『おんみつ姫誕生』
おはようございます。
ひさまさです。
楽しんで下さいね!
池田恒興の元へ手紙が届けられたのは、輿入れ三日目の今朝になってのことである。
前田利家が、使者としてやって来てくれた。
彼とは昔からの付き合いだ、とても頼もしい。
「上様からの手紙にござる」
「待ちかねたぞ~! よく来てくれた利家ぇ~」
信長からの手紙に、恒興が小躍りしたのは言うまでもなかった。
正直、もはや心身共にズタボロ、まさに限界であった。
(持ち場を離れ、静養したいものだ。)
今朝、あまりの心労ゆえ血尿が出てしまったところだ。
我ながら情けない、これならば城攻めにでも参加している方がよほど気が楽である。
「んじゃな、ちょっくら行ってくるわ!」
利家は他の用事があるらしく、手紙を届けるとすぐにいなくなってしまった。
さてと、まずは、この呆れる事態をどうやって乗り切るのかだな。
信長さまは、なにかいい手を思いつかれたのだろうか?
こんなに俺を焦らして、困った殿だよホント!
”がさがさっ”
ウキウキしながら書状を開いた……。
『 池田恒興殿
『 恒興よ、儂のために頑張ってくれてありがとう。
そちの判断は間違っておらぬ、よくやった! 』
(おお、よかった、褒めて貰えたぞ! うれしいな!!)
『何としてでも誤魔化せ!』
信長 』
うぐぐ、胃が痛い!
思わず倒れ込みそうになる恒興だった。
”ポトッ”
中から何やら落ちてきた……。
『追伸、市のことは、儂に任せろ! この文を市に渡せ』
もう一通書状が添えられていた。
「おお、殿! 恒興は…恒興は、殿を信じておりましたぞ~」
地獄に仏! 天にも舞いあがりそうな恒興であった。
《あげて落とし最後に掬い上げる、信長も乳兄弟だけあって恒興の扱いを心得ている。》
― 婚儀三日目 ―
式典も最終日だ。
会場は、多くの出席者で賑わっていた。
新郎新婦の登場前から、会場はすっかりと暖まっていた。
「おおっ、前田殿では御座らんか」
お市の嫁入りに付いてきた、尾張の大人達から声をかけられた。
「皆様ご苦労様です!」
礼儀正しく、あいさつをする。
「まさか、殿の秘蔵の赤母衣が来るとは……」
「うむ、殿の策というのは、どうやら本当のようですな」
「いや、一時はどうなるかと思いましたが杞憂でしたな」
「あのかぶき者も、すっかり大人になりましたなあ~」
(何やら大人達は皆で納得している様子だ。なんのことだか判らん聞いてみよう。)
「…皆さま方?…」
そこへ、新郎新婦が入場してきた…。
「あれ? あれは…お、おいn… ” バキッ!!☆/(x_x) ” ゲフッ」
恒興が”ばびゅ~ん”と文字通り飛び込んできた。
「よお、利家~ぃ楽しんでいるか? (くそボケやろう)」
思いっきりぶん殴った後、裸締め(チョークスリーパー)をかけ、利家のアブナイ発言をどうにか封じ込める恒興であった。
その顔には、なぜか猫に引っかかれたような傷跡がくっきりと刻まれていた。
「(大馬鹿野郎!こっちに来やがれ)」
「(いきなりなにをする)」
雰囲気を察して、利家が小声で応えたのは正解だろう。
でなければ、『怒れる恒興』に殺されていたであろう……。
それほど彼は、静かな殺気を放っていたのだった。
今の恒興に、犬千代ごときの命を斟酌する余裕は無いのである。
「やあ、前田くん、ちょっと相談があるんだ~」
白々しい言葉で場を誤魔化しながら、利家の首根っこを引き摺り控えの間へと戻っていった。
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・
― 控えの間 ―
「ふ~っ、やれやれ、お主のせいで寿命が縮んだわい、実は……」
「ふんふん、何ですとぉ~、お市さまが替え玉受験!」
意外と真面目に話を聞く利家。
「お市さまは、お犬さまを身代わりにしてお逃げになられた。 殿から聞いてはおらぬのか?」
「何も聞いてなどおり申さん」
頼みの綱の助っ人が、『タダのお使い』だとは信じたくない恒興であったが、現実は非情であった。
「はぁ~ヤレヤレ、見つかったらお前も切腹な!」
恒興は、首をコキコキほぐしながら、利家に軽ぁるく死刑宣告した。
「そんな殺生な!」
ただのお使いだと思っていたら、切腹とは……利家にとっても青天の霹靂であった。
「文句は、殿とお市さまに言え」
「判りました、では早速お市さまに文句を……(ぐえっ)」
「馬鹿か? 腹を切りたいのか? 」
「ちょっとした冗談でござる、勝三郎をなごませようとしただけだ」
(忘れがちだが、前田利家も若い時はかぶき者であった。)
「犬千代よつまらん洒落は、止めてくれ! もう、血のションベンが出てるんだ」
「あ~はいはい」
鼻くそをほじりながら返事をする利家は(多分)大物であった。
(キタナイから食うなっ!)
「で、何でまたそんな面白い顔をしているんだ?」
だいたいの予想が付きながらも、意地の悪い利家はたずねる
「お市さまじゃ」
― 半刻前のこと ―
早速、殿からいただいた文をお市さまに見せねば。
池田恒興は侍女に取り次ぎを頼み、『伊吹殿』と面会した。
(あちゃ~、恒興怒っているかな~逃げようかしら)
「コホン! 伊吹殿、清州よりお市さま宛に『文』がまいりました」
「清州から?」
「はい、信長さまからです」
「見せなさ~い!!」
元お市は、いきなり恒興に猫のように襲いかかり…(バリッ)…、
半ば以上奪い取るように恒興の手からひったくり、にまにまと満足げに『文』を手中に収めた。
「うふふふっ」
『 ― 伊吹殿へ ―
『伊吹』と改名したか、なかなか良い名前だと思う。
信長も気に入ったぞ!! (本当だぞ)
これからは、『伊吹』で通すように。 (間違っても”市”だとバレるな)
お前はこの兄のために 『浅井賢政』 という男を見極めてくれるのだな!?
茨の道ではあるが、お前がそこまで儂を想ってくれるのであれば文句は言うまい。
すまん、儂のため、織田のため、尾張のためによろしく頼む。
くれぐれも賢政殿を刺すことのないように。
伊吹よ! お前は今日から、儂の隠密だ。
儂のために己を捧げ、市としての自我を捨てよ!
お前は、女、”くノ一”なのだ。
賢政殿を織田方に引き込む為に、その身を捧げよ!
これは、儂の命令であると共に願いでもある。
頑張れ伊吹、賢政を籠絡するのじゃ!
では、健闘を祈る。
くどいようだが、くれぐれも賢政殿を刺すことのないように……。
信長 』
ああっ、お兄様!
こんなにも私のことを想っていて下さるなんて……。
お兄様のためにわたしは喜んで、己を…この身を捧げます。
お兄様ご安心下さい、お市は今日から『伊吹』です。(もはや妹ではないの!)
「頑張って隠密いたしますわ!!」
この時、『 おんみつ姫 』 が生まれたのである。
斯くして、信長の願い虚しく『伊吹』の斜め45度ほどズレた活躍が始まった。
婚儀三日目は、意外と静かに終わりを見せるかに思われた……。
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
はい ドーモ、すいません ひさまさです。
今後は、お市のことは皆が『伊吹』と呼びます。 信長の命令です。
本当は、落語『元犬(もといぬ)』で、ひとネタやりたかったのですが……。
お市(お犬)にチンチン○○させるワケにはいきませんよね~。
とりあえず、連投はここまでです。
感想・ネタを募集しております。
『ニセモノですぅ』は、キャラを立たせるためのお話しです。
浅井家中のみなを、魅力的なキャラに仕上げていきたいです。
今のところ尾張者ばっかですね…キャラの壁は厚いですぅ。
ひさまさ