65話:強くなりたい
十兵衛はしばらく辺りを見回していたが、一人料理を箸でつついていた秀助を見つける。十兵衛は飲み物を注文して、秀助のもとに向かっていった。
「おやおや、諌山君が酔いつぶれてしまったんだな。」
苦笑いしながら十兵衛は秀助の側に座った。
「じーさん、こんな人が俺のペアなんて…とても不安なんだが…」
秀助が酔いつぶれた菊千代を見ながら言った。
「彼女は首都警部でもかなりの腕利きだよ。君たちの同期2人分の働きができるさ。」
「だとしてもだな…」
秀助は黙り込んだ。十兵衛は、到着したビールを勢いよく飲んでいた。
「なあ、じーさん。」
「ん?」
秀助は口を開いた。
「レベルΖはどうやったら取得できる?」
「!」
十兵衛は、ジョッキをテーブルに置いた。
「そうか…やはり、あのとき、フェルナンドは使ったんだな?それを…」
「ああ…」
十兵衛はビールをぐいっと飲み、ジョッキを空けて言った。
「秀助、レベルΖのことは忘れろ。」
「忘れねぇ。あれは、おふくろを助けるために...そして、仲間を守るために、絶対に必要な力だ。俺はそう直感した。」
秀助は食いさがらなかった。十兵衛はビールのおかわりを注文しながら、言った。
「秀助、合宿の座学で、兆能力の使用が制限されるようになった歴史を学んだよな?」
「ああ。江戸時代に突如出現した兆能力…最初のうちはもっぱら悪用されていた。さらには、2度の世界大戦が勃発した。兆能力によって、格差や差別もひどかったんで、それの使用を制限しようとする動きがでてきたってやつだな。」
「そうだ。しっかり勉強しているじゃないか。レベルΖは、2度目の世界大戦時、米軍によって生み出された。あまりの強大さゆえに、世界大戦が終わると即座に、レベルΖは闇に葬られた...つまり、現在において、タブー中のタブーなのだよ。」
十兵衛はおかわりのビールをぐびぐび飲みながら、続ける。
「私はこれまで様々な兆能力犯罪に向き合ってきた。ときに、私でも苦戦した者は腐るほどいる。そんな私でも、知っているレベルΖの取得者は、3人だけだ。」
「!」
「私も知らないのだよ。それを取得できる方法が…」
十兵衛は再びビールをおかわりしながら言った。それを聞いた秀助は下を向いた。
「なにも、レベルΖだけが強くなる方法じゃないさ。」
十兵衛は到着したビールを飲んで言った。それから秀助は口を開かなかった。
そうこうしているうちに、お開きの時間となる。秀助は、酔いつぶれた菊千代を抱えて、レストランを出る。
「秀助、諌山君を送ってやりなさい。家はここだ。」
菊千代の家を教えて、十兵衛は本部の方に帰っていった。秀助は菊千代の方を見る。
「諌山首都警部、起きてください。帰りますよ。」
返事はない。それから何度も呼びかけるが、やはり返事はない。次第にいらいらするようになり、
「おい!ばーさん!起きてくれよ!」
とつい叫んでしまった。すると、
「誰がばーさんだってぇ?」
と、菊千代が面相を変えて返事をした。
「いやっ。あっ、あのお開きになったんで帰りましょう。一人で立てますか?」
「ふふふ。」
菊千代が少し笑った後に、言った。
「立てなーい。だから、おぶって?」
菊千代はあざとく言った。秀助は、かなり引いたが、さすがに酔っている女性に無理をさせるわけにはいかない。仕方なく、菊千代をおぶっていくことにした。
「あらまぁ」
伊里がにやにやしながら見ていた。秀助は、他人の視線から逃れるようにその場を後にするのであった。
菊千代をおぶってしばらく歩いていると、人の気配がした。秀助はばっと振り返る。しかし、誰もいない。秀助は中原が襲われた話を思い出した。まさか、自分のところにも?と警戒しながら、辺りを見回す。すると、後ろからナイフを持った男が襲いかかってきた。
「!」
男はターバンを巻いている、インド人であるようだった。秀助はなんとか男のナイフをかわす。
「おい!諌山首都警部!起きてください!」
菊千代は起きる様子がない。仕方なく、おぶった状態で応戦することにした。
(とはいえ、こいつできるな。)
男は秀助の目の前で姿を消した。
「!姿を消した!」
秀助は、いつどこから襲われてもいいように、塵を集め始めた。すると、後ろから男がナイフを突き立ててきた。




