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自分の投稿速度が遅いことに今更ながら気付き、落胆している次第です。申し訳ありません。

 殺す!!殺す!!


 感情の暴走。

 憎しみと理性の衝突の最中、何とか理性が憎しみを抑えていた。

 それは自分にとって救いであった。


 今ここで理性を失えば、それで自分の魂は潰えてしまう。それだけはあってはならない。


 生きて。


 その一言だけが、自分の理性を保つ原因でもあった。今は亡き、母の言葉。もうすでに自分が取り込んでいるがため、完全なる死は迎えていない。ハズだ。


 自分が生きなければ、母は死ぬ。比喩等では無く、完全に。

 その意志だけが、母を殺した者への憎しみを上回っていたのだ。



 幼い者ほど、案外周りが見えているのだ。

 大人よりも危機感が高く、常に周りに気を向けている上に、異常の察知が素早い。


 幼いながらにも、彼は自分が護るべきが誰かを、しっかりと捉えていたのである。



 僅か6才にも満たぬ少年に、ここまでのことをさせる世界の残酷さには計り知れない物がある。



 彼は思案する。


 簡単なハズだったのだ。

 これから、人気の無い所まで行き、憎しみを意志の力で捩じ伏せるだけだったのに。


 視界の隅に見えてしまったのだ。

 憎しみの対象、母を殺した者。


 彼は本能的に察知していた。

 ソレを殺せば、自分は死んでしまうのだろう、ということに。


 肉体に死は訪れる事はない。

 何故ならその肉体はもう既に彼の物ではなく、魔物のソレへと書き換えられていたのだから。


 だが、あの者を殺した瞬間、自分の理性は憎しみに競り負け、魂は失われるのだろう。

 少年はそう理解していた。



 だが、やはり……。


「ぐっぎぎぐぐぐがっ……!」


 不味い。必死に抵抗を試みるが、無駄だった。


「ぎッぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!!」


 憎しみの対象を目の前にして、憎しみを抑えるのは彼には不可能だった。


 雄叫びというよりは悲鳴というべきであろう巨声を轟かせる。長く、永く。


 彼の意識の世界は深い闇へと沈んでいく。深く、ふかく、ふかく。


 その奥深く。発せられる光の中に、愛しき存在を見つけ、彼は歓喜する。


(あぁ……私の愛しき……)

(母さん……!)


 喜びという感情に飲まれながら、彼の魂は、深い闇の中へと取り込まれていった。






 ーーーーー








「ぎッぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」


 物凄い大音声が響き渡る。

 かなり波長の高い音で、さっきから耳鳴りを起こしている煉。


 正直煉はかなり焦っていた。

 恐らく魔物が発生したのだ。詳細は解らないが、それであっていると思う。



 生殖能力自体は低いのだが魔物は通常、交配によって子孫を残す。若しくは、『生産魔』と呼ばれる魔物によって産み出される。


 しかし、魔物には関係無い場で魔物が誕生することがある。それが今回のような場合である。

 人は恨みなどの強い感情によって魔力適正が上昇することがあり、そのような状態で死に至った後に魔力を微量でも得ると魔物へと身体構造が書き換えられるのだ。


 とはいえ、まだその状態では魔力の放出・制御が完璧に出来ないため、完全なる魔物とはいえない。

 自我が残っているためである。


 しかし、強い感情の原因対象を破壊した途端に自我を失い、完全なる魔物と化す為、扱いが難しいのだ。

 自我を保っている状態ですら感情に突き動かされている状態であり、油断は出来ないのだ。



 そして、焦っている理由その1。

 敵はどうやら高波長の音を出せるらしいこと。


 煉の基本的な空間把握能力は


 嗅覚

 聴覚

 空気の流れによる形状把握

 平衡感覚


 等がバランス良く存在する事によって成り立っているのだ。


 そこに高波長の音である。

 耳鳴りで聴覚による空間把握は期待できず、その上平衡感覚も少しやられてしまった。


 煉お得意の動きの精度が落ちるのだ。



 そして焦っている理由その2。

 さっきから砂埃が物凄いこと。


 これの意味はその1にも通じる。

 においが阻害されるのだ。



 よって結局、嗅覚と聴覚には頼れなくなっててしまったのだ。



 と、

 砂埃を突き破り、何かが此方に迫った。


 間一髪で察知し、避けることに成功するが、今まで立っていた瓦礫は一瞬で砕け散った。


 危なかった。


 煉の頬に汗が伝う。気づくのが遅れていたらあの瓦礫と同じ運命を辿っていただろう。いやはや、恐ろしい。


 そんなことを思いながらも、まだ煉には余裕があったのだが。


 今の一撃で砂埃が広がり、散っていく。

 魔物の姿が見え始める。その姿にファンタジー要素は皆無だ。正に、『魔物』なのだ。


 巨大な手、その表現が適切過ぎるその魔物は、しきりに身悶えていたが、ふっと静かになったかと思うと、より一層高い音を響かせた。



「「ヴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!」」



 その視線の先に居るのは、あの、泣きじゃくっていた男だった。ついでにあの少年も。

 魔物は手の甲辺りにある口をイヤらしく歪め、その目を濁らせる。


 不味い。


 煉は即座に行動を開始する。

 恐らく、魔物は男を狙っている。男が恨みの対象であるならば、殺させるワケにはいかない。

 魔力放出の出来ない今の内に殺らねばならない。


 恐らくだが、魔物に自我はもう残っていないだろう。お陰で情に動かされずに殺る事が出来る。


 何とかイケるハズだ。


 煉は全力で男の方へと向かった。






 ーーーーー






「うわっ!なんだありゃあ!?」


 少年は口をあんぐりと開け、呆けていた。



 死体が黒い流動的な物体に変化しながらうにょうにょと蠢いているのを見て、思わず叫んだ瞬間、まさかの大爆発だ。


 かなり吹っ飛ばされたのだが、運良くというか悪くというか、何時の間にやら逃げていたおっさんにぶつかったのである。おっさんがクッションとなって助かっていたのだ。


 まぁ、哀れにもおっさんは背骨を折ってしまったようだ。南無三。



 と小言はここまでにして、現在とんでもない事態が勃発している。


 魔物が出現したのだ。

 遠くから青年が伝えてくれたことで心構えは出来ているつもりだったのだが、全然ダメだった。


 今まで見た物を遥かに凌駕するキモさの魔物が出現したのである。おえっ、吐きそう。


 爆発で青年と離れてしまった為、現在少年に自らを守る術は無い。


 と、

 突然魔物が超高い音を出してきた。


「「ヴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!」」


「うおおおおおっ!?」


 とんでもない高音だ。先程のモノよりも高い。耳鳴りで耳が死にそうだ。


 と、まさかの事態が訪れる。


 魔物がこっちを見たのである。

 明らかにこっち狙いだ。


「嘘だろマジかよ…………」


 泣きたくなってくる。

 こちとらまだ目的を果たしてないってのに!!


 魔物がこちらへと接近を始める。

 人差し指と中指、それから薬指を上手く使って歩いてくる。

 魔物の全体は指先から手首までしかないのだが、デカさはかなりあり、少年を縦に3人位並べてようやく、といった高さ。

 手の甲辺りには大きな口があり、手首の切断面(?)からは触手の様な目が生えている。


 その巨体がのっしのっしと近付いてくるのだ。

 恐怖意外の何物でもない。


「うっうわッくっくんなよぉぉぉぉ!!」


 おっさんは魔物への恐怖からなのか単に背骨の痛さからなのか既に気絶してしまっていた。


 自分1人だけでも逃げたそうと構えるが、何故か足が動かない。


「?………ッ!?」


 気付けば少年の足は瓦礫にガッチリと挟まれていた。なぜ今まで気づかなかったのか。


「うわああああああああああッ!!!」


 その事実に気付き、更に取り乱す。


「こんのッ!抜けろ抜けろ抜けろ抜けろ抜けろ!」


 死に物狂いで瓦礫を退けようとするが、ビクともしない。


 魔物はもう間近に迫っている。

 魔物は口角を不気味に引き上げた。

 それは、必死に抵抗を見せる少年を、嘲笑っている様にも見えた。


「ちッくしょおおおおおおお!!誰かッ!助けてくれええええ!」


「ああ。いいぞ」


 魔物が攻撃を開始する直前、声が聞こえた。


 と、次の瞬間。


 目の前に閃光が走り、衝撃が辺りに拡がっていく。

 件の爆発の時よりも凄まじい爆風が吹き荒れる。


「おああああッ!?」


 意味の解らない事態にただただ困惑する少年。


 何時の間にやら閑散としていた事に気付き、恐る恐る目を開ける。

 すると、目の前には何時かの青年が立っていた。


「……!?」


 少年は驚く。

 何故ならば、青年の左腕から、どす黒い煙の様な物が噴き出していたからだ。いや、よくよく見れば、左腕自体もどす黒かった。


「あッッ!?え、一撃!?あれぇ!?え、け、結構苦戦するかと思ったんだけど……」


 青年は何やらぶつぶつと独りごちていた。


「あれっ?え、まっ魔物は!?」


 何時の間にか魔物がキレイサッパリ消え去っている事に気付き、青年に問う少年。


「あ、お前居たんだったな。あ、魔物なら俺の一撃で死んじゃったけど」


 何ということ無しに青年は応える。


「えっ!?え、さっきのデカイ奴を!?一撃でぇ!?うそーーん!?」


 驚きが隠せない。

 まさか、青年がここまでの実力の持ち主だったとは想像し得ないことだったのだ。


「まぁ、これで一件落着だな!」


 そんな少年の思いとは裏腹に、清々しい笑顔で青年は言った。


 少し焦った顔で


「あッ!?またガセ情報だったのか!!マオウ居なかったし!!」


 とも。








序章はこれでおわりです。

はぁぁぁぁ、やっと基本は主人公目線で統一出来るぞぉ。

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