『信長の使者』
感想が一つも来ないので、開示を辞めようかと思っておりましたが、
昨日、感想がいただけたので、もう少し頑張ります。
エタらせるつもりはありません。
お市を送り出した清州の町は、心なしか沈んでいた。
― 清洲城 ―
先ほど以来、信長は頭を抱えていた。
池田恒興からの早馬が届いた所為だ。
「『浅井家での”華燭の典”で、お市さまが…お犬様とが入れ替わっておられます! (T-T) 』
とりあえず俺は、慌てて大人達を集め、絶対に動揺しないようにと伝えました。
『これは信長様の策である』
勢いで、そうごまかしましたんですぅ。
侍女達も動揺しております。
信長さまあ~、この後をどういたしましょうか? 」
……という情けない内容であった。
愛しい妹を送り出した、その感動と惜別の余韻が一気に吹き飛んでしまった。
「ぐぐぐっ、お市のやつめ~。してやられたわい」
いくら儂が、我が侭無双とは云え、それは国内に限っての話である。
「困った」
実は、A型の血が災いしてか、他国の大名には意外と細かい気配りを絶やさない信長なのである。
―A型の人―
「リーダー、親分肌である」
「プライドが異常に高い」
「見えない優しさの持ち主」
「自分に厳しく他人にも厳しい、いわゆる完璧主義者」
「かなりの神経質」
「独特の価値観をもつ変わり者」
―閑話休題―
ううっあたまが痛い、もはや『間違えました~』といってお犬を連れ戻すことはどう考えてみても不可能である。
どんなに急いでも、儂からの使者が着く頃には、……
”お犬は賢政に美味しくいただかれている”であろう。
「いろいろスマン、お犬」
恒興が独断で寝所に駆け込み止めに入るとは、とても思えんからのう。
とても間に合わない。
「はあ~」
お犬を替え玉にするしかないか……、でも万が一バレたら一大事である。
今、浅井を敵にまわすなど考えるだけでも恐ろしい。
『尾張改め』 『尾張もの留め』 などされたら、儂は破産じゃおわりじゃ!
『浅井賢政』、奴は敵に対して情け容赦のない悪魔のごとき男だ!
絶対に怒らせてはならんのだ。
戦で弱体化している今、何としてでも賢政のご機嫌をとらねばならんのだ。
だいたいそのためにお市を嫁にやったのだ、何故にこうなる?
「ふう~仕方があるまい」
信長はガックリと項垂れながら筆をとり書状を三通したためた。
その背中には哀愁が漂っていた。
(武田信玄や上杉謙信に対しても、信長は家臣にバレないように孤独な戦いをしていたのだろう)
「誰ぞ! 小谷にいる恒興に使いをいたせ!!」
「「ははっ」」
「俺が行きます!」
ようやく正式に復帰を果たした、前田利家が勢いよく返事した。
「よし、犬千代これを恒興に頼む」
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・
― 翌日 ―
昼過ぎ、小谷にとある使者がたどり着いた。
「たのも~う、織田上総の介信長公の臣、前田利家でござる、火急の使者である開門くだされい!……」
と言うまでもなく、城の大手門の門扉は開いていた。
「ちぇっ、せっかく馬上から、格好良く言上しようと思っていたのに…」
残念がる利家であった。
宴会期間中は、小谷城下の御殿や施設は全館解放なのであった。
麓の建物が奪われようと、江北の人達はわりと気にしないのである。
そんな事では、小谷は落ちない仕様なのだ。
それより、お祭り気分を盛り上げることこそ、『江北の粋』であるのだ。
「おお、使者殿ご苦労様でござる」
門番が柄杓を手に機嫌良く挨拶を交わしてくる。
「うむ、こちらにいる池田……」
「ささ、まずは一杯!」
「おお、すまぬな」
休むことなく馬を走りに走らせた利家は、のどがカラカラであった。
たまらず柄杓の水をいただく…
「うっ、これは……」
「『上酒は、水の如くなり』でございます(笑)!」
「酒ではござらぬか~」
「はい左様で、まさかこの目出度いハレの場の酒が飲めぬとは申されますまいな。」
「しかし」
「駆けつけ三杯と申します、御酒を飲まれないような者は通す訳には参りませぬな」
「仕方なし!」
盃を飲み干す利家。
「おお、流石は前田殿、いい飲みっぷりでござる! では中へどうぞ」
「うくっ」
先ほどの恥ずかしい独り言上は、どうやら聞かれていたようだ……。
「前田さま馬をお預かりいたします」
「うむ」
とりあえず駆け寄ってきた下男に馬を預け、だらだらとした坂道を登って行く。
両脇には重臣の屋敷が建ち並び、御家中の皆が酒宴を催している。
なんとも賢政は皆に慕われているようだ。
おのおのの門前には、振る舞い用の酒樽が用意されている。
そんな中を颯爽と歩いて行く、長身の利家はかなり目立つ存在だ。
「おお、見慣れぬ顔でござるな、いずれの御家中か?」
「それがし織田上総の介信長公の臣、前田利家でござる、火急の使者である通されよ」
「おお、『桶狭間の激戦』の英雄、槍の又左殿でござるか?」
「いかにも」
「おお、それはそれはご無礼つかまつった、まずは一献」
「それがし、任務中ゆえ」
「今日は、ご婚儀を祝うのが任務でござろう、ささ」
「……かたじけない」
そして、次の屋敷でも……。
「おや、見慣れぬお方ですねどちらの御家中ですか?」
「それがし織田上総の介信長公の臣、前田利家でござる、使者である申し訳ござらんが通されよ」
「ええっ?!あの『桶狭間の激戦』の英雄、前田さまでござるか?」
「いかにも」
「おお、それはそれはご無礼つかまつった、まずは一献」
「それがし、任務中ゆえ」
「今日は、呑んで祝うのが任務でござるよ、ささグイッと」
「……かたじけない」
「槍の又左殿の槍裁き見事なものでございましょうな、見せてはくださらんか」
「おいよせ、無礼だぞ!」
「よいよい、わしぃも一つ披露したかったところだ」
「流石は、前田様」「よっ日本一!」
その次の屋敷でも、また次ぎも…門前にて利家は歓待された…。
「しょれがし、にんむゆひぇ……」
槍の演舞を数回披露した頃には、酒精がまわりすっかりと出来上がってしまっていた。
《小谷城下の防衛網(酒宴の会有志一同)は、今日もしっかりと機能しているようであった。》
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・
― 翌日、式典三日目 ―
小谷城は宴会たけなわで、祝賀ムードに包まれている。
昨日も使者の前田利家が、駆けつけ三杯の後 宴会になだれ込んでしまっていた。
すっかりと酔いつぶれ、気付いた時には侍長屋で寝ていた。
「ん! ここは何処だ?」
結局、池田恒興の元へ手紙が届けられたのは、今朝になってのことである。
「上様からの手紙にござる」
「待ちかねたぞ!」
信長からの手紙に、恒興が小躍りしたのは言うまでもなかった。
筆がのってきました、続きは意外と早いかも。




