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対魔討伐兵団

作者: パンター

トレーディングカードでリアル戦闘物という設定で書いてみました。

 そこは砂の海。所々に岩山が小島のように突き出ていた。

 灼熱の太陽。人間は日陰にいなければ小一時間で日射病にやられるほどで、光と熱が砂を焼いていた。

 だから岩山の日陰から出ることも出来ず、かと言って手持ちの水筒の水は底をつきかけていた。

 しかしここから撤退することも出来なかった。救助通信魔法札をつかえばすぐに探知されるだろう。そうなれば再び命を狙われる。雷の魔人はすぐ近くにいると思われるからだ。私はその魔人を討伐に来た対魔討伐兵団の兵士だった。対魔討伐兵団は魔力を持たない人間で編成された魔力を持つ人や魔人で人間に危害を加える危険対象を討伐する部隊の名称である。本来なら魔法使いの仕事なのだが、人材は乏しく貴重な存在だった。そんな人材を危険な任務に就かせるわけにもいかず対魔法装備で武装した一般兵士が戦う羽目になったわけである。

 そんな私たちの武装は普通の両刃剣と魔法札と呼ばれる魔力を封印し再利用可能な手札である。この手札に様々な魔法が封印できる。精霊属性魔法、火や雷を放つもの。召喚魔法、魔の力を持つ獣の姿形と能力を記号化した複製を封印し魔法力で再構築召喚をする。あとは傷を癒す治癒魔法札。人の意志を遙か遠方に送る通信魔法。それらの魔法を札に封じて携帯し状況に応じて解放し戦うのだ。

 雷の魔人が国の西方の砂漠地帯で旅の商人を襲い物資を奪うという報告が入ったのは一週間前。討伐隊が編成され王都から総勢50人の部隊が出立したのが四日前。砂漠につき本部を設置したのが昨日。そして早朝魔人の奇襲に遭い兵は散り散りになってしまったのだ。今は私のそばに誰もいなかった。

 突然の落雷がテントを次々と直撃した。雲ひとつ無い晴天なのに。すぐに奇襲だと感じた兵士はそう多くなかった。探知魔法による走査では近くに魔力反応がなかったからだ。一体どこに潜んでいたのか。それを詮索している暇はなかった。寝袋から抜け出し日除けの天井しか無いテントから走り出て近くの岩山に逃げこむのが精一杯だった。もちろん気配を消す透明化(と言っても見えなくなるわけではない気配や魔法探知無効という意味での透明化)魔法札を使い追跡を逃れる工夫はした。私は程々に古参の兵士だった。こういう奇襲を受けた経験があったのだ。私たちは只の人間なのだ。先手を打てなければ敗走が必至な戦いが多いのだ。そうなれば撤退が最良の戦術である。無駄に戦力を消耗しても意味が無い。

 新兵も一応教育は受けているはずである。だが教育官の教訓が活かされるのは自分が実際に体験した後である。そのためそれを自分の為に活かせるのは約半分。あとの半分は活かす暇もなく天国へ直行だ。

 今回は集団で包囲。消耗させて隊長が必殺の攻撃魔法札で仕留める手はずだった。いくら魔人でもただ一人だからと油断していたのだ。その油断が奇襲を呼び込んだのかもしれない。

 隊長はどこにいるのか。仲間は。もうやられてしまったのか。

 もしかして生き残りは私一人だけなのか。だとしたら絶望的な状況だった。

 隠れて夜を待つか。だがまだ午前である。これから陽は真上に昇り日陰はなくなる。肌を焼くような灼熱の太陽光に半日も晒しては日射病になるだけだった。戦う前に倒れては意味が無い。

 ではどうするか。戦うのか。

 どちらも最善(ベスト)どころか最良(ベター)でもなかった。

 などと考えているうちに私は選択肢を失った。

 私の目の高さから少し上、陽の光を浴びた魔人が浮かんでいた。発見されたのだ。

 本能が体を動かしその場から飛び退いた。

 一瞬視界の端に光の柱が見えた。その刹那轟音が身体を揺さぶった。

 雷撃。魔人の攻撃だ。

 私は砂の上を数回転がり片膝を付いて体制を立て直し魔人を見た。

 魔人の大きな金色の目が私を睨みつけている。口元は両端が少し上がり笑っているように見えた。

 嘲笑っているのか。それとも何か別の感情なのか。察することが出来るほど魔人を知らなかった。

 とっさに召喚札を取り出した。奇襲を受けてかろうじて配給品の札を何枚か持ってきたのだ。それでこの札には魔獣の模擬構成体が封印されている。魔獣を表す数字の羅列であり魔法で物理的な形に再構築するのだ。

 私が持っているのは怪鳥ギーラの封印札。全長※4メートル、翼を広げると全幅※10メートル以上の巨大な猛禽だった。(※わかりやすくするためメートル法で表示)

 ギーラはその鋭い爪とくちばしで攻撃する。上空に障害物のない砂漠地帯ではうってつけの魔獣だった。のはずだった。

「マジ908765番封印解除。再構築してヘ1034号の命令に従え」私は解除呪文を唱えた。

 封印魔獣の解除番号と私の認識番号を口述入力すると札が認識判別して起動する。すると数字化されていた情報に基づいて再構築が始まるのだ。

 札から出た白い煙のようなものが空に上昇していく。それは鳥の形を形成し凝縮していく。

 魔人は何かを察したか白い煙に雷を落とした。だが煙状では雷はすり抜けて砂漠に落ちるしかない。

 またしても轟音が響く。またしても身体が防御反応を示してしまった。

 その間に鈎状にくちばしが曲がった焦げ茶の羽に覆われた巨大な鳥が完成していた。ギーラだ。

 しかし魔人は先の失敗など関係なく雷を怪鳥に落としてきた。今度は効いた。

 体をのけぞらせて硬直した体はそのまま落下していった。

 登場してわずか数分で退場である。再構成された体はダメージで破壊され空中で分解した。

 弱点が雷だと知ったのはその時であった。本当は訓練期間中に魔獣召喚札の勉強しているはずなのだが居眠りしていたため知らなかったのだ。

 つ、使えねえ・・・

 と心のなかで嘆きつつ魔人の隙を付いて岩山の反対に回り込んだ。一瞬でも視界から外れて逃げおおせようとしたのだが次に逃げこむ岩山が近くになかった。だがそこへ渡るために砂の上を長時間走って逃げていればすぐに見つかってしまう。随時物陰に隠れながら逃げなければ意味が無い。

 武器は腰の両刃剣のみ。魔獣召喚札は魔力を再注入すれば再び使えるのだがここに魔法使いはいない。 しかしこういう状況のために戦闘中短時間でのみ消滅した魔獣を再び戦闘に投入するための魔力注入札が存在する。通称再生札である。この札を使う時は戦闘の最中なので札の即効性が求められる。最低限の体力でいいから即時に再生を終えて召喚して戦闘に投入できるよう作られている。そのためいちいち召喚番号入力をせずに済ませられるよう予め自動入力をする機能もある。再生札を発動すればすぐさま再召喚が出来るのである。

 私は今一枚その札を持っていた。だから一度だけギーラを再召喚できるのだ。

 しかしそのまま投入すれば愚策である。再び雷撃を食らって破壊されるのみだ。そうすれば貴重な札の魔力も失い全く勝ち目が全くなくなってしまう。

 今こそ戦術が必要だ。しかしこれも居眠りを開いていてあまり聞いていなかった教練だな。

 独りでできる事など少ない。その中で最良(ベター)な戦い方を思考しなければ。

 これが最良(ベター)だろうか。今はわからない。結果でしか評価出来ないものだからだ。

 生き残れば成功である。負ければ死ぬだけだった。

 それならば今はすぐに移動しなければ見つかる。隣の岩山めがけて一か八か走りだす事にした。案の定すぐに見つかりすぐわきに雷が落ちた。だが無視して走り続けた。少しでも距離を空けなければ。

 魔人にはかなりの知性があると言われている。人間ほどではないが。魔獣をベースに魔法使いが創りだした人造人間だという説もあるくらいだ。ある程度の人間の言語を理解するし、遊ぶということもする。

 低い知能しか有せず本能のみで生きる動物は遊ぶということはしない。肉食動物が子どものうちに狩猟ごっこで狩猟のやり方を覚える。あれも遊びではあるが意味があるものである。自己の精神安定のためにまたは自己満足のために遊ぶということはしない。そういう遊びは高い精神性を持つ生物にのみ発生する行動である。無意味な行動で時間をつぶすという行為を遊びと定義すれば、今魔人がしているのは遊びである。

 魔人は私を追いかけず距離を空けているのだ。じっとこちらを見て空中にとどまっていた。

 鬼ごっこでもするつもりなのだろうか。ここで時間つぶしをしても魔人の優位性は変わらない。すぐに追いかけて雷を落とせばいいのだ。そこで精神的に余裕ができ遊び気分が起きたのだろうと推察した。

 ならこっちも余裕を見せてやろうじゃないか。

 私は走るのを止め魔人の方に振り返り大声で叫んだ。

「なめてんじゃねえぞコラァ!」

 挑発である。注意をこちらに引き付けるためである。

「ほらほら、余裕ぶちかましていると痛い目にあうぜ」

 魔人は相変わらず表情は変化しない。だから顔から心情を察するのは無理だった。あくまで微細な行動の変化に注意を払わないと。

「こっちもいつまでもやられてばかりじゃないぞ。なめんなよ。お前なんか軽くひねってやるぜ」

 挑発に乗ったようだった。ゆっくりとこちらに近づいてきた。

 面白いやってみろよ、などと思っているのだろうか。

 だがこちらも距離をあまり詰められると困る。ジリジリ後ずさりしていく。背中を見せて逃げるのはまだ早かった。

 もう少し。あと少し。もうちょっと。

 距離は確実に詰められている。だがいいぞ、もう少し。

 ふいに魔人は右の人差し指で天を指し示した。何のつもりだろうか。

 これから雷撃を撃つぞ、の予告なのだろうか。だとすれば完全にこいつは遊んでいる。

 ヤバイ。今雷撃を撃たれたら回避出来ない。下手に動いたらバレてしまう。動くとしたら真後ろしかないが後ろに飛んでも大して距離を稼げない。大して距離がなければ電導物の方に電撃は向かうから命中する。ヤバイ。ヤバイぞ。

 魔人は天を指した指を振り下ろそうとしたその瞬間だった。

 魔人の両肩は摘む鋭い爪を持つ鳥に掴まれ体を天高く釣り上げられた。

 ギーラである。再生が間に合った。そして魔人の背後に接近し襲撃するのに間に合った。だからこそこちらに気を引く必要があったのだ。

 岩を離れる前に召喚札と再生札を並べて置き再生を開始していたのだ。再生が狩猟すれば自動的に召喚されて敵を攻撃する。しかし再びギーラが魔人に攻撃されたらもう打つ手がなかった。だから自身が囮になり背後から襲わせる作戦に掛けたのだ。

 魔人はもがいて雷撃を撃とうとするが、その度にギーラが魔人の体を揺さぶり魔法を使わせないよう集中させないようにしていた。

 怪鳥は自身の体が黒い点になるほど上昇させ一転急降下してきた。

 少し斜めに落ちながら岩山の一つを目指しているようだった。

 魔人はこれから何が起きるかを察して抵抗している。必死に体をよじらせて爪から逃れようとしていたが、爪は魔人の体に食い込んでいたせいで簡単には取れるものではなかった。

 怪鳥は岩山の側面に衝突しそうな距離まで迫った。そこで魔人を離したのだ。

 魔人は岩に叩きつけられた。そのまま※10メートル以上の高さから落下していく。

 力なく人形のように砂の上に再び叩きつけられた。動く気配はなかった。

 速攻で私は剣を抜き魔人に迫った。そして心臓めがけて剣先を突き刺した。とどめを刺したのだ。私は魔人を倒したのである。

 だが怪鳥も回避する距離を保てす岩山に激突、そのまま消滅した。

 私は魔人を見下ろしながらしばらくじっとしていた。起き上がるのではないかと危惧したからだった。だがそれは大丈夫だった。

 私は軽く息をついた。そして喉が渇いた。

 私は最後の水をゆっくりと飲んで祝杯とした。漠然と帰還できることを実感して笑みがこぼれてきた。

 任務完了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別世界から召喚といっても呼ばれた方は厄介でしかないわけで、更にカードやカプセルに閉じ込められてもねえ。ということでマトリックスをコピーしてデータだけをカードに入力という設定にしてみました。

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