ネカマと貴族
潮風が俺の肌をうち、青みがかった銀髪をなびかせる
大海原の果てには今にも夕陽が顔を隠そうとしている
「今日もいい仕事をしたもんだ──」
仕事というのはもちろん俺が正午から夕方にかけてやっているテント治療院のことだ
治療院を初めて3週間ほど、最初は捻挫とかちょっとした怪我をした村人の治療を回復魔法で治していたが、たまに来る隣の村人たちの治療した途端噂が噂を呼び、隣の村更にそのまた隣の村、今日はそのまた隣の村の人間までわざわざ俺に治療をしてもらうために治療を訪れて来た
この世界に来た当時は混乱し、夢じゃないかと思った俺だけど今ではここでの暮らしの方が自分にとってはいいものではないかと思えはじめてきた
もちろん家族のこととか、元の世界での心配事はそれなりにあるけど、それでも自分としてはこっちの世界でクロエとして生きてく方が充実していると思う
一番の理由は他人の為に働けてると実感出来るだからだと思う。元の世界でも会社勤めで働いてたが、何のために働いてかわからない
強いていえば自分の生活のためだ、社会に出て働いていても結局自分の中で完結してしまっていた
だから今治療院を開いて治療師として働いていてとても充実している
1日を通してここまで充実している時など小学生以来だろう
ちなみに俺の1日のスケジュールは──
午前 キースさんたちの農作業の手伝い
午後 治療院
そして夕方から夜までのやることは今からやるあまり人に見られたくないことだ
「よーし、今日もいっちょやりますか...メニューっと」
俺はメニュー画面を開いて慣れた手つきで装備欄を開いてセット装備からクロエのガチの戦闘装備である「聖女シリーズ」を装備する
俺は屈伸などのストレッチを少しだけして、海岸の端にある洞窟へと向かう
「おっと忘れてた...猫の目を飲んで...うぇ、やっぱまずい、」
俺はアイテム欄から取り出した小瓶に入った不味い液体「猫の目」を飲む
この「猫の目」を一定時間、たぶん一時間ほど猫のように暗いところでも目が見えるようになる
これは闇魔法「ナイトアイ」を使えない職業のプレイヤーのための補助アイテムだ
そして夜目が聞くように暗闇でも普通に見えるようになったので俺は洞窟の中を突き進み、夕方の日課の目標を探す
「おっ、まずは大ムカデか」
俺の方にカサカサと気味の悪い足音を立てながら向かってくる巨大なムカデ、大ムカデを視認し腰に手を回し聖刀・雫を握る
そして足を肩幅ほどまで広げて、体の重心を少し下に落として力む
その瞬間に身体の力が一気に凝縮していくのを感じる
『キシャァァァァァァッ!!』
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そして大ムカデが俺に襲いかかる瞬間に俺は雫を抜刀し、互いに交差する
ここで決め言葉を言うなら...そう、「またつまらぬものを斬ってしまった...」だな
俺が心の中で呟くと同時に大ムカデの長いからだが横断面上に半分になる
その瞬間に俺の身体に何か不思議なものが流れ込んでくるのを感じる
「とりあえず今日の入りとしては上出来だな」
そう、俺の夕方の日課はモンスター相手のトレーニングだ
このトレーニングは俺が畑でイノシシをぶっ飛ばした時のことを振り返ってのことだ
あの時実はオオイノシシをぶっ飛ばしていたパンチには技名があったのだ
その名はシンプルに下位素手攻撃スキル「正拳突き」だ
意識せずに出したあの技、そう意識せずに出してしまったのだ
ただ殴ったつもりが何も考えず攻撃スキルを出してしまった...もしあれがイノシシではなく人に向けて放ってしまっていたらと思った時俺はゾッとし、トレーニングしようと決めたわけだ
トレーニングを初めて2週間とちょっと、最初の1週間は素手でやっていたが慣れてきたので今は刀の攻撃スキルの練習中だ
......正直なところ毎回手にモンスターの体液がつくのが嫌で刀を使うようになったんだけどな
ちなみに攻撃スキル使用の他にもこのトレーニングで学べることは多い
さっきの身体に流れてきた不思議な感覚はいわゆるモンスターを倒した時の経験値ってやつだ
ここんとこ毎日モンスターを倒しまくってるし、今いる洞窟は始まりの村近くにある初心者殺しの洞窟なのでモンスターのレベルが高く経験値も序盤にしてはとても多いところだから俺のレベルも気づけば30になっていた
もっと速いペースでレベルが上がるものなんだが守護者っていうとんでもなく位が高そうな職業なので必要経験値が普通よりも格段に多いのだろう
こんなことを考えている間にも俺はつまらぬ者を斬って斬って斬りまくっていた
「避けて......「夢幻」!!」
俺は刀攻撃スキル最強の「夢幻」を放つ
「やっぱレベル30だから30連撃しか放たないのがなぁ...200連撃をこの目で早く見てみたいよ」
まぁ30連撃でも充分迫力があるんだけど、やはり200連撃は男心的に見たいんだ
......今の身体は女だけどね
俺は刀についたモンスターの体液を「ピュアリフイケイション」という何でも浄化し綺麗にする魔法で消し飛ばして鞘におさめる
そして俺はメニューを開いて、メニューの機能の一つである時計で時間を確認する
そろそろいい時刻だ、俺がお世話になっているキースさん一家の夜ご飯の時間が近づいている
「それに「猫の目」の効果もきれそう......っ!!」
俺は態勢をそらして何かからの攻撃をよける
『キチキチキチキチ!!』
「おいおい嘘だろ......?」
攻撃が来た場所に顔を向けると巨大なアリ、「ケイブアント」がいた
しかも1匹じゃない...俺は急いで周りを見渡すと壁に穴を作ってそこら中から大量に現れてくる
「これはほんとにまずいな...」
目の前のモンスターを斬りまくってい気づけなかった...ここは洞窟の深部の一つの「ケイブアント」の巣だ
既に俺が来た道は大量のアリ共で塞がれている
「来たな...」
そして蠢くアリたちの中から一際大きなアリが姿を現す、昆虫でいう腹の部分はオレンジ色の水晶体のようなタンクをつけながら歩いてくる
アレがここのケイブアントの女王か
つまりこの群れと統制をとっているあの女王をぶっ殺せば、ここを突破できるわけだ
基本的にこの世界のモンスターの生態はゲームの時と一緒なのもこのトレーニングでわかったから、それでいけるだろう
「だったらやるしかない......かっ!!」
俺は再び雫を抜刀し、斬撃を飛ばす
今の技は中位刀攻撃スキル「斬波」だ
刀の攻撃スキルの中で唯一の遠距離攻撃技だ
だが女王を狙った一撃は回り兵隊アリが壁となり女王まで届かない
「そう簡単にはいくわけないか...」
頬のあたりに冷たい汗が流れる
この世界に来て、一番ピンチな状況なんじゃないかこれ...下手したらB級映画みたいにアリの群れに身体を引きちぎられ無惨に喰われる未来もありえる
怪我しても回復魔法で治せるから、とりあえずここを突破するしかないか
「なっ──!?」
覚悟を決めたと思ったら、突如視界が真っ暗になる
何かのエンチャントか?いや、アリがそんなことするわけないし...そういう毒ガスを放つ能力もケイブアントには存在しない......
あっ...「猫の目」の効果時間だ...
ど、どうすればいいんだ...落ち着け、落ち着け黒江孝之...
「すぅ..はぁ...すぅ...はぁ...」
よし、深呼吸したら落ち着いてきた
何も見えないが、しっかり相手の存在は感じ取れる
よく考えればクロエは達人なんだ、心眼くらい開いてたっておかしくない
身体は最強なんだ、だったら心の俺が落ち着いてこの身体を動かせばいい
「...............っ!!」
複数のアリが俺に向かって飛びかかってくるのを感じ取る
一気にやるしかないか...
「はぁっ!!」
俺は刀を構えて、そして力を込め四方に高速に刀を振るう
上位刀攻撃スキル「守護之型」だ
俺が振るった斬撃は俺を中心に半径2mの範囲で斬撃の壁を発生させる
刀からは肉を切る感触が伝わり、ブシュッ!!という音と共に体液が俺の身体にかかってくる
俺はかかった体液を無視して、さらに襲いかかってくるアリ共を同様に「守護之型」で斬りふせていけ
何回やったか覚えてないが、ついに──
「見えないが、あとはお前だけだぜ?」
俺は一際存在感を放っている女王アリに刀の先を向ける
ここで「猫の目」を使わない方が俺は一段階上に上がれる気がする
だからこのまま奴を倒してみせる
『キチキチ...ギィ、ギィ!!』
「おうおう、お怒りじゃないですかい」
自分の子供たちを殺されたら、そりゃ親として女王として怒るのは当たり前か
だけどこっちの命もかかってるんだから仕方ない話だよな?
「ってなわけで、悪いがお前も倒させてもらうからなっ!!」
さっきはずっと待ちの構えだったが、次はこちらから攻める
今ならあのコンボ技もできる気がする
俺は強く踏み込み突きを放つ
下位刀攻撃スキル「蛇突」
頭を貫いてやろうと思ったが相手のハサミ型のキバに阻まれ下方に逸らされる
俺も最初の一撃で綺麗に決まるなんて思ってない
刃を女王アリの顎に向け、高くジャンプしながら切り上げる
中位刀攻撃スキル「飛龍」
刃は硬い顎に直撃し、女王アリの顎をかちあげる
空中へと飛び上がった俺は姿勢を変え、次の一撃を繰り出すために構えをとる
俺と女王アリの目が合うのを感じる
「はぁぁぁぁぁ!!!」
『ギィィィィィ!!!』
俺は「飛龍」からのいつものコンボ
落下の勢いを加速させ、雫を振り下ろす
中位刀攻撃スキル「崩龍」
雫の刃と女王アリの牙がぶつかり合い、闇の中に火花が散る
鍔迫り合いの状態で女王アリの口が新たに開く
「なっ──っ!!ぐっあぁ...!!」
新たに開かれた第2の口から俺に向けて液体らしき何かが吐かれ
俺の肌を焼いていく
液体が身体に触れる度にシューシューと嫌な音が鳴る
忘れていた、女王アリには酸性の溶液を吐くスキルを持っていたんだ
火傷よりも酷い痛みが肌に伝わり、雫の柄を持つが緩みかける
「ぐっあぁ......ハイヒール...っ!!」
一瞬俺の身体を光が包み、痛みがひいていく
「次は俺の番だから......なっ!!」
『ぎぃっ!?』
「天脚」の能力で俺は虚空の足場を生み出し、態勢を整えて女王アリの頭にかかと落としを落とす
雫をはさむキバの力が緩み、俺は虚空を蹴り女王アリの背中へと飛ぶ
「すげぇ硬そうだが...これなら関係ないよな」
俺は雫を両手でもち上段の構えをとり、振り下ろす
上位刀攻撃スキル「龍断・極」
この攻撃スキルは敵の防御を無視して攻撃をあてる最強の一撃
俺が刀を振り下ろした起動状に壁や地面が割れる
初めて使ったけどとんでもない威力だな
キャンセルポイントがなく連撃が出来ないのがネックだが、この一撃を見ればコンボをする必要は無い
俺は「よっ」という掛け声とともに女王アリの背中から降りる
着地した時にアリの死骸を踏んでしまった気がするけど、気にしない方がいいだろう
何かが崩れる音がする
「龍断・極」を受けた女王アリは真っ二つに割れて地面に落ちた音だろう
そしてあとに残るのは俺の荒い息遣いだけ
これで終わりか...
俺はそう思いながら、深呼吸をして気持ちを落ち着かる。そしてメニュー画面を開いてアイテム欄から本日二本目の「猫の目」を取り出して苦いのを我慢しながら飲み干す
「うわ、見なきゃよかったな...」
そして俺の視界に広がっているのは死屍累々のケイブアントの死骸の山だ
触覚やら足やらが地面に落ち、体液がそこら中に飛び散っている
「てことわだな...やっぱ服にもついてたか...」
今着てる装備、聖女シリーズは白と銀を基調としてるのでアリの緑色の体液がペンキのように装備に染み付いていた
たぶん俺のほっぺたとかにもついてんだろうな
「とりあえずピュアリフィケイション...ふぅさっぱりした。よし、装備の方も綺麗になってるな」
本来なら素材を集めて帰るところだけど、時間がなぁ...キースさんやサナさん、リナちゃんが心配してくれてる可能性もあるし早く帰った方がいいか
俺は「天脚」で地面から30センチくらいの所を歩いて、洞窟の出口を目指した
そして帰りがいつもより大幅に遅くなってしまったのでとても心配され、これからは気をつけることを約束した
◇
「さーて、今日も開きますか。リナちゃん、ノエちゃんよろしくね」
「はい、今日も頑張りましょう!!」
「今日も頑張って働いちゃうよ!!」
「じゃあいつも通りノエちゃんが受け付けお願いね」
「ほいほい、お任せあれ〜」
ノエちゃんが軽快な返事ともにテントから出ていく
ケイブアントの群れと戦った次の日、俺はいつも通り午後から治癒院を開いていた
いつもたくさんの人が来てくれるからそれなりの賑わいを見せるが今日は一段とテントの外が賑やかである
テントを立てるとき人の量はいつもと大して変わらなかったが...どうしてだ?
そしてその答えはすぐに分かることになる
「大変、大変、たいへーん!!」
さっき受付と仕事をしに行ったノエちゃんが大慌てでテントの中に戻ってくる
ノエちゃんの慌てっぷりから見るに近くにモンスターでも現れたか?
「た、大変だよ、クロエさん!!」
「落ち着いてノエちゃん、一体何があったの?」
「クロエさんに会いたいって来たんだって?」
「お...じゃなくて私に会いたくて?一体誰が?」
ノエちゃんが大慌てするほどの俺の知り合いなんていないはずなんだが──
「ほう、ここが噂の治療院か」
「.........誰だ?」
少し小太りで派手めな格好をした男が断りもなく、屈強な男2人を引き連れてテントの中に入ってくる
俺は近くにいたリナちゃんが少し怯えてしまったので俺は立ち上がり俺の後ろに隠す
そしてリナちゃんと同じようにちょこちょことノエちゃんも俺の後ろにやって来て
「く、クロエさんわかんないの?」
「え、あー...うん、全然知らない...かな?」
こんなデブ親父ほんとに知らないぞ...ちょっと俺が働いてた会社の上司に似てるなって思ったりもしたけどさ
「私のことを知らないとは...ふんっ、まぁいい。それはお前のその綺麗な顔に免じて許してやろう」
「............あ?」
なんだこいつ、俺の身体...そしてクロエの身体を味見するかのようにジロジロ見やがって...首チョンパしてやろうか?
「クロエさん!!この人貴族様だよ!!ここら一体を統治しているハリス男爵だよ!!」
「この人が......貴族?貴族ってあの?」
「どの貴族かわからないけど、たぶんそう」
「お金いっぱい持ってるやつ?」
「そうそう、すごいお金いっぱい持ってる人」
「なるほど...」
貴族ですか、いるとは聞いてたけどまさかこんな展開でお会いすることになるとは......
「うぉほん!!私のことを知らないのなら教えてやろう、私の名前はバルール・ハリス!!この地方を収めている栄誉あるハリス子爵家の当主である」
「は、はぁ...それでそのハリス様がどうしてここに来られたのでしょうか?」
「うむ、実はここに腕利きの治癒師がいると聞いてな。わざわざ赴いたわけだ、顔立ちがいいと噂に聞いていたが本当に美しい」
「............きも、」
ノエちゃん、その気持ちはわかるけど声に出さない方がいいぞ
だがほんとにキモイな、ニヤニヤしながら俺を舐めまわしながら見やがって...
だけど反発的な態度はとれないな、ある意味典型的だがこいつは気に食わない相手とかは貴族の権力とか色んなものを使ってこっちを消しにかかってきそうだから気をつけないと
しかし治癒師の俺を探して来たって言ったな、もう少し詳しく聞いてみるか
「腕利きかどうかは自分ではハッキリ言えませんが、私がここで活動している治癒師のクロエです。私の治癒師として回復魔法が必要なのですか?」
「うむ、治してほしいものがあってな。このではなんだ、私の自宅へ来て欲しい。馬車を近くに止めてある、それで行くぞ。...断る理由はないよな?」
そう言うと同時に用心棒っぽいガタイのいい男2人が半歩前に出てくる
俺はチラリと後ろのノエちゃんとリナちゃんを見る、ノエちゃんは警戒心バリバリだしリナちゃんは未だに怯えている
仕方ないか、ここで俺が嫌だと言ったら周りに迷惑が及ぶ
今日治療を目的に来てくれた人には悪いが、今日は治療院はお休みになりそうだ
「わかりました、ついて行かせてもらいます。ノエちゃん、リナちゃん悪いけどテントの片付けとか来てくれた人への説明とかやってくれる?」
「う、うん。クロエさん気をつけて」
「あぁ大丈夫だよ。リナちゃんは無理だったら家に帰ってもいいからね?」
「だ、大丈夫です。クロエさん、気をつけてください」
そして俺は「じゃあ任せたよ、2人共」とだけ言い残してハリスたちについていく
ハリスの屋敷に行く、馬車の中での一コマ──
「貴様は無償で村人達の治療をしているらしいな」
「えぇはい...一応野菜や果物をたまに差し入れやお礼で貰ったりしてますから無料ではないですが」
「その心がけは関心だが、いかんぞ。無料でやっていたらやつら村人共に下に見られる。どうだ?これからは私の管轄の元で治療院を開いてみないか?」
「......すいませんが、利益のためにしてるわけでないので..提案してくれたことは大変嬉しいのですが、断らせていただきます」
「ふむ...ではまた考えが変わったら持ちかけてくれ」
握りこぶしがギチギチと鳴るほど、強く絞められる
俺は怒りを無理やり抑えて何とか穏便に済ませることが出来た...だけど、次に村の人たちのことを馬鹿にされた目の前の男を殴り飛ばしてしまうかもしれない
俺はこれ以上ハリスの話を聞きたくなかったから窓を外を眺め話を聞き流し適当に答えた──
そして馬車に乗ること30分ほど
「うわ、すっげ...」
窓の先から見えてきた豪邸に俺は身を見張る。流石は貴族様だな
「どうだ?我が邸宅は?」
「流石、といったところですね。すごいです」
「そうだろうそうだろう」
この30分間で一番長い返答にハリスは満足そうな笑みを浮かべる
ちなみに流石というのは流石の趣味の悪さですねって意味だから、別に褒めてないから
まぁ豪華なだけなのは認めてやろう
そして馬車の扉が開かれ、俺は促されるままに馬車を降りると──
「おい、馬と馬車をしっかり小屋に閉まっておけ」
「はい、わかりました」
「はやくしろ、よっ!」
「あっ──!」
7歳くらいの黒髪の女の子が御者に話しかけられ、手綱を受け取ろうとした時に御者に背中を蹴られ地面に転がされる
御者の男はそれを見て楽しそうにニヤニヤ笑っている
あの野郎......
「おいおい、早く立ち上が...いで、いてててててっ!!」
俺は女の子を無理やり起き上がらせようとした男の腕を無理やり掴む
「おい、いい加減にしろ」
「いてててててっ!!な、なんだよ!!」
「なんだよじゃないんだよ、今みたいなふざけたことをするのをやめろ」
「わ、わかった!!わかったから手を離してくれ!!」
男の骨が軋みをあげ始めたところで俺は男の腕を突き放す
そしてまだ立ち上がっていなかった女の子のそばにかけよる
「お嬢ちゃん、大丈夫か?」
「あ、ありがとうごさ...いたっ!!」
女の子は痛そうな顔をして膝に手をやる
俺も女の子の膝に目をやると膝小僧が擦りむけて血が流れていた
「大丈夫、これくらいなら...ほらね?」
「えっ...?」
俺は女の子の膝に手をやって「ヒール」を無詠唱で発動する
女の子の膝を光が包み込み膝の擦り傷を癒す
「さて、もう立てるかな?」
「は、はい大丈夫です」
そう言って女の子は俺と一緒に立ち上がる
「あの...お姉さんは?」
「ん?あぁ俺はここにお客さんとして来たんだよ」
「お、俺......?ってお客様?す、すいません!!私、こんな無礼な態度をとってしまって!!」
女の子は俺がこの家の客だとわかった途端に慌てふためる
しかしこの子も喋り方が丁寧だな、この世界の子供ってそんなもんなのか?もう少し無邪気さがあってもいいと思うんだが
「逆に聞くけどお嬢ちゃんはどうしてここに?」
「わ、私はここハリス子爵家に仕えさせてもらっています」
「その歳で働いてるのか、偉いね。それじゃあ...はい、ハチミツ飴。疲れた時に舐めると元気になるから...それじゃあ仕事頑張ってね」
俺はちょうどポケットに入っていたハチミツ飴を数個女の子に渡して頭を撫でて女の子から離れる
しかし頭をなでた時の毛のモフモフがよかったなぁ、あの犬耳がそのモフモフを生み出しているんだろう
.........犬耳?
俺はバッ!!と勢いよく女の子の方を再び振り向くと女の子の頭から二つの黒い犬耳がピョコピョコと動いていた
「わお...」
あれは...あれだよな、獣人だよな
回りを眺めてみるとあのこの他にも働いている人がいて、その中に何人か女の子と同じようにケモミミを付いている人がいる
ここはトリニティだから獣人があるのは当たり前なのか
「本当にあなたという人は素晴らしいクロエ殿。奴隷にもあのような態度をとるのだな」
「......奴隷?」
「珍しいものじゃないだろう、屋敷が広いぶん人手が欲しくなるからな目に見える外で働いてる者達は大体奴隷だ」
「そう、なんですか...」
奴隷か...そんな設定はあったし、そういうNPCもたまにいた
だがそれが現実としてこの目に映ることになるとはな...
「クロエ殿、それじゃあ屋敷の方へ」
「えぇ...はい、」
さっきの獣人の女の子が御者席に座り、馬車を動かすところを眺めながら案内されるがままに屋敷の中へと入る
◇
「飲み物は紅茶でいいかな?」
「はい、いただきます」
ハリスはメイドさんに命令して紅茶を持ってこさせる
そして紅茶が運ばれてきたら、人払いをして俺と二人きりになる
わざわざ人払いしたってことはそれなりに重要な話なのだろう
この場合は相手が話し出すのを待つのがいいだろう
「実は治してほしいものが二つあってな」
「二つ...ですか、それは一体?」
「一つは私のこと。もう一つは...おい、入っていいぞ」
ハリスの後ろにある扉が開き、高校生くらいの金髪の少女が入ってくる
彼女の特徴は可愛いと美人が綺麗に合わさった顔立ちで金髪ストレート、そして人形かと思うほどの無表情さ...そして最後に、耳が長い
もう一度確認の意味で言っておくか...耳が長い
だから多分──
「見ての通り彼女はエルフ、私が一番気に入っている奴隷だよ」
やはりエルフ...しかも奴隷エルフ、男の夢かよ
そういえば昔読んだ小説の奴隷エルフはくそ力持ちだったな、この子はそうじゃないことを願おうか
「それで...その子と、ハンス様はそれぞれどのような問題を抱えてるんですか?」
「まずこの子のことだが...見ての通り感情がなく喋ることがない」
「はぁ...喋ることです、か」
「あぁ私の元に来てもまったく口を利かなくてな、腕利きの治癒師を都市の方から連れてきたが治らず私の方でもあらゆる手を尽くしたが無理だった」
無表情で言葉を発さない...そうなるとこのエルフ美少女は...まぁそれは後でいいか
「この女の子についてわかりました。ではハンス様の方はどのようなものなんですか?」
「うむ...恥ずかしいのだが、ここの問題でな」
そう言ってハンスは自分の股間に目をやる
おいおい、まじかよ...
「私もそろそろ年だが...このような可憐な少女が目の前にいてなにもしないというのは男としておかしいと思うだろう?」
「据え膳食わぬは男の恥...ですか」
「うむ...そうだ」
大体は理解したが...とりあえず一番分かったことはこいつが高慢チキな変態野郎ってことか
要はこのエルフちゃんとやりたいから、自分の不能なアレを治してくださいってことだろ?
こいつは絶対治さないでおこう
だがエルフの少女の方は気になるから、この子だけ真面目に対処するか
「とりあえずハンス様の方ですが...」
「おぉ治せるのか!」
「えぇ、お身体の方は問題ありません。問題は心の方かと、さっきも仰られてましたが自分はもう歳、などと考えない方がいいかとでもっと自信をお持ちになってください。ハンス様はまだ現役なのですから」
「ふむ、私もまだ捨てたものではないということか」
俺は全力の営業スマイルで「そうですね」と答える
まぁ俺の治癒しセンスがホントはもう治らないと言ってるけどなら、知らない方が幸せなことがあるだろう
さて、次はエルフ少女だが──
「すいません、この子なんですが...一度私とこの子で二人きりにしてさせてもらいませんか?」
「それはいいが...どうしてだ?」
「女同士の方がこの子もリラックスできると思うんです...それにわかってあげられることも殿方とは違いますでしょ?」
「確かに、では1時間ほど私は席を開けとこう」
そう言ってハンスは部屋から出ていき部屋の外側にいた用心棒に誰もいれるなと行って去っていく
さて...それじゃあいっちょ話しますか
とは言ってもこの子は言葉を発せないからメニューのアイテム欄から紙とペンを出して
『私の名前はクロエ、あなたは?』
そう書いて女の子に提示する
だが女の子は差し出した紙だけをぼっと眺めているだけ
本当にただの人形みたいだ
仕方ない、だったら先に治してしまうか
俺は女の子の額に手をやり
「...『カースクリア』」
上位聖属性魔法「カースクリア」
まんま和訳すれば呪い除去
読んで字のごとく呪いを消す回復魔法だ
トリニティにおいて呪いとは他の状態異常とは一線を画すものだ
一度くらえば何も出来なくなる、しかも時間は無制限で他者による回復魔法またはシャーマンによる解呪の舞を受けないと治ることは無い
一応中位聖属性魔法「カースディバイド」って言うのもあるんだけど、これは3人で同時に使わないと解呪することは出来ない
それほどこのトリニティという世界では呪いは恐ろしいというわけだ
そして「カースクリア」を受けた彼女は数秒痙攣したあとガクリとうなだれる
意識を失ったみたいだが...
「おい、起きろ...おい」
「んっ...うっ...あー...」
俺が肩をゆらして呼びかけると女の子は目を覚ます
「目覚めたか?」
「どう、して......?」
「ん?」
「どうして...治しちゃったのよ...」
「.........は?」
エルフの少女は苦しそうな顔をしながらも俺に怒りを顕にして睨みつけてくる
治してやったのにどうしてこんな睨まれなきゃならんかね、まったく
「落ち着け...とりあえず水でも飲め」
俺はアイテム欄から水差しとコップを取り出して、コップに水を入れて女の子の前に出す
「そんな、怪しい水なんて...飲めないわ」
「警戒心の強いことで、」
俺は仕方ないので自分で飲む
出された紅茶は怪しくて口つけてないんだよね
一応毒が効かない体質だが、それはそれで毒が効かなかった時色々怪しまれるからな
「あいつは...どこに?」
「あいつに?あぁハンスのことか、今はいない。お前と俺でふたりきりだ」
「お前と......おれ?」
「あー......気にするな、とりあえずお前が呪いを受けていた事情を聞かせて欲しい」
ちょっと気を抜くといつもの口調に戻ってしまう
最近はなれてきて気をつけてるけど、何故かこの少女の前では素でいてもいいと思ってしまうんだよね
「あの男の味方じゃない。出来れば殴り飛ばしたいと思ってるくらいだ、安心してほしい」
俺は両手をヒラヒラして無害であることをアピールする
俺は信じるかはこいつ次第だ
そして十秒ほど互いに黙った後に
「私は...私は自分を守るために呪いを、かけてもらったの」
「呪いをかけてもらった?」
「えぇ誰かに捕まった時に、精霊にお願いしたの。奴隷になって誰かになにかされるくらいなら感情を失って自分を消したいからお願いって、」
なるほどね、精霊か。なんともエルフらしい
だが精霊を使役できるのは中級職の各属性の「ソーサラー」もしくは全ての属性の精霊を使役できるの上級職の「エレメンタルソーサラー」だけだ
しかも呪いとなるとできるのは闇の精霊の使い手だ、ソーサラー系職業の中でもなるのは最高難易度の職業だ
この女の子がそこまでものには見えない
しかし自分を守るために呪いをかけられることはねがうとは、随分とまぁ無茶をしたものだ
それに誰かに捕まった...こいつは攫われて奴隷されたってことか
なんか足突っ込んじゃいけない所に突っ込んじまったみたいだな
「...あなたはその呪いを破った、どうしてくれるの私はこれまで耐えてきたというのに!!」
少女がダンッ!!と机を強く叩いて怒鳴る
その時チラリと腕の肌がチラリと見えたが、あれは──
「クロエ様、どうかされましたか」
「いや、問題ないです!!今取り込み中だから絶対に入らないでください!」
俺は人差し指を立てて静かにすることを促して、外にいる用心棒に答える
俺は入ってこないことを確認する
「バレたくないならもう少し静かに話せ」
少女はさっきより真剣な顔をしてこくこくと頷く
「お...じゃなくて私の名前はクロエ、治癒師をやっている。君の名前は?」
「私の名前はミーシャ、」
「ミーシャか、色々聞きたいが...その前に左腕を見せてくれ」
俺はミーシャの左腕をとって袖をまくらせる
そこには自然にできたとは思えない綺麗な長方形状の火傷あとがあった
やはりな、さっきチラリ見えたのは間違いなかったか
「これは?」
「これはあいつらにつけられたのよ、呪いを受けてる間はなにも感じないけど思い出しただけで痛みを感じるくらい...」
「あいつらってハンスたちのことか?」
「そうよ、あいつらは私に焼きごてを当て何が何でも声を出させたり、痛がらせようとしたのよ。私は呪いで何も感じないから、アイツらは何度も...」
ミーシャは左腕を抑える代わりにお腹を抑える
何度もということは左腕の火傷あと以外にもあるってことか
しかしミーシャをあんな大事そうにしておきながら、傷つけるとは
後で治せばいいとでも思っていたのだろうかまたはそういう趣味があるのだろうか、どちらにしろクソ野郎だな
「とりあえず、その火傷あとを全部消すから」
俺はそう言ってさっと左腕の火傷あとを「ハイヒール」で消し、消せることを証明する
「うそ...すごい、あなたは何者?」
「ただの治癒師さ、ほら詳しい話を聞きたいからちゃっちゃと他のところも見せなさい」
「ただの治癒師がこんなこと出来るわけ...ちょ、ちょっと脱がさないでっ、じ、自分で脱ぐから...!」
なんだろうこの子、スッゴイいじりがいがある気がする
そして4箇所についていた火傷あとを全て綺麗にする。乙女の柔肌を触ってしまって申し訳ないがその肌が元通りになってくれるなら安いものだろう
「──で、聞かせてもらおうかなんでミーシャは奴隷に?」
「それは...私も聞きたいわ。私は故郷の国でひとりでいる所をいきなり襲われて...気づけば馬車の中だったわ。...その馬車の中には私以外にも何人かの女の人がいて、その時にあぁ私は奴隷にされるんだってわかって...その直後に呪いにかかりたいと願ったら精霊が気まぐれで私に呪いをかけてくれたのよ」
「それで、結局ここに行き着いたわけか。攫われたのはいつくらいだ?」
「......さらわれたのは一年くらい前、ここに来てからは大体半年くらい」
「思ったよりここにいるんだな」
「えぇ最悪の半年間と言って過言じゃないわ」
「唯一の救いはあいつが不能だったことか...」
あいつの不能は絶対治らないが、根本的な解決になるわけではないか...
「お前はいわゆる違法奴隷とか言われるヤツなのか?」
「そうよ...私、と言うよりここにいる女性の奴隷はほぼみんな違法の奴隷、あいつが気に入った村娘とかを連れてきては無理やり奉公という形で奴隷にしてるのよ。あいつ私に感情がないことをいいことに酔って何度かべらべら喋っていたわ」
「......まじかよ」
それだけしかいい残こして俺は唖然としてしまう
確かにここに来た時あいつが奴隷と言っていたのは全て女性だった...もしかしたらあの犬耳少女もか
だとすると、色々と変わってくるな...俺はほんとにとんでもない泥沼に足をつっこんだな
「お願い...もう呪いが解けてしまったから私は危ないから...だからお願い、助けてよ」
「助けろってお前な...どうしろってんだよ、」
全員ぶっ倒して連れ出せと言われれば出来るが...それは後々絶対問題になるから無理だ
だが小心者の俺がここで何もしないで見て見ぬふりをしたら...絶対これからの人生でそのことを後悔し、自分を責め続ける事になるだろうな
過去の失敗をずっと引きずるのが俺の悪いところだからな
小学生の頃、自分の何気ない一言で友達を傷つけてしまったことを今でも思い出して悔いてるくらいだからな
「クロエ殿、1時間たったが...入っていいかな?」
ノックの音と共にハンスの声が扉の向こうから聞こえてくる
まずいな...作戦が一つしか思い出せない...
「ちょ、ちょっとどうするのよ...!」
「静かにしてろ!!俺に考えがあるから安心しろ」
「考えってなによ...!!」
「色々だよ...なぁ、なんかハンスを脅す話題って知らないか」
「話題...?」
「そうだ、なんかないか?」
「え、えっとこの屋敷はあいつが奥さんに秘密に立てた別荘で、奥さんにバレないかいつもビビってるわ...ってなんでこんなこと聞くっ──」
「いい情報だ...とりあえずお前は気絶してろ、「マインドショック」」
バチッ!!と一度だけ閃光が俺の指先から走り、ミーシャは気絶する
中位聖属性魔法「マインドショック」
聖属性魔法唯一の攻撃系統の魔法、これをくらった相手は一定の確率で気絶状態におちいる
ダメージは無いため本当に護身用の魔法というわけだ
久しぶりに使ったが初めて使えて良かったと思う
机に乗り出していたので俺は受け止めソファに寝かせる
「クロエ殿、大丈夫ですかな?」
「え、えぇすいません...集中していたもので」
俺は額から流れる汗を拭って笑顔をつくろって答える
「それで彼女の方はどうでしたかな?」
「はっきり言うと彼女の病は治すことは可能です」
「それは本当か?では既に彼女は?」
「いえ、治療にはしばらくかかります...ですから1週間ほど彼女を預かってよろしいですか?その間私がつきっきりで見させてもらいますから」
「ふむ...それならばクロエ殿が我が屋敷に滞在していただければよろしいのでは?」
「あ、えー...実はですねぇ...そうっ!!秘伝の技術や門外不出の治療術などがあるためおいそれと人に見せることは出来ないんですよ」
「ふむ...そういうことですか、ならば1週間ほど彼女を預かってもらいましょう」
「すいません、ありがとうございます」
よし、これでとりあえず1週間ミーシャを保護できる
だけどこれじゃあ根本的な解決になっていない
だからここで俺は──
「一つ提案があります、ハンス様」
「ふむ、なんだ?」
「えぇ実は...あなたがここで雇っている奴隷を私に譲っていただけないかと......決闘で、」
「......貴様、何を言っているのかわかっているのか?」
俺が提案を出した途端ハンスの顔が厳しくなる
おー怖い怖い、さっきまでクロエ殿だったのにいきなり貴様呼ばわりかよ
「わかりますよ、非常に使えそうな奴隷が多いですから。それにこのエルフも...まだ純血を散らしていない状態でしょう?ならそれなりの価値が出る」
自分でもゲスいなぁ、とか考えながら俺ははなしをつづける
「これは...脅しでは無いのですが...この屋敷のことを奥さんに...ポロッと話してしまうかもしれませんねぇ」
「な、き、貴様なぜここが別荘だと...」
「偶然耳に入ってしまってね...大丈夫ですよ、私の話をしっかり聞いてくださればばらしたりしませんから」
「貴様.........わかった、話を聞こう」
よーし、かかったかかった
どんだけ奥さん怖いんだよ、やめときゃいいのに
「私は私が決闘に買ったらハンス様にここにいる雇っている奴隷全てを私に譲ってほしい」
「そんなふざけた事を...貴様はそれに見合うものを賭けにだせるのか?」
「えぇ、出せますとも」
「それは...?」
「私が賭けるのは私自身...決闘に負けたら、私の全てをあなたに譲ります。心も......身体もね?」
俺は少し身体を前かがみにして、胸を寄せる
なんかやっててとても虚しくなります...。
だが相手の反応は上々俺の胸見てハンスは唾をごくりと飲んだ
我慢だ...我慢だ俺...
「本当に...貴様を我がものにしていいのか?」
「えぇ私が負ければ私はあなたのものとなりましょう」
「それは.........ふむ、確かに決闘をする価値がある」
かかった──
まさかほんとにかかるとはな、馬鹿なやつだ
「では、どうでしょう。あなたはあなたが所有している奴隷全て...私は私自身をあなたに...勝敗は決闘で決めます」
「その決闘に出るものは代理でもよいのか?」
「えぇかまいません。ですが私は私が絶対に出ます、神に誓っても」
俺は不敵に笑い、ハンスは「ふむ...」と言って思案する
「わかった、その決闘を受けよう。...日にちはちょうどいいその子を迎えにいく1週間後でどうだ?」
「えぇそれでかまいません、ではお願いします」
「奴隷を助けるために自分をかけるとは本当にあなたは素晴らしい人です......ですが、少し自信過剰すぎますね」
「いえいえそんなことは...」
俺が出ると聞いた瞬間に余裕な顔し始めたからな
勝てるとふんでるのだろう、まぁ油断してくれてるほうがありがたい
そして俺はハンスによって用意された正式な決闘を開くための書類にサイン書き、気絶しているミーシャを連れて村へと戻った