エセコイ02
話が進みます。
結婚、いつの時代も大変である。
この時代の婚儀というものは、非常にメンドクサイものである。
大名クラスだと、三日かかるのだ。
まあ今回は、側室の輿入れなのだが……、何しろあの『桶狭間の激戦』で勝利した織田家である。
仇やおろそかには出来ない。
織田家当主、信長公の熱い要望もあり、3日間の祝宴と相成った。
盛大な式典が予定されている。
費用は、織田家が、全て負担したとも言われている。
信長の、婚姻同盟への意気込みが感じられよう。
実際、尾張はかなりやばい状況なのだ。
ヨシモトを討ち漏らした影響は確実に織田家を追い詰めていた。
幸いにも、江北の国人衆も宴会が大好きであるため、その提案は快く受け入れられた。
もちろん、使者を務めた池田恒興の功績であるのは言うまでもない。
意外にも、彼は浅井家中の者に気にいられていたのだ。
(理由は、彼が放つオーラだ、何となく海北友松を思わせる微不幸オーラのせいである)
宴は続く、おあずけをしたまま……。
つまり、賢政くんは3日間はおあずけ状態なのである。
『俺は、犬かぁ~っ!』
思わず叫んでしまった。
”ビックッ”
お市が驚いた!
「すまない!」(お市を驚かせてしまった。)
「いいえ(汗)」
(いぬってバレたぁ? なんでもいうこと聞きますぅ、すてないでぇ~)
「お市、疲れたか?」
「ほうぅ、大丈夫ですぅ」
(やっぱり、旦那様は優しいですぅ!)
「そうか、もうちょっと我慢してくれな」
侍女の御崎の報告では、本当に婚姻を喜んでいるらしい、可愛いではないか。
やはり、女の子は可愛くなくてはな。
性格がキツそうな、祐子なんか、それはもうメチャ可愛い。
なんというか、見事なギャップ萌だよな!
お雪は、従順でおしとやかな感じだし。
縁は、運命の糸で繋がっているのだろうな。
なんというか、すごく幸せだ。
お市も、幸せにしてやらないとな、悲劇なめには遭わせたくないな。
この時、俺は何も気付いていなかった……。
(旦那様やさしくて、すてきですぅ~)
―池田恒興―
「え、なんで!」
思わず声に出てしまった。
しかし、それが偽らざる、俺の本心だ。
事もあろうに、浅井家での”華燭の典”でお市さまが…入れ替わって……いる。
アレは、お犬様ではないか?
どうなっているのだ?
まさか……?
兄の信長と同等、いや、それ以上に”こまったちゃん”なお市さま。
素直に輿入れするとも思えなかったが、流石にこれはない。
もはや事態は、俺ひとりが腹を切る段階を越えてしまった。
(おいおい、無茶振りも大概にしろ、馬鹿兄妹!!)
俺は思わず、この会場にいる脳天気な奴らを斬り殺したくなった。
…幸い、腰のものは預けてあったので実行しなかったが……。
お市さまの顔を知らない浅井家中はともかく、織田家から列席している大人達がざわめいている。
(やば~い
切腹だ~っ。)
俺は、慌てて大人達を集め、動揺しないようにと伝えた。
「これは信長様の策である」
そうごまかした。
『信長様の策!!』
これは今、尾張でいちばん効果があるひと言だ。
どんな無茶振りでも、こう言えばみんなが納得する。
「ああ、なんとすばらしい」
「流石は、信長様!」
訳も判らず、賞賛する馬鹿どもばかりだ。
でもとりあえず、動揺を抑えることが出来た。
(ああ、頭とお腹が痛い。)
様子を窺うに、賢政殿も不信感をお持ちではないようだ。
助かった。
しかし、この後をどうしようか?
とりあえず、早馬を信長様の下へ走らせた。
浅井家の用意した侍女の御崎は、すっかり『お市さま』を気に入ってしまった
織田家の侍女の方は、気が利きません!
お市の侍女の『伊吹』
彼女が筆頭らしいのですが、……
たぶん、お家の派閥の人事なのでしょう?
見てくれは良いのですが、ちっとも気が利きません!
「あれでは、まるで自分が姫だと思っているみたいではありませぬか」
あのような、出来損ないの侍女に『大切なお市さま』を任せられません。
「殿にお願いをして、わたしが侍女をいたしましょう」
殿もお市さまをずいぶんと気に入ったご様子ですし、大丈夫でしょう!
こうして、お市さまをお迎えする支度が着々と進められていった。
いかがでしょうか?




