6話:銀行強盗
「銀行強盗だと!?お前ら、行くぞ!」
中原が叫んで銀行の方へ向かう。男たちのうち、一人は大金の入った袋を手に持ち、一人は女性銀行員に拳銃をつきつけている。女性は今にでも泣き出しそうであった。
「おい!そこの警官ども!下手に動くとこの女の頭に風穴をあけるぞ!」
男たちは人質を盾に5人に牽制する。
「いいか。お前ら、あいつらの言う通り、今は動くな。ここで下手に動くと、兆能力を使いかねない。」
中原は4人に諭す。特に善俊が、今にでも動き出しそうであったからだ。
「だが、あいつらの観察をしろ。あいつら特有の動きや癖が、兆能力を特定する鍵になる。例えばあの男は…」
「おい!お前!何こそこそ話しているんだ!?おしゃべりしていいとも言ってないぞ?」
「しゃべる暇があったら、逃走用のタクシーを用意しろ!そうすればこいつは放してやる!」
拳銃を女性の頭に強くつきつけ、男は叫ぶ。
「…中原警部補…2人の能力がわかりました…」
今日にはってから一言も声を発さなかった雄康が、急に口を開いた。
「…先に言っておきますと、彼らの兆能力よりも拳銃のほうが脅威です…つまり、誰かが不意打ちで兆能力を仕掛ければ、人質を傷つけることなく捕まえることができます…」
「お前の予想を教えてみてくれ。もしかすると俺と同じかもしれない。」
中原が雄康の方を向いている間、一人の男が強盗に向かっていった。善俊である。
「とっしー!お前何やっているんだ!まだ奴らの能力がわかっていないのに!」
秀助が止めようとするが、それを無視して突っ込んでいった。強盗は想定外の出来事に困惑し、動けないでいた。その隙を逃さなかった秀助は、兆能力を発動し、塵を即座に集めて強盗めがけて飛ばした。それは強盗の目に入り、視界を遮る。その隙に善俊が、女性を人質にしていた強盗を取り押さえた。もう一人の男も塵で視界を遮られている中、中原に取り押さえた。銀行強盗はけが人をだすことなく無事に解決はした。みつねが応援を呼んでいたため、強盗は応援の警察に連れられていった。しかし、万事が上手くいったわけではない。
「善俊!命令したはずだ!動くなと!これは、不合格ではすまされないぞ!」
中原は今までにないほど善俊を怒鳴った。しかし善俊は反論する。
「ヤス君が相手の兆能力を見抜いた。そしてそれは拳銃よりも脅威がない…と。僕はそれを信じて、2人を取り押さえに行ったのです。ちなみに、背後からの援護がありましたが、必要のないものです。」
「一言余計だぞ。それにあれはお前を援護するために使ったんじゃない。お前の突拍子のない行動で強盗が銃の引き金をひいたらどうする?視界を遮って行動がとれないようにしただけだ。」
「五味川の言う通りだ。あれで強盗が何かしていたら、今ごろ女性は助からなかった。それに、園田を信じているならなおさら、あのとき園田の話を聞くべきだった。」
善俊は2人に詰められ狼狽したが、それでも反論を続ける。
「確かに問題はあったかもしれないが、一人を取り押さえたのは間違いなくこの僕だ!」
「善俊!お前あの兄と会ってから様子がおかしいぞ!まだ出会って数日だが、お前らしくないと感じる!」
「今お兄様の話は関係ないだろう!」
「もうその辺にしとけ。一旦警察学校に戻ろう。この件は上官に報告しなければならない。」
パトカーの空気は地獄であった。後ろの席に男3人組が揃って座り、みつねは助手席に乗っている。みつねはちらちらと振り返り2人の様子を見ている。雄康は2人の間に座っていて、かなりバツが悪そうにしていた。肝心の2人はお互い見向きもしない。パトカーが警察学校に着き、5人がパトカーを降りたとき、
「今、川路警視正がいらっしゃるそうだ。事態が事態なだけに、川路警視正にこの件を報告しに行こう。」
4人は、善信がいる部屋に連れらえた。そこには川路警視正と…
「あ!じーさん!」
秀助は思わず声に出してしまった。そう、十兵衛がいたのである。
「こら!ミスター・リード首都警総監にその口の利き方はなんだ!」
「ミ、ミスター・リード?しゅ、首都警総監?」
「ははは。まあいいじゃないか、中原君。さて…久しぶりだな。秀助。」
「おや、知り合いですかな?」
「ええ。まあ、そんなところだ。」
十兵衛の唐突な登場に驚いたのは秀助だけでなかった。
「はわわわわわ」
「ん?」
「あ、あの、私三島みつねといいます!あのときはありがとうございました!」
「ああ、あのときの。そうかそうか。」
みつねであった。どうやらみつねも過去に十兵衛と何かあったらしい。思いで話に花を咲かせようとしたとき、
「ごほん。そろそろ本題に入りませんか。」
中原が咳払いをして話の本題に入ろうとした。
「ああ、それもそうだな。聞いたぞ善俊、かなり危険なことをしたらしいな。いいか。結果的にはよかったかもしれないが、大事になることだってあった。不合格で済むだけでも運がいいと思いなさい。」
善俊は下を向いて何も返さなかった。さすがに父の善信には頭が上がらなかった。しかし、善信に口答えをした男がいた。
「もう一度チャンスをやることはできないのでしょうか。」
秀助であった。善俊は顔を上げて秀助の方を見た。
「確かに、先ほどの命令違反は首都警察…いや、警察官としても許されるものではないでしょう。しかし、仲間を信じての行動であったのも事実です。どうにか許してやってください。」
秀助は深く頭を下げた。しかし、このときの秀助は自分でも何をしているのか理解できていなかった。それでも、善俊を守りたいという思いが先行したのだ。
「君がどれだけ頭を下げても無理なものは…」
善信は無慈悲に首を横に降りながら突き放すのを、横でにやにやしていた十兵衛が遮る。
「気に入った。私の権限で特別に許してやろう。」
「お言葉ですがミスター・リード首都警総監、命令に反した行動は、そう簡単に許されるものではありません。」
「いいかい。首都警察は普通の警察とは違う。ときには、危ない橋を渡る度胸と行動力が必要だ。今回の善俊君の行動はそういうことにして許そうじゃないか。もちろん、全ての責任は私がもとう。」
善信はそれ以上何も話さずに、後ずさりした。納得した、いやせざるをえなかったのである。
「それでは、私は失礼するよ。探す人がいるんでね。」
十兵衛はその場を去ろうとした。秀助は呼び止めようとする。
「おい、こっちには言いたいことも聞きたいことがまだまだ…」
十兵衛は立ち止まり、秀助の言葉を遮る。
「秀助、最初はその場しのぎだったが、今思えばお前さんに首都警察を勧めてよかった。どうやら強さ以上に大事なものを得ようとしているようだ。無意識のうちにな…」
「!!」
秀助は遮られたまま言葉を失った。
「それが何なのかはこの合宿を通してわかるはずだ…まあ頑張りなさい。」
再び十兵衛は歩き始め、その場を後にした。十兵衛が去ってからしばらく沈黙の時間が続いた。その沈黙を破ったのは善信であった。
「まったく、あの人はいつも周囲を困らせる…君たちは部屋に戻りなさい。いや、善俊はここに残るように。」
善俊を除く全員は部屋を後にした。秀助は善俊を気にかけながら部屋を後にした。みつねには、十兵衛と何を話していたのかを聞かれたが、特に何も、と答えながら秀助はいつもの部屋に戻っていった。




