイレンを鳴らすパトカーの先導する輸送車や黒いランドクルーザーが押し寄せた。中から飛び出てきたのは機動隊員達と同じ濃紺の出動服の上から黒い防弾衣に身を包み、短機関銃を持った警視庁第8機動隊銃器対策部隊の緊急時初動対応部隊隊員達だった。
防護面付きヘルメットと難燃性のフェイスマスクで顔を覆い、鎧にも似た防護衣等の数十キロもの装備を身にまとっても彼らは整然と武装犯を追い詰めるべく展開を開始する。
彼らの持つ短機関銃は世界中の法執行機関特殊部隊が愛用する〈H&K〉社製のMP5で、数ある短機関銃の中でも命中精度、信頼性は抜きんでている。銃器対策部隊は、そのMP5の中でもフランス向けモデルで、強装弾を使用し、新型の伸縮銃床を採用したMP5Fを使用していた。
ERTは銃器対策部隊の中でも選抜された隊員から構成されている。2014年に起きたカナダ議会銃乱射事件などを受け、警視庁が発足させた、テロなどの緊急事態に二十四時間体制で備える初動対応部隊だ。警備車よりも小回りが利き、機動性に優れる防弾のランドクルーザーやメガクルーザー等の車輛を遊撃車として導入している。
車を降りるなり、ERTの隊員達はMP5F短機関銃を構え、その鎧のような防弾防護衣を身に付けていても風のような速さで周囲に散っていく。
「武器を捨てろ!」
銃器対策部隊の隊員達が声を張り上げたが、それに対する答えは射撃だった。
「撃て!制圧しろ!」
銃器対策部隊の隊員達は一斉にMP5F短機関銃を発砲し、激しい銃撃戦が始まった。MP5は優れた短機関銃だが、拳銃弾である9mmパラベラム弾を使用する。自動小銃の威力と比較すれば劣っていたが、銃器対策部隊はそれを精度でカバーした。
「日帝の犬たちが集まって来た」
「チェ同志、三名連れて高所から撃て」
「了解」
「イム同志、駅構内の民衆を誘導しろ。数で押してくるならこちらも数で対抗するだけだ」
工作員達は銃器対策部隊に向けて射撃しつつ、数名がペデストリアンデッキへと駆け上った。そこでスマートフォンを構えて撮影をしようとしていた若者たちに向かって四名の工作員は自動小銃で銃撃を浴びせ、ペデストリアンデッキを制圧すると広場に展開しつつある警察官に向かって射撃した。
ERTに遅れて到着した第8機動隊の銃器対策部隊も新宿駅手前で展開を開始し、次々に現場に押し寄せていた。
駅から離れていた通行人たちはその異様な光景に足を止め、映画の撮影でも見ているかのようにスマートフォンを彼らに向けている。制服警察官達がそんな呑気な市民を殺気立った表情でこの場から離れるよう駆り立てた。
第8機動隊銃器対策部隊の指揮官の室井警部は目の前に広がる新宿駅とその関連施設を見て苦い表情を浮かべた。
新宿駅は、一日三百六十万人以上が利用する利用客数、列車本数、出口の数において世界一を誇る。この中に入っていったテロリストを制圧するのは容易ではなかった。
「マル被の人着は?外国人によるテロか、これは」
「マル被は日本人若しくはアジア系外国人です。全員、自動小銃や爆発物で武装しています。北朝鮮の破壊工作員と思われます」
「北の工作員だと?」
室井は冗談じゃないぞと心の中で叫んだ。俺達の相手は犯罪者のはずだ。相手はプロの戦争屋じゃないか。
「ロケット弾も手投げ弾も持ってる。受傷防止に留意しろ」
「室井警部!」
その声に室井が振り返ると駅構内から逃げ惑う群衆が飛び出してこようとしていた。
「マズイ……!」
「伏せて!伏せてください!」
拡声器を使って機動隊員が怒鳴るが、その声も虚しく人々は警察官達の前に殺到した。射線を塞がれ、撃てない警察に対し、ゲリラ達は一方的に射撃を浴びせてくる。
「突入だ」
室井は即座に決断を下した。
「抵抗を排除し、制圧しろ!」
「市民を救助する。喊声、前へ!」
ERTは二名一組のバディシステムで二組ずつ、人々の間を縫って駅へと前進する。銃器対策部隊や機動隊員達も前進し、機動隊は路上に倒れる人々の救護を開始した。しかしその機動隊員達にも容赦ない射撃が降り注ぐ。
「あの歩道橋にいるマル被を押さえろ!制圧射撃!」
単発で銃器対策部隊の隊員達がMP5F短機関銃を発砲する。発砲に忌諱感を持つ一般の警察官と違い、銃器対策部隊の隊員達は凶悪な銃器犯罪から市民を守るために特殊部隊と同様の射撃術を習得し、訓練を受けている。双方の銃声が鳴り響き、その間に位置する歩道の市民たちは地面に深く伏せるしかなかった。
ペデストリアンデッキの塀を9mm弾が叩き、コンクリート片が砕け散り、塗料が舞う。工作員達は別の位置へ移動するとすぐさま突撃銃で応射する。銃撃を浴びた銃器対策部隊の隊員達が盾ごと崩れ落ちた。その突撃銃を発砲した工作員に向けて銃器対策部隊の隊員達が発砲する。工作員が頭を9mm弾で撃ち抜かれて塀の向こうに吹き飛ばされた。
「一名を制圧!」
機動隊員が叫んだが、その機動隊員達の列に向かって駅前の歩道から擲弾が打ち込まれた。40mm榴弾が炸裂し、機動隊員達がなぎ倒される。
「このままでは被害が増えるばかりです!」
悲鳴を上げながら後送される機動隊員達を見て室井は拳を握りしめて震わせていた。
「本庁に応援を要請しろ!SATが必要だ」




