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流れ雪

作者: 砥堀 泊

ただただ、静かであった。

死ぬる阿呆の宿命か。

長い長いと思った人生もいつしかどこかに旅立って、

皺だらけの手を握りしめている自分がそこにいる。


もってあと半年、と偽ることの下手な娘が言っていた。

泣き崩れた娘を前に

「ああ、死ぬのか。」とどこかしら他人事の様に感じている自分がいた。妙に納得している姿が滑稽でもあり、でもまたそれが自然なのだな、と妙に悟りきっている自分がそこにいるのが不思議でならなかった。おそらく死というものは誰でも怖いものだろう。特に若いころは。

まだ生きたりないと思うのだろう。

見えぬ世間様に名前を知らしめたいと思うのだろう。

あらゆる限りの快楽を知りたいと思うのだろう。

そして、それが何も分からぬまま、満ち足りぬまま、朽ち果てていくのが恐ろしいのだろう。

しかし、こう年を取ると、そのような自己顕示することがなくなってきた。

つまりそれは生きる力がなくなってきたという残酷な証明書なのだが、どうやら私はそれだけでもないらしい。

単純なもので、ここを終着点に、長い長い英文の最後にピリオドをつけるように、自分に納得して死にたいと願っているからそういった気持ちになっているのだ。

これだけはやたらと自覚していた。

ただただ、意味の分からぬまま死ぬのだけは勘弁被りたかった。

今年21になる、遅く生まれた、私の布団のシーツに顔を当てて泣きじゃくる娘の頭を撫で、そっと窓の外をみた。

白銀の絨毯が輝いていた。

娘のすすり泣きだけがするこの部屋に、背をむけるかの如く。


袖露や 流れ流れて 雪の上


こんこんと降り積もる雪はただ、夜を照らしていた。

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