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 突然の爆発。あまりに大きな音が響き、俺は身をすくませ――なかった。

 それよりも、今まさに吹き飛び、その重力に誘われ落下し、グシャッっと、重量に見あった命の終わる音、もしくは追い詰める音。それが連続する。

 ――その風景に釘ずけになって、身をすくませる余裕なんてなかった。

 

 そこで、ドンッっと後ろから衝撃。たいしたことはなかったが、突然のことで堪らず膝をついてしまう。

 

 その時点で、周囲の状況は混沌から更なる混沌へと移行していた。

 そこらじゅうで飛び交う、悲鳴怒号悲鳴怒号悲鳴怒号悲鳴怒号悲鳴怒号悲鳴怒号ときどき笑い声。そして悲鳴と怒号の主達は喚きながら逃げ惑う。

 俺はそいつらの1人にぶつかられたらしい。

 

 まあ、それも仕方のないことだろう。ただでさえ突然の異世界転移だなんて、夢かと疑わないほうがどうかしてる極限状態、そこに唐突な人が沢山死ぬ事態が追い討ちをかければ、そらパニックにもなるさ。

 

 しかし、俺は冷静だった。…チョット危ないような気もするが、俺はこの場で自らが何をすべきか選択搾取が出来ていた。

 

 この体勢からなら、クラウチングスタートに移行して、この危険地帯から脱出すべく、一気に駆け抜ける。

 《深淵(アビス)ダークエルフの少女アーク》と化した俺の敏捷は、確か140。これは同系統のエルフは愚か、スピード特化系のハイビーストでも追い付けないだろう数値だ。ただ、俺と同じように超激レア種族を引き当てた奴がこの騒ぎを引き起こしていた場合、ハッキリ言って絶望な訳だが、策が無いわけでは無い。…自信は無いが。

 

 さて、ひとまず適度に人が密集した所に飛び込めばそいつらを盾に出来るかな?、って我ながら外道なコトを考えていると、

 

 ドサァっ。それ(・・)は、目の前、ほんの1メートル先に転がってきた。

 人だった。

 種族はヒューマン、中性的な整った顔立ちのソイツは、俺の見ている前で、徐々に目の光を薄れさせ、完全に、消えた。

 文字通り死んだ目になった名前も知らないソイツの仰向けになった体の鳩尾、そこの真上の辺りの空間が、グニャりッと歪み、ソコから鞘に入った剣、籠手、胸当て、細長い小瓶に入った緑の液体十個、同じような赤い液体が五個出てきて、ボトボトと地面に落ちた。

 

 俺は目の前で人が死んだ事実を一旦スルーして――今まともに考え出したら絶対吐く――その後の謎現象の方に考えを巡らせた。

 

 …あれだ、ゲーム的に考えたらドロップアイテムだろうか?。アイテムボックス内に入っていたアイテムが持ち主が死んだことでアイテムボックスの効力が失われ、その場に出たきてしまった~~と、いうのが正解な気がする。

 普通の対人戦闘推奨なMMOゲームならPK(プレイヤーキル)をしても、獲られるのは倒した相手のアイテムのほんの一部だったりすると思うのだが。この(たぶん)異世界はゲームチックな現象はあるようでも、現実の世界らしく、死ねばゲームみたいにセーブポイントで復活する訳でもないんだろう。だから全てアイテムが出たきたのでは?。

 その証拠に先程から目の前の死体は消える気配なんてないし、出現したアイテムもちょうど初期装備のラインナップ――それぞれの武器/生産スキルに対応した初期アイテムとライフポーション×10、マナポーション×5――と合致する。

 

 その考えに行き着く頃には、その死体とアイテムに接近していた。一応、先程までクラウチングスタートの姿勢でいたので、そのままの低い姿勢でこそこそと移動した。…出来てるかは分からないが、自分のスキルである【隠蔽Lv1】を意識しながら。

 

 取り敢えず、死体の方は極力視界に入れないようにして、かき氷のイチゴシロップみたいな色のマナポーションを1つ手にとってみる。

 

 俺にもアイテムボックスがあるなら、このマナポーションをアイテムボックス内に収納できるはず!!、……使い方が分からないけど。

 取り敢えず、ボックス内に入れ~って念じてみたら、パッって消えた。…こんなんで良かったらしい。

 

 そういうことなら、全部まとめていっぺんに突っ込んでしまおうと、転がってるアイテム全部に触れて収納してみた、死体にも接触していた。すると、死体まで一緒に消えてしまった。

 

 ………マジかよ。

 

 どうやら死体もアイテム扱いらしい。まあ、よく考えなくてもそりゃそうだよな。

 

 さて、何故突然俺が死体漁りだなんてはじめたかというと、単純な話しで、物資の調達だ。

 

 この場所が異世界だろうが何処だろうが、ほぼ身一つで拉致られて、まさに安全とは真逆の状況なのは確定的に明らかであって、そのためせめて持ち物ぐらいは充実したいという考えの結果だ。

 

 えっ、倫理的にと言うか、人としてその行動はどうかと思うって?  問題ない、後で悩む。

 

 幸いにもアイテムボックスのおかげで荷物がかさばらないから、拾えるならどんどん拾っていこう。

 

 

 そうして俺はようやく駆け出した。

 

 敏捷140は凄かった。

 あまり目立たぬよう低い姿勢を維持して走る、忍者じゃないんだからそんなんでスピード何てでない~~と思いきや、超速かった。

 間違いなく元の世界の自分より速い。100メートルを10秒きるのが余裕なくらい速い。

 しかもそんだけスピード出してもまだ全力じゃないっぽい。まだ先がある。恐っろしい~。

 

 こうして俺は走る。走る。走る。

 走りながらパニックになって逃げ惑う人々の隙間をくぐり抜け、アイテムが落ちていたら走りながら拾い上げアイテムボックスへ、死体とアイテムがあったら抱きつくようにタックルして収納、その繰り返し。

 

 元の世界の自分とは、性別はともかく体格が全然違うんだから――キャラメイクがきちんと反映されてるなら、身長にいたっては20㎝近く違う――この世界の慣れていない肉体を上手く扱えないんじゃないかと、走る直前は心配していたのだが。

 全く何の問題も無く、むしろ元の世界の体より自分自身の動きを支配(?)できてる感じ?。

 

 完全では無いが、自分の拙い想像した動きに答えてくれる。それに対して、ほんの僅かな全能感。

 

 ぶっちゃけ言って、楽しくなってきた!!。こんな時なのに。

 

 そう、こんな時に、だ。

 

 この時の俺は、確かに調子に乗っていた。

 自分だって、あの中性的な顔の人みたく、いつ死ぬかわかったもんじゃないのに。

 理性的に考えるふりして、飼い慣らしていた恐怖を忘れていた。

 

 

 そして、その時は訪れる。

 

 低い姿勢で走って、走って、走って。

 

 また死体とアイテムを見つけたのでそちらに向かう。

 死体にある程度近くと、ある境界で人々がいなくなる。まるで生者と死者を分かつように。

 それもその筈、好き好んで死体に近づく一般人はいないだろう。さっきからよくあるパターン。

 

 そうして俺は失念していた。

 

 単純な話し。人々が近くに寄らないのは、死体があるだけでなく。

 

 それを殺したヤツも居るってこと。

 

 

 死体に近づき、体全体で接触。

 

 そうしてアイテムボックスに収納後、すぐさま駆け出そうとして――、

 

 前方から悪寒。

 

 前の世界ではろくに感じた事のないソレ。

 俺はソレをすぐさま殺気ってやつだと認識。

 顔を上げる。

 

 視界の真ん中、少し離れた場所にソイツはいた。

 前傾姿勢で此方に走りより、振り上げた右腕には血のついた短剣。

 外見はヒューマンの男性。

 何らかのスキルでも使っているのかかなり速い。

 

 回避は……不可能!!。

 

 だけど、策はある。

 

 

 さっきまでの調子に乗っていた余裕のある頭で考えていた、

 

 それは魔力の存在。

 

 アイテムボックスなていう今までの常識が通用しない現象を確認したため、他のあるかも知れない現象に関心が向いた。

 

 だから、走りながら余裕が出てくると、《自分の中に有るかも知れない魔力》ってのを感じようとしてみた。

 

 結果、…………何かある。

 

 何と言ったらいいのか…、全身の血の流れとは別に何かが、流れてる、のに気付く。

 暖かいような。冷たいような。…不思議な感じ。

 

 仮にコレが、魔力だと定義すれば、

 

 どうにか操れるか?。

 

 多分、操れる。

 自分のスキルの中に【魔力精密操作Lv1】とゆうのがあった。おそらく、【魔力操作】というスキルとして表記する必要すらない前提技能があるんだろう。

 

 …ならば、俺の<能力>のアレと組合せれば。

 

 防御に使えるかも知れない。

 

 

 そして今、その防御が必要だ。

 

 俺は焦らない、焦らないんだ。

 

 此方に走ってくる、よく見たら目がラリってる、まんま殺人鬼のお手本みたいな短剣の男。

 

 ソイツに向け、両手をパーにしてつき出す。

 

 その両手に、魔力を籠める。溢れるように、籠める。

 両腕を流れる魔力の向きを意識してーーいや、意思を込めて、変える!!。

 

 両手から何かが吹き出る感覚。

 

 よしっ、ここまでは成功。

 

 その間に短剣の男はもう目の前に。振りかぶった短剣と右腕が僅かにしなる。短剣をつき出す予備動作。

 

 まだ間に合う。

 

 続いて俺が意思を込めたのは、俺の<能力>の1つである【反射魔力】。

 

 この【反射魔力】というのは、<能力>選択時に見た説明によると、自身の魔力に反射属性を宿すというもので、鑑が光を反射するように、魔力で干渉できる物事ならどんな物でも反射できるといった能力だ。

 

 その説明を真に受けるなら、すぐそこに迫る事象、短剣による斬撃を反射できるだろう。……【反射魔力】が発動すればだが。

 

 ふと、喉がカラカラに乾いてるのを感じた。

 

 今思えば、先程から妙に時間の流れがゆっくりな気がする。

 

 迫る短剣。

 

 

 【反射魔力】ぅ、起動。

 

 目がイッてる男が右腕から斜めに降り下ろした短剣が、俺の両手の少し前の空間に差し掛かると、

 

 ぬるっ、と効果音が聞こえそうな滑らかさでもって、短剣とそれを握る男の腕の運動エネルギーの方向が、変わる。

 

 短剣を握る右腕が、斜め左上へと逸れていく。

 男の体もその動きにもっていかれ、ぐいっと上体が反らされる。

 男は驚愕というよりも怪訝そうな「あぁん?」って表情をしていた。

 

 こうしてスローになった体感時間のまま、状況は進み…………、

 

 男の短剣が、近くにいた別の男の二の腕に、ぷすっと切っ先が刺さった。

 

 一瞬、俺と短剣の男の時が止まる。

 

 それは、とても大柄な男だった。

 190超えそうな長身と隆起した筋肉でもって構成されるマッスルボディー。

 紅蓮になびく総髪と側頭部から後ろにかけて伸びる一対の流線型の角。

 ドラゴニュートだ。

 

 そのドラゴニュートの男が、自分を突き刺した短剣の男に、視線を顔ごと向ける。

 

 俺はドラゴニュートの男の顔、特に目を見て戦慄した。

 

 目が堅気じゃねぇ。

 間違いなく元の世界じゃ、ヤかボのつくアウトローな界隈で生きてきたんだろう(確信)。

 なんでそんなヤツがネトゲなんてやってんだ?。

 

 さっきまで脅威に感じていた短剣の男が、一気にカスに思えてきた。

 

 ドラゴニュートの男は短剣の男を一瞥すると

 

 ドラゴニュートの男の体が、ぶれた。

 俺は、一拍遅れて状況を把握。ドラゴニュートの男が短剣の男の顔面をぶん殴ったのだ。

 めきょ、って音が短剣の男の顔面から響く。野球の全力投球のようなホームの見事な一撃だった。

 

 …もしかして、この目が剣呑な男、ドラゴニュートの一個上の上位種族、ドラグーンかも知れない。

 俺のアビスダークエルフのような超激レアでは無いが、激レアではある。

 恐らくコイツは、この場に居る人々の中でトップクラスの強さだろう。

 

 ……早く、コイツから離れたほうがいいだろう。

 

 と、ドラゴニュート改めドラグーンの堅気じゃない男が、此方に視線を向けた。

 

 はっきり言おう、金縛りにあったかと思った。

 目力がやべぇぇぇ~、怖わぁぁぁ~。

 なんかめっちゃ見られてるよぉぉぉ~。

 ああ、なんか目線が強くなった気がぁ。

 

 うぅ、………でもまあ、短剣の男を沈めてくれた恩もあるしなぁ~。

 

 取り敢えず、ペコリっと会釈だけして、あとライフポーション×30個とマナポーション×15個をその場に置いて、駆け出した。

 

 うぅ~わぁ、まだ背中に視線感じるぅ。

 

 こうして俺は調子にのらない事を固く決意した。

 

 

 

 それから、どれくらい経っただろうか。

 俺は相変わらず、走って、アイテムを死体ごと見つけて、全部回収、を目にも止まらぬ速度で、今度こそ油断無く、何度も繰り返す。

 

 だが、流石に集中も限界になってきた。

 

 そんなとき視界の端で巨大な岩のような物が見えた。

 

 よく見てみると、遠くに荒く細長く切り出された岩が複数、等間隔に並んでいた。

 

 …アレだ、俺達はどうやら巨大なストーンサークルの内側に召喚されたらしい。

 

 ならばひとまずストーンサークルの外側に出た見ようか。

 

 


 さっきは細長いと思ったが、近くで見るとめちゃ太い。直径なんメートルあるんだ?、まるで電車の連結した車両が束ねられて縦に突き刺さってるようだ。

 

 その石柱の裏側に駆け込む。ただし、誰にも認識できない猛スピードで、だ。

 今まで出さなかった全速力。ヒュンッという加速音と共に、人の少ない空間、人の目線の外側を通って石柱の裏側に。

 

 ようやく、走るのを止めた。

 石柱に背中を預け、息を整える。

 

 ぜぇ~、ハァ~、ぜぇ~、ハァ~、

 

 ふと、アイテムボックスから小瓶を取り出す。マスカットグリーンに透き通る色合いのライフポーションだ。

 

 走り続けて乾いた喉を潤すべく、蓋を抜き取り、一気に飲み干す。

 

 ゲフッゥ!!!

 

 …………………………味の感想は、俺のSAN値が減るので、詳しくわ言わない。

 

 ただ、一言。

 

 吐くかと思った。

 

 …………うん、アレだ、今度から鼻つまんで飲もう。極力舌に触れないように、喉に直接流し込もう。そうしよう。

 

 この調子だと、マナポーションの方も……

 

 取り敢えず確認しとこうと、マナポーションもアイテムボックスから取り出し、口に含む。

 

 …………、

 

 ………………、

 

 ……………………ゴクンっ。

 

 ……普通に色どうり、イチゴ味で美味しかったです。

 

 …………、

 

 

 な ん で だ あ ぁ ぁ ぁ ぁ~! ! ! !

 

 

 何故にライフポーションをマスカット味にしなかったしっ!!!

 

 

 あ~、今日はもう色々疲れたわ。家帰って寝たい。あっそっか、ここ異世界だから俺の家ねーわ。あはははは~~~、

 

 

 ※再起に十数分かかりました。

 

 

 さて、コレからどうしよう?。

 

 ちらっと、石柱の影から反対側を覗く。

 

 相変わらず人が一杯だ。

 ただ、外側付近の人々は俺のいた周囲よりも落ち着いている。でも、あくまで比べればの話で、外側付近の人々も困惑したりパニックになったりしているが、命の危機に怯えている感じじゃない。

 おそらく、俺のいた周囲で起きた殺人騒ぎがここまで伝わってないんだろう。外側に近づくほど死体の数も減ってたし。

 

 ……結構な距離を走ったが、このストーンサークル内にまんべんなく人が召喚されたとして、どれ程の範囲と人がいるんだろうか?。

 

 …俺がもたれ掛かっている、馬鹿デカいストーンサークルの石柱を見上げる。

 

 上から見れば、解るかな?。

 

 






 ………←の所は、主人公ちゃんが考えているときか、フリーズしているとき、だよ?。

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