ネカマな俺と異世界 その2
よろしくお願いします
お山はすごかった、その一言に尽きる
パルテノン神殿を建設した古代ギリシャ人もびっくりの黄金比率を奏でていた
だが悲しきかな、自分の身体であるのかまったく興奮しなかった
うわ、すっげぇ綺麗だな。と素晴らしい美術品を見ているような感動しかしなかった
あの緊張の時間はなんだったと嘆息しながら俺は部屋を出る
「あ、お姉さん」
「クロエちゃん、体調は良くなったの?」
部屋から出て話し声が聞こえるところに向かってみたらリナちゃんとサナさんがいた
そして俺はあの部屋を出る前に一つの決まり事を作っていた。それはなるべくじぶんのことを「私」と呼ぶことだ
ゲーム内のチャットなのでは一人称は「私」だったので特に違和感はないし、クロエの姿で「俺」と呼ぶのは俺としては何か受け入れられないものがあるからだ
タダのくだらないこだわりだが、俺にとっては捨てられないこだわりだ
それに女性らしい喋り方はネカマライフでしっかり培っているからな
「はい、おかげさまでよくなりました。さっきはすいませんでした」
「いいのよいいのよ、あんな嵐の中倒れてたんだからゆっくり休んだほうがいいに決まってるもの」
「ありがとうございます、でも少しも横になったら良くなりました。あ、これ着替えなんですが」
俺はそう言って畳んだただのシャツとただのズボンをサナさんに渡す
「あら?言われてみれば着替えてるわね。あ、もしかしてあの部屋に置いておいたクロエちゃんのカバンに気づいた?」
「カバン......あ、はい、そこから私の着替えをとりました」
全然知りません、まぁ後で調べればいいか
ここで「知らないです」なんて言ったらどうして着替えてるんだって話になるからな
「でも、その服もクロエちゃんが元々着ていた服だから気にしなくて大丈夫なのよ?」
「あ、そうなんですか...」
確かにゲーム開始時の初期装備はただのシャツとただのズボンだった気がするな
だったらこれは後でアイテム欄にしまうとするか
「あ、クロエちゃん、クロエちゃんが休んでいる間に夫とこの子と話して決めたんだけどね」
サナさんがそう話を振ってくる
まて、これは「流石に何日間もいられたら邪魔だから明日には出てってちょうだい」と普通に笑顔で言われるのか!?
笑顔でそんなこと俺は言われたくないぞ!!
「クロエちゃんがよかったらしばらくうちに暮らさないかしら?ほら、クロエちゃんは記憶がなくなっちゃってるっぽいし、色々と大変でしょ、それにこんな綺麗な子を一人にできないし」
「すいません、すいません!!すぐに荷造りして出てきたますから!!.........あれ?お世話になっていいんですか?」
「当たり前よ、リナもクロエちゃんのことが好きみたいだし...夫の足を治してくれたお返しも兼ねてるしね。あ、もちろんクロエちゃんが嫌だったら別にいいのよ?」
「全然嫌じゃないです!!むしろこっちからお願いしたいです!!」
まさかの展開!!まさかこちらからお願いする前に許可してくれるとは!!
「うふふ、じゃあ決まりね。そのままあの部屋を使ってくれてかまわないからね」
こんな都合のいい展開になるとは、善意でやったとはいえあそこでキースさんの足を治してといてよかったな
「クロエちゃん、ここが我が家だと思ってゆっくりしてくれていいからね」
「ありがとうございます。でもただここでお世話になってるわけにもいかないので手伝えることはありませんか?」
「いいわよ、いいわよ。クロエちゃんは病み上がりなんだしゆっくりしてた方がいいわよ。あ、そうだ夫にこのことを伝えに行くついでにリナがこの村をクロエちゃんに案内するのはどうかしら?」
「えっと.....私はリナちゃんがいいならいいですけど」
「私は全然いいですよ、お姉さんとお話してみたいと思ってましたから!!」
そして「それじゃあ決まりね!」というサナさんの締めの言葉で俺はリナちゃんに村を案内してもらうことになった
さて、案内してもらう前に調べないといけないことがあったから、俺はこれから泊まらせてもらう部屋に一旦戻る
リナちゃんも準備してくると言っていたのでちょうど良いだろう
例の俺が持っていたバッグとやらを調べるためだ。一体どんなものか調べておいた方がいいだろう
「バッグはどこじゃろなぁ〜...お、これか?」
ベッドの脇のところに肩掛けホルダーが置いてあった
確かにちらほら視界に入ってたな、自分のじゃないと思って気にしてなかった
「さてさて、何が入っているのやら」
俺はゴソゴソとカバンの中のものを出すと
「財布に、ナイフが3本...折りたたまれた何かに、水筒...これで全部だな」
とりあえず得体の知れないものもあるから確かめないとな
道具をアイテム欄にしまいたい時は念じればしまえることがわかっているので
俺は一つずつ道具を念じてしまっていく
「メニューからアイテム欄を開いて...」
俺は「メニュー」と唱えて、タッチ画面を操作する感覚でアイテム欄を開く
そしてソート機能を利用して、表示するアイテムの順番を手に入れた順に設定する
そしてアイテムを一つずつ選択していく
選択されたアイテムはそのアイテム名とアイテムについての説明を画面に表示してくれる
「ふむ、財布はただの財布みたいだが、中身を調べるという項目があるからチェックするか...」
そして財布の中身を調べてみると──
「ふむ、お金が少々、これはメニュー画面に移して...次はギルドカードとステータスカード...気になるな」
気になったので目の前に召喚する
「こっちの青いカードがギルドカードで、こっちの白いカードがステータスカードか...ふむふむ...」
ギルドカードは存在だけは知っている
治癒師ギルドに入った時にもらったカードだ
いわゆるストーリーアイテムという処分不可能なアイテムの一つだ。これがあると治癒師ギルドの施設を利用することが出来る
そこにはクロエの名前と年齢、治癒師としての称号、そして治癒師ギルド3か条というモノが最後に書かれいる
そしてもう一つは俺が知らないステータスカード
そこには名前と年齢、職業、そして俺の現在のレベルなどのステータスが書かれていた
免許証にステータスが追加されたみたいな感じだ
「プラスチック製な感じがする、かなり丈夫そうだな」
俺は少し曲げたりしながらカードを確認する
「んじゃ、次は...あぁさっきの短刀は投擲用の投げナイフだったか」
投げナイフはいわゆるRPGゲームである固定ダメージを与えるアイテムだ、当てると相手のヘイトをこちらに向けることが出来る
ちなみに「トリニティ」だと人間に投げて頭に当たれば即死させることが出来る
「んで、次はマジックテント...あれマジックテントだったのか」
マジックテントというのはフィールド内でもゲームをセーブして終了できるギルドカードと同様のストーリーアイテムの一つだ
ゲームだと投げるとテントになるんだったよな?今度広い場所があったら試してみるとするか
「そして最後は...ただの水筒と...」
最後の最後で普通のやつがきたね
全然文句とかはないんだけどね
「よし、確認が終わったしそろそろ行こうかな」
ステータスカードについてはリナちゃんに聞いてみるかな、あの子12歳なのにすごいしっかりしてるし知ってそうだよね
「あ、クロエさん準備できましたか?」
「うん、少しだけ荷物を整頓しただけだから」
「それじゃあ行きましょうか!」
さてさて、村の探検に行くとしましょうか!!
「クロエさん、何か自分のことを思い出したりしましたか?」
「ん?あぁそうだねぇ...」
村の中を案内してもらっている最中にリナちゃんが俺にそんな話題を振ってくれる
「色々と思い出したこともあるよ、自分がパラ...いや、治癒師だってこととか...あ、気になったんだけどリナちゃんはこれ知ってるかな?」
パラディンっていうと何か問題が起こりそうな予感がしたので俺は治癒師と言っておくことにした
そして俺はポケットからステータスカードを取り出して、リナちゃんに見せる
「あ、それはステータスカードですね!私も持ってますよ、ほら!」
リナちゃんが俺とそっくりなステータスカードを見せてくれる
Lv.5...職業は村人か、そこら辺は普通だな
リナちゃんは普通なんだよな...ということはLv.200の俺は(正確にはLv.1だけど)、もしかして...いや、考えない方がいいだろう
「これってどんなものなの?」
「これは誰でも持ってる物なんですよ、生まれた時に教会に行くと神様がくれる物なんです。憶えてないんですか?」
「うん、残念なことに憶えてなかったなぁ...」
神様がくれるのか凄いな、おい
しかしこれは俺の知らないものだな、やっぱりゲームの「トリニティ」とは違うところがあるだろうな
「もしかしてあれのことも忘れてるかも...てこれ凄い面白いんですよ!こうやって地面に置いてですね、ついてきて下さい!」
「え、ちょっと?これいいの?」
リナちゃんは「いいんです、いいんです!」と言って!自分のステータスカードを地面においてそのまま行ってしまう
とりあえず何らかの意図があって置いたわけだから俺もついていこう
「ここら辺でいいかなぁ...」
「リナちゃん、ステータスカードはいいのかな?」
「ふっふっふ、来ましたよぉ......じゃーん!」
「ステータスカード?え、いや、でもさっき...あれ?」
さっき地面に置いてってたよな?地面に落ちている姿を俺は何回か後ろを向いて確認したから間違いない
「すごいですよね!このステータスカードは落としたりなくしたりしてしまってもすぐに持ち主のところまで戻ってくるんです!!」
「戻ってくるの?」
「はい、どこからともなく現れるんです!なんでも、神様の加護がついてるからなんですって、教会の神父さんが言ってました!」
つまり戻ってくる仕組みは詳しくは知らないということか
しかし神様から与えられるか
なんか神という見えない存在が世界を管理しているとか壮大な秘密とか無いんといいんだが...それは俺の考えすぎか
「はい、とりあえず村の中は1周しましたね!どうでしたか?」
「のどかでいい村だよね、みんな私に優しく接してくれたし」
「はい!みんな優しくていい村です!!」
村の全体像はゲーム時代の「トリニティ」と大差はなかった
俺の知っていることと違うことと言えば、村にある家がログハウスのような丸田を組んだ家であったことだろうか
ゲームの時はもっとしょぼい感じの家だった気がする
村の周りの地形とかはなんか変わってたりするのかな?リナちゃんに聞いてみるかな
「ねえ、リナちゃん村の東側ってもしかして海岸があるの?」
「はい、海岸がありますよ!あ、でも近づかない方がいいですよ、危険なモンスターが出ますから」
お、これは俺が知っている「トリニティ」と同じだな
モンスターが出てくるとこも変わってないな
アークイルの東側にある海岸はいわゆる初見殺しのフィールドなのだ
なぜか始まりの村の近くのステージなのに出てくるモンスターのレベルは中盤ぐらいの強さに設定されている
確か海岸の近くに洞窟があって、そこになんかレア装備が置いてあるんだよな
結構昔のことだからなにが手に入るかまでは覚えてないな
村を見て回ったり、話を聞いた感じだ大幅な地形とか場所は変わってないってことか?
......いや、待てよイーストトリニティ大陸とか言ってたよな
まるで大陸が複数存在していることを示唆する名称だよな
イーストがあるってことは、ウエストトリニティもあるよな...もしかしたら、ノースもサウスも存在するかもしれない
これもリナちゃんに聞いてみ──
「そろそろお父さんの畑の近くですよ...あ、いた!おとーさーん!!」
リナちゃんが手を振りながら走って行ってしまった
「聞きそびれてしまったか....」
とりあえずリナちゃんがあんなにダッシュしたから確実にバスケットに入っているお昼ご飯はぐちゃぐちゃになってるだろうな
俺たちのお昼ご飯も入っているんだが...
「お、クロエちゃん、元気になったのかい?」
「はい、おかげさまで、お仕事お疲れ様です」
俺も走っていったリナちゃんのあとを追って2人の元へ行く
「お父さん、実はね、クロエちゃんがしばらくうちに泊まることが決定しました〜!!」
「おぉ!それは本当かい?」
「はい、しばらくの間ですがお世話にならせていただきます」
「いいさ、いいさ。こんな美人な子がうちにいてくれるだけで俺は嬉しいからね!」
「ちょっとお父さん!!そういうこと次言ったらお母さんに言うからね!!」
リナちゃんの見事なツッコミにたじろぐキースさん
「すいません、お父さんが馬鹿なことを言って」
「いいよ、いいよ、気にしてないから」
ゲームやってた時なんか顔見えないチャットなのにまじできもい連中とかいたからな
「今度オフ会やらねww」みたいな感じのやつな、どんな目的か想像つくわ!って感じだよ
それに比べてキースさんのは場を和ませるためにいうジョークみたいな感じのヤツだったから嫌悪感がまるで無かった
......まずいな、女キャラになり切ってるから考え方も女になりつつあるぞ...気をつけないとな
「あ、そうだ、お昼ご飯持ってきたよ」
「お、確かにそんな時間だな。リナもクロエちゃんも一緒に食べていくかい?」
「どうするお姉さん?」
「リナちゃんがよかったら、私はここで食べていきたいかな」
お腹も減ってるし、それにこうやって青空の下でお昼ご飯を食べるなんて久しぶりだからな
そしてリナちゃんもここで食べたいというので俺たちは畑近くの野原でお昼を食べることに
俺の心配はただの杞憂だったようでお昼ご飯はサンドイッチだったのでグチャグチャにはなっていなかった
俺はお昼の話題ついでにこの村についての話を聞くことにした
「このアークイルの村は、アーロン子爵家の領地の村の一つなんだ」
「アーロン子爵家...?」
「聞いたことないかい?」
「えぇすいません、初めて聞きました...」
この「トリニティ」には貴族がいるのか...
ゲームの「トリニティ」には王様はいたが、貴族なんていなかった
ここでもゲームの時との違いが出てきたか
「クロエちゃんはこの国の名前ももしかして知らない?」
「国の名前.....トリニティではないですよね?」
「違うよ、ここは国名前はサルディア、東の国サルディア帝国と言うんだよ」
予想通り知らない名前だったか
東の国ということは西の国も存在するんだろうか?
俺が聞く前にその疑問にはリナちゃんが答えてくれた
「このイーストトリニティには私たちが今いる東の国サルディア帝国に加えてもう2つ
西の国ガルディア王国、そして大陸の中央に位置するファウスト共和国があるんですよ」
東の国サルディア、西の国ガルディア...何だか似たような名前でございますね
そして中央に位置するファウスト共和国...ゲームではトリニティ三大都市の一つだったファウストはこの世界では一つの国になっているのか
しかも共和国ということは王様や貴族がいない国だと考えられるな
「そういえば、クロエちゃんは結局治癒師だったのかな?」
「あ、はい、私は治癒師です...ギルドカードを持ってました」
俺はポケットから治癒師ギルドのギルドカードをキースさんに見せる
「おぉ、だったらファウスト共和国に行ってみればいいんじゃないかな?あそこなら治癒師ギルドの本部があるから、もしかしたらクロエちゃんの詳しい素性がわかるかもしれないよ」
「えっ、治癒師ギルドの本部はセンターコアにあるんじゃないんですか?」
「センターコア?...それはセンタートリニティ大陸にある街の名前じゃなかったかなぁ...リナは知ってるかい?」
「うん、エルフ族の国の都だよ、お父さん。昔絵本で読んだ気がする」
エルフ国の都...やばい、エルフいるのか
ってことはドワーフや巨人とかの魔族もいるのか
すごい会ってみたいな、とりあえずエルフとドワーフ...それにいるなら獣人だけには絶対会いたいぞ
「でも、別に本部に行かなくても治癒師ギルドの支部でも何かわかったりしないかな、お父さん?」
「あぁ確かにそうだ、んー...ここで治癒師ギルドみたいな大きなギルドの支部がある街は...クロイスかなぁ...」
「クロイス?」
「あぁこの街から...大体徒歩で1ヶ月くらいかかる所にある街かな」
徒歩で一ヶ月って...そりゃきついな
ちょっと気が滅入るぞ
とりあえずは中途目標としてクロイスを設定するのは悪くないかもしれないな
でも今はお世話にならせてもらえることが決まったからゆっくり考えるとしよう
しかしこのサンドイッチうまいなぁ
これが手作りの味か、長らく食べてない味だ
その後も色々と話しをしながら昼ごはんを食べ、話の流れで俺は畑仕事を手伝わせて貰うことになった
農業体験は小学生の時以来だ
今は耕作期ということで収穫期を終えたあと再び畑を耕している作業中らしい
耕作機とかはないから、鍬を使って地味にやっていくしか方法がない
というわけで俺も鍬を装備してみました
確かゲーム時代は攻撃力15ほどの武器だった気がするな
メニュー画面で確認できるだろうけど、人前で見るわけにはいかないのでいつかこっそり見てやろう
よーし、畑作業を頑張っちゃ──
「ひゃうんっ!?」
俺は慌てて自分の口を手で抑える
なんて声を出してるんだよ、俺は!!
まんま女の子の...あぁ身体は女だったか
しかし今なんかお尻を掠めていったぞ...
「なかなかいい尻をしているのぉ、お嬢ちゃん」
俺は慌てて後ろを見ると一人の農作業着を着た爺さんがいた
もしかして爺さんが今俺の尻を触ったのかな...?
「しかしプリプリでいい尻をしておったな」
爺さんが手のひらで弧を描いていた
やはりこの爺さんが俺の尻を触ったのか
「ちょっとおじいちゃん何してるの!!」
今度は高校生くらいの年頃の茶髪の女の子がやって来る
この子もオーバーオール風の農作業着を来ている
「ノエ、こんな美人さんを前にして尻を触らぬ男はおらぬぞ?」
「それはただのセクハラよ!!ごめんなさい......あれ?見ない顔...うわ、ほんとに綺麗な人...」
ノエという名前らしい女の子は俺の顔を見てビックリみたいな顔をする
そんな美人かい?まぁクロエの顔ですから、当然でしょう
「あれ?ログ爺さんにノエちゃんじゃないか」
「あ、ノエお姉ちゃん!」
「およ?キースさんにリナ?この美人なお姉さんは2人の知り合い?」
「そうだよ、彼女はクロエちゃん...ログ爺さんにはさっき話したよ、ほら俺の右足を治してくれた人だよ」
「あ、ほんとだ!キースさん足治ってるじゃん!!」
ふむ、このセクハラ爺さんと女の子は二人の知り合いなのか
そりゃ同じ村に住んでる知り合いに決まってるか
むしろこの空間じゃ、俺が異様な存在なんだだ。しっかり挨拶をしないとな
「こんにちわ、クロエと言います。わけあってキースさんたちの家でお世話になっています」
「あ、私の名前はノエ、よろしくね!」
「わしの名前はログじゃ、ログ爺とでも呼んでおくれ」
「ノエちゃんはログ爺さんのお孫さんなんだよ」
セクハラ爺さんがログで、女の子がノエか
よし、覚えたぞ
キースさんやリナちゃんの家でお世話になるからにはしっかりほかの村人とも友好な関係を築かないといけないからな
「よろしくお願いします、ログ爺さんノエさん」
「クロエさんは私より年上だからノエでいいよ」
「じゃあよろしくノエちゃん...これでいいこな?」
ノエちゃんは「OK、OK」と答えてくれる
こうやって気軽に接してくれると俺としては気が楽で非常にありがたい
「でキースさん、クロエさんがキースさんの足を治したってのは本当の話なの?」
「本当だよノエちゃん、ほらほら」
「おぉすごいほんとじゃん!ねぇどうやって、どうやって治したの?」
キースさんが右足をプラプラさせて完治していることを証明して、ノエちゃんがそれを見て驚いている
そしてキースさんが自分の右足が治った経緯を説明する
「え、クロエさんは治癒師なの?」
「まぁ一応はそうだよ」
「じゃあさ、こういう傷跡も治せちゃったりするの?」
ノエちゃんがズボンの裾をまくって膝を見せる
「子供の頃にできちゃった火傷跡なんだけどさ、治せたり出来るかな?やっぱ傷じゃないから無理かな?」
「いや、これも治せると思うよ」
キースさんの時と同様にどうしてか治せるとわかる
いわゆる治癒師センスが反応しているのだと思う
俺は屈んでノエちゃんの肘近くに手をかざす
「ヒール...うん、治ったね」
ただの傷跡だったからか知らないけど、最下級のヒールで治せたな
「うわ、すっごい!ほんとに治ってる!おじいちゃん、見てよ!!」
「ほぉ...これは驚いたの」
ノエちゃんは肘付近の消えた火傷跡をログ爺さんに見せて、ログ爺さんはそれを見て驚いていた
ノエちゃんの喜びようはすごいものだった
俺たちからちょっと離れた所で農作業をしていた他の村人達にも見せて回っていた
確かに女の子としたら、あんな火傷跡があったら嫌だもんな
俺自身今の現状が全然掴めて状態ではないけど、こうやって人を笑顔にできるということならとても嬉しい
「ありがとのう、クロエちゃん...お礼にお尻をもう1度撫でてあげようか?」
「いや...それは結構です」
俺は両手をそっとあげて拒否の意思表示をする
この身体は何人足りとも触らせないぞ!!というかセクハラは禁止だ!!
「だが実際何かお礼をした方がいいのじゃないのかのぅ...治癒師の治療は結構高額なはずじゃ」
「そうなんですか?」
「うむ、だからお礼はしなければならぬと思うのじゃが...」
「あー...いや、そういうのはいいですよ。しばらくこの村でお世話になるんですから、これを機に仲良くしてくれたら私は嬉しいですから」
我ながら心の広いことを言った気がするな
だけどこういう所で金とか物とか要求しても印象悪いだろうからね、言った通りしばらくはこの村で時間を過ごすんだから印象はいい方がいいに決まってる
しかも俺自身は消費してるのはMPだけだし、ノエちゃんが喜んでくれた分俺としては得した気分でもあるから全然構わない
確かにゲームの時にダメージを受けてるNPCとかを回復魔法で治療したらマネーを貰ったりしてたけど、そんなに高額だったかな?
別に俺は無料で治療すればいい話か
でも他の治癒師とかに会ってみたいけどなぁ
まぁそれはいつか行くであろう治癒師ギルドにいけば必ず会えるだろうから別にいいか
「うむ、なにか困ったらわし達を頼ってくれ。キースよ、このお嬢さんを丁寧に扱えよ?」
「わかってるよログ爺さん、俺も絶対に治らないと思っていた足を直してもらったわけだからね」
「ログ爺さんも何か治して欲しい怪我とかあったら言ってください」
「ふぉふぉふぉ、だったら若き頃の精力を...」
ログ爺さんは絵に書いたようなエロ爺さんだな、悪い人ではないだろうけどね
でもログ爺さんは普通に健康だな、俺の治癒師センスに特に反応がないから怪我とかないんだろうな
治癒師センスがほんとにあるかどうかは微妙な所なんだけどな
そして火傷跡が消えたのを自慢していたノエちゃんが戻ってきたあと、ノエちゃんとログ爺さんも俺の畑講習会に参加することになった
本格的な畑仕事は結構楽しみ──
「逃げろ!!オオイノシシが出たぞぉ!!」
誰かの叫び声が鳴り響く
俺の畑講習会に招かれざる客が来たのだった
お読みいただきありがとうございます