『お市輿入れ顛末記 ⅱ 』
続きです。
「……仕方がありません、市はお兄様のために『浅井賢政』という男を見極めて参りましょう」
「近江に行ってくれるのか?」
「はい、お兄様のために喜んで参ります。」
「すまぬ」
「どうしょうも無い方であった場合は、義姉上を見習って刺して参りましょう!」
「それは困るが、とりあえず助かる!」
「いいえ、市はお兄様のためであれば喜んで地獄へ参ります!」
「お市ぃい~」
というわけで、
わたくし、市は、決死の覚悟で近江に乗り込みます。
早速準備をいたしましょう、段取りが大切です。
まずは頼れる兵隊集めです。
「あの~お市さま? なぜに長刀を・・・・・」
「いいから構えなさいっ!」
”バキッ!!☆/(x_x)” ”ドゴッ”
「まったく、なっておりませんわ」
お市さまに、”けちょんけちょん”にいびられ、傷つき泣きながら家に帰る、ズタボロな娘の姿が見受けられた。
生き残った者は、まさに精鋭中の精鋭であった。
ただ訳も判らず呼び出され、運悪く召し抱えられてしまった者もいた。
母の反対を押し切り、想い人と結婚をしようと試みていた、市と同じ年のあの娘である。
さきの戦の被害が大きくて、話が中々進まなかったせいでもある。
おかげで結婚の話は、暗礁に乗り上げてしまった。
ある意味彼女は、あの戦争の犠牲者だ。
市に見出されて以来、毎日が、訓練と手習い、行儀作法のお勉強であった。
「あ~も~やっとれ~せんでかんわ」
「ええ、私といたしましては、鋭意努力中でございます」
「たわけたことぬかしとったらいかんでよ」
「あなたは、とても面白いことをおっしゃいますのね」
「おみゃ~さんいやみばいっとりゃ~すか」
「あなたは、とても頼りになる方ですわ」
「ああ、もう~いちいち変に訳さないでください!!」
「ごめんごめん、だって面白いじゃない?」
「私は、おもしろくはありません、いきなり近江ってそれはキツイです」
「大丈夫!死ぬまで近江だから」
「え~、そりゃないですよ~」
こうして、少女の淡い恋?は終わった。
― 清洲城.奥御殿 ―
「やっほ~」
「あれ、お市お姉様!」
「元気にしてた?」
「ええ、まあ……」
「そっちはいきなり婚姻が頓挫、こっちはいきなり輿入れだもんね~」
「でも順番でいけば、お姉様のほうが先で……」
「私は、輿入れする気なんてさらさら無いわよっ!」
「ええっ?」
「お兄様にも、『浅井賢政を、見極めて参りましょう』とは言ったけれど、『輿入れする』なんて言っていないわっ」
「それは、いくら何でも無理なんじゃ……」
「……?」
「……!」
「まあ、それは冗談!!」
「冗談ですか?よかった」
「それより、あんたも今、暇でしょっ」
「ええ」
「婚約が、ポシャったんだもんね~、良いわ~羨ましいっ!」
「どういう意見ですか酷いです、お姉様!」
「ごめんごめん」
「も~ぅ」
「おこんないで、私の輿入れにそんな顔されちゃ叶わないな~」
「ごっ、ごめんなさい」
「いいって」
「はい」
「それより、嫁入り衣装の仮縫いとか、小物の注文とか色々あるから見に来なよっ」
「わ~、いきますいきます」
「あんたの分も、ついでに作っちゃおうと思ってねっ」
「ついでですか?」
「そうついでっ!」
「私は一応の用意をしておりました…ですよぅ」
「馬鹿ね、こんな時は、ぱ~っと散財するのが、上に立つ者の勤めなの」
「そんなもんですか?」
「そんなもんですっ!」
ここからは、わたし(妹ちゃん)が、話を引き継ぎましょう。
(私のことは、妹ちゃんとお呼びください。)
まあ、こうして和やかに、楽しく輿入れの準備が進んでゆきました。
さすがのお姉様も、お覚悟が決まったみたい。(女はつよいのですぅ。)
お姉様の輿入れ前日には、送り出しのための宴が催され、皆が別れを惜しみました。
さすがのお市お姉さまも、別れが寂しそうですぅ。
信長お兄様も、もう泣き出しそうなのを必死で堪えているみたいですぅ。
― そしてお輿入れの日になりました。―
国境までお見送りですぅ。
とはいえ、浅井家とは国境を接しておりませんので、他国を通ることとなります。
尾張は四方が敵ばかりなのだなぁ~と改めて知る想いです。
浅井家が、西美濃や本願寺に話をつけて、迎えの軍勢を津島に寄越してくれました。
なかなかやりますね、ポイントが高いですぅ!
これで一安心です。
今後は浅井家が、織田の味方になってくれるはずですぅ。
煌びやかな装束の浅井家中の御一行の姿に、『お市お姉様は、愛されているんだなあ~』と思いました。
まあ、私ものんきなものでした。
物見遊山というヤツですね。
じぶんの式の時であれば、こんな呑気ではいられないでしょう。
まあ、こういうものは見ているのが、いちばん楽しいですぅ。
それにしても、尾張の男衆が皆、魂が抜けたかのように悄然としております。
もっと殺気立つのかと思いましたが、『お市さまの覚悟を無駄に出来ない』と、森さま丹羽さまが、男らしく諦めるように檄を飛ばしたそうです。
男らしく諦めるってなんだかなぁ~と思いますぅ。
やはり奪うぐらいでないとぉ~、そんな情熱的な方に愛されたいですね。
タマ付いてますぅ?
次ぎ、いってみよう!




