事件
投稿遅れてすみません。
次回で序章は終了にしたいと思います。
ドゥータスが扉を開いた瞬間、鼻の奥まで突き刺さるような不快臭が雪崩れ込んで来た。
血の臭いだ。
頭で理解するより速く鼻が感じ取る。
幾度となく繰り広げられていたマフィア同士の抗争。それによってドゥータスの鼻に染み込んでしまっているのだ。
ドゥータスの前に広がっていたのは、異常な光景。
大きめのテーブルの上に横たわるのは、母子の死体。口からは血が吐き出され、かっと見開かれた両目に生気は宿っていない。
子供の方はまだ6才にも満たないであろう。
そして、2つの遺体は、腹を開かれていた。
さらに、その大きなテーブルを囲むのはドゥータスの仲間だ。彼らは、血塗られた鉈を手に持っていた。
そこまで理解したドゥータスは全てを悟る。
自分が食べさせられていたのは人肉だったのだ、と。
ドゥータスは気分が悪くなり、膝を折ってその場に崩れ込む。
胃の中身が急速に逆流し、口から吐き出される。
「ぐげえええぇぇッ!」
出てきたのは赤黒い液体。胃液と血の入り雑じったその液体の中に、人の耳のようなものが見え、ドゥータスは更に吐く。
「うぼろろろろろろ」
吐く、吐く、吐く。
ドゥータスはもう何も考えていなかった。
唯ひたすら、自らの体内にある"それ"を吐き出そうと躍起になっているのだ。
と同時に、自らの仲間が人を解体しているという事実を、一刻も速く忘れようとしているのだった。
ーーーーー
煉は溜め息をついた。
「どうしたんだ、溜め息なんかついて」
「お前が原因だよバカ」
いつの間にやらついてきている少年。
邪魔なのだ、つまり。
「あー、もう、邪魔だからあっち行ってろ」
「えー、兄貴、酷くないすか??」
この態度もムカつく。イライラする。
出来れば即刻消えて頂きたいと思うが、煉は人殺しはしない。寧ろ、した者に恨みを抱くのが凪楽煉という人物なのである。
目の前にある扉を開く。
と。
「…………!!!!」
臭い。
それが初めの感情。
血生臭い。
それが次。これは血の臭いだ、と気づく。
煉は異常を察知し、少年が原因で切っていた感覚を総動員させる。
まず見えたのは目の前に立ちはだかる大男。こちらに背を向けている。
この大男のお陰で室内の他の男には気付かれていない様だ。
次にその大男の前の方にある大きいテーブルが見えた。そして煉はテーブルの上に在るものに気付き、激怒する。
それは、死体。
放たれる異臭の根幹はそれであるようだった。
それに抱く不快感は並大抵の物ではない。ゴキブリと対峙したとか、その程度の不快感とは格が違うのだ。
煉の中に 沸沸と黒い感情が沸き出しはじめる。
死体は1つではなかった。
母、とその子、といったところだろうか。
2つ共に腹を開かれていた。
そして男達の手に大きな鉈が見えた。
━━━━━何、だと………!?
なんと、死体は男達によって捌かれていた。
煉の怒りが肥大を開始する。
だが、こんな状況でも冷静さは失わない。
煉の前に1人、煉から見てテーブルの右側に2人、左に1人。計4人。
最後の1人は床に崩れ込み、嘔吐しているので、実質3人と考えていいだろう。エモノに注意すれば、男3人等楽勝である。
と、
「どうした?」
少年が話し掛けてきた。
「ん?……何だおま…ぇッ!?」
目の前の男がこちらに気付いてしまった。
ので、煉がオトしたのだ。
たく、こいつめ……折角色々手順考えてたのに……
まぁ止めて置かなかった俺も悪いか、と気付く煉だったが。
男が崩れる音で他の奴らも気付いてしまった。
「誰だお前は!!」
「どうやって入った!?」
「おい?クソ餓鬼じゃねぇか何で」
面倒臭くなった煉は、もう1人オトした。
「おふんっ」
「うぉっ!!何しやがる!?」
因みに煉に彼らの言ってる事は理解できない。
唯、
「うるせーな、お前ら。人を殺したお前らは全員オトさせてもらう」
だけである。
と、
「くたばれッ」
と男が鉈を振りかぶり迫ってきた。
ぶんっ!
空振り。
そんな大仰な動きは簡単に避けてしまえる。
「ギャースカうるせー。黙ってろ」
どずんっ
命中。綺麗にみぞおちに当たったので、前の2人と同じく一撃でオチた。
「ふー、」
「お前強ぇな……」
今まで黙りこくっていた少年が呆然としながら言う。
「うん?まぁな」
煉は何となしに答えた。
そして煉は左を見やる。そこには泣きじゃくりながら嗚咽を漏らす、男がいた。
3人、というのはこの男を抜いてのことだった。
「おい、お前」
話し掛ける。
そもそも煉がここに来た理由はマオウへの復讐を果たすためだ。なんとなくだが、煉はこの男が何か知っているのではないかと思ったのだ。
「おい」
「うッぅぐっ」
しかし聞こえてくるのは呻き声のみ。
「おい」
「ぅぐっはっがはッ」
「おい!」
「うゎがッはッ…はッ…!」
「…」
最早無駄だな、と判断する煉。
あ、でもその前に俺インドの言葉解らんか、と気付いた煉であったが。
「それにしても……」
2つの死体を見やる。
今なお異臭を放つそれらは、見ていて決して気分の良いものでは無かった。
煉はくるりと踵を返し、その場を立ち去ろうとした。
が、それは少年の
「うわっ何これキモッ!」
という叫び声によって阻まれた。
何事かと振り返るより速く、白い閃光が走り、轟音と共に煉の体が弾き飛ばされる。
状況が理解できぬまま、飛ばされていく最中で煉は思考を止めない。
あの男が爆弾を使ったのか?
マオウの襲撃か?
それとも……
煉は一つの考えに至る。
直ぐ様体勢を整え、少年に向かい叫ぶ。
「魔物だ!逃げろッッ!!」