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氷が溶ける、その日まで  作者: 海道 蓮
一章 願いを叶える力をこの手に
8/81

……解呪‼

始めて感想をいただきました‼

嬉しくてちょっとテンション高めです(笑)

この勢いで頑張りたいなぁ、と思います!



鐘事件によって一時限目、二時限目と自習になった。結局、誰が鐘を鳴らしたのかは分からずじまいだった。誰かはこう言っていた。

「デスライト現象だ」

そして雄一は、その日の午後になっても姿を現さなかった。先生によると、欠席の連絡は入っていなかったとか。

今日はなんか変だ。そう思っているのは自分だけらしい。みんな面白いことがあったね、程度にしか捉えていないのだろう。朝聞いた気がした声は、今日でもう四回くらい聞いたような気がする。でもやっぱり自分にしか聞こえている様子はない。何を言っているのかよく聞こえないその声に、俺は内心イラついていた。



.├*┤.



「はい、サデリンの悲劇は何年におきた?」


不機嫌そうな教師は俺に質問……もとい問題を投げかける。今は補修中、放課後だ。みんなが部活に勤しんでいる中、俺はオレンジに染まった教室の中にいる。


「六年前」

「いや、何年前じゃなくて何年って聞いてるんだけど、飯塚」

「六年前です」

「……はい次。怪奇現象の最初の被害者の名前は?」

白鷺優衣シラサギ ユイ

「……誰?」

「優衣は優衣ですよ」

「答えは松田裕太な。はい次。行方不明者は何名?」

「二人」

「一人だよ!お前やる気あるのか!?」


教師は元々あまり綺麗とは言えない顔を一瞬歪ませる。ちなみに俺に人を怒らせる趣味はないし、学年を代表するようなバカでもない。ただし、嫌いなやつを混乱させたりするのは大好きだ。


「あるように見えます?」


大変ご立腹な様子の教師に、いたって冷静な態度で返す。


「……もういい。お前に聞いた私が悪かった」


教師は力なく座り、頭を抱えた。俺は満足げにうなずく。


「分かってくれて何よりです」

「じゃあ次。サデリンは何国の支配下にある?」

「アステトット帝国」

「お前は地理まで出来んのか!!答えはここ、サウラント国だ!そんなこと誰かに聞いたのか!?」


一瞬落ち着いたかのように見えた教師はまた立ち上がり、興奮した様子で俺に指をつきさした。


「いい質問ですね。ゾシモスです」


「……お前ってサデリンの被害者だったか?」


俺のセリフを聞いた教師は態度が一変、恐れるような目になった。ゾシモスとは天魔戦争とはまた違うおとぎ話の一つ、「天裂く槍」に出てくる主人公だ。話の中で彼は一度、神と会話している。ちなみにさっき言った帝国はこの話の中の地理ではサウラント国に場所に位置する国だ。子供でも言わない冗談に教師は俺をサデリンの被害者だと思ったようだ。残念だが、俺は被害者じゃない。


「いえ」

「……。今日はここまでにしておくか。テストの時にちゃんと出来るならな」

「心配いりませんよ、センセ」


厄介払いをするかのように補修を終わらせた教師は俺を手で追い払う。俺はその通りにゆっくりと席を立つ。補修が終わるのは大歓迎だ。教室から出る時に先生のため息が聞こえた気がした。



補習を終えて外に出ると意外と暗く、まさに逢魔が時だった。夕暮れの空がいつもより赤く感じる。

(気のせいか、それとも……)

学校前の大通りを抜け、商店街へ足を踏み入れる。いつもとは違う帰り道で、俺は雄一の家によるつもりだった。曲がり角を曲がったところで中年の男の人とぶつかる。


「あ、すいません」

「いえ」


そのまま横をすり抜けようとしたときだった。

男の頭上で何かが煌めく。思わず上を見上げると、大量のどす黒い水が、自ら意志を持っているかのように空から降ってきた。水はそのまま男を締め付けるように巻きつく。


「でっ、デスライト現象だ!デスライト現象が起きたぞ!!」


周りで騒ぎが起き、瞬く間に商店街から人が減っていく。恐怖といくらかの好奇心で、俺はその場から動けなかった。やがて水は男から離れ、ただの水たまりと化した。慌てて確認すると、男はすでに息絶えていた。


「あなたに当たらなくてよかった」


後ろから今日何度も聞いたあの声がする。違ったのは今度ははっきり聞き取れた、ということ。俺は恐る恐る後ろを振り向いた。


「君は……?」


声の主と思われる人は同い年かもう一つ年上くらいにしか見えない少女だった。


髪はライトブルーのロングヘア

瞳は深いブルー

異常なまでに透き通った白い肌はその華奢な体をよりいっそう際立たせていた。別におかしくはない。だけど少女は背中に白い翼を生やし、軽く宙に浮いていたのだ。


「私はイルシテア・F・アンルエイテア。上級天使です」

「いや、上級天使とか言われても……」


戸惑う俺に上からまた水が降ってくる。俺は転がるようにして横に避けた。


「なんなんだ、これっ⁉」

「魔法ですよ、悪魔の。どうやら狙われているようですね。私のせいかもしれません」

「はぁ⁉どうしてくれるんだ、天使さん!?」

「仕方がないですね。死にたくなかったら復唱して下さい、和真。いいですね?」


あんた自信がどうにかしてくれないのかと思いつつも、とりあえず俺は頷く。こうなったのは彼女のせいらしいからとにかくまかせよう。どっちにしろ、俺には打つ手がない。


「極寒の地の氷よ、」

「極寒の地の氷よ、」


「封じられし力よ、」

「封じられし力よ、」


「飯塚和真の名の下に」

「飯塚和真の名の下に」


「今、永き眠りから解き放たん」

「今、永き眠りから解き放たん」


「イルシテア・F・アンルエイテアよ、」

「イルシテア・F・アンルエイテアよ、」


「我の刀となれ!」

「我の刀となれ!」


「解呪!!」

「解呪!!」


イルシテアと名乗る天使の呪文を唱えきったとたん、彼女は淡い光の帯となり、俺の右腕に集まった。そしてその光は、やがて一振りの太刀へと変わる。


「なっ、なんだこれっ!?」

『これは武天ぶてん。私たちの力を秘めた、天上人の武器です』


イルシテアがそう言うと、目の前の水たまりが人型になってゆく。

緑の角に黒い翼、あれはもしかしてーー


『そう、悪魔です』

「こいつが今のお前の代行者か?

Fのイルシテアも地に堕ちたものだな」

『あなたは相変わらずのようね、カルポア』


カルポアと呼ばれた緑色の悪魔は、こちらを見て鼻で笑ったように見えた。かなりの自信家らしい。


「急な代行者でどこまでたえられる?」

『あなたがやられる側かもしれませんよ?』


イルシテアは謎の言葉をカルポアに放つ。おい、代行者ってなんだよ?俺が問う間もなく、もう一つの水たまりから、またなにかが現れる。今度は悪魔ではなく、間違いなく人だった。同い年くらいの少し前髪が長い、紺の髪の少年。そのとてつもなく深い緑の瞳に射るように見つめられ、俺は少したじろぐ。少年は右手を前に出した。


「闇の底の儚き水よ、

 封じられし力よ、

 藤堂雲雀の名の下に

 今、永き眠りから解き放たん。

 カルポア・G・ドルタントよ、

 我が鎌となれ。

 解呪!!」


イルシテアの呪文と似たような呪文を少年ーー藤堂雲雀(トウドウ ヒバリ)というらしいーーが唱えきると、カルポアは光の帯となり、藤堂が突き出した右手に絡まる。そしてカルポアは大きな鎌となった。


「飯塚和真と言ったか?お相手願おう」


藤堂は毒々しい鎌を一振りする。困惑したが、俺は戦うしか選択肢がないことを感じた。


天使と悪魔ーー

天魔戦争が本当にあって、天上人が存在しているのも常識だ。だけど……天上人は地上に降りられなくなったんじゃなかったのか?


鎌の一振りを避け、太刀を相手の懐にねじ込む。しかし、まるで見透かされているかのように、それは防がれた。体勢の崩れた俺にまた横から鎌が襲う。俺はとっさに太刀を縦に構え、ギリギリの所で鎌を受け流した。それにしても恐ろしいスピードだ。


「剣の腕はたつようだな。……どこで習った?」

「答える義理はないっ!!」


俺はさっと立ち上がり、太刀を構え直す。こいつには、闘気をいくら当てても意味がない。そう、思いながら。このままだと勝ち目はない。簡単に殺されてしまうだろう。あれをーー、あれを使うしかないか……


「一の技、繰転そうてん


手首をひねり、太刀を空高く舞い上げる。


『和真、何を!?』


イルシテアの悲鳴のような声が聞こえた。正直、俺自信もこの流派の技は久しぶりだし、かなり怖い。これを二度と使うつもりなんてなかったものだから、余計に。敵が獲物を離した瞬間を見逃すはずがなく、藤堂はここぞとばかりに切りかかってきた。


「飯塚、覚悟!」

 

鎌が首を切り裂くと思われた刹那、俺はフッと笑って見せた。


「本当に覚悟する必要があるように見えるか?」

『まさかこいつは!?逃げろ、雲雀!』


しかし時はすでに遅くーー


キィィィン


かん高い音と共に藤堂の鎌は背後に弾き飛ばされた。すかさず俺は突きを入れる。藤堂はとっさにバックステップでかわそうとした。だが、太刀の切っ先は藤堂の肌をかすかに捉えていた。


「っっ……」


藤堂は頬を流れる血を軽く拭う。落ちた鎌はすぐにカルポアの姿に戻った。


「大丈夫か、雲雀?」

「問題ない。……飯塚和真、覚えたぞ。次会う時はときは本気でお前を殺しに行く。行こう、カルポア」


カルポアはしばらく和真を睨みつけていたが、藤堂に促され、しぶしぶ目を離した。


「ウォルル‼」


おそらく水の精霊かなにかだろう名を藤堂が叫ぶと、2人の体はすっぽりと淀んだ水に包まれ、次の瞬間ーー


消えた


手から太刀が滑り落ちる。イルシテアは太刀から元の姿に戻ると、優雅に着地した。


「なぁ、イルシテア」

「何でしょう?」

「一体、今のは何だったんだ?お前たち天上人は……何をしてる?なぜお前は俺の名前を知っているんだ」


イルシテアは俺に向かって軽く微笑んだ。




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