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欠片小話  作者: 鏡野ゆう
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ある日の榎本さんと葛城さん - 貴方は翼を失くさない -

F-2戦闘機の部隊配備が始まった頃の榎本さんと葛城さんの様子です。

 いよいよF-2の部隊配備が始まった。当初の調達予定数を大幅に下回る機数になると知った天音二佐は、こっちの苦労をなんだと思っているんだと上に噛みついているらしいが先行きはまだ不透明なままだ。


「ようやく俺達もお役御免だなあ、こうなると名残り惜しいな」


 葛城がテスト用の機体を軽く撫でながら呟く。テスト中に様々なハプニングに見舞われヒヤリとすることも一度や二度ではなかった厄介な機体だったが、いざ離れるとなると寂しいものだ。そしてそれは機体だけではなくパイロットに対しても同じことが言えた。


「すまなかったな、長いことつき合わせて」

「んー? 気にすんな。俺も桧山も随分と楽しませてもらった」


 桧山は一足先に本来の所属基地である三沢に戻っており、葛城も明日には千歳に戻ることになっている。


「優さんやおチビちゃん達にも随分と寂しい思いをさせてしまって申し訳なく思っている」

「優はちゃんと理解してくれていたよ。それにチビ達にはこれからきちんと埋め合わせをするつもりでいるから心配すんな」


 チビ達に顔を忘れられてなきゃいいんだがなぁと呑気に笑う。


「お前、ブルーにって話もあったんだろ?」

「ああ、それな。俺は好きに飛べないのは無理だから断った。もちろん腕に自信が無いってわけじゃないぞ?」


 葛城らしい言い分に思わず笑ってしまった。


 テストが始まってしばらくしてから聞いた話なのだが、俺がこいつに声をかけたのと同じタイミングでブルーインパルスに行かないかという話が出ていたらしい。ブルーといえば空自では花形の存在だ。まさかその打診を断ってまでこっちに来てくれているとは知らず、少しばかり申し訳ない気がしていたのだ。


「長くアラート任務から離れるつもりもなかったしな。それにスリル満点という意味ではこいつも同じだったろ」


 機体を撫でながら葛城がニヤリと笑う。確かにテスト飛行ならではの様々なアクシデントに見舞われた毎日で、葛城と桧山じゃなかったらどうなっていたことやらと冷や汗をかくことが幾度もあった。本人達はアクシデントが無いと逆に気持ち悪いぞと冗談交じりでよく言っていったものだが、俺としては本当にこの二人で助かったというのが正直気持ちだ。


「それにこいつは良い機体だ、気に入ったよ」

「本当に機種転換するのか?」


 葛城と桧山がF-2の戦闘機要員になることにしたと聞いたのはつい先日のことだった。既にこの機体を飛ばしていることから機種転換課程もスムーズに終わるだろうというのが天音二佐の見解だ。まあ上の連中は二人にF-2の訓練課程の教官に就いてほしいと思っているようだが、こいつの様子からしてそれは当分先の話になりそうだ。


「当然だろ、せっかく一足先に搭乗するチャンスに恵まれたんだ。それを利用しない手はないからな。あっちに戻ったらさっそく転属願いを提出する」

「本当に気に入ったんだな」

「当り前だ。こいつでショットガンのケツを追い回すのが楽しみだよ」

「おいおい」


 悪人みたいな笑みを浮かべる様子に思わず溜め息をつく。


「なんだよ。あいつ、お前が空に上がれなくなったから自分が空のトップだってふんぞり返ってるんだろ? そういうけしからんことを言う奴にはきちんとお灸をすえなくちゃな」

「また高笑いしてキルコールするのか?」

「こいつと俺のコンビなら不可能じゃないだろ。今から行くのが楽しみだなあ、アメリカでの日米合同演習」 


 葛城がフフフッと怪しい笑い声をあげた。確かに機動性の高いF-2と葛城の腕ならそれも可能だろう。今からショットガンの愚痴りが聞こえてきそうだ。


「あまりやり過ぎるなよ? 相手はアグレッサー様なんだからな」

「なんだよ、あいつの顔に黒星をぶつけてやるのが楽しみじゃないのか?」

「……楽しみだ」


 自分の手でぶつけてやれないのが悔しいほどに。


「だろ?」

「やれやれ。どんな無茶な飛行をするつもりなのやら。俺が整備員としてついていかないと心配になってきた」

「おう。それとショットガンと手合わせする時はお前を後ろに乗せてやるから楽しみにしていろよな」


 俺の心の声が聞こえたのか葛城はニッと笑ってそう言った。


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