私はシャーペン。
彼は鉛筆で、私はシャーペンだった。
知り合ったのがいつだったかなんて、覚えていない。でも、はじめて目があった時はつい先ほどのことのように私の頭の中にフラッシュバックされるんだ。
あの頃の私は恋愛なんてものより部活に青春を注いでいるような女の子だった。小麦色に焼け焦げた体はいつも泥と汗にまみれていたし、私が駆け抜けた大地には同じように私の汗が染み込んでいたとおもう。
そんな私が色恋沙汰に興味を持ち始めたのは"目があった"からであった。
目が合う事など日常茶飯事ではあるがそんな軽度なアイコンタクトなどではない。胸の奥まで見透かされているような、心臓がえぐられるようなそんな重度な視線の交差であった。
初恋はいつですか?
そんな質問をされたのなら、私はあの時だと即答できる。
私の中でその時の事は何時何時も変わらないまま存在し続けていた。
でも、彼は違った。
好きあっていたのは事実だけれど、その気持ちはいつまでも同じままではいられない。時が経つに連れ相手に求めるものも違えば、自分自身の感情だって変化していくのだ。
手をつないでしまえば、はじめて手をつないだ時の初々しさや高揚感はもう味わえないだろうし、もっともっとと欲が生まれる。記憶がリセットでもされない限りすぎた事はもう思い返す事しかできないのだ。
なのに私は恋愛初心者だったからか、はたまた私自身の性格なのか、いつまで経っても初心のままだったのだ。
同じ事の繰り返しで満足してしまう私と、先の事を要求する彼と、私たちの差は開くばかりだった。
出会った頃は同じ細さだったのに、何時の間にか太くなってしまった彼といつまでも細いままの私。
それはまるで、鉛筆とシャーペンのように。