『お市輿入れ顛末記!』
『静かなる逆襲!!』で、賛否両論のため新たな小説としてお引っ越ししました!
基本的に、ギャグですのでお気軽にお読みください。
ひさまさ
『織田信長のお家の事情』
織田信長は、『桶狭間の激戦』を制した英雄である。
みながその偉業をたたえ、賞賛した。
織田家の未来は明るい、みながそう信じていた。
実を言うと…、
織田の現状は、さほどよろしくはないのである。
対外的には、『桶狭間の激戦』で、信長の並外れた指導力を見せつけたわけであるが。
なにせ損害が大きすぎた、有力な譜代の家臣を数多く失ってしまったことが、どえりゃ~痛いでかんわ。
一応、名声が上がり国人衆が恭順するようにはなったが、今は戦力としてあてに出来ない。
それに、今川方の残党が領内に残ってしまい、手を焼いている。
とくに、市江島の服部友貞がまだ粘っているのが、頭が痛いところだ。
叩き潰してやりてぇ~が、今川や一揆を呼び寄せられてはたまったものではない。
今のところは、奴を西に追いやるのが精一杯だ。
ましてや、知多半島の方は完全に後手に回ってしまったので。
此度の勝利で、知多の水軍衆の佐治氏を取り込む手筈であったが、いまだに今川の調略・脅迫にさらされているが。
この状況では、妹いぬを送り込んでも従属させるのは難しそうだ。
義元が健在なせいで、今川の切り崩しも難しそうだ。
松平元康にそれとなく繋ぎをとったが、現状ではこちらに加わることは出来なさそうだ。
「つくづく義元を取り逃がしたのが痛いわっ!やっとれんがや」
景気づけに、美濃へ進出しようにも、やはり戦力が心許ない。
まさに八方ふさがりだった。
浅井家も美濃にやられた口だ。
いきなり襲われ、不破の関から柏原を奪われた。
しかし、浅井賢政は、狂っていた。
あ奴は、『荷止め』という手法で報復しおった。
確かに、多少は有効かもしれんが自分の懐も傷つくし、何より商人の反発が怖い。
『浅井の小倅は、何も知らない、田舎国人』
皆がそう評した。
確かに、たわけた事をするやつだがや。
「あ奴も、うつけ者か?」
「さて、常軌を逸しておるのは確かですが…」
俺をチラ見しながら答えるのは、恒興だがや。
「おみゃ、何が言いたい?」
「いえ別に、それがし、たわけには慣れました」
”ごちん”
げんこつで答えてやった。
この時は、変わったやつがおるな~、くらいの認識だった。
しかし、奴は主家の六角家を巻き込み、『美濃改め』を敢行した。
近江に通じる全ての、街道、宿、峠を封鎖しおった!
キチガイじみている。
そら恐ろしい男だ。
敵にまわしたくはない。
確かに策を実施出来るのは、六角家のおかげであるが、六角家を動かせること自体が異常だ。
まあ、一色(斎藤)の敵は、俺にとって味方である。
今はピンチなのだ、どんな味方でもいい。
さっそく、浅井に対してつなぎを取ることにした。
むろん、どんな手を使ってでも……。
「そう言えば、俺の上洛の折、義龍の刺客が俺を襲った時に警護をしてくれた礼がまだだったな」
乳兄弟の池田恒興に行かせよう。
「恒興をよべ!」
報告が楽しみだ。
― 小谷 浅井賢政(長政)―
信長より使者が到着。
池田恒興が、信長の名代として小谷城に参上したらしい。
小谷城の館で会見した。
先年の上洛の際の救援のお礼言上と、心のこもった贈り物をいただいた。
こちらもお返しに、桶狭間での活躍をお祝いした。
堅苦しい話もなんであるから、歓迎の宴会に突入した。
……あれから、三日ほど呑んだか?
飲み過ぎで多少青い顔の『恒ちゃん』に、お土産をたくさん持たせて見送った。
― 清洲 ―
池田恒興が帰ってきた。
「で、どうだった?」
「賢政殿は良き男でござる」
「ほう」
「やさしくて、気が利いて、……以下省略(賛辞)」
「ほほう(怒)」
”どごっ”
使えない奴は、ほかっておこうか。
俺も気になっていた、あのような戦い方があるとは……浅井賢政の本当のすごさに皆が気付かない。
しかし、気付いた男がいる、誰あろう、儂、『織田信長』だ。
まあ、六角・浅井の『美濃改め』にて、津島の経済が多少活性化の兆しを見せたからようやく気付いた。
今までとは違う戦い方だ。
信長自身、経済のことを知る商人肌の人物である。
まあ、信秀公の遺産とも言えるが……。
津島を押さえて成り上がった、弾正忠家だ、血が覚えているのやもしれん。
ゆえに、信長は賢政の非凡な才に気付いた。
意外と他国での『浅井賢政の評価』は低いのだ。
一例を挙げると…
優柔不断
人質大名
腰巾着
守銭奴
文弱
優男
君側の奸
当時の国人・地侍上がりの武将は、噂を聞きつけそう判じていた。
(嫉妬混じりだろうか?)
とくに、金に無縁の一本気者には不評であった。
(これは賢政の盲点だ)
この時、尾張では信長だけが、賢政の真価を認めた。
名軍師と称される『竹中半兵衛』、その彼が政治的な戦いでは、すでに賢政に破れている。
現状では、半兵衛が賢政に勝つことは、もう無いだろう。
「面白い、あの竹中半兵衛以上にすごい奴が、近江にいたとは」
俺が手に入れるべき美濃に侵入するのはいただけないが、あの義龍を手玉に取るとは見事である。
そんなやつをみすみす逃すわけにはいかない。
(6月、8月に信長は美濃へ越境し斎藤氏を牽制するも、長井利房らに破れ敗退している。)
そして、電光石火で手を打った、信長は、出し惜しみをしない男である。
『お市』 信長の掌中の玉である妹を呉れてやるほどに、賢政を見込んだ。
いま、味方につけねば、奴はいずれ美濃と和睦する。
信長の嗅覚が行く末を、かぎ分けていた。
「誰ぞ!お市の輿入れの準備じゃ!」
「「「「「「え~」」」」」」
― 浅井サイド ―
『恒ちゃん』が来た、信長の腹心、池田恒興である。
”信長のお使い”と、”戦の掛け持ち”ご苦労様である。
『美濃改め』を始めて以降、ちょくちょく浅井家に顔を出すようになった。
敵の敵は味方という理論かな?
とはいえ、さすがにいつまでも経済封鎖はしていられない、思い通りにいかなくてゴメンよ。
美濃との停戦で、縁が切れたかと思ったが……、逆に危機感を持ったらしい。
よく考えれば、美濃南宮山城に井伊直盛を置いている。
近頃とても有名な、井伊家である。
『井伊家』か、『伊井家』か判りにくいので、”赤地に金の『井』の旗印”を与えた、あの井伊家である。
赤備えの具足は、実は旗を渡す口実である。
信長にしてみれば、浅井家が井伊家を通じて今川家に協力すれば脅威だろう。
仮に軍事同盟でも組んだら、信長にとって致命傷の一大事だろうな。
なにせ、俺の長男の生母が、井伊家の嫡流だ。
ああ、だからこんなに焦っているのか。
納得した。
『恒ちゃん』も、顔に疲労の色が出ているわ~。
「……とのことです。」
俺もついつい織田家のことになると入れ込んで、妙に現実感がなくなってしまう。
(しっかり現実を見据えないとな~。)
「はっ?なに…」
「ですから、信長様は、妹を輿入れさせることに決めた由にございます」
「え、誰に?」
(そういえば、妹沢山いたよね~ほとんど覚えていないけれど……)
「ですから、『浅井賢政殿』に『お市様』が、輿入れされます!」
「……うそ?」
「これは、決定事項です!当方は 既に、輿入れの準備を始めております」
「なに言ってんだよ~、恒ちゃん?」
「文句は、信長様に言ってください!」
「よし、お断りの文を出そう!」
「拒否いたします!」
「なら、使者を立てよう!!」
「お断りの使者ならば、間諜として斬るそうです!!」
「じゃあ、正式な使者を立てよう!!!」
「婚儀の御使者として、有無を言わさず、丁重にお迎えいたす所存です!!!」
「俺に拒否権は?」
「ございません! 拙者の首一つで、ご勘弁願いたい」
「それは~、却下かなぁ~」
「ご配慮有り難く頂戴いたします、いやあ、目出度いでござる」
「恒ちゃんのいけず」
というわけで、なし崩し的に婚姻が決まった。
(まあ、史実本来のお嫁さんだし、もらった方がいいのかな?)
そう思いながら、なんとなくOKしてしまった。
― 清洲城 ―
それは、この一言から始まった……(回想)。
「誰ぞ~!お市の輿入れの準備じゃ!」
この日、信長はじっくりと何かを考えると、いきなりこう発したのだ。
「「「「「「え~」」」」」
家中が騒然とするのも無理はないが、……
織田家では、信長の奇行というものは、そう珍しいことでもないのだ。
清洲は、今日も騒がしかった。(と、ナレーションもスルーしている。)
― 信長の私室にて ―
「いやです!市は、嫁になど参りませぬっ!!」
輿入れを露骨に嫌がる美少女、彼女が『お市』である。
声高に叫ぶその様は、凄惨だけれども美しい!
一部マニアには、とってもご褒美かもしれないが、美少女の怒りは普通に萎える。
「まあそう言うな、賢政はいい男だぞ(たぶん)、恒興が言っていた」
信長も意外と呑気なものだ。
「ならば、恒興が輿入れすればよいのですっ!」
「それは名案だけれども…イヤ流石に…儂も気が引ける」
(というか、ご機嫌取りで相手を怒らせてどうするよ~おいっちゃん!)
「ならば、お・断・り をしてくださいっ!」
「いやぁ、こっちが無理に申し入れたので……」
「はあ?わたしの兄上が『市を見捨てる』と、申されるのですか?」
「いや、相手、官位持ちで偉いし…見捨てるなど…」
「賢政殿は、『惰弱な腰巾着』と聞き及んでおりますが……」
「うっ、そこを何とか…」
零細企業の社長のように、とても下手に出る信長、ファンには見せられない情けない姿である。
「なりませんっ!!」
そう宣言するなり、お市は足音も重く出ていった。
”ぴしゃん”怒りの衝撃で、襖が外れている。
「Orz ……」
部屋に静寂が戻る。
「これは困った、賢政よりもお市の説得の方が先だったわ。」
まあ賢政の名声も、清洲では形無しなようだ。
意外と他国での『浅井賢政の評価』は低いのだ。
一例を挙げると……『優柔不断』、『人質大名』、『腰巾着』
それから、『守銭奴』、『文弱』、『優男』
酷いものでは、『君側の奸』という評価まである。
まあ、こんな評判では受けがよろしくないのも確かだ。
しかし、……
「お兄様の…馬鹿…キライッ」
お市の声を聞くに、他に事情がありそうだ。
― 清洲城 ―
信長のひと言で、その日以降、城内はてんやわんやであった。
輿入れの準備など、そうそう早く整うものではない。
皆が、嫁入り道具の手配や衣装の準備やなんや用意をするのが大変なのである。
信長は気が短いので、余計にプレッシャーが襲いかかる。
今迄であれば、「ま~た信長様の訳の判らん物言いが始まった」
で済んでいたのだが。
『桶狭間の激戦』での勝利以降、
『信長は、深謀遠慮のかたまりで、理解出来ないものの方が凡人なのだ』
『死した斎藤道三は、信長の真価を見抜いていた』という評価なのである。
まあ、確かにそういう側面も多少あるが、『何でも信長が正しいのか』というと判断は困る。
全ては、結果論に過ぎない。
そのことを身を以て知っている男が、池田恒興である。
これまでの信長の行動が、擬態や深謀遠慮などではない事を知る信長の側近だ。
彼の苦労を知れば当然であろう!
信長は、無茶振りの天才なのだ、いや、天災児である。
脳裏に浮かぶ、悲しい想い出を振り払いつつ、恒興はお仕事に励む。
お市の輿入れの噂を知って騒然とする家中を宥めるのも、彼の仕事である。
騒然とするなどと穏当な表現をしたが、お市を慕っていた(狙っていた)者達が、そこら中で
暴れているのだ。
正直、頭が痛い。
「こら、又左!なんでお前までが暴れている?」
「いいじゃん別に、みんなが暴れているんだ、俺も暴れたい」
「お松殿に報告……」
「いやあ、勝三郎、忙しいだろうから手伝うぜ~、いや、手伝わせてくださいお願い…」
急に態度を豹変させる又左は、情けないほどの恐妻家だ。
「判れば良い、早速頼む、ぶちのめせ!」
「応!おらおらおら~」
威勢の良いかけ声を残しつつ、利家は逃げていった。
「はあ~」
親友を見送りながら溜息をつく。
織田家には、意外とまともな人物が少ないのである。
あの、柴田勝家殿でさえ、お市様を狙っている始末だ。
「いい年をして、あほか」と思う。
それにしても、賢政殿が悪いのだ。
せめて、あの竹中と派手にやり合えば、武名も上がるものを……。
尾張・美濃では、『浅井は六角に泣き付いて領地を取り返してもらった』と、皆が噂しているのだ。
まあ、斎藤の嫌がらせでもあろうが、織田家中の評判が悪いのも困りものだ。
賢政殿も関ヶ原より向こうでは、名君扱いで、実際イイ奴なのだが……
「皆が信長様には反抗出来ぬ分、賢政殿がやり玉だな」
頭を抱えつつ、信長の元へと帰る恒興であった。
土田御前は複雑であった、娘の市が輿入れするのは目出度い仕儀なのだが。
突然すぎるし、相手はあの浅井賢政である。
『六角承禎(義賢)の犬の賢政!』
さすがにそれは、あんまりである。
「織田家のためとはいえ、市が可哀想じゃ!」
信長にとっての都合の悪いことに、『お市さまが輿入れを嫌がっている』
という、噂が市中にまで流れた。
そうして、騒ぎはさらにエスカレートしたのであった。
いわゆる、『お市さまの争奪戦』だ。
発端は、「浅井のボケに比べたら、わしのが婿にふさわしい」
という、実にたわいのない発言だ。
しかし、それが呼び水となって、「わしが」「俺が」「おいらが」「いいや、俺だ!」
とまあ騒がしいこと騒がしいこと。
殴り合いの喧嘩に発展した。
信長の近習が騒ぎを取り押さえたが。
中には、佐久間信盛、 佐々成政、 飯尾尚清、長谷川橋介、加藤弥三郎それに、柴田勝家がいたとかいなかったとか。
とにかく大騒ぎだったのは間違いがない。
さすがに信長も家中の混乱に頭を痛めた。
「なぜわからぬのだ……」
信長には、なぜ皆が賢政を認めようとしないのか、とても疑問だった。
「殿、いかがなさいますか?」
「しばらく様子見しよう」
というわけで、しばらく放っておかれた。
そういうわけで、『輿入れは立ち消えになった』と皆が思ったのである。
― ある夜 ―
信長は密かにお市の部屋を訪れた
「お市…」
「えっ」
信長のいきなりの訪問に取り次ぎが間に合わず、さすがのお市も狼狽えた。
慌てて身繕いするその姿は、妙にかわいらしい。
「お、お兄さまっ」
「すまん、織田のため、尾張のために頼む…」
お市の可愛らしい反応に気付かない信長。
「……織田のためですか?」
「そうだ」
「なら、お断りいたします」
にこやかに拒否したお市である。
「尾張のために…」
「なおのこと御免です」
「……」
「……はぁ~仕方がありません、市はお兄様のために『浅井賢政』という男を見極めて参りましょう」
「近江に行ってくれるのか?」
「はい、お兄様のために喜んで参ります。」
「すまぬ」
「どうしょうも無い方であった場合は、義姉上を見習って刺して参りましょう!」
「それは困るが、助かる!」
「いいえ、市はお兄様のためであれば、喜んで地獄へ参ります!」
「お市ぃい~」
というわけで急転直下、お市さまのお輿入れが決まった。
慌てたのは、準備を中断していた連中である。
地獄の準備が始まった。
お市も自分の侍女となる者の人選をおこなった。
彼女も信秀のお嬢ちゃんである。
わがままであった。
数多くの娘が、評判や噂、それに推薦を元に清洲城に呼び出された。
主人となる、お市さまに”けちょんけちょん”にいびられ、泣きながら家に帰る光景が見受けられた。
まあその地獄の選抜を通過した精鋭が、小谷城へと乗り込むのであった。
ある者は志願、又ある者は強制であった。
そこに一個人の都合は斟酌されないのである。
舞台裏では、悲喜こもごもな人間模様が展開した事だろう。
いかがでしたか?
ご存じの方は、期待させてスミマセン。
ギャグパートのお引っ越しです。
苦渋の決断です!