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ミツキ

こんばんは。「ミツキ」の話になります。

拙い文章ですみません。語彙力がほしいです。

 

「ただいま。」


 家には誰もいないと分かっていたが、意味もなくそう言った。

 午前中に学校を終え、ミツキは寄り道もせず真っ直ぐ家に帰った。


 父の転勤の都合で引っ越したばかりのマンションは、まだ荷物が片付いておらず、所々にダンボールが積み重なっている。


 父は仕事、母はパートに行っていて、今は誰もいない。


 ミツキは自分の部屋に入り鞄を置き、服を着替えると、お昼にカップヌードルを食べようと思い、薬缶でお湯を沸かし始めた。


 容器の中にかやくとスープの元を入れ、お湯がわくのを待つ。


 ーー今日は疲れた。

 元々父がよく転勤するため、転校自体は慣れたものだったが、やはり慣れない環境に馴染むには時間がかかる。初日は疲れるものだ。


 そういえば、と教室にいた1人の女子を思い出す。

 自己紹介の時に彼女と不意に目が合い、なぜか印象に残った。

 ショートヘアで、端正な顔立ちで、活き活きとした雰囲気の女子だった。


 確か…「ハルナ」とクラスメイトに呼ばれていた。


 ーーハルナ。なんだか聞き覚えのある名前だった。前に会ったことがあるのだろうか。

 いや、この地域に住むのは今回が初めてだ。会ったことはないはず。


 なら、この懐かしいような、不思議な気持ちはなんなのだろう。

 彼女に惹かれているのだろうか。まだよく知りもしないのに。


 自分の感覚の正体について考えを巡らせていたミツキはピーッという薬缶の音で現実に引き戻された。


 まぁ、いいか。学校は明日からずっとあるし、また彼女にも会える。

 もう一度会ってみれば、この気持ちの正体にも気づくかもしれない。


 お湯を容器に入れ、カップヌードルを食べると、疲れた体を癒すため、ミツキは自分の部屋に行ってベットに横になった。



 いつの間にか夜になっていて、母が夕飯を作る音が聞こえた。


「おかえり」


「あら、ミツキ。疲れたでしょ。始業式はどうだった?」


「普通だよ。普通。」


「そう。」


 ミツキの母はそれ以上追及することもなく、夕飯の支度を続ける。


 ミツキがすることもなくリビング食卓のテーブルにつくと、父が帰ってきた。


「あら、お父さん帰ってきたみたいね。」


 ミツキの母はちらっと玄関の方を見たが、すぐに手元に視線を戻した。

 その顔には何か陰りがあるようにミツキは感じた。


 その陰りの理由は、パートの疲れだけではないことをミツキはなんとなく分かっていた。


「ただいま」


 リビングにミツキの父が入ってきたが、ミツキの母は全く反応せず無言で夕飯の準備をしている。


 ミツキは暗い気持ちになりながら、「おかえり」と父に向けて言った。


 夕食中も、ミツキの父がミツキに「学校はどうだ?」とか、「友達できそうか?」とか、転校する度に言うお馴染みの質問をするだけで、他に会話はなかった。


 夕食を終えると、「明日も早いんだから、お風呂に入って早めに寝なさい」と言われ、ミツキは言われた通りに風呂に入った。


 風呂から上がり、自分の部屋に向かう途中で、リビングで両親が何か話しているのが聞こえた。

 夕食中には決して2人で話すことがないのに。ミツキがいないところで話すということは、そういうことなのだろう。


 自分の部屋に入りベットに座る。

 両親の声がまだ聞こえた。段々と口調が強くなっている。

 ああ、まただ。とミツキは思った。

 幼い頃は両親が喧嘩していると泣きながら止めに入ったものだ。しかし、高校生となった今ではそれが無駄なことなのだと分かっているから、止めに入るという気にはなれなかった。


「あなた、ここに来たからって…あの人に…」


「何言ってるんだ!だいたいお前が…子供を…」


「あなたそれをミツキの前で…」


 かなり大きな声になってきた。所々単語が聞き取れる。

 喧嘩は今まで何回もあったことなので、今まで聞こえてきた単語を繋げて考えると、なんとなく喧嘩の内容を察することが出来た。


 先日引っ越してきたこの地に父の元恋人がいるらしいこと。

 父はその恋人と結婚するつもりだったが、ミツキの母が身ごもってしまったために別れなければならなかったこと。

 父が母と自分を捨てようとしていること。

 そして、父と母は離婚してそれぞれの人生を生きたいと願っているのに、自分が足枷になっていること。


 ミツキには、父と母のどちらが悪いというのは分からなかった。


 一つだけ言えることは…

 自分は生まれてこない方が良かったということだ。


 自分が生まれて来なければ、両親がこんなに争うことも無かったのだろう。


 それに、ミツキは自分が生きている意味が分からなかった。

 仲のいい友人もいない。

 将来やりたいこともない。

 ただなんとなく勉強して、大学に行って、就職して、何が楽しくてそんな人生を送らなければならないのだろう。

 ただ、死んでいくだけなのに。


 もちろん、死にたいとまでは思わない。

 せっかく両親がここまで手間をかけて育ててくれたのだ。しかも父親に関しては半ば不本意に。ここで自殺なんてしてしまったら、両親が自分のためにかけた時間とお金が全て無駄になってしまう。

 それは流石に申し訳ないと思った。

 自分のせいで彼らは自身が望む人生を送れなかったのだ。ならせめて、自分に使われた時間とお金は彼らに返したいとミツキは思っていた。


 だから、ミツキは「死にたい」ではなく「消えたい」と願っていた。


「消える」というのは「死ぬ」のとは違う。

 元々いなかったことになるのだ。つまり、両親がここまで自分にかけた時間もお金も必要なかったことになり、全て彼らの手に戻る。


 そんな消え方ができたらいいのに。とミツキは常日頃思っていた。


 ーー自分なんていなくていい。どうせ生きていても大して役に立たないし。

 両親に必要とされているかも微妙なのに、自分を必要としてくれる人がこれから現れるとも思えない。


「消えて無くなればいいのに…」


 誰もいない部屋で両親の口論を聞きながら、ミツキは自分自身に向けてそう呟いた。




お読みいただきありがとうございます。

気軽にお読みいただければ幸いです。

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