第二章 その8「半島での朝食」
偵察拠点内の自分の寝床で目を覚ました那智は首を回して関節を鳴らした。
北朝鮮に潜入して一週間が経った。今日もこのPBから、MSRの監視と斥候による周辺の偵察が続けられている。本来のPBは二十四時間以上の滞在は出来ないが、任務の特性上警戒の度を上げて対応している。
那智はバディである山城1曹の姿を探した。山城もちょうど起き出してきて、目を擦りながら体を伸ばしていた。
那智は山城とハンドサインでやり取りをした。山城が頷くと、那智は背嚢から布を取り出して広げると、20式小銃をその布の上に横たえた。
山城は周囲を警戒しながら顔のドーランを塗り直し、食事をとっていた。
那智は20式小銃を銃尾機関部から素早く分解し、バラバラにする。ミステリーランチのNICE6500バックパックに入れていた武器手入れ具を取り出し、各部品をウェスで拭いて汚れを取り除く。雨に打たれたせいで、跳ねた泥が機関部をわずかだが汚していた。それらをふき取ると、専用のオイルで部品に施油する。最後に銃身に布のパッチを付けたワイヤーのような銃腔通しを通して整備を終えた。
次に那智は弾倉を整備する。チェストリグに取り付けた八本の弾倉のうち、四本を取り出して布の上で5.56mm弾を取り出していく。すべて取り出して空にするとポリマー製の弾倉を軽く点検した。弾倉が変形していたり、バネが弱まっていれば給弾不良の原因になる。
今回の任務のためにすべて新品の弾倉を用意していたが、念には念を入れる。半分ずつ弾倉を手入れするのは、何かあった時に対応するための弾倉を残しておくためだ。
すべての弾倉の手入れを終えると、那智は山城と代わり、警戒とドーランの塗り直し、食事をとる。
朝食は、ビスケットバーと乾燥ゼリーだ。インスタントコーヒーと共にチーズの味付けがされたビスケットバーを齧る。味は数種類あったが、この食感には飽きてきた。食事をとりながら周囲のベースラインに異状はないか気配を研ぎ澄ませる。
今日の乾燥ゼリーは羊羹のようなものだった。餡子が入っていて、味はそれなりに良いがバリエーションが多いわけではないため、飽きてしまう。食事をとり、コーヒーを飲み干してもまだ山城は弾倉の手入れをしていたので、那智は周囲に目を慣らすことに専念した。
ようやく山城も整備を終え、二人は本部の集まっているPBの中心に向かった。
ポンチョや偽装網で偽装された本部には無線が置かれて常時傍受態勢を取っていた。近藤が地図を元に土を盛って作った砂盤と呼ばれるジオラマがあり、監視哨の置かれた位置や斥候が見てきた偵察結果が反映されていた。
剣崎は交替で先ほど眠りについたようで、近藤が起きて同じようにぬるいコーヒーをすすってエネルギーバーを齧っていた。
「変化事項は?」
山城1曹が尋ねた。
「車両の往来があった。今までとは少しコンディションが変わりつつあるようだ。日本で破壊工作も起きた。米軍の弾薬庫が破壊されたらしい」
「始まるんですね……」
「とっくに始まってる」
近藤は余ったコーヒーを大城に押し付けた。
那智達はPBの警戒を交替し、さらに二時間後警戒を交替すると、偵察斥候に向かうための準備を整えた。




