52話:川路兄弟の過去
川路一族は、代々警察官僚を輩出してきた名門であった。川路家の長男は、名門大学を卒業し、警察官僚になるのが慣例になっていた。そして、その慣例が破られることを、一族は恐れるようになった。そんな中、善俊と善治は歴代川路一族においては珍しい男兄弟であった。
「お兄様!遊びに行きませんか!」
自由闊達で無邪気な善俊と、
「ああ、せめてこの宿題が終わってからな。」
品行方正で真面目な善治...2人の幼少期は今とは少し異なっていた。何より今と違うのは、子どもの頃は兄弟仲が非常に良かったことだ。
そんな善治には、子どもの頃からの夢があった。それは、
「かっこいいなぁぁ!あの人たち!普通の警察とは制服が違う!」
「ん?あああの人たちは首都警察だよ。兆能力犯罪を専門とする人たちさ。善治はあっちじゃなくて…」
(首都警察かぁ!僕もあんな風になりたいな!)
もともとテレビの影響で兆能力に人一倍興味のあった善治は、歳をとるにつれて首都警察への思いが強くなっていく。大学4年生になった善治は、勇気を出して善信に相談した。
「お父様!僕決めました!首都警察になります!」
「ならん!」
即答であった。しかし、そう簡単には諦められない。
「ですが、首都警察の地位は、そこら辺の警察官僚よりも高いんですよ!」
「それでもだ!川路の長男は、何がなんでも普通の警察官僚になるのが慣例なのだ!地位の高さは重要ではない!」
「ですが…」
善治の目からは涙がこぼれていた。
「しつこいぞ!ダメなものはダメだ!」
善治は、善信の部屋から追い出された。善治はその場で泣き崩れた。自身が子どもの頃から抱いていた夢を、こうもあっさり否定されてしまったのだ。
結局、善治は国家公務員試験の国家公務員採用1種を受験、合格した。つまり、キャリア組の出世ルートに乗ることができたのである。善信や善俊ら家族は祝福するが、善治は首都警察に未練があった。それでも、
「お兄様!本当にすごいです!」
「そうか。そうだよな!」
兄弟仲はまだ悪くなかった。川路兄弟の関係に亀裂が生じ始めたのは、善俊が東大受験に失敗した頃―つまり、結構最近―からであった。
「うっうっ…」
「そう落ち込むなよ。来年も受験すればいいじゃないか。」
落ち込んでいた善俊を、善治が慰めていた。
「で、ですが…来年も受かるかどうか…」
「何言ってんだよ!お前の学力なら、あと1年頑張れば…」
善治が話しているのを遮って、善俊は口を開いた。
「首都警察の合宿に参加するってのはどうでしょうか!」
「…は?」
善治は固まった。善俊は続ける。
「だって、1年も待っていられませんよ!早くお父様やお兄様のような警察官になりたいんです!」
「でもお前首都警察って…お父様が許さないだろう…」
「いいんじゃないか?参加してみて。」
「はい!」
善信は二つ返事で快諾した。もちろん、善治は納得できるはずがなかった。
「なぜですか!川路家は、普通の警察官僚になるのが慣例ではないのですか!」
善信はぽかんとしながら答えた。
「その役割は、長男である善治が担っているじゃないか。善俊までそうなる必要はない。」
「…!」
善治は部屋を飛び出した。
「お兄様?どうされたのでしょうか。」
「…まさか、あのことを根に持っているのか?全く、未練たらしい奴だな…」
善治は廊下をただひたすらに走り、自分の部屋に籠った。
(なぜだ!なぜ善俊は快諾されて、俺はされないんだ!)
善治は机に突っ伏しながら、涙をぽろぽろと流していた。
(思えば、あいつは昔から甘やかされていた。一方俺は厳しい教育の日々だ…ふざけるな!なぜ俺だけがこんな目に…!)
善治は、憎しみを善俊に向けていくようになる。その日から、善治は善俊に口を利かなくなった。
ある日、善治は仕事の用事で十兵衛と中原に会っていた。
「ほぉー!善治君、だいぶ大きくなったなー!いわゆるキャリア組なんだって?」
「ははっ。そうですね。」
首都警察の2人と会話しているという状況は、善治にとって複雑であった。
「そして、善俊君は首都警察の合宿に参加するときたもんだ!やはり川路の人間は優秀だな!」
善治はぴくっとした。




