表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魅惑の出来ない淫魔令嬢  作者: 葛餅もち乃
1部(完結)
8/55

8:学園生活 Ⅰ

 ライラの予感は的中していた。

 左隣のレオナルドは終始不機嫌さを隠さず、ライラが視線を向ければ背中に殺気を放つ。その様子を見ているクラスメイト達はライラを遠巻きにしている。右隣の男子生徒も、前の席の女生徒も、極力ライラと関わらないようにしているのだ。白い目で見られている訳でなく、関わり合いのない者として扱われている。

 ぼっち確定であった。


(に、逃げ出したい……。でもこの雰囲気、不幸中の幸いと言うか、避けられてはいるけど危害を加えようとか、そういうのは感じない。こんなことにめげず頑張らないと……これまで屋敷でぬくぬくぬくぬくと育ってきたんだから。友達が出来なくたって、別に、いいじゃない……)


 ライラは自分で自分を鼓舞していた。

 授業が始まれば授業だけに集中し、休み時間には教科書を読んでおく。ちらり、と周囲の様子を窺い、空気のような存在になっている自分を認識する。左隣を見ると、すぐさま殺気が放たれるため、急いで目線を教科書に戻す。


(あの人、背中に目でもついてるみたい。私が見るとすぐ気付かれる……強い人ってそうなのかな? 兄様達はすごいけど、あれは変態だからだと思ってた……)


 兄達への認識を少し改めながら、ようやく午前中の授業が終わった。となると昼休みである。ライラはお弁当箱の入った鞄を持つと、誰より早く教室を出た。中身がシェイクされない程度の小走りで、森の方へ向かう。

 学園の敷地の中でも外れにあるその場所は誰もおらず、ライラはようやくほっとした。特にベンチ等はないので、誰かがやって来ることもないだろう。ここに来た理由は一人きりになりたいのと、友達になった水色狼と会いたいからだ。

ライラは昨日出会った辺りに立ち、森の方へと叫ぶ。


「狼さーん!」


 森の奥は昼でも暗く、ざわざわと木々が揺れる音が聞こえるだけだ。狼はそのうち来てくれるかもしれないと思い、大きなハンカチを木の根っこの上に広げて座った。教室では緊張して固くなっていた体をほぐし、ヨハンお手製のお弁当箱を開ける。


「わー美味しそうー。ヨハンありがとうー」


 と、一人で呟いた。小さな容器にはデミグラスソースが入っており、それをメインのハンバーグにかける。誰もいない学園の外れでようやく肩の力を抜いたライラは、一人で幸せそうにお昼ご飯を頬張っていた。こんなところがヨハンや兄達に知られると、多分とてもマズイなぁと心の隅で思った。


(過保護がさらに過保護になる……)


 おやつにマフィンも入れてくれていた。それをかじっていると、森の方からザクザクと音がした。二つの金色が光り――きらきら輝く水色のモフモフが現れる。


「狼さん! こんにちは」

 狼はゆっくりライラの横へと近づき、手を伸ばせば触れる距離で伏せた。

「来てくれたんだね、ありがとうー」

 ライラが手を伸ばし、狼の頭を撫でた。狼はされるがままで、目を閉じて寛いでいるようだ。その様子を見たライラは、思う存分狼を撫でる。

「そうだ、狼さんもマフィン食べる?」

 狼は首を横に振った。それもそうかとライラは残りを平らげる。


 そして狼に抱き着いた。

 狼はビクッと体を強張らせたが一瞬のことで、尻尾をぱたぱたと振り始める。ライラは自分の顔を毛並みに押し付けるようにして抱き着いていた。何かを充電するかのように、自分を慰めるかのように、ぎゅっとしがみつく。その様子を察した狼は、少し瞳を陰らせてじっとしていた。


「ふわふわ~」

 幸せそうに何やら言っているが、狼は大きな鼻息を一つ立てるだけだ。

 そうしているうちに予鈴が鳴った。

「はっ! しまった!」

 ライラは広げたものをバタバタと片付け、鞄を持って立ち上がると、名残惜しそうに狼を見た。

「サボってしまいたい……あ、はい、行きます」

 本音を零すライラの体を、狼がぐいぐいと押す。「また明日ね」と言って校舎へ駆け出した後ろ姿を見送り、狼は森へと消えた。






 ライラが大急ぎで教室に戻ると、本鈴にはまだ余裕があった。大半の生徒は教室にいるが、左隣の怖い魔族はまだ戻ってきていない。


(一人を好みそうな魔族だもんね、何処に行ってるんだろう)


と、ライラがふと思っていると、当人が戻ってきた。ぱっと目を合わせてしまったライラは、すぐさま射殺さんばかりに睨み付けられ、縮み上がった。萎縮した様子のライラを見て、レオナルドは視線を逸らす。そのままドカリと席に着き、以降ライラと目を合わせることはなかった。


(わ、私が何したっていうんだろう……)


 今更ながら、ライラはそう思った。





 学園生活三日目。

 昨日と特に変わり無く、ぼっち生活を送っているライラ。昼休みになると教室を飛び出し、森付近へ向かう。お弁当を食べ終える頃、森の奥から狼が姿を現し、思う存分モフる。そして予鈴が鳴ると、名残惜しく教室へと戻る。

 昼休み前までは、時間が経つにつれどんどん表情が無くなっていくライラだったが、昼休み後はまた元気を取り戻している。昼休み中にライラが何処に消え、そしてどうして少し笑顔なのか不思議に思っているクラスメイトもいたが、誰もライラに尋ねることはしなかった。理由は本鈴ギリギリに戻ってくるレオナルドだ。彼は何故か不機嫌そうで、かつ困惑した顔で帰ってくる。勿論、今のところソレを尋ねる勇気を持つ者はいなかった。





学園生活四日目。

昼休み、森の入り口で狼を待っていたライラだったが、彼の狼は現れなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ