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02 事情

 空はもう暗くなっている。

 だが、ハッキリとわかる。見える。

 突如として現れた古典的な罠――落とし穴――にまんまと嵌まっている、俺と多岐の姿が。


 キレたぞ……この俺に喧嘩を吹っ掛けてくるとは……大した度胸をしていらっしゃる……


 まさか落とし穴に嵌まるとは。

 俺としたことが大失態だ。


 だが問題ない。

 今からコイツらをシメるからな。

 殺しはしない。だが、俺に喧嘩を売った後悔はさせてやろうじゃないか。

 こんな卑怯な手を使うのだから、コイツらが強くないのは解る。


 というか、場合によっては食糧でもやろうかなとか考えてた自分を思いっきり殴りたい。

 人形ひとがたとかもう関係無いわ。


 つ、ぶ、す、ぞ?


 明確な殺意を辺りに撒き散らす。といっても殺すわけではないが。



「おい、お前!」


 殺意が収まった辺りで上から声が聴こえてきた。

 何だ?

 上を見ると、やはり大人数の小人たち笑。

 俺を呼んだのは先頭に立つリーダーっぽい奴だった。ソイツは若そうだ。多分経験が浅いのだろう、近くにいる御老体は警戒を解いていないし、その他小人共も少し下がりつつあるのに、ソイツだけ前に出て、ニヤニヤとした表情を崩さない。

 さらにソイツは言う。


「最期に言うことはあるか!」


 大声で怒鳴られた。

 最期に、とか。コイツちょっと勘違いしてんじゃねぇのか?お前なんか一瞬で潰せるぞ?なんならやってやろうか。


「じゃあ」


 最後、に言ってやろう。

 このアホに。

 小人たちはこちらに反応し耳を傾ける。


「それでいいんだな」


「何を言っているんだ?貴様、馬鹿なのか?今すぐ殺してやってもいいのだぞ!!」


 やっぱ馬鹿だったようですな。

 はいじゃあ、決めました。やっちゃいましょう。


「ちょっ、ちょっと待ってよ」


 とここで多岐が俺の手を掴んだ。何をする。放せバカ野郎。


「何だよ」


「いやいや、何だよ、じゃないよ思いっきり殺意剥き出しにしてたじゃないか!粗方あの黒い左手でこの小人達を潰そうとかしてたんじゃないか!?」


「バレたか畜生め」


「まさかバレないとでも!?」


 っち、多岐め。御丁寧に左手を掴みやがって。

 俺は魔法が使える。といっても、それのみでは効果を成さない未完成品だ。

 左手を黒く染めるその魔法。使えばたちまち殴った際の威力が段違いに上昇する。

 今朝がたもそれで一匹の魔物を無に帰した。


 だが、威力が強すぎる。今使えば多岐は間違いなく吹っ飛ぶ。見てみたい気もするが、それでぽっくり逝ったら洒落にならない。

 見知らぬ人間をうっかり殺ってしまうのと見知った人間を殺るのとでは次元が違う。というか、不快感が違うだろ。

 まぁ知り合ったばかりの多岐を見知った人間というのかは判断に困るが。


「多岐!放せ!コイツらを殺れないだろうが!」


「いま『殺れない』って言った!?完全に殺る気じゃん!尚更放せないわ!!」


「おい!人間共!お前ら状況解ってんのか!?うるさいから黙れ!!」


「「てめぇがうるせーよ今取り込み中!!」」


 くっそ、多岐のせいでこの糞野郎をツブせないだろうが。あぁもう、多岐が邪魔だ……。

 もぅいいや、多岐はあっちに飛ばそう。多岐のことだから大丈夫だろう。多分。


「多岐、すまん」

「え!?何――」


 多岐がなんか言い終わる前に軽く魔法を発動し、多岐を吹き飛ばす。軽くだから大丈夫……!多分!


「うぎゃああああああああ――――――ッ!?」


 凄まじい大声をあげながら吹き飛ぶ多岐。その先には山。この小人らの村は片方に山がある。その反対は俺らの歩いてきた平原というか野原がある。そっちの方へ飛ばすよりも山側へ飛ばした方が、飛ぶ距離も少なく、下り坂なので戻ってくるのが楽だと思った……のだが。


「畜ッ生!レェエエエエエエエエン!!」


 悲鳴をあげながら多岐は軽々と山々を越えていく。

 軽くしたつもりなんですけど!?スマン、多岐……そして、さらばだ……。

 あ、でもなんかアイツが死んだりしたら夢に出てきそうでこえぇな……。助けようか?

 と多岐の方を見やったが、多岐は大きな鳥のようなものにぶつかって掴まり、ふらふらとしつつも滞空していた。はー、よかったよかった(棒)。


「よし、じゃあ潰しますか!」


 と小人らのいた方を見たが、いたのは威勢のよいあの若い小人と、俺達をここまで案内した小さな小人のみだった。


 あ、れ………………?


 え、なんでいないの??ちょ、まさか俺の魔法の威力を見て逃げ出した!?嘘だろマジかよ……。

 だが、若い小人はまだ


「ハッ、腰抜け共が!そんなんだから人間共に嘗められるんだよ!!」


 と元気そうだ。よかった、ストレスの捌け口はまだのこってた。うん。

 あれ?でも………この若造が残ってんのは解る。明らかに人間様を嘗めていらっしゃいますからね。だが俺達を案内した小人が残ってんのは解せない。一体何故だろうか。俺は頭は良くないので解らんな。

 すると、案内した小人が口を開いた。


「アナタは馬鹿だから解らないんですよ、この方の強さがね」


 うん?あれ?俺達に喋りかけたときと口調が違う気が……。気のせいだろうか?


「うるせえな!折角ドラゴンを手に入れたんだ。これ以上人間共に馬車馬の様に使われるのは御免だ」


「まだそんなことを……あれは到底我々の扱えるモノじゃない。あんなモノを解き放てば我々も唯じゃ済みませんよ!」


「だからってこのままずっと労働か!?俺達に死がないとはいえ、そんなのあんまりだろ!!」


「何もこのまま黙っていろと言っている訳ではないと言っているでしょう。貴方が宣戦布告何てことをしたお陰で、今までの苦労が水の泡だ。あと数分であの領地を治める勇者がやって来るでしょうね」


 なんか今俺がすごい空気になってる気がする。思いっきり蚊帳の外だよな。

 このまま律儀に穴の中に居るつもりはないので、取り敢えず穴から出た。只の竪穴なので、壁を蹴るなどして脱出する。


 ……っていうか。

 勇者とか、いるんだ。素直に驚いたんだが。

 うーん、以前聞いた話では異世界から召喚されたこの世界を救う者達……的なものだったのだが、コイツらの言う勇者はどんなものなのだろうか。

 まぁ実際に勇者の姿を見てるわけではないのでこれが勇者だ!というイメージはない。


「………で?お前ら何がしたい訳?」


 ちょっとイラつきを増して問う。

 なんか散々罵倒した癖に無視を決め込んだこいつには返答次第で失神というプレゼントでも与えようかと思っている次第だ。


「済みません、この馬鹿を止めるために強き者を探していたのです」

「いやいやあれで??俺じゃなかったらお前返り討ちにあってたんじゃないか?ていうかそのまま事情を話せばいいだろ。ヘタクソすぎんだろ」


「………そうですね、ですが貴方に話すとその落とし穴など簡単に避けてしまいそうなので黙っていたのです。この馬鹿は基本自分の家から出てこないのですが、自分の拵えた罠に憎き人間が掛かったとなれば必ず出てくるだろうな、と思ったのです」


 なるほどなー、確かに事情話されてたら落とし穴にも気づいたかもしれん。違和感はすこぶるあったしなー。

 俺はコクコクと頷く。っていうかこの糞馬鹿は基本家から出ないってどんな御身分だよ。ていうか引きこもりか。


 ………っていうか無理矢理引きずり出せばよくね?

 俺がこんな罠に掛かる必要性無くね?


「っていうか俺がこんな罠に掛かる必要性無くないか?だってコイツを引きずり出せば済む話だろ」


「あくまでも自発的に出てきてもらう必要性があったのです。コイツは厄介なことにドラゴンを閉じ込めてある洞窟の前に住んでいるので抵抗して解き放つ可能性が否めません」


「確かにコイツならありそ」


 言いかけて気付く。アイツがいない。


「ってアイツ何処だよ!まさかとは思うがお前…」


「しまった!あんの馬鹿………ドラゴンの洞窟へと向かったのでしょうね。迂闊でした……!」


「っていうかお前が長話している間に待つ義理も無いだろ。何してんだよお前は…」


 こんな馬鹿な奴らに付き合うなんて面倒臭いな。何時の間にかイライラも何処かへ行ってしまった。

 面倒臭いことは嫌いだ。ていうか小人の村を見に来ただけだぞ?何でこんなことに巻き込まれなくちゃいけないんだよ。

 コイツらの事情とか関係無いしなぁ。


 多岐の方に行くか。

 と、小人に言おうとしたその時。

 何かが落ちてきた。


 凄まじい音を立てて砂塵が舞い、俺を巻く。

 くっ、何だ!?何が起きた!

 空間把握の手段を粗方切られ、焦る。

 開きっぱなしだった目、口、そして鼻、耳に砂が入り込む。

 気持ちわりぃ!糞が………この砂塵起こした奴ぶッッッ潰す!!

 一度落ち着いた苛つきが形を持って復活したとき、ようやく鬱陶しい砂塵が晴れる。


 するとそこには、背の高い男と、多岐が居た。

 は?多岐!?

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