いやいや、先ずは定番の京都やで? - bmg2・粉モン彼氏 -
トムトムさん企画【バカンスに行くザンス企画】の参加作品です。
本編は【boy meets girl 2 - 粉モン彼氏 -】ざんす。
「なあキャル、実はさ転属の打診が来てるんだ、俺」
久し振りに一緒のベッドで朝を迎えた恋人を抱き締めながら呟くように言った。
「転属? もしかして第七艦隊から異動になるの?」
「ふふーん・・・」
「何よ、その変な笑いは」
『実はなあ、お月さんに行けるかもしれへんねん』
「なによ、いきなり日本語で呟かないでよ。一瞬何言ってるか分かんなかったじゃない。月ですって?」
『そうやで~、お月さんや。しかも! 日本企業が納入してくれてる宇宙食に何と! お好み焼きを追加すべく開発を始めてん。俺が行く頃にはお好み焼き、宇宙に持って行けんねんで? ええやろー、いてっ』
キャルに蹴られた。
「そんなの邪道よ! お好み焼きは鉄板で焼いてこそのお好み焼きでしょ? そんなレンジでチンするみたいなのはお好み焼きじゃないわ!」
「だが日本の冷凍食品だって、いてっ、何度も蹴るなっ」
『ジャドーDETH!」
「なにも日本語で言うことないだろ、しかも最後なんかおかしかったぞ」
いくら軍属で鍛えていても痛いものは痛いねんでキャルッ!!
「お好み焼きなら何でもいいの? 違うでしょ?」
「そりゃ鉄板で焼いたのが食べたいに決まってる」
「だっら次の長期休暇の行き先は決まってるわよね?」
「「大阪、日本!!」」
もっとロマンチックな場所でもええねんで?と言ってもキャルは大阪で良いらしい。ま、美味しいお好み焼きを食って海遊館いってデートするか。日本のホテルはサービスもええし?
「マリンにも声かけるのか?」
「それはちょっと考え物ね。日本が狭いとは言え妊娠中に長距離移動はあまりお勧めできないし、東京に足を延ばせたら良いけど、無理なら今回は電話だけってことで良いんじゃないかしら?」
「ふむ……。だったら大阪でお好み焼きを食って、京都の神社仏閣巡りでもするか」
「賛成~~! 最近は変り種の八橋が出てるらしいからそれもチェックしたいな。確か八橋作りを体験できるところもあるんですって、あ、そろそろ桜のシーズンだし、そっちも!」
「それも調べておくか」
こういう時、二人してネイティブな日本語が話せて良かったと思う。
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そしてやってきたで、日本! キャルは以前に利用していたので手慣れた様子でHARUKAの乗り場に俺を引っ張っていく。普段は基地から基地への移動だからこういう電車の移動もなかなか新鮮でええやん? さすがに大阪で粉モン三昧だけでは寂しいので先ずは定番の京都で桜三昧と洒落込むことにした。キャルは桜餅がどうのこうのとはしゃいでいるので下手すりしゃ和菓子屋巡りになりそうやけどな。
「宿泊は京都って、このシーズンによくとれたな」
「知り合いがホテル勤務なのよ。連絡したらとってくれるっていうからお言葉に甘えちゃった。しかもお知り合い価格でちょっと割引!」
「キャル、なんだか思考が日本のオバチャン化してないか・・・」
「いいのよ、オバチャンでも。せっかくの好意なんだから」
電車に乗って一時間ちょいでKYOTOに到着。意外と俺等みたいな海外組の姿が多い。ホテルに荷物を置いてさっそくガイド片手のキャルに引っ張られて桜の名所へと出掛けることになった。ほんまに元気やな~。俺はこのまま昼寝でもええんやけどなあ・・・。
「馬鹿なこと言ってないで、ほら行くのよ。せっかく本場の桜を見に来たのにMOTTAINAIでしょ?」
「キャルぅぅ、そのMOTTAINAIの使い方、なんか間違ってるぞ?」
「細かいこときにしないの!」
女っつーのは全く・・・。
連れてこられたのは岡崎の平安神宮。ここは古い歴史の京都では珍しく新しい神社というか神宮や。とは言っても軽く百年の歴史はあるんやけどな、地元の人間からすると“まだまだ新しい建物”っちゅうことや。京都で“歴史ある”と言えば五百年前なんて当たり前らしい。だから和菓子屋やKIMONO屋も百年程度ではペーペーの新参者、五十年なんて『お話になりまへんなあ』ってことなんやと。つまりは京都の人間からすれば俺達の国もペーペーなんか?
「なあキャル、こっちの桜餅にまかれている葉っぱってこれと同じなのか?」
桜の木をさして尋ねる。
「そうよ。もちろん道端の桜の木の葉を使うわけじゃないらしいんだけどね。それを塩漬けにして使うんですって。花が散って葉が出てくると桜餅の匂いがするのよ?」
「へえ・・・で、ここからサクランボウが実るわけじゃないのか」
「それはサクラ違い」
「なるほど・・・」
とにかく桜のシーズンに来て驚いたんは、とにかく京都の市内にはやたらと桜の木が多いってこと。神社仏閣だけではなく普通に庭に桜の木が植えてあるなんてのも珍しくない。ちょっと観光地から外れた住宅地にも大きな枝垂桜があって驚いた。
「ガイドブックには載ってないけど、ここ、大きなKIMONO屋さんの別荘だって友達から聞いたことあるの。中には入れないけど外からでも綺麗な桜が見れるから行ってみたらって友達に教えてもらってたんだ」
友達からもらっていたらしい手書きの地図を見せてくれた。それでこんな外れた場所なのに迷わずに来れたんか。俺達が知らんだけで地元の人しか知らん桜の名所ってのもぎょうさんあるんやろうなあ。それにこの桜は他の桜と違ってたれさがっとるし。紅枝垂れっちゅう桜の種類らしい。
「そう言えばね、前に聞いたことあるんだけど、どうして京都ではこんなに桜の名所がたくさんある知ってる?」
「いや。どうして?」
「京都っていうのは貴族がたくさん住んでいる町で、その貴族ってのが季節季節の花を楽しむ習慣があったから桜のシーズンには桜が少しでも綺麗に見えるようにってきちんと計画して植えたんですって。だから今でもその名残で桜スポットがたくさん残っているらしいわ」
「へえ・・・ってことは町全体が日本庭園みたいなものか」
「そんなところね」
「しかしこれだけ綺麗だと、花の下で騒ぎたくなる気持ちも分かるよな」
桜シーズンの花見。比較的お行儀のよい日本人が唯一羽目を外す時じゃないやろうかと俺は思ってんねんけどな。とにかくこっちの基地にいる時に上野に行った時も凄かった。普段はスーツ着て真面目に仕事しているであろうオッチャン達がやんややんやの大騒ぎ。もしかして日本人て年に一度のこの日の為に働いているやないかって思うぐらいの羽目の外れようやった。
アメリカで催される桜フェスティバルとはちょっと違う日本の桜シーズンの風物詩ではあるんやけどな。
そのあと、キャルに連れて行かれたんはそこからKYOTO駅を挟んで、さっきとは反対側にある八つ橋の店。街中に同じメーカの商品があんのに何でこんな離れた場所にわざわざ?って聞いたら、ここで八つ橋を作る体験が出来るからってことらしい。さすがパティシエ、どうしても来たかったんやな、これ。しかしなあキャル、いくら好きな形の作ってもかまへんって言われたからって、抹茶味で餃子はないやろ餃子は・・・。
いや・・・努力は認めるけどな・・・。