首都防衛訓練 二日目 side - 榎本 - 空と彼女 & 空を感じて -
佐伯瑠璃さんの『スワローテールになりたいの』番外編①にゲスト出演をさせていただいている榎本さんと葛城さん。今回のお話は「三尉殿は役立たず」での模擬空戦中の榎本さんの様子と訓練終了後の葛城さんと榎本さんの様子です。
※お月様の榎本さんのお話にも同じものを掲載しました、内容は変わりません
※佐伯瑠璃さんには許可をいただいています。ゲスト出演させていただきありがとうございます~(*´ω`*)
「今回の訓練は、昨日のシミュレーション結果から、硫黄島航空基地を占拠した敵国航空機が、再度こちらに侵入を試みてきたという想定のもと行われるものだ。すでに、陸自と海自がシミュレーションにて離島奪還作戦を遂行中だが、事務的な調整が間に合わなかったので、この作戦に関しては後日あらためて、陸海空で合同訓練を行うものとする」
航空戦術教導団司令である相模空将補が、その場にいる全員に説明を始めた。
「首都防空圏に侵入を試みるのは鹵獲されたF-15イーグル。見た目は友軍機だが、当然のことながらパイロットは敵国の人間だ。そこは大丈夫だな、榎本一佐?」
「はい」
「よろしい。では始めよう」
『スマイリー、ランサー、領空内へ侵入せよ』
空将補のスタート宣言を受け、領空外で待機していた但馬と沖津に指示を出した。
『了解』
『了解』
こちらの動きを待ち構えていた早期警戒管制機からの指示で、百里から四機のイーグルがスクランブル発進をした。実際の領空侵犯ともなれば、可能な限りレーダーに引っ掛からないように飛ぶのだが、今回は訓練ということでその点は無視することにした。
そして並んで飛ぶこちらの二機をかろうじて目視できる距離にまで四機は接近すると、そのまま一定の間を保ったままで飛行を続ける。空自だけではなく他の空軍でも、映画のようにいきなり接近してサイドワインダーをぶっ飛ばすなんていうことはしない。まずは敵か味方か見極めるために、相手のことをじっくりと観察することから始まる。
教科書通り、こちらとの距離をとり続ける八神達のイーグル。今頃はこちらの装備をチェックし、この二機がどう動くか用心深くうかがっているころだろう。昔なら笑いながら速攻で相手の後ろを取ってキルコールした葛城にしては、用心深いことだ。
―― ま、訓練だからな。大事なのは学ばせることだ ――
遠巻きについていたイーグル一機が進路を変えた。どうやら、大きく旋回しながらこちらに接近するつもりらしい。但馬がレーダーを見ながらうなづいている。ここまでは予想通りの動きだ。
『司令官、こちらもスタートします』
このタイミングを待っていた但馬が通信してくる。
『了解だ、しっかりやってくれ』
『了解』
まずは沖津が領空内に侵入した。その後を二機、八神と立木のイーグルが追いかける。本来ならば、残る一機も先に領空に入った航空機の後に続くか、そのまま相手の動きをうかがいながら、領空ギリギリを飛ぶのが通常の行動だ。そのあたりは葛城も良く知っているはずだった。だが今回は違うぞ。
「おいおい、榎本」
但馬がとった進路に、相模空将補が苦笑いをしながらこっちに目を向けた。但馬は沖津とは逆方向、つまりは市街地へと進路を向けている。
「相手が予想通りの動きをするとは限りません。それは現場にいた我々が、一番よく知っていることです」
「だが市街地に向けるのはどうなんだ」
「通常の演習バターンでいくなら、第三段階の視界外攻撃に入ることになります。おそらく彼等もそのつもりでいたでしょう。しかし、先が市街地となれば話は違ってきます。この場合、まず相手をそこから引っ張り出さなくてはなりません。相手は我々が先に撃てないのを知っています。守りに徹するだけでは、国土は守れませんよ」
さらには二手に分かれた相手にどう対応するか。予想外のこちらの動きに慌てている彼等に、葛城が指示を出し、イーグルを二機ずつに分けそれぞれの敵機を追わせた。
「今回の訓練で重要なのは、若い彼等がいかに冷静な判断を素早く下せるかどうかです。もう少し引っ掻き回してみますか?」
そう言うと、沖津に声をかける。
『ランサー、そろそろ手袋をサンダーに投げてやれ。あとはプログラム通りに。任せたぞ』
『了解、司令官』
沖津を追う八神と立木は元アグレッサーだ。お互いの手の内を知り尽くしている者同士、二対一はいささか分が悪い。沖津には申し訳ないが、ここはしっかりと時間と距離をかせいでもらおうか。素早く彼等の後ろに回り込んだ沖津が、レーダー照射をすると、それを敵対行動とみなした二機が回避行動にうつった。
そして市街地に向かった但馬を追うのは、あの若いのが乗ったイーグルともう一機だ。さて、どうやって但馬を領空外に引っ張り出すか、お手並み拝見といこう。
黙って画面を見ていると、一機が但馬の前に飛び込み挑発を始めた。だがこの程度の挑発で進路を変えるような相手ではない。連中はこっちが先に撃ってこないことを知っているのだ。
立木が沖津をキルコールする声が聞こえた。だがここまで離れると、彼等は敵機が市街地上空に到達する前に、対処できるだけの距離に戻ってくることはできない。
―― さあスワロー、お前ならどうする? ――
但馬がレーダー照射をして、前のイーグルにロックオンをする。その時、但馬を追いかけていたイーグルが一気に高度を下げ大きく旋回した。
「なるほど、そうくるか」
真下に回り込んだイーグルが、アフターバーナーを全開にして垂直上昇で但馬の鼻先をかすめるようにして飛び出してきた。さすがの但馬も度肝を抜かれたのか『正気か?』と呟いて笑っている。
『司令官、これなら連中も、度肝を抜かれて戦意を消失するでしょう』
『合格か?』
『今回は』
『そうか、では退去せよ』
『了解』
四機対一機。いくら但馬が腕の良いパイロットでも、こちらに勝ち目はない。但馬は機体を旋回させると、領空外へと出る進路をとった。敵機二機のうち一機撃墜、もう一機は領空外へ退去。初っ端にしては上々だ。だが。
「葛城のやつ、我慢できずに口出ししてくるとはな。それじゃあ訓練にならんのだがなあ……」
まあ、気持ちはわからないでもないが。昨日のシミュレーションのこともある、今回は、連中に勝ちをゆずっておくことにしよう。
『バロン、待機してもらっていてすまないが、今回はそのまま引き返してくれ』
『了解、司令官。次の機会を楽しみにしています』
「おい、榎本。今のは誰だ」
「うちの連中です。葛城隊には他に待機しているF-4もいることですし、敵機を増やそうと思ったのですが、面白いものを見せてもらって気分がいいので、今回はやめておきます」
「……やれやれ。隠し玉に空域外飛行に危険飛行とはな。さっきのだが、下手をすれば接触事故だったぞ」
「彼はブルーにいたことのあるパイロットですからね。この手の機動はお手のものでしょう」
「今回の訓練は色々と上から言われそうだな」
あきれたように首を振る。
「これも、柔軟な応対で状況に対処できるようにするための訓練です。上へのとりなしは、なにとぞよしなに」
「そこを俺に押しつけるのか」
「よろしくお願いいたします」
「まったくお前達ときたら……」
空将補はやれやれと溜め息をつくと、わかったよとうなづいた。
+++++
「おう、お疲れ」
模擬空戦のすべてのミッションが終了し、ホッと一息つきながら廊下を歩いていると、早期警戒管制機で空に上がっていた葛城が俺のことを待っていた。
「そっちもな。だが途中で訓練を乗っ取ったろ? いくら連中が慌てているからとは言え、あれでは訓練にならんだろうが。助け舟にしてはサービスしすぎだ」
俺の言葉に、葛城がいやいやと笑う。
「お前が相手だから、つい昔を思い出して熱くなった。だが、イーグルに乗って飛んでいる方が気が楽だな、命令するのは俺の性に合わない。この手の仕事は、絶対に岩代向きだと思うんだがな」
とたんに不機嫌そうなヤツの顔が浮かんだ。相変わらず眉間にシワを寄せ、人のあずかり知らぬところで勝手に名前を出すなと、もんくを言いげな顔だった。
「あいつには、まだまだ雛鳥達を空に放ってもらわなくちゃならん」
「まだ俺をこき使うつもりかって、そろそろ苦情を言ってきそうだけどな」
「俺達が働いているんだ、同期のあいつにもまだ働いてもらわないと不公平だろ」
「たしかにな」
働かざる者食うべからずだなと、葛城は笑う。
「不謹慎な言い方だが、この二日間は楽しかったよ。久し振りに空に上がって、昔に戻ったような気分になれた。今回の訓練が、あのひよこ共にとって有意義なものになれば良いんだが」
「当り前だ。こっちはそのために手練れを三機連れてきたんだ。成長してもらわなくては困る」
「ああ、それで言いたいことを思い出したぞ、榎本」
葛城が急に不機嫌そうな顔になった。
「お前、よくも隠し玉を潜ませてたな。入間にイーグルを置いてきたのも、俺達にそっちが何機出すかわからないようにするためだったんだろ?」
「なんのことだ。横田への着陸許可が出たらそっちにおりたさ。入間に置いてきたのは単なる偶然だ」
「しかも、そいつを演習に参加させずに帰還させるとは、一体どういう了見だ」
「なんのことを言っているのか、さっぱりわからん」
「どの口が言うどの口が」
まあ長いつきあいだ、俺の考えなんてお見通しか。とは言え、事前にそこまで考えが及ばなかったとはまだまだ甘いな、葛城一佐。そんなことを心の中で呟きながらニヤニヤしていると、葛城は自分の言ったことが正しかったのだと察したのか、腹立たし気に息を吐いた。
「まあ、お前が性悪なのは今に始まったことじゃないか。それより大丈夫なのか、足。ちょっと引きずってるぞ」
「性悪は余計だ。ずっと立ちっぱなしだったからな。ちょっと疲れただけだ、大したことない」
横を一緒に歩きながら気づかわし気な顔をするので、心配するなと手を振った。
「そんなに足をずるずる引きずって、どこへ行こうとしているんだ?」
「言うまでもないだろ。うちの小僧たちのところだ。それと言っておくが、ズルズル引きずってなんかいないぞ」
「いいや引きずっている。途中で派手にすっころんで、コブラの威信が地に落ちでもしたら大変だ、御一緒させていただきますよ、榎本司令」
芝居じみた口調でそう言うと、俺にお先にどうぞと頭を下げてくる。こういうところは昔からまったく変わらないな、こいつは。
「子守りはいらんぞ」
「お前の意見は聞いてない。ちはるちゃんから、よろしく頼むと言われたからな」
ちはるはそういう意味で言ったんじゃないだろと反論したが、葛城は俺の言葉なんてまったくの無視で、呑気に口笛を吹きながらついてくる。
「ついてこないほうが、お前のためだと思うんだがな」
「どういうことだ」
「俺はちゃんと忠告したからな。あとで八つ当たりするなよ」
「はあ?」
とにかく俺はちゃんと忠告はしたからな、葛城。
+++
ハンガーに向かうと、部下達の機体がすでにハンガー前に並んでいる。
そして機体の前には今回の模擬空戦で敵機役を務めたパイロットの但馬、沖津、辛島、そして火器管制担当として同乗した鹿島、沢霧、勝田が立っており、俺のことを待っていた。
「司令官殿を待つパイロットか」
両手を後ろで組み、微動だにせずこっちを向いて立っている六人の様子に、葛城がいやはやと呟いた。
「よくもまあ、この短期間であそこまで仕込んだものだな」
「俺はなにも言ってないぞ。気がついたらいつもあんな感じになっていた。あいつらにそうさせているのは、隊長の笠原だ」
「そりゃあ笠原にとっても、大先輩だからな、お前」
「だが考えものだぞ、あれはあれで肩がこる」
「贅沢者め」
前に立つと六人は一斉に敬礼をする。
「楽にしてくれ」
その言葉に、六人は少しだけ肩の力を抜いたようだ。まったく笠原め、なんで部下達にこんなことをさせるのか。もしかして八神や朝倉を防空任務に戻した、俺に対してのイヤがらせか?
「但馬、沖津、今回はよく我慢してくれた。辛島も待機のみですまなかったな」
そう言って、まずは操縦桿を握った三人をねぎらう。
「いえ。我々の任務は味方パイロットの技量向上です。その糧になるのであれば、どんな状況で飛ぼうと撃墜判定をいくつ受けようと、気になりません」
但馬がいつもの穏やかな口調で答えた。この一見なにを言っても怒らずニコニコしている但馬が、実は一番恐ろしいコブラだと知っている人間はそう多くない。
「そうか。鹿島、沢霧、勝田、お前達も御苦労だった。お前達も、いずれは他の基地に出向いて教導する立場になる。今日のことは忘れるなよ」
「はい!」
この三人は、八神、立木、朝倉を防空任務に戻した後に引っ張ってきたパイロット達だった。まだこちらに来て日が浅く、教導する立場になるにはもう少し訓練が必要だと思われた。
その点は隊長の笠原に任せてあるが、今回の訓練に同行させ、仮想敵機部隊がどう任務をこなすのか身をもって体験したことは、彼等にとっても良い経験になったことだろう。
「おい、我慢したってなんだ」
そして案の定、葛城が俺の言った言葉に食いついてきた。
「本当に聞きたいのか?」
「聞かせろ」
まったく。せっかく忠告してやったのにこいつときたら。まあ、こういう自分の気持ちに正直なところが、こいつの良いところでもあるんだが。
「今回は、某国が鹵獲したイーグルが侵入したという状況を想定しての訓練だったから、連中がとりそうな行動パータンを事前にいくつか組み立てておいたんだ。そしてお前達の行動にあわせて、あらかじめ決められた対応プログラムで応じるようにしていた。ただの模擬空戦なら、臨機応変にこいつらの好きにさせてやれたんだが、今回はかなり抑圧した動きをさせたからな」
みるみるうちに葛城の顔つきが不穏なものになる。だから言ったろ、ついてこないほうがお前のためだって。友人の忠告は素直に受け入れるべきだぞ、葛城?
「つまりは、すべてが計算済みの行動だったということか? こっちのケツに食いついたのも」
「当然だ。俺達が仮想敵機の動きをトレースせずに好き勝手な行動をしたら、訓練にならんだろ。お前達がこっちの想定内の行動をとってくれて助かった。お前や八神のことだから、もう少し突飛なことをしてくると思ったんだが、突飛なことをしたのは、あの小僧のほうだったな」
そう言って微笑んでやったら、葛城は非常に不愉快そうな顔をこっちに向けた。
「ほんっとーにお前って性格悪いな」
「忘れているかもしれないが、俺も元コブラだ。その言葉、お褒めの言葉として受け取っておこう」
「それで?」
「それでとは?」
「こいつらの溜め込んだフラストレーションの処理はどうするんだ。溜め込んでないなんて言い訳は通用しないぞ。こいつらの顔を見ればわかる」
「そんなの決まってるだろ。小松の居残り組がこいつらの餌食だ」
俺の言葉に、六人がニヤッと笑う。ああ、小松の連中は気の毒にな。これでしばらくは、鼻をへし折られてぺしゃんこだろう。
「鬼だな……」
「そうか?」
「ああ、鬼だ」
それも褒め言葉としていただいておこう。
+++
ハンガーの隅に移動して、帰投準備に入った但馬達の作業を見守りながら、葛城に声をかけた。
「それよりも、朝倉をこっちにくれたやったんだ。F-2飛行隊を有効に使ってくれよ。あいつを、ただのパイロットの空席埋めでこっちに出したわけじゃないんだからな」
「分わかっている、心配するなって」
今はアメリカ本土での合同演習に参加している、この基地のF-2飛行隊。その飛行隊の隊長は、半年前までうちにいた朝倉だった。この基地でF-2パイロットとして任務についていた社と羽佐間が、F-35のパイロットとしての訓練に入ったためにできた二つの空席の一つに、どうしてもと言われて手放したのだ。
本人は、もともとイーグルではなくF-2パイロットを志望していたせいもあってか、快く転属に応じてくれたが、俺としては八神達を送り出したばかりのタイミングだったせいもあり、少しばかり納得がいかなかった。実際のところ今だって納得していない。
「そもそもの問題は、F-2が絶対的に少ないってことだよな。当初の予定通り、生産が続いて配備されていたらと思うよ」
F-2は、開発が長引いたことで機体コストが爆発的に膨れ上がったことや、様々な事情で当初の調達数より大幅に削減され、現在は生産ラインも閉じられている。開発責任者の一人だったちはるのオヤジさんが上に噛みつき、なんとか首都防衛の役割を担うこの基地の飛行隊分までは確保したものの、飛行教導群とブルーに回すだけの機体はついに確保できなかった。
さらには、震災のせいで松島に配備されていた機体数も減ってしまった。訓練用の複座機がなんとか残ったお蔭でパイロット養成は可能だが、十分な訓練ができているとは言い難く、F-2パイロットの養成はなかなか難しいものがあった。
「ならショットガンに頼んでやろうか」
もともと、F-2はアメリカのF-16をベースに開発されたもので、見た目もそうだが特性も良く似ている。まったく同じとは言わないが、訓練に使う分には問題はないはずだ。だが葛城の意見は違うようだ。
「あいつに頼むのか? あいつには借りを作りたくないんだがな。倍返しだなんて変な言葉を覚えてから、厄介すぎて笑えん」
「それはお前が、高笑いしながら何度もキルコールするからだろ。あいつ、今もそれを根に持ってるぞ」
「まったくしつこいジーさんだな。昔のことをグチグチと」
「一佐、お迎えです」
但馬がこっちにやってきて、滑走路を手で示した。そこには着陸態勢に入っているT-4が二機。
「……なんで飛実のT-4がお前を迎えに来るんだよ」
その機体についているエンブレムが飛行開発実験団のものだと気づいた葛城が、顔をしかめた。
「俺一人が横田に行くために輸送機を飛ばすことなんてできないからな。生憎とイーグルに空席はない。こっちに滞在する時間も惜しい。だが防空任務に穴を空けるわけにもいかんから、余裕がありそうな岐阜基地に頼んだら引き受けてくれた」
「……あれ、誰が乗ってるんだ?」
「さあ。あそこのテストパイロットだと思うが? なんでだ?」
「いや、なんとなくイヤな予感がするだけだ。さすがテストパイロット、いい腕をしてるな」
その顔はわかってるんだからなとでも言いだけだ。だが、俺があのテストパイロットの素性を口にすることは絶対にない。
「だろ?」
「だろ、じゃねーだろ。自由すぎて笑えん」
「お前、今の口振り、岩代そっくりだぞ」
「やーめーろー、あのカチカチと一緒にするな」
その言葉に、思わず声をあげて笑った。
「お前が、どうして飛行教導隊に引っぱられないんだろうって昔は不思議に思ったんだが、今その理由がわかった」
「なんだ、そりゃ」
「お前はいいヤツすぎなんだよ」
葛城はムッとした顔をする。
「うるさいぞ、この性悪オヤジが。それで? 二機やってきたってことは、残る空席が一つ、俺も離島奪還作戦の見学ツアーに連れて行ってくれるってことなんだよな?」
「当り前だ。森永がお前に会いたがってるぞ。お前達の後始末をする様子をしっかりと見ておけとさ」
「はぁぁぁぁ、結局はあいつに一刀両断されるのか……」
「心配するな。実地演習には連れていかないでやるとのお言葉だ」
「まったく、あいつも違う意味で鬼だな……」
そんなわけで、二日間にわたる空自・海自の首都防衛訓練は終了したが、俺達がホームベースに戻るのはもう少し先になりそうだ。