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村から追放された魔女が白死病が蔓延した町で絶望の縁に立たされる!?  作者: 紡雪


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1/3

前編 魔女

1347年、後期中世ヨーロッパ。最悪の疫病である黒死病、またの名をペストが蔓延。当時、百年戦争の真っ只中であった西ヨーロッパでは、人口の3分の1が亡くなった。


これは歴史上に残る史上最大・最悪と言っていいほどのパンデミックであった。


ただ──────


実は、歴史に残らなかった疫病が存在した。その名は──────


白死病はくしびょうという。



14××年 ヨーロッパのとある小さな町


僕の名前はメルクス。16歳だ。

僕は毎日農家の仕事をする。僕だけじゃない。昔、恐怖の疫病がヨーロッパを襲って、多くの人や村が消えた。それゆえに、労働者不足による食料不足が起こっている。だから、この町のほとんどの人は農家だ。


死んだおばあちゃんの話によると、この村もう消滅寸前だったらしい。隣の村でその疫病が流行り、この村にもそれは静かに訪れたんだという。そして、この村の多くの命を奪った。それはやがて静かに立ち去り、村は運良く今の今まで残ってきている。


その疫病の名前は、黒死病と言ったかな?おばあちゃんの日記に記されてあった。その日記には、当時のことも書かれていて────


そんなおばあちゃんを見習って、僕も日記を毎日書いている。

今日は日記を書き始めて、初めて変化を感じる一日だった。


「あの…この町の方ですか?」


農家の仕事をしている最中、後ろからそんな声がした。

メルクスが後ろを向くと、同い年ぐらいの一人の少女が立っていた。その少女は、その頭の大きさにあまり合わないサイズの帽子をかぶっていて、前が見えているのか疑問に思うほどだった。


「はい、そうです。あなたは?」


「わたしは、”魔女”よ。」


魔女だって?


「それで、そんな魔女様がこの町になんの用ですか?」


容姿は魔女と言われれば、魔女に見えるが、子供っぽさが勝っていて、メルクスは少しからかうように聞いた。


「わたし、住むところを探しているの。この町に住まわせて…」


「住むところ?」


「お願い…」


最初の態度とは一変して、頼み込む魔女。


「悪いけど、この町には空き家はないんだ。家を建てる土地も……」


今は、食料を保つために農地を広げることが優先。家を建てる土地があるなら、農地にしろ!それだけこの町は余裕がない。それゆえに、人を受け入れることもなかなか難しいということだ。


「そう…時間をとったね…ごめんね。」


会釈をして、町の出口に向かう魔女の姿を上の方から見て、僕は気づいてしまった。


ふらふらしながら歩く様子


帽子で前が見えないからなのか?

それとも本当に”限界なのか”?


「待って!!」


気づけば、僕は叫んで魔女の歩みを止めていた。


「僕の家でいいなら…住む?」


「いいの?」


魔女はゆっくり振り向いて


「…ありがとう」


上の段差の土地にいる僕を見るために、魔女は大きく見上げてそうお礼を言う。その時、魔女の帽子は上を見上げた反動で落ち、明確に顔が見えた。

きれいな薄い茶色の髪が目立ち、目は感情が溜まっており、揺れていた。


夢かな…?


わたしは唇を噛む。


今まで、どれだけ断られてきたことか…やっとわたしの長い旅が終わった。


彼の名前はなんて名前だろう?

彼の家はどんな家だろう?


気づけば、彼はこちらに向かって走ってきていた。地面に落ちた帽子を払って、私に渡す。そして─────こう問いてくる。


「君の名前は?」


その問いに私は帽子を受け取りながら答えた。


「私の名前はリーボイス」


「あなたの名前は?」


「僕はメルクス。よろしく。」


そうして、僕の日記には新たな名前が書き足された。



「お邪魔します…」


「そんなに固くならなくてもいいよ」


「わかった」


リーボイスは部屋を見渡す。

普通の家。だけど見慣れないマスクのようなもの?が置いてある。


「大きな鍋とかはないのね?」


「鍋?」


メルクスが聞き返すと、リーボイスは真面目な顔で答える。


「薬を調合する鍋よ」


「そっか、魔女様は怪しい薬を作るのか」


「魔女様って!また、からかって!」


「人を助けるための薬を作るの!」


ほっぺをぷくっと膨らませてリーボイスは怒る。


「ごめん、ごめん。でも…」


メルクスは、言葉を止める。

実の話、最近魔女はあまりいい存在とは思われていない。


僕は裏から袋に入ったパンを二つ持つ。


「最近はずっと雨が降らないから作物が枯れちゃって…今年の収穫は期待できないからさ、量は少ないけど許してくれ。」


ただでさえ食料不足なのに、今後も雨が降らないと本当に餓死しかねないため、パンの在庫はできるだけ取っておきたいのだ。


それを聞いてリーボイスはニヤリと笑う。


「明日魔女の凄さを教えてあげるわよ」


それを聞いてメルクスは首を傾げる。



次の日…


リーボイスは笑顔でメルクスにこう言う。


「これは、私を助けてくれた"最初"のお礼。」


町の真ん中で、目を瞑ったリーボイスは立つ。


その様子をメルクス含め、町の人々は仕事を止めて眺める。


リーボイスは、ゆっくりと右手を空に向けてあげて、こう呟く。


「”魔女が命ずる”」


すると、リーボイスの雰囲気が変わる。途端、風が吹き荒れる。


「まさか本当に…」


腕で風を受けるメルクスが呟く。


「Respond!(リスポンド)」


目を開いてそう叫ぶ、リーボイス。

すると、天がリーボイスの要望に応えるように空が暗くなっていく──────


メルクスや町の人々は空を見上げる。そして、メルクスの眉間でポツンと、水が弾ける。


雨だ!


リーボイスは本当に雨を降らせてくれた。


ザ────と雨音が強くなる。


風邪で飛ばされないように帽子を抑えながら、こちらを見つめる水に滴るリーボイスを見て、メルクスはドクンッと心臓が高鳴る。


「魔女…」


その後、すぐにリーボイスはドヤ顔でこちらに歩いてくる。


「すごいでしょ!?雪も降らせるわよ!これで魔女だと認めてくれた!?」


「うん…」


「もうからかわない?」


「うん…ありがとうリーボイス。」


周りを見れば、町の人々は歓喜していた。


「これで、この町は少し豊かになる。本当にありがとう。」


それを聞いたリーボイスは微笑む。


「まだ、これはまだほんのお礼よ。まだまだ恩を返していくから。」


メルクスは、帽子であまり顔が見えないが、少し水がリーボイスの頬をつたった気がした。


けれど、すぐに雨か…と納得して、前を見る。


メルクスとリーボイスは、しばらく雨に打たれながら町の様子を眺めていた。



そこからリーボイスは改めて町で歓迎された。


一方、ヨーロッパの他の村や町では、魔女狩りが行われていた。


農作物への被害や病気などの災いを魔女のせいにする。そんな差別が行われていた。


まだこれは始まり、それはその後加速していき、やがて拷問、裁判による死刑が行われた──────


メルクスとリーボイスは、まだそれを知ることはない。



半年が経った。7月収穫の時期。


町の畑には立派な穀物や作物が育っていた。特に目立つのは小麦。小麦畑は黄金の海のように広がり、輝いていた。


町の人々は町の中心に集まる。


「本当に久しぶりに豊作だ!」


そう言って、腕を回すのは筋肉が自慢の”ボート”。


「これは力仕事ではありません。」


そんなボートに軽くチョップをかますのは、ボートの妻の”アグネス”。


「丁重に収穫しないとでしょ?」


「はい…」


「それはそうと、ありがとうね!リーボイスちゃん。」


アグネスは隣にいたリーボイスに話をふる。


「あなたのお陰で、こんなに豊作になった。」


「そうだな!力仕事があれば俺に任せろ!恩を返しに駆けつける!!」


「ありがとうございます…」


苦笑いをしながらリーボイスは、メルクスにこう聞く。


「この鎌で収穫するのよね?」


「ああ、収穫した穂をまとめて縛って束にする。その後、穂から粒を落とす。」


そのメルクスの説明を聞いていたアグネスはふふっと笑う。


「メルクス。粒を落とす前に乾燥させることを忘れているわよ〜」


「忘れてない。ざっくり説明しただけだよ。」


「本当かしら?」


「とにかく!始めようか!」


ボートが早速、鎌を手に持って収穫を始める。


収穫は数日間続いた。

7月に収穫を終えて今は8月上旬。


「そういえばリーボイスは、どうして住むところがなかったんだ?」


ふとメルクスはリーボイスに聞く。すると、リーボイスはすぐに下を向く。



「それは…事情があって、母に南に進めと言われたの。」



この町に来る前……私は宗教的な思考が強い村にいた。この村は、ある疫病の流行を境に食料難が続き、豊作をひたすら”神”に願っていた。それでも、その状況は一切変わらない。雨が降らず、穀物や作物は収穫する前に枯れ果て、限界だった。


母が”ある日を境”に私に言い聞かせていたことがある。それは──────


「リーボイス…魔女であることをこの村で名乗ってはいけないわよ?」


「どうしてまだ魔女であることを隠すの?毎回思うけど、魔法で天候を変えて雨を振らせば、みんなを救えるし…」


母はその問いには答えてはくれなかった。


「いいから…」


「でも…」


「あなたは魔女じゃない!!いいわね!?」


軽く怒鳴られたリーボイスは怖気付いて、ゆっくりこくっと頷く。


魔女じゃない…か。私、才能がないのかな?

私が小さい時は、沢山褒めてくれたのに…


私か最初に使った魔法は、灯りを灯す魔法。村の人達に隠れて、母の前で魔法を使った。手のひらが明るく灯されて、どこまでも続く真っ暗な夜の空間に明かりが広がった。


「あなたは立派な魔女ね!」


そう褒めてくれたのに…



数週間後、赤ちゃんが栄養不足で亡くなった。一人目じゃない…もう何人も亡くなった。


泣き叫ぶ村の人たちを見て私は”母との約束を破った”


「”魔女が命ずる”」


「Respond!(リスポンド)」


この村に久しぶりの雨が降った。


私には赤い雨が降った。


魔法を使う様子を見ていた村の村長が即座に私の背中に向けて、斧を振り落とした。その斧は私に当たることはなく────────


私を庇う母の背中に突き刺さった。力が抜けた母はそのまま私に、もたれかかる。


「……」


恐怖で声が出なかった。母を受け止めた私の手を見れば、鮮血が付いていた。


どうして?私はこの村を救おうと…

約束を破ったから?

母を助けないと!

でもどうして急に斧を?どうして?どうして?


「お前ら魔女のせいで!!この村はあの疫病に襲われた!!!不作が続いた!!!!」


村長は再び斧を振りかざす。


「お前らが魔女は死ね!!死んでいった子どもたちを返せ!!!」


リーボイスは目を瞑る。


私が魔女だから?約束を破ったダメな魔女だから?



「”魔女が命ずる”」


「Respond!(リスポンド)」


その声と同時に、急に気温が暑くなる。悲鳴が聞こえる。

痛みもないので、リーボイスはゆっくりと目を開ける。


その目の前は”地獄絵図”だった。

村長だったものが、燃えて倒れており、周りの家も街全体が燃えていた。


「リー…ボイス……無…事?」


その言葉ですぐに母の方を向くと、母は、私の顔を自分の顔の前で固定する。そして、布で私の口と鼻を塞ぐ。


「すぐ…に……この…村……を出て………どこか…南に…遠くに……逃げて………」


ここら辺の地域はもうダメだ。

魔女を敵対視する人が多すぎる。南に行けば、大きな都市がある。都市はある程度、秩序と法律が定まってる。


ここよりは魔女を受け入れてくれる可能性が高い。


「お母さんも一緒に行こうよ!!」


リーボイスがそう訴えると、母は微笑む。


「何も…教えられ……なくて…ごめん……ね。けど……あなた…は……優しい。…きっと……あなたを…受け入れてくれる………人がいる…から。とにかく……今は逃げて!!」


「……」


私は、魔法で人を殺した。魔法を正しくないこと使った。けれど、この子は魔法でこの町を救おうとした。魔法を正しいことに使おうとした……。


「あなた…は…立派な……魔女……よ……愛してる!!」


それを聞いたリーボイスは目を見開く。


「わかんないよ…私……何も…」


その直後、母は力尽きて倒れる。その振動で、母の帽子は落ちる。


リーボイスはの眼には、水が溜まっていた。雨だろうか?それは、リーボイスの頬をつたって、布に染み込んだ。


私のやったことは間違っていたの?

お母さんが死んだのは私のせい?

自分が魔女だったから?


その疑問が頭を巡る。


でも、今は、そんな疑問を跳ね除けて、ある一言だけが残った。


「ごめんなさい…お母さん…ごめんなさい……私も大好き…」


リーボイスは、ゆっくりと、母の被っていた帽子に震える手を伸ばす。それを持ち、ゆっくと、母の言う通り、悲鳴が耐えない村を出て、南へ向かって歩き出す。


数日間、とにかく南へ向かって歩いた。

そして、そろそろいいと思った時、リーボイスは、村や町を尋ねた。


尋ねる時、必ず自分が魔女であることを名乗った。

疑問の答えを見つけるために。


あるものは、嫌な顔をして、あるものは、珍しいものを見るような顔をした。

当然、住むところはないと言われ、さらに1日間さまよった。


そして、彼がいるこの町に来た。


当然、最初に魔女であることを名乗った。

そして、彼は私を受け入れてくれた。


もう一つの疑問、私のやったことは間違っていたのか?この答えを知るために、私は魔法を使った。


その答えは…


「これで、この町は少し豊かになる。本当にありがとう。」


メルクスは、そう言った。

私は、静かに涙を流した。


受け入れて貰えた……


やっぱり私のやったことは間違っていなかったのかな?お母さん……



「そうか…大変だったんだな。」


「ごめん…思い出したら少し……」


そう言って家の外に出たリーボイス。

当たり前だ。


どれだけ辛かっただろう?

目の前で母親を殺されて、不安定な心のなまま、ここまで歩いてきたんだ。



「あれ…?君魔女?」


外に出た、リーボイスに話しかけてきたのは、20歳ぐらいの青年だった。


「あなたは?」


「失礼…俺は”ベネット”交易で町の外に物を売りに行ってて、たまに町に帰ってくるんだ。」


「それにしても、魔女といえば、北の方は酷かったな。」


「…北の方?」


「ああ、でも……あまり聞かない方が……」


そこでベネットの言葉を遮って、リーボイスはこう言う。


「教えて!!」


そのあと、ワンテンポ遅れて、ベネットは真剣な顔つきで話し出す。


「最近、北の町や村。特に宗教的思考が強いところで……」


「魔女はあまりよく思われていないらしい。」


「どうして?」


「理由は、今の食料難と干ばつによる不安だ。」


「昔、疫病が流行ったのを知っているだろう?」


「うん。確か黒死病?だったかな?」


「その疫病が広まった理由。そして、今の食料難や干ばつ。これらの理由を作って人々は安心したい。」


「そして…確証もないのに、特別な力を持っているってだけで、”魔女のせい”という思考になった。」


宗教の上の位の人が、そういえば下の信者はそれを信じて、魔女を批判する。


そっか…だから私は魔女ってことを名乗っちゃいけなかったのか…


「ありがとう…ベネットさん。」


作り笑顔でお礼を言って、ふらふらと歩いて家に戻るリーボイス。


「北の方には絶対行くなよ!!」


ベネットは最後にそう忠告した。



最後の疑問の答えがわかった。


ドアを開けて、玄関に座り込む。


「リーボイス?」


メルクスは、すぐに異変に気づいて、リーボイスに駆け寄る。


リーボイスの眼から、涙が溢れる。


「どうしたんだ?落ち着…」


「やっぱり私のせいだった……!!」


「魔女は良くない噂があるのに…私が約束を破って魔女だとバレたから…」


お母さんが死んだのも

村で暮らせなくなったのも


「全部全部!!私のせいだ!!!!!!」



メルクスは、そんなリーボイスにそっと抱きつく。


「君がしたことは間違ってないと思うよ…絶対に!!」


私のせい……


「どんな噂があろうと、僕は魔女を信用している!!」


私のせい…


「だって、この町が持ち直したのは、”君のおかげだ”。ありがとう…リーボイス。」


リーボイスは目を見開く。


メルクス……


リーボイスは、嗚咽をあげた。


「本当に”君のおかげ”…」


この町を救ったのは私のおかげ?


でも、お母さんが死んだのは私のせい………



”ほらね?受け入れてもらえたよ?立派な魔女様─────”


そんなもう居ない母の声が聞こえた気がする。


いや、気のせ


”気のせいじゃないよ…”


…?ありえない。


”私は魔女よ?こういう事もできる。”


嘘だ、もし本当ならお母さんは私を恨んでいるから怒っているはず。そんなことを言わない。

そうだ────


だって私のせいでお母さんは…


”あなたのせいじゃない。あなたを私が恨むわけない。怒るわけない。だって─────”


”あなたは私の自慢の子よ”


”あなたのせいじゃない…あなたのおかげで私は幸せだった……”


「うぁ゛ぁ゛ぁ゛」


リーボイスは、帽子に抱きついて泣いた。


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


その様子をメルクスは、優しく見守った。



メルクスとリーボイスはパンを”二つずつ”お皿に置く、パンを食べながら二人は会話をしていた。


「落ち着いたか?」


「うん…もう大丈夫。」


「これだけは覚えていてくれ…僕は自分の魂に誓って絶対にリーボイスを守る。」


「うん……」


「魂に誓う…か……宗教みたいにはならないでね笑」


「気をつけるよ笑」


そんな冗談を交えた返答が帰ってきて、メルクスは少し安心した。

食事を終えた二人は、外に出る。


先程まで降っていた雨は止んでいて、太陽の光が畑を照らしていた。


(いつもに増して景色が輝いて見える…)


雨漏りを直しているボート。そしてそれを見守るアグネス。帰ってきた荷物を家に運んでいるベネット。そして前で手を伸ばしているメルクスの姿。

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