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「……ねぇ、なんか嫌な感じがする……」

「気のせいだって。何かあったら逃げればいいんだし」


 あ、やば。急いで美術室へ向かう。何もないといいんだけど。


「お、早速はっけーん」

「ひっ」

「そんなビビんなよ。別に何にもしないんだから」

「……おかしいな。横に倒れてる」

「あ?べつにおかしくなくね?」

「いや、いつも『メリーちゃん』は丁寧に置かれてるんだよ。間違ってもこんな乱暴にほっぽらかされたりしないはずだ」

「バランス崩して倒れたんじゃねーの?……よいしょっと」


 あー、なんかすごいヤな感じがするー。


「うわっ」

「ん?どうし……」

「……」


 何かが床に落ちた音がした。……あの野郎、床に落としやがった。美術室の前の廊下に来たが、時すでに遅し。廊下に後ずさりしながら出てきた三人組が見えた。そして方向転換して……


「「「うわぁーーーーーーーーー!!!」」」


 オー、見事な走りっぷり。わき目もふらずに逃げて行った。正直アンタらの顔のほうがすっげー怖かったんだけど。まあそんなことは置いといて、とりあえず美術室に入る。


「もう~。非道いですわ。私の顔を見て逃げ出すなんて」


 どこか楽しそうに聞こえる。たぶんイタズラが成功して嬉しいのだろう。


「あら、見てたの?」

「……なにその顔」


 動き出したそいつの顔には、なにか黒っぽいものがべっとりとついている。よく見ると服にもついているようだ。


「なにか塗られたのかっ!?」

「うふふ~♪絵の具つけてみたの~♪そのほうが面白いかなーって」

「……ハァー。」


 ほんとにこの子は。


「……だめだった?」


 首をかしげながら大きな青い瞳でこちらを見てくる。

 ……まったく。あんまりかわいい目でこっちを見ないでくれるかな。


「絵の具落ちなかったらどうするの?」

「大丈夫よ。水性だから水で洗えばすぐ落ちるし、髪の毛には付けてないから」

「服にもついてるよ」


 確か水洗い不可だった気がする。


「着替えれば何とかなるわ!」

「……」


 嗚呼、ここに無残な運命になった洋服が一枚……。せっかく買ってあげたのに。「もうちょっと可愛いのがよかったわ」なんて言っていたから最初から『実験』用に使うつもりだったのだろう。なんてわがままな子なんだ。


「今日の子たちは面白かったわ!美術室を出てから走り出すまで、何も言わずに口をぽかーんと開けたままだったんですもの」

「そりゃあ君の様子が尋常じゃないからね」

「あら、それほどではないと思うのだけれど」

「鏡見る?」

「……遠慮しますわ」

「とりあえず着替えて顔洗っておいでよ」

「……そうしますわ」


 そう言ってメリーは美術室から出ていった。出るときの後ろ姿は少し寂しそうに見えた。……ちょっと冷たくあたりすぎたかもしれない。でもあまりにも度を越した『イタズラ』をされると、こちらの後処理が大変なんだけど。

 机の上にばらまかれた絵の具を片付ける。ついでに黄色いモップを探し出して、適当に近くにあった赤い絵の具をつけ、床に放る。こうすれば、翌朝美術室にさっきのことを確認しにきたあの三人組が「なんだ、昨日のアレってこのモップの見間違いか」って誤解してくれるはずだ、多分。いや絶対。


 こちらがわとしては、あまりあちらがわと関わるのを好まない。一部を除いて。あまり不必要に関わって、あちらがわが干渉してくることを良しとしない。メリーもそれはわかっていると思う。でもやっぱり一人に近い状態で取り残されるのはキツいのだろう。だから時折こうして『イタズラ』と称してちょっかいをかけるのだと思う。


 自分は『寂しいか』と聞かれたら……多分答えは『NO』だ。もうずいぶん長くここにいるから、慣れてしまっているのだと思う。いや、もしかしたら最初から寂しくなかったかもしれない。


 そんなこんなで途中から入ってきた新入りがメリーになる。まだここに来てから日も浅い。だからだろうか、たとえメリーが言葉にしなくても、態度にださなくても————なんとなく寂しいのがわかってしまう。


 そしてメリーが寂しいと知っていながらも、良くも悪くも『人間臭い』メリーに、自分はどうすればいいのか分からなくなる。……今まで考えてきたけど、考えたって答えなんて出て来やしない。もう考えるのは疲れた。


 ……他の奴らに相談しよう。なにもここにいるのは俺とメリーだけじゃない。普段あまり気にしないだけで、ほかにもここに住み着いている奴はちゃんといる。少なくともメリーの話し相手くらいにはなってくれるはずだ。


「着替えてきましたわ」

「おかえり」

「……気のせいじゃない?」


 やばいやばい、顔に出てるとは思わなかった。気を付けないと。


 ————あいつらに会わせるのは、直前までメリーには内緒にしておこう。たまには驚いた顔を見てみたいから。


 今度こそ顔がにやけていると実感した俺は、ばれないように明るくなり始めた窓を眺めた。



1から時間が空いてしまい、すみませんでした。これにてメリーちゃん完結です。もしよろしかったら活動報告も御覧ください。

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