発端
「ふう、よっこいしょっと」
ある少年が山のような瓦礫の上を登っていた。
額には汗が滲み、頭からはしおが吹き出している。
短パンの足はロクに守られておらず、傷だらけだ。
「はぁ、はぁ、ひぃ、ふぅう」
息はぜぇぜぇと枯れ、その足はふらついていた。
瓦礫の山の頂上には、何やら小物がまとめて置いてある。よく見ると、少年の両腕には、僅かな食糧が抱えられていた。
時は2062年。5年前に地球の人口衛星がまとめて南アメリカ大陸に落とされるという大災害が起きた。ほぼ対極に北朝鮮や日本といった国々があり、世界の国々はそれらの国々を睨んだ。そして、はげしく言及した。人口衛星を落とすなら、比較的影響の少ない地球の対極に落とすだろう、と各国は考えたのだ。
その考えは間違ってはいなかった。
だが、この大災害を起こしたのは国ではなかった。
マオウと名乗る1人の少年によるものだったのだ。
どこどこの国がやっただの、国際サイバーテロだの、世界各国が言い合う不毛な屁理屈の山の中に、それはまるで邪を貫く光の矢のように投下された。
『世界に告げる。今回の未曾有の大災害を犯したのはこの我、マオウである』
幼い声だった。日本人の、少年だ。
彼の話した事柄は世界を震撼させると同時に、歓喜させた。
『我は魔法を生み出した。』
その言葉が嘘ではないことはすぐにわかった。
少年は眩い光を放ちながら緊急サミットの下へワープしてきたからだ。
その日、世界の偉大な科学者により、魔法を認知すると発表された。
少年の目的はこの地球の科学を滅ぼすことだったようだ。彼曰く、
『世界に存在していい神義は1つのみ』
らしい。
とはいえ人口衛星隕石の威力は絶大だった。南アメリカ大陸と中央アメリカは海に沈み、さらに衝撃波により日本国周辺以外の国々はほぼ壊滅。科学レベルは中世ヨーロッパ程度にまで下がってしまった。
マオウがもたらした魔法とは原子を人為的に操る力らしく(本人がそう言っている)、魔力と才能さえあれば誰にでも使用できるものだった。
「はぁあ~~~~。やっと登りきったぁ。高い所にするんじゃなかったよ」
少年は瓦礫の山の頂上にどかっ、と座り込み、長い溜め息を漏らした。寄せ集めてある小物の中から小さいペットボトルを取り出すと、中の液体を口に流し込んで喉を潤した。
「ぷはぁ………」
少年は瓦礫の上に手をつくと、ペットボトルを後ろへ放り投げた。
からん、ころん、という音が聞こえ、静寂に近付いていく心を乱す。
「もうすぐ夜か………」
日は既に水平線の向こうへと沈み込もうとしていた。
「あぁーあ、まずいよねぇ、ここらの食糧も尽きかけてるし……。今夜こせるかどうかすら怪しいよ…」
当時損傷の少なかった北朝鮮や韓国、台湾、日本では街が形成されているらしい。が。やはり資源の乏しい其処らの国々も科学は衰退し、魔法によって支えられているらしい。
「僕も魔法が使えればなぁ…………」
少年がぼやいた時、暗くなりかけていた瓦礫の山に黒い影が足を伸ばした。複数の影は白く光る突起物をちらつかせながら、一気に瓦礫の山の頂上に登り詰める。
見るからに友好的でない連中だ。
悪意に満ちた目をギラギラさせている。
「……!!」
少年が突然目の前に現れた輩に目を丸くしていると一番体格のよい影が言った。
「悪くないな。連れてけ」
「何を」
その瞬間、少年は後頭部を殴り付けられた。
ごんっ
という鈍い音が頭蓋を不快に震わせる。
それっきり、少年の意識は深い闇に沈んでいった。