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氷が溶ける、その日まで  作者: 海道 蓮
0章 設定・番外編
4/81

Extra.Ⅱ 走レ、走レ、走レ

番外編2です。

今回は、三章で置いてけぼりにされた雄一視点です(笑)

やたら長いてすが、おつきあいください。


時間軸的には七色の世界あたりです。

「雄一!!!

速度が落ちてるぞ、上げろ!」


「雄一!!!

そこの荷物、全部第二倉庫まで運んでおいてくれ!」


「雄一!!!

書類が出てないぞ!

今日中に仕上げて出すこと、いいな!」


俺ーー伊崎雄一にやたら厳しい幹兵長を見送りながらため息をつく。

なんだなんだこの扱いは!!

ひどい、ひどすぎるぞ!

いくら位が下の方だからっていくらなんでも俺だけに雑用押し付け過ぎだろう!

幹兵長、お願いですから俺に休みを下さいいぃぃ。


「なんかやつれたな」


「やつれたな、じゃねぇ!

こんなハードだって聞いてないぞ、ワイアウェイ!!」


はははっ、と笑いながら俺の契約天使、ワイアウェイ・D・アルフレドは俺から目をそらした。

ハッキリ言ってこいつは詐欺師だ。

毎日騙されただの、上手いこと金を巻き上げられただの、主人マスターである俺に苦情が絶えない。

苦情を言いたいのはこっちだ!

彼が戦うだけの仕事だとか何かとか言うから俺は契約したのにこんなに雑用を押し付けられるなんてありえない。

わざとらしい笑いをしていたワイアウェイは、急に笑いを止めるとやけに真剣な顔をした。


「いや、それはお前の運が悪かっただけだぞ雄一」


「どういうことだ?」


「確かに俺達の班はハードなことで有名だが、和真のいる第六班は本気で戦いしかしていないことで有名だ。

そして班の方針はそれぞれの班の元帥が決めている」


「だから?」


「文句があるなら元帥に直接言え!」


「殺されるわ!!」


きっと自分の望みだったんだろう、ワイアウェイはかすかな舌打ちをするとふわふわ飛んで行く。


「ちょっ、ワイアウェイ!

まさかお前、書類手伝わない気じゃ……」


「まさかのまさか。

そのとーりー」


「そのとーりー、じゃねぇっ!!

お前がいないと片付かないこともあんだよ!!

降りてこいっっ!」


「断るー。

だってそれ、楽しくないだろー」


「楽しかったらこんな悲鳴毎日上げるかー!」


そうこうしているうちにワイアウェイは空中に姿をくらます。


「まー、桜にでも手伝ってもらいなー」


と、言い残して。

この薄情者め、覚えとけよ。


「どうしたんですか伊崎くん?

そんな恐い顔して」


噂をすればなんとやら。

この人通りが皆無の廊下に桜登場。


「お、桜。

今書類を手伝ってもらおうと思って、ワイアウェイに話しかけたら逃げられたところだ」


「それは……ワイアウェイさんらしいですね」


「しかもあいついないとできないやつしか残ってないから困ってるんだよなー」


「ワイアウェイさんは毎日女の子と一緒にいますもんね……」


さすがの桜もワイアウェイの起こした数々の事件にこれ以上のフォローはできないようだ。

あっ、と桜は手を打つ。


「書類ってことは幹兵長の管轄ですよね?

なら私、怒られずにすむいい考えがありますよ」


なんかいつもと違う笑みを浮かべなら、桜は俺の手を引いた。

……いやな予感しかしねーぞ、これ。



.├*┤.



「桜、どうして雄一がいるんですか?」


数分後、珍しく武装したイルシテアの前に俺は正座していた、いや、させられていた。

ちなみに俺をここに連れて来た桜もだ。

ノワールのため息もかすかに聞こえる。


「えっと、その……雄一くんも任務について行きたそうにしていたので……ダメですか?」


「……慎重な主人(マスター)らしくない。

何か理由でも……?」


いつもより少し控えめな桜に違和感を覚えたのか、彼女の契約天使であるノワールは冷たい視線を俺に浴びせる。

ヤバイ、顔が引きつって動かねー。

なんつー殺人光線。

さすがの桜もたじたじである。

と、いうか俺は今からどこに行くのかも知らされてないんだけど。

てか、書類今日までだったりするんだけど、どうしよう?


「えっ、いや、特にないですけど。

ただ、伊崎くんが行きたそうだったので……」


待て、俺に話を振らないで欲しい。

しかも桜、さっき同じこと言ってたぞ。


「……主人(マスター)、隠し事下手くそなんですから、諦めて話してください」


自分の契約天使にため息をつかれてしまった彼女は、うぅ……と言いながらも話そうとはしない。

懸命な判断だろう。

幹兵長の折檻から逃げるためだなんて死んでも言えない。

もしも言ってしまったら、幹兵長に殺される前に間違いなくイルシテアに殺される。

俺はまだ生きたい。


「仕方ないですね。

桜は話す気はないようですし、かといって悪意があるわけでもなさそうですから、雄一を連れて行っても任務に支障は無いでしょう。

……ですがワイアウェイがいないようですね?」


俺と桜は同時にぎくっと震える。

あいつがいるなら、俺はこんなところにはいないのだから。

いぶかしむような表情を見せるイルシテアだったが、すぐに元の表情に戻った。


「まぁ、丁度いいでしょう。

ついて来てください、雄一」


そう手招きするイルシテアが俺には恐怖の神に見えた。



.├*┤.



「アルフ、すいませんがこの人に対魔を作ってもらえますか?

雄一の契約天使、ワイアウェイなので」


「ワイアウェイ!?

そりゃ大変だな、兄ちゃん」


「あ、はい」


行くのを渋った俺を無理やり引きずってイルシテアが連れて来たのは、三階にある、まだ俺が見たこともなかった店だった。

やたらでかい看板にやたらでかい入り口がとても特徴的だ。

特徴が派手過ぎて、目の前を通ったら二度見してしまいそうなくらい。

一人だったら絶対に入らないだろう。

そう思わせるほど、店は威圧的だった。

はじめに店のサイズにそぐわない店員がいたと思ったら、イルシテアが来たのを確認した途端奥に引っ込んだ。

そして次に出て来たのが……今喋ってるやたらでかい天使の職人だった。

おそらくこの店がやたらでかいのはこの人のせいなんだろう。

対魔……とやらについてさっきから話しているようだけど、対魔とは一体なんだろう?

ワイアウェイは何も教えてくれないからな。

全く分からん。


「よし、契約天使があのワイアウェイなら作ってやろう。

兄ちゃん、名前はなんていうんだ?」


「えーー、伊崎(いざき)雄一(ゆういち)です」


ぐいっと顔を近づけてくるオーガ似の天使に若干引きながらも答える。

どうやら俺の動揺が伝わってしまっていたようで、彼は苦笑していた。


「俺はアルフっていうまぁ鍛治職人だ。

んじゃ雄一、今からお前のもう一つの武器を作る。

お前さん、武天はなんだ?」


「大剣。

風属性の大剣です」


「大剣かぁ。

身軽なん持たせた方がいいか、イルシテア」


「そうですね……

雄一は西洋武闘を習っていましたから、そっち系の対魔なら、扱いやすいのではないでしょうか?」


ん……?

俺が西洋武闘やってたってイルシテアに話したっけ?

……まぁいいか。

知られて困るものでもないし。


「雄一、細かい動きと大きな動き、どっちのほうが得意だ?」


「大きな動きの方が圧倒的にやりやすいです」


「やっばりか、アホっぽいもんな」


「失礼だな!!」


「おお、悪い悪い」


そう笑いながらアルフは謝る。

全く、誰がアホだというんだ。

俺はアホじゃない、バカなだけだ!!!


「親方ー、いつものアレが喚いてますー」


小さい方の扉から、初めにいた青年が顔を出してアルフを読んだ。

おぉ、という感じでアルフは手を叩く。


「そうだ、アレがいた。

イルシテア、どうやらすぐに渡せそうだぞ」


「アレですか?

雄一に制御できます?」


アレってなんだよアレって。

やっぱり嫌な予感しかしねぇ。


「親方ー」


「今行く!」


俺がアレのことを聞く間もなく、アルフは嬉々として扉の奥に引っ込んだ。


ガシャーン

ドーン

バーン

パリンッ

ガシャン

ドンドンドン

『大人しくしやがれ!!』

『親方、左です左ー』

『くそっ、煙でなんにも見えん!』


「……イルシテア、帰ってもいいか?」


「もちろんダメですよ」


ガチャ

しばらくして扉が開く。

隙間から白い煙が床を張って、アルフと一緒に出てきた。

真っ白になってしまった彼は、片手に何やら剣を持っていた。


「げほっ……

これがお前にやる対魔だ」


そういってアルフは鞘から刀身を抜いて見せる。

波打つ刀身はまるで炎のようだった。

微かに赤い光を帯びたそれは、俺を品定めしているようにも見える。

もっとよく見ようとすると、剣が急に鞘の中へ戻った。


「アルフさん?」


「悪いな、俺では今のが精一杯だ」


「???」


どういうことか分からず、思わず首を傾げる。

アルフは俺に無理矢理剣をもたせると、自分で抜くように指示した。

わけも分からずとりあえず従う。

剣は、少し重かったが特に抵抗もなく抜けた。


「あら、意外ですね」


「何が……?」


「そいつは呪いのかかった剣でな、そいつを扱うに認められたやつだけがそれを鞘から抜ける。

俺は戦えないからさっきくらいの時間しかそいつを抜くことができない。

短時間だからと言っても、それを全部抜けたことはないな」


「つまり、雄一はそのフランベルジェ……『カースドアーム』に使用を認められたということです」


「認められた……」


何か感慨深いものが胸の中にこみ上げて来て、ぐっとこらえる。

もう一度、刀身を見つめた。


「それは焔属性の対魔だ。

そいつは見て分かるようにただの剣じゃない。

扱いには気をつけろ。

間違った使い方をすると、その刃につけられた傷で簡単に死ぬぞ?

特殊な刃で肉を切り裂き、止血しにくくなってるからな」


「そんなに危ないものなのか、これ?

そうは見えないけど」


「侮ってはいけませんよ。

使い方を覚えるまでは実践で使わないこと」


「はい、分かりました……」


イルシテアに速攻で釘を刺されてしまった。

早速使おうかと思っていたのに。

しぶしぶ剣を鞘にしまう。

これ、刀身が特殊だから鞘もなんか形が違うな……


「おい雄一、何してる」


ビクッッ


ヤバイ、この声は!!!


「ど、どうもっす、幹兵長。

ご機嫌いかがっすか?」


恐る恐る振り向くと、そこには鬼の形相で俺の上司、(みき)惣一郎(そういちろう)兵長が立っていた。

噂によると、新人を鍛えるために兵長からの昇級を断っているらしい。

本当の実力は大佐くらいだとか。

当然怒っている。

今日提出するはずの書類を仕上げずにこんなところに突っ立っているのだから。

おまけに新しそうな剣を片手にワイアウェイでない天使……しかも上級天使といるのだから、怪しさ百倍だ。

これはマズイ。

非常にマズイ。

死亡フラグが遠くで手招きしている気がした。


「ご機嫌いかがじゃないよな?

お前、書類はどうした?」


「……すみません」


もうダメだ、逃げられない。



.├*┤.



「ほほう。

つまりあれだな?

お前はイルシテアたちの任務にドサクサに紛れてついてって、書類をごまかす気だったと?

お前はバカか。

イルシテアたちがどこに行くのか知ってたのか?」


「……知りませんでした」


「隔離された島だ!

お前は死にに行く気か!?」


「マジっすか!?」


「マジだよ!」


今俺は幹兵長に会議室でお説教をくらっている最中だ。

しかし、まさか行き先が隔離された島だったなんて……

幹兵長に見つかってよかった。

桜も知らなかったんだろうが、俺なんかがあんなとこに行ったら確実に死ぬ。

行く予定だった他のメンバーは個々でも生き残れるかもしれないけど、俺だけは何があっても無理だ。

だけど書類……どうしよう?

まだワイアウェイ帰ってこないんだけど?


「とりあえず、書類はワイアウェイがいないとできない分だけなんだな?」


「あ、はい」


「じゃー、俺がワイアウェイ引きずってやらせるから、早く渡せ」


「は?」


「お前な上司に向かって、は?ってなんだよ。

喧嘩売ってんのか?」


「すみませんでした」


しまった、幹兵長のくせに優しいから聞き間違いかと思った。

とりあえず書類を渡そう。

俺は携帯袋から書類を取り出して幹兵長に渡す。

これでゆっくり休める。

なんせ明日は休日だからな!


「よし、受け取った。

あ、雄一、これ読んどけ」


しかし幹兵長はまた違った書類を俺に渡す。


「それ、休暇明けの任務の内容な。

俺とお前で行くから、覚悟しとけよ」


「はい、覚悟します……」


早速命の危機が……

結局、俺はこういう星の元に産まれたのかもしれない。

だけど……

今はそれすらも変えれる力がある。

絶対、この願いは叶えて見せる。


「待ってて……」


ぎゅっと拳を握りしめ、俺は書類を手に会議室を出る。


走れ、今日も、明日も、明後日も。

この身が朽ち果てる、その日まで。



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